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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
絶望の中にある希望
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部屋に戻ってから一人の時間をもらうことでどうにか落ち着いた。
サラスから落ち着いたらベルを鳴らすように言われてたので、ベッドの上でベルを鳴らす。
「失礼します。姫さま気分は戻りましたか?」
「はい……」
わたしは萎縮しながら答えた。
それを見ると困ったような顔をしていた。
「淑女として褒められた行動ではありません」
サラスはわたしの横に座った。
背中をさすって優しい声だった。
「ですが、好きな人からあのように関心を向けられないのはお辛いことでしょう」
「……わたくしはもう嫌われましたか?」
「お言葉を尽くせば大丈夫です。あの方もまだお若いので、間違った考えを持つものです。ですが、姫さまの御心は立派でした。しっかり公的な事と私的なことを分けて考えなさっていた。昔もそのように返せましたか?」
わたしは首を横に振った。
前なら全権を委ねていたかもしれない。
それほどに無知で、ただ与えられるしかなかった。
「人はそうやって成長していきます。明日にでもお詫びに行けばどうにかなります」
「そうだと良いのですが」
どうにも自信が持てない。
そこでクロートが入室の許可を求めてきた。
「失礼します。姫さま、本日のお茶会の話は聞きました。大変お辛いことがあったかと思いますが、どうしても緊急でお話をしないといけないことがあります」
クロートが来る時はいつも良くない時だ。
お父さまから何か指令が来たのか。
そこで、昨日芸術祭があったので五大貴族の会議があったことを思い出した。
「もしかして、ゴーステフラートはゼヌニム領に移ったのですか?」
ゴーステフラートの結果について五大貴族の会議で決めると聞いている。
報告を聞く限り追い抜くだろうと思っていたが、わたしの予想は外れたのか。
ウィリアノスさまのことで不安がある中、さらに追い討ちが来るかもしれないことで胃がキリキリと痛む。
「ゴーステフラートの件は無事こちらに戻ってきました。ただシルヴィ・ジョセフィーヌがその会議の後、幽閉されております」
「えっ……」
一体どういうこと?
シルヴィを幽閉なんてすれば国を割る戦いになる。
「一体、どういうーー」
わたしは居ても立っても居られなくなり、クロートからもっと話を聞き出そうとしたとき、テーブルの上に何かが落ちてきた。
体から震えが出てくる。
一瞬見えてしまった。
「今のって……」
「姫さま?」
ちょうどクロートが影になっているので、回り込む。
そしてそこにはヤギの頭が一つ落ちていた。
「いやぁーー!」
わたしは腰を抜かして、お尻を床にぶつけた。
すごく痛かったが、それよりも恐怖が大きい。
そのヤギの頭は、闇の神からの死への誘いを表すものだ。
そして、それが来ることは夢の中で示唆されていた。
やっとわたしの視線の先に二人が気付いた。
そのヤギの頭を知らぬものはいない。
「一体どこからこんなものが……」
サラスも顔を青くしてる。
だがそれ以上にわたしは夢で言われたことを思い出している。
……なんで、なんで、なんで!
あの日からどれだけ頑張ったか。
全領土の仲も深まったし、溝があったゼヌニムとも交流をするようになった。
それなのに夢の内容は一切変わらない。
「どうして、どうして、どうして!」
頭がまるで割れそうだ。
ウィリアノスさまと喧嘩して、お父さまは幽閉、そしてわたしには闇の神からの死の誘い。
心に多くの重圧がやってきた。
「姫さま、いけない! どうか魔力を抑えてください! サラスさま、今すぐ逃げてください!」
クロートがわたしの魔力に同調をしようとする。
魔力の制御が効かなくなっているのだ。
「マリアさま! 大丈夫ですか!」
セルランが部屋を開けてきた。
だがわたしはその顔を見ることができない。
そんな余裕なんてない。
「サラスさま! 早くセルランも連れて離れてください!」
魔力がどんどん高まっていく。
どこに眠っていたのか分からないほどの魔力が解放されていく。
もう制御なんてできない。
クロートが同調してくれているので、どうにか決壊せずに済んでいるのだ。
「お気を確かに保ってください。ゆっくりでいいのでーー」
クロートの優しい言葉を打ち消すように至る所からヤギの頭が降ってくる。
「なっ!?」
数はもう数十個では済まない。
そして数の多さは、すなわち、闇の神がそのものに持っている関心の大きさだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
……死にたくない、死にたくない、死にたくない!
どうしてこれほど頑張ったのに、結局死なないといけないのか。
わたしは何をしたって死なないといけないのか。
………わからない、わからない、わからない!
自分は一体どんな罪を犯したのか。
どうしてこれほど命に嫌われるのか。
「~~!」
クロートの声が雑音にしか聞こえなくなった。
もうわたしでは、クロートでは。
抑えきれない。
わたしの部屋は大爆発を起こした。
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ! 完
サラスから落ち着いたらベルを鳴らすように言われてたので、ベッドの上でベルを鳴らす。
「失礼します。姫さま気分は戻りましたか?」
「はい……」
わたしは萎縮しながら答えた。
それを見ると困ったような顔をしていた。
「淑女として褒められた行動ではありません」
サラスはわたしの横に座った。
背中をさすって優しい声だった。
「ですが、好きな人からあのように関心を向けられないのはお辛いことでしょう」
「……わたくしはもう嫌われましたか?」
「お言葉を尽くせば大丈夫です。あの方もまだお若いので、間違った考えを持つものです。ですが、姫さまの御心は立派でした。しっかり公的な事と私的なことを分けて考えなさっていた。昔もそのように返せましたか?」
わたしは首を横に振った。
前なら全権を委ねていたかもしれない。
それほどに無知で、ただ与えられるしかなかった。
「人はそうやって成長していきます。明日にでもお詫びに行けばどうにかなります」
「そうだと良いのですが」
どうにも自信が持てない。
そこでクロートが入室の許可を求めてきた。
「失礼します。姫さま、本日のお茶会の話は聞きました。大変お辛いことがあったかと思いますが、どうしても緊急でお話をしないといけないことがあります」
クロートが来る時はいつも良くない時だ。
お父さまから何か指令が来たのか。
そこで、昨日芸術祭があったので五大貴族の会議があったことを思い出した。
「もしかして、ゴーステフラートはゼヌニム領に移ったのですか?」
ゴーステフラートの結果について五大貴族の会議で決めると聞いている。
報告を聞く限り追い抜くだろうと思っていたが、わたしの予想は外れたのか。
ウィリアノスさまのことで不安がある中、さらに追い討ちが来るかもしれないことで胃がキリキリと痛む。
「ゴーステフラートの件は無事こちらに戻ってきました。ただシルヴィ・ジョセフィーヌがその会議の後、幽閉されております」
「えっ……」
一体どういうこと?
シルヴィを幽閉なんてすれば国を割る戦いになる。
「一体、どういうーー」
わたしは居ても立っても居られなくなり、クロートからもっと話を聞き出そうとしたとき、テーブルの上に何かが落ちてきた。
体から震えが出てくる。
一瞬見えてしまった。
「今のって……」
「姫さま?」
ちょうどクロートが影になっているので、回り込む。
そしてそこにはヤギの頭が一つ落ちていた。
「いやぁーー!」
わたしは腰を抜かして、お尻を床にぶつけた。
すごく痛かったが、それよりも恐怖が大きい。
そのヤギの頭は、闇の神からの死への誘いを表すものだ。
そして、それが来ることは夢の中で示唆されていた。
やっとわたしの視線の先に二人が気付いた。
そのヤギの頭を知らぬものはいない。
「一体どこからこんなものが……」
サラスも顔を青くしてる。
だがそれ以上にわたしは夢で言われたことを思い出している。
……なんで、なんで、なんで!
あの日からどれだけ頑張ったか。
全領土の仲も深まったし、溝があったゼヌニムとも交流をするようになった。
それなのに夢の内容は一切変わらない。
「どうして、どうして、どうして!」
頭がまるで割れそうだ。
ウィリアノスさまと喧嘩して、お父さまは幽閉、そしてわたしには闇の神からの死の誘い。
心に多くの重圧がやってきた。
「姫さま、いけない! どうか魔力を抑えてください! サラスさま、今すぐ逃げてください!」
クロートがわたしの魔力に同調をしようとする。
魔力の制御が効かなくなっているのだ。
「マリアさま! 大丈夫ですか!」
セルランが部屋を開けてきた。
だがわたしはその顔を見ることができない。
そんな余裕なんてない。
「サラスさま! 早くセルランも連れて離れてください!」
魔力がどんどん高まっていく。
どこに眠っていたのか分からないほどの魔力が解放されていく。
もう制御なんてできない。
クロートが同調してくれているので、どうにか決壊せずに済んでいるのだ。
「お気を確かに保ってください。ゆっくりでいいのでーー」
クロートの優しい言葉を打ち消すように至る所からヤギの頭が降ってくる。
「なっ!?」
数はもう数十個では済まない。
そして数の多さは、すなわち、闇の神がそのものに持っている関心の大きさだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
……死にたくない、死にたくない、死にたくない!
どうしてこれほど頑張ったのに、結局死なないといけないのか。
わたしは何をしたって死なないといけないのか。
………わからない、わからない、わからない!
自分は一体どんな罪を犯したのか。
どうしてこれほど命に嫌われるのか。
「~~!」
クロートの声が雑音にしか聞こえなくなった。
もうわたしでは、クロートでは。
抑えきれない。
わたしの部屋は大爆発を起こした。
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ! 完
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