悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
176 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

閑話ステラの恋愛話17

しおりを挟む
 顔がフッと綻びてしまった。
 何だか頼りになる雰囲気から一転可愛らしい雰囲気になった。
 だがまずはやるべきことがあった。
 毅然とした態度でホーキンス先生に言う。

「ホーキンス先生、興奮すると見境が無くなるから、いらぬ誤解を招くのです。あまりにもひどいようですと姫さまに報告して、罰をお与えになるように進言しますよ?」
「うっ……」

 姫さまの言葉を聞いて顔を青くした。
 これは罰せられるのが恐いのではなく、姫さまに協力を制限されることの方が恐いのだ。
 渋々ではあるが、あとでテントに行くことで同意となった。

「なんだ、ただの勘違いか」
「ホーキンス先生が人間に興味持つわけないよな」
「てことはまだ俺にもチャンスはあるんだな!」


 野次馬たちがどんどん散り散りになっていく。
 スフレさまも立ち上がって、一度咳払いをした。

「その……すまない。恥ずかしいところを見せました」

 耳まで赤いままその場を離れようとする。
 だがわたくしはその前に彼の手を掴んで引き留めた。

「カッコ良かったですよ。スフレさまだけがわたくしを守ろうとしてくれましたから」

 言っている自分も恥ずかしくなって、俯きながら伝えた。
 騎士として力量を上げるにつれて、周りから守られるということが減っていった。
 実力を認められている証でもあるので、そこに関しては特に悲観することはない。
 だが普通の令嬢のように庇護すべき対象と思ってもらえるのは、案外嬉しいものだと知った。
 スフレさまはこちらを振り返った。

「男として、好きな女性を守るのは当たり前です。たとえ貴女より弱くても、見て見ぬ振りをしても良い理由にはならない。だから……そのぉ、本当に怪我がなくてーー」

 スフレさまは先程以上に顔を赤くした。
 言葉を躊躇いながら、何と言うか躊躇われている。
 ものすごく胸がドキドキと弾んでいく。

「おい、スフレ! ちょっとこっちを手伝ってくれ!」
「おぅおお!」
「きゃっ!」


 思わず奇怪な叫び声を二人とも上げてしまった。
 心臓に悪いタイミングで声を掛けられたせいだ。
 スフレさまはすぐに返事を返した。
 ちょうどスフレさまの影に隠れる形だったのでわたくしのことは見えていないようだ。
 また二人の視線が合わさった。

「ぷっ!」

 最初にスフレさまが笑ったことで、次にわたくしも笑ってしまった。
 なぜだかお互いに自然と笑いが生まれたのだ。
 やっとお互いに落ち着いた。

「何だかやっと素直にお話が出来た気がする」
「わたくしもです」
「また時間があるときにじっくり話そう。お互いに呼ばれているみたいだし」
「そうですね。では……お待ちしていますね」


 最後の言葉は少しばかり恥ずかしかった。
 まるで乙女のような言葉なので、もうわたくしには縁が無いとは思っていた。

「ああ、また声を掛ける。ではまた後で」

 一度お互いに別れてから、わたくしはホーキンス先生の手伝いに行った。
 結局ずっと付き合わされてクタクタになるまで働かせられた。
 そして、とうとう遺跡内への調査となった。

「ワクワクするね。どんなものがあるかな」

 ホーキンスはものすごくワクワクしていた。
 一つだけ疑問があった。
 この場所は特に知られていない場所ではなく、領主がしっかり管理していた。
 それなのにまだ一度も探索をしたことがないのか?

「ホーキンス先生はここは未探索なのですか?」
「いいや、もちろんしている。ただ、最近マリアさまが魔力を込めたら出てくる部屋があっただろ? だから念のため魔法陣がないか調べてもらったんだ。そしたらあったんだよ。それもマリアさまの魔力じゃなくても大丈夫なやつが」

 どうやらゴーステフラートの方で色々調べてくれたようで、隠し通路が見つかったようだ。
 まだ未探索の部分は多いが、魔法陣に詳しい者が多いため一気に解明していくようだ。

「現時点では魔物は居ないらしいけど、油断はしないようにね。罠も結構多いらしいから」
「分かりました。姫さまの安全の確保だけは最優先事項ですから油断などあり得ません」

 わたくしは堂々と答えた。
 ホーキンスの口笛と他領の文官たちから、おぉ、という声が響いた。
 遺跡へと足を運ぶと、綺麗な状態であった。
 遺跡は広大ではあるがしっかり保全はしていることから、しっかり信仰を受け継いでいくというのが残って好感を覚えた。


「では行きましょう」

 ホーキンスの先導のもと先へと進む。
 遺跡の内部から地下の階段に降りた。
 そこには解放された隠し扉があった。

「ここがそうみたいだね。なるべく離れないように付いてきてくれ。魔法陣に気付いたら教えてね」

 かなり薄暗いので、護衛でいるだけのわたくしが棒状に形作られた物を持って灯りを担当する。
 魔道具なため、魔力がある限り灯りを灯せるのだ。
 通路を進むと開けた場所に出た。
 さらに先にはたくさんの部屋がいくつもあり、迷路のように入り組んでいた。

「ほうほう、これはすごい。では各位、それぞれ地図の作成と伝承に関わることの捜索をするように!」

 ホーキンスが命令を出して各自動き出した。
 わたくしはホーキンスと共に担当の部屋を見て回った。
 壁画が多く残されており、予想以上に昔は伝承に対しての信仰が根強かったようだ。
 そこには複数の人間の壁画が残っていた。

「これが五大貴族のご先祖さまですか?」

 蒼の髪を持った乙女は、ジョセフィーヌの直系であらせられる。
 だがその他の五大貴族にはそれぞれ別々の伝承がある。
 しかしそれは蒼の髪と同じく実在しているかわからないものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...