悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
196 / 259
第四章 学術祭は無数にある一つの試練

最強の誕生

しおりを挟む
 わたしがいない間に何があったのか。

「何度も言いますが、わたしはウィリアノスさまはタイプではありません!」

 ……ふぇ?

 どういうことだ?
 状況が全く掴めない。
 アリアはわたしの元まで走ってきた。

「そこで止まりない、アリアさま」

 ルキノがわたしの空気を察して、アリアをこちらに来させないように止めた。


「マリア姉……いいえ、マリアさま。わたしは……わたしはーー」

 泣きそうな顔で何かを言おうとしていた。
 正直わたしは取られたようなものなので、そんな顔をされても困る。
 だが彼女の様子からどうも思い違いをしているようにしか感じなかった。
 ウィリアノスは再度言葉を絞り出した。

「アリア、俺の話をーー」
「だから何度も言っています。確かにウィリアノスさまは色々お手伝いしてくださって尊敬する方ですが、マリアさまを傷付ける方なんて絶対にお断りです」

 わたしの頭がこんがらがってきた。
 ちょっと整理すべきかもしれない。

「アリア……、少しお聞きしたいのですがよろしいですか?」
「はい!」
「貴女はウィリアノス……さまと恋人関係ですか?」
「違います!」


 元気良く、ハキハキと答えた。

「わたくしが見たあの愛の告白は?」
「一方的に言い寄られただけです」

 キッパリと答えた。

「えっと、最後の質問です。ウィリアノスを愛していますか?」
「尊敬はしていましたが、それ以上はありません。わたしはマリアさまを大事にしない殿方と結婚なんてしたくありません」


 何だか一気に肩の力が抜けた。
 今回の騒ぎは誰一人報われる者がいないのか。
 全てが馬鹿馬鹿しく思えてきた。


「アリア、こちらへいらっしゃい」
「はい……」

 アリアは恐る恐る近づいて来て目の前で止まった。

「もっと近くに」

 さらに一歩前に進んだ。
 そこでわたしは抱きしめてあげた。

「辛かったでしょう? また姉と呼んでくれますか?」
「はい……」

 わたしから嫌われたと思っていたのだろう。
 肩を震わせて泣くのを我慢している。
 少しくらいの涙ならわたしの服が隠してくれるだろう。
 アリアの震えが無くなったタイミングでルキノに命令した。

「わたしを空に運びなさい」
「畏まりました」
「下僕、わたくしの言う言葉をまとめて空に文字を書きなさい」
「畏まりました」

 わたしはルキノの水竜に乗って空へと上った。
 周りにいる者たちが何をするのか注目している。
 ジョセフィーヌ領もゼヌニム領、王族領も、全てが見ていた。

「マリア・ジョセフィーヌは宣言します。本日を以て、ウィリアノス・デアハウザーとの婚約を破棄します!」

 わたしの言葉を聞いて、下僕が空に黄金に輝く文字を描いた。
 大きく、婚約破棄、と書かれており、誰の目から見ても分かるようにした。
 最後にわたしは目の下を引っ張って、舌を出した。

「わたくしは浮気者なんかと結婚なんて絶対にしません!」
「どこで覚えたのですか、そんなことを」

 レイナがやれやれと言った感じだった。

「くそっ、ああわかったよ! 俺だって願い下げだ」

 ウィリアノスは捨て台詞を吐いて去っていった。
 わたしは地面に降りてからセルランのところへ向かった。

「レイナ、傷は大丈夫?」

 レイナの腕を見せてもらったが、傷は完全に治ったようで跡も残っていない。
 これなら結婚に支障はないだろう。
 少しばかり安心した。

「はい、マリアさまも無事で良かったです」

 レイナと一度抱きしめ合ってお互いの無事を喜んだ。
 そして次にセルランに目を向けた。
 目を下に向けてわたしの言葉を待っていた。

「セルラン……」
「姉上に唆されたとはいえ、許しがたい罪を犯しました。どうぞ、わたしの首をお刎ねください」

 セルランは膝を付いて、わたしに向けて首を垂らした。
 周りが騒つく。
 最強の騎士の最後だと。

「セルラン……、歯を食いしばってください」
「えっーー」

 わたしは慣れない身体強化を腕にだけ使って、思いっきりセルランの顔をブン殴った。
 セルランが大きく吹き飛び、地面を何度もバウンドしていって壁に激突した。

 ……痛いィィ!

 初めて人を殴ったけど、殴る側も痛いと初めて知った。
 拳が赤くなっており、急いでレイナがわたしの手に治癒をかけた。

「マリアさま! そのような綺麗な手で殴ったら、マリアさまが危ないですよ!」

 レイナから怒られた。
 もうわたしも二度としたくはない。
 だがまだ最後の言葉を掛けないといけない。

「決闘はわたくしの勝利です!」

 わたしは空に高く拳を上げた。
 全員がポカーンとしている。
 それでもわたしは言葉を続けた。

「わたくしに負けるような騎士に、剣と盾の称号は相応しくありません。今日を以て称号を剥奪します!」

 セルランは起き上がり、腫れ上がった顔で答えた。

「もちろんです」

 わたしはさらに続けた。

「ですがわたくしはエンペラーを倒した女ですから、そんなわたくしに負けるのはしょうがありません」

 セルランが目を見開いて見た。

「ですので、一から鍛え直しなさい。その後に罰で剥奪した称号を返しましょう」
「……かしこ……まりました」

 セルランは頭を下げて地面を濡らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...