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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
ヴェルダンディ視点5
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俺は今日、遠目からルキノを見ることになる。
「ルキノさま、少しいいですか?」
メルオープがルキノに話しかけていた。
セルランに勝つために訓練をしないといけないが、その前にルキノにメルオープを意識してもらわないといけない。
「はい、どうかしましたか?」
「何でも、来年のマンネルハイムへ向けてのメニューを考えているらしいので、わたしもお手伝いしてもよろしいですか?」
「もちろんです! すごく助かります!」
ルキノの笑顔によってメルオープの顔が少しばかり赤くなる。
だがそれにルキノは気付いていないのか、少し視線がずれている。
俺はその視線の先を追った。
「なら図書館で戦術の本をーー」
「あっ、マリアさま!」
ルキノは一目散にマリアさまの元へ走った。
俺もすかさず走る。
主人が通られたのなら何よりも優先すべきである。
俺とルキノはマリアさまの前で跪いた。
「二人ともおはよう。ルキノ、訓練のお話中にごめんなさい」
「いいえ、マリアさまがお越し下さること以上に大切なことはございません。それではどういったご用件でしょうか」
「ルキノはこの後、部屋に来てもらっていいかしら? セルランも同席しますが構いませんよね?」
「もちろんでございます」
一体何の話をするんだ?
セルラン同席の話し合いなんて、まるで付き合うことを主人に了解を取るようではないか。
俺が動揺していたのをセルランに悟られた。
「どうした、ヴェルダンディ? 」
一斉に視線が注がれた。
気持ちが焦るが、どうにか平静を装わなければならない。
「いえ、少し芸術祭に向けての練習で疲れただけです」
「大丈夫、ヴェルダンディ? ダンスパーティーもあるのだからほどほどにね」
マリアさまから心配されているのに嘘を吐くのは嫌だが、あまり主人を詮索するものではない。
「畏まりました」
その後、ルキノだけは姫さまに付いていく。
メルオープがこちらに近付いてきた。
「ルキノさまたちは大事なおはなしをしていたのか?」
「わからない。だが気にしても仕方ない。まだ芸術祭まで時間があるからメルオープの良いところをアピールしていこう」
まだまだどうなるか分からない。
そう思っていたが気付けば数日があっという間に過ぎ去り、芸術祭当日となっていた。
訓練場で各領土毎に踊りや楽器を披露する。
今年はマリアさまとアクィエルさまがどちらともやる気になっている。
「皆さん、ゼヌニム領にだけは負けてはいけません! これまでの練習の成果を見せてあげましょう!」
「芸術祭こそわたくしに勝利を届けなさい! 本当の芸術を知っている領土はわたくしの領土に決まっていますので、お手本を見せてあげなさい! マリアさん、ぜひ真似してくださいませ!」
お互いに意識しあっているせいか、踊りや楽器は想像以上に上手くなった。
だがそれ以上にマリアさまとアクィエルさまの踊りや楽器は誰もが感嘆するほどのレベルになっており、どちらも負けたくないからこそここまで高め合っているのだろう。
「ぜぇぜぇ、やりますわね。流石はマリアさんです」
「はぁはぁ、そっちこそ。まさかわたくしの踊りについていくなんて」
お互いに全力を出し切っているので、かなりお疲れのようだ。
傍目から見ても、甲乙付け難いため、勝負となるのは、最後の絵画となるだろう。
自分が住む領土をお題として、誰が一番上手く表現するのかが課題だ。
「そういえば、今年が誰が描くことになっているんだ?」
俺は隣に立つルキノに聞いてみる。
自分の練習やメルオープの恋で頭が一杯だったので、そこまで関心を向けられなかった。
「さあ、どうもわたくしたち、ジョセフィーヌ領からの選出が最後まで無かったと聞いています」
「なんだそりゃ。でもしっかり六個の絵画が置かれているぜ?」
中央に集められた絵画を魔道具で大きく映し出している。
まだ布を被せられており、どのような作品か全く分からない。
先生が一つ一つ発表していくことになっており、最初は自分たちの領土からだ。
「では本日の芸術祭の最後を飾ります絵画を一つ一つ見ていきましょう。まずはジョセフィーヌ領、何と今回の製作者は驚きのあの人。数々の奇跡を起こしており、先日最強の魔物エンペラーを倒してドラゴンスレイヤーの称号を手に入れた、マリア・ジョセフィーヌさまだ!」
マリアさまの名前を聞いた瞬間、俺たち側近は全員同じことを考えただろう。
……終わった。
マリアさまは一人だけ自信満々に手を振っている。
後ろに立っているセルランは手で顔を隠して大きなため息を吐いている。
珍しくマリアさまのお近くにいるサラスさまが目眩を起こしてレイナに支えられている。
「ほう、マリアさまの絵か。まだ一度も見たことないから、ぜひその腕前を見てみたーー!?」
ルキノも目眩を起こしたので、倒れる前にメルオープがルキノを支えた。
「一体どうしたのだ! ゔ、ヴェルダンディ、ルキノさまは体調が悪いのか?」
「気にしないでくれ、これからその理由が分かるから」
メルオープはさっぱり意味が分からないと顔に書いている。
だが仕方がない。
知っている者などほとんどいないだろう。
マリアさまは……。
「まだわたしも拝見していないので楽しみにしておりました。では、ぜひご覧ください、水の女神の芸術さ……くひん……を?」
先生が布を外したその絵にはよく分からない生首や荒廃した風景、そして白黒の背景。
マリアさまは自信満々の笑顔でこの絵の説明を始めた。
「これは、勇敢な戦士が多いわたくしの領土を表しています。場所は戦場という意味で少し暗いトーンを使っています」
……なぜ芸術祭でそれを選ぶのだ。
普通はもう少し未来ある絵を出せばいいのに、どうしてこのような一般の感性と違うものを表現するのか。
その絵を見ている全員がポカーンと口を開けていた。
それに気が付かないのかずっと熱弁するマリアさま。
そう、マリアさまは自分の芸術に自信があるのかあのように力の入った説明をするのだ。
誰も注意できる人間がいないため、マリアさまの長いお話が終わるまでずっと立っている。
俺たち側近は本当に申し訳ない気持ちになるのだった。
「ルキノさま、少しいいですか?」
メルオープがルキノに話しかけていた。
セルランに勝つために訓練をしないといけないが、その前にルキノにメルオープを意識してもらわないといけない。
「はい、どうかしましたか?」
「何でも、来年のマンネルハイムへ向けてのメニューを考えているらしいので、わたしもお手伝いしてもよろしいですか?」
「もちろんです! すごく助かります!」
ルキノの笑顔によってメルオープの顔が少しばかり赤くなる。
だがそれにルキノは気付いていないのか、少し視線がずれている。
俺はその視線の先を追った。
「なら図書館で戦術の本をーー」
「あっ、マリアさま!」
ルキノは一目散にマリアさまの元へ走った。
俺もすかさず走る。
主人が通られたのなら何よりも優先すべきである。
俺とルキノはマリアさまの前で跪いた。
「二人ともおはよう。ルキノ、訓練のお話中にごめんなさい」
「いいえ、マリアさまがお越し下さること以上に大切なことはございません。それではどういったご用件でしょうか」
「ルキノはこの後、部屋に来てもらっていいかしら? セルランも同席しますが構いませんよね?」
「もちろんでございます」
一体何の話をするんだ?
セルラン同席の話し合いなんて、まるで付き合うことを主人に了解を取るようではないか。
俺が動揺していたのをセルランに悟られた。
「どうした、ヴェルダンディ? 」
一斉に視線が注がれた。
気持ちが焦るが、どうにか平静を装わなければならない。
「いえ、少し芸術祭に向けての練習で疲れただけです」
「大丈夫、ヴェルダンディ? ダンスパーティーもあるのだからほどほどにね」
マリアさまから心配されているのに嘘を吐くのは嫌だが、あまり主人を詮索するものではない。
「畏まりました」
その後、ルキノだけは姫さまに付いていく。
メルオープがこちらに近付いてきた。
「ルキノさまたちは大事なおはなしをしていたのか?」
「わからない。だが気にしても仕方ない。まだ芸術祭まで時間があるからメルオープの良いところをアピールしていこう」
まだまだどうなるか分からない。
そう思っていたが気付けば数日があっという間に過ぎ去り、芸術祭当日となっていた。
訓練場で各領土毎に踊りや楽器を披露する。
今年はマリアさまとアクィエルさまがどちらともやる気になっている。
「皆さん、ゼヌニム領にだけは負けてはいけません! これまでの練習の成果を見せてあげましょう!」
「芸術祭こそわたくしに勝利を届けなさい! 本当の芸術を知っている領土はわたくしの領土に決まっていますので、お手本を見せてあげなさい! マリアさん、ぜひ真似してくださいませ!」
お互いに意識しあっているせいか、踊りや楽器は想像以上に上手くなった。
だがそれ以上にマリアさまとアクィエルさまの踊りや楽器は誰もが感嘆するほどのレベルになっており、どちらも負けたくないからこそここまで高め合っているのだろう。
「ぜぇぜぇ、やりますわね。流石はマリアさんです」
「はぁはぁ、そっちこそ。まさかわたくしの踊りについていくなんて」
お互いに全力を出し切っているので、かなりお疲れのようだ。
傍目から見ても、甲乙付け難いため、勝負となるのは、最後の絵画となるだろう。
自分が住む領土をお題として、誰が一番上手く表現するのかが課題だ。
「そういえば、今年が誰が描くことになっているんだ?」
俺は隣に立つルキノに聞いてみる。
自分の練習やメルオープの恋で頭が一杯だったので、そこまで関心を向けられなかった。
「さあ、どうもわたくしたち、ジョセフィーヌ領からの選出が最後まで無かったと聞いています」
「なんだそりゃ。でもしっかり六個の絵画が置かれているぜ?」
中央に集められた絵画を魔道具で大きく映し出している。
まだ布を被せられており、どのような作品か全く分からない。
先生が一つ一つ発表していくことになっており、最初は自分たちの領土からだ。
「では本日の芸術祭の最後を飾ります絵画を一つ一つ見ていきましょう。まずはジョセフィーヌ領、何と今回の製作者は驚きのあの人。数々の奇跡を起こしており、先日最強の魔物エンペラーを倒してドラゴンスレイヤーの称号を手に入れた、マリア・ジョセフィーヌさまだ!」
マリアさまの名前を聞いた瞬間、俺たち側近は全員同じことを考えただろう。
……終わった。
マリアさまは一人だけ自信満々に手を振っている。
後ろに立っているセルランは手で顔を隠して大きなため息を吐いている。
珍しくマリアさまのお近くにいるサラスさまが目眩を起こしてレイナに支えられている。
「ほう、マリアさまの絵か。まだ一度も見たことないから、ぜひその腕前を見てみたーー!?」
ルキノも目眩を起こしたので、倒れる前にメルオープがルキノを支えた。
「一体どうしたのだ! ゔ、ヴェルダンディ、ルキノさまは体調が悪いのか?」
「気にしないでくれ、これからその理由が分かるから」
メルオープはさっぱり意味が分からないと顔に書いている。
だが仕方がない。
知っている者などほとんどいないだろう。
マリアさまは……。
「まだわたしも拝見していないので楽しみにしておりました。では、ぜひご覧ください、水の女神の芸術さ……くひん……を?」
先生が布を外したその絵にはよく分からない生首や荒廃した風景、そして白黒の背景。
マリアさまは自信満々の笑顔でこの絵の説明を始めた。
「これは、勇敢な戦士が多いわたくしの領土を表しています。場所は戦場という意味で少し暗いトーンを使っています」
……なぜ芸術祭でそれを選ぶのだ。
普通はもう少し未来ある絵を出せばいいのに、どうしてこのような一般の感性と違うものを表現するのか。
その絵を見ている全員がポカーンと口を開けていた。
それに気が付かないのかずっと熱弁するマリアさま。
そう、マリアさまは自分の芸術に自信があるのかあのように力の入った説明をするのだ。
誰も注意できる人間がいないため、マリアさまの長いお話が終わるまでずっと立っている。
俺たち側近は本当に申し訳ない気持ちになるのだった。
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