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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

念願のお茶会

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 ……悔しい

 まず出てきたのはその言葉だった。
 芸術祭では完璧な絵画で勝利を確実なものにしようとしたが、残念ながら審査員に評価できる者がいなかったのだ。
 分かる者には分かる絵なのだ。
 人によっては魂を吸われてしまい、思わず気を失ってしまうほどの絵だと言われている。
 わたしは机に伏して、しっかり評価しない先生たちを呪った。
 そんなわたしの背中をさすってくれるのは、可愛い妹であるレティアだった。


「元気出してくださいませ。お姉さまの絵は、そのぉ、とても独創的で、えっと、芸術性に重きを置いている作品ですからね」
「やっぱりレティアもそう思うわよね。どうしてあの絵を評価出来ないのかしら。今後はこうならないように芸術の授業を増やすべきよね」
「そ、そうですね」

 やっぱり分かってくれるのはレティアだけだ。
 しかしあまり未練たらしく過去のことばかり考えるのも時間の無駄だ。
 それよりも、もっと楽しい時間が待っている。

「でも昨日はウィリアノスさまとも踊ることが出来ましたし、今日はさらにお茶会にも参加してくださいます。お茶会の時間まで待ち遠しいです」
「ふふ、よかったですね。大変な時間が多かったから、お姉さまが楽しそうにしている時間が増えてとても嬉しいです。わたくしは待っているしか出来ませんでしたから」
「レティア……、いろいろと大変な役目を負わせましたね」

 わたくしが魔物討伐に行っている間はレティアが王国院の学生をまとめていた。
 まだ一年生になったばかりの彼女に大きな負担を強いたのだ。
 わたしはレティアの頭を撫でて、これまでの頑張りを褒めた。
 時間になり、わたしとレティアは先にお茶会の席へと向かった。
 部屋の飾り付けなどの最終確認を行なった。

「今日の参加者は王族であるウィリアノスさまが来ますので、レイナが対応お願いしますね」
「かしこまりました。精一杯務めさせていただきます」

 サラスに任せるのが一番安心ではあるが、側近を育てるのもわたしの役目であり、結婚で領土を離れる可能性があるディアーナより、ずっとこの領土に残ることになっているレイナを指名する。

「サラスにはわたくしの近くで全体のサポートをお願いします。ディアーナとラケシスも今日は大変でしょうけど頑張ってください」
「誠心誠意みなさまへお仕えいたします」
「主人の求めるものに応じて見せます」


 次々に参加者が到着して、わたしとレティアに挨拶をしていく。
 今日参加するのはわたしとレティアを除いて、カナリア、ラナ、アリア、ウィリアノスさまが来る予定だ。

「マリア姉さま、ご無事の報告を聞いてご安心致しました」
「心配をお掛けしましたね。ラナもごめんなさい。最後まで貴女の妹を守ってあげられませんで」
「いいえ、無理を言ってお願いしたのはわたしの方です。それよりもマリアさまがご無事で本当によかったです。今日はよろしくお願い致します」

 挨拶を終えて二人は席に座った。
 次にやってきたのは、友人でもあるカナリアだった。

「本日はご招待頂きありがとうございます」
「こっちこそ、来てくれて嬉しいわ」
「そう言って頂けると心が跳ねるようです。それともしよろしければこちらの本を作りましたので献上させていただきます」

 カナリアの侍従からディアーナに渡されて、特に危険な魔法陣が入っていないかを確認してからわたしに渡された。
 表紙にはこう書かれていた。
 “黒竜から国を救った女神”

 ……おふぅ

 中をパラパラとめくると、わたしがエンペラーを倒したことをかなり脚色しているようだ。
 まだ数日しか経っていないのになんて早さだ。
 著者を見てみると、カナリアとラケシスの名前が書いてあった。

「あ、ありがとうございます。時間がある時に読みますね」
「ぜひ感想を聞かせてくださいますと嬉しいです」

 カナリアの目が輝いている。
 チラッとラケシスを見ると、少しばかりうずうずしているようだ。
 わたしは曖昧な返事を返しておいた。
 そして最後にやってきたのはウィリアノスさまだった。

「今日は男である俺も呼んでくれて感謝する。あまり淑女のお茶会に参加したことがないので、失礼があった時はどうか容赦してくれ」
「今日はご参加いただきありがとうございます。ウィリアノスさまの大好きなお菓子も用意しましたので、是非ともお楽しみください」
「うむ」

 ウィリアノスも席に座ったの、まずはお菓子の紹介をしていく。


「最近、ゼヌニム領で流行り始めたケーキというものです。まだこちらに取り入れたばかりのものなので種類は少ないですが、味については再現は出来ていると思います」

 全員がケーキを口に運び、各々が美味しいと口にした。

「ほう、確かにゼヌニムの味だな。ジョセフィーヌ領とゼヌニム領が仲良く交流していると聞いた時は耳を疑ったが、この実物を見れば信じるしかあるまい」
「はい! 紅茶の方もパラストカーティから取り寄せたものです。といっても、全員に何度か献上していますので馴染みのある味だと思いますが」
「そういえば来ていたな。まだ飲んだことがなかったが一体どのような味なんだ?」

 ウィリアノスさまが口に運び目を見開いた。

「ほう、なかなかの味だな。これなら飲んでおくべきだったな。これからも貰えるか?」
「も、もちろんです。お口に合ってよかったです」

 これまで贈っていたが、たしか美味しかったと言っていた記憶がある。
 もしかして別の何かと勘違いしていたのだろうか。


「そういえば、先日のマリアさまとウィリアノスさまの踊りは素敵でしたね! わたくし、思わず見惚れました」

 カナリアが先日のダンスパーティーの話題を出した。
 ウィリアノスさまを誘って、一緒に踊ったのだ。
 婚約者がいる者は相手を連れてくる。
 もしいない人は、まだ相手がいない人と踊ることになっていた。
 ラナが手を合わせて微笑んでいた。

「それはとても素敵ですね。わたくしたちもスヴァルトアルフのパーティーを抜けて見に行きたかったです。さぞ、素敵な光景だったのでしょうね」
「ふん、ただのダンスだ。スヴァルトアルフのパーティではアリアは相手が居たのか?」
「わ、わたしですか!?」


 アリアが突然振られて困惑していた。
 アリアの場合、継承権が無いに等しいので許嫁はまだいないと思う。
 政治的にもあまり意味を持たないからだ。
 ただそれはウィリアノスさまも知っているはずだ。
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