悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

下僕の男気

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 どうにか水竜にしがみついているので、落ちずに済んでいる。
 だが高熱によるダメージはかなりきついようで、苦しそうに顔を歪めている。

「ヴェルダンディ!」

 わたしはたまらず声を出した。
 また前の雷のように意識を無くしてしまいそうで恐かったからだ。
 しかしヴェルダンディは元気に笑ってみせた。

「このぐらいへっちゃらですよ」

 どう見ても痩せ我慢だが、それを指摘するような馬鹿なことはしない。


「ヴェルダンディ、あとはわたくしが攻めますので、少し休んでください」

 ヴェルダンディ以外の者は全員無事であり、ルキノはヴェルダンディが休む間の時間稼ぎをしようと前に出ようとした。

「いいや、俺も行く。こいつを倒さないと今回の作戦が無駄になる」


 ヴェルダンディは再び闘志を高めていた。
 その目に当てられたのかルキノは止めなかった。

「分かりました。マリアさまの魔力は温存しないといけませんからね」

 ヴェルダンディは隊列を整えてまた攻めに出た。
 エンペラーも傷を負っており、今が一番の好機だ。
 何度も攻撃を繰り返しては逃げるという行為を続けた。
 少しずつだがエンペラーの傷も多くなっている。
 しかしそれでもなお倒れるそぶりを全くみせなかった。

「くそっ、ドルヴィの騎士団長さまが倒せないだけあるぜ。こいつ、まだ完治していないだろうに、この強さ」
「弱音を吐いてもしょうがないでしょ」
「それもそうだな!」


 二人は持久戦を仕掛けているが、このままでは拉致があかない。
 魔力がこの魔物に対して足りていないのだ。
 あの鱗を破るには、五大貴族と同レベルの魔力が必要のようだ。
 わたしは作戦のため魔法が使えない。
 そうなるとできる人間は一人しかいない。
 わたしはちらっと目を動かしてしまい、そして後悔した。
 同じ考えをアリアもしていたのだ。

「マリア姉さま、今度こそわたしがお役に立ってみせます」


 それしか方法がない。
 エンペラーを倒すには高魔力で一撃必殺を狙わないといけない。
 だがそれはアリアが前に出て戦うということだ。


「いけません! 貴女が魔法を唱えようとすれば標的にされます!」


 魔物は魔法に敏感だ。
 魔力を求めるのだから、人間が出す魔力にも反応するようだ。
 この中でわたしとほとんど変わらない魔力を持っているアリアが魔法を唱えようとすれば、確実にこちらを狙ってくるだろう。


「ですが、このままだとヴェルダンディさまたちが危険です!」

 アリアの言う通りだが、アリアを守りきれると確約できる騎士がいないのだ。
 ステラはわたしを守らないといけないし、他の騎士では守りきることはできないだろう。

「マリアさま、ぼくにお任せください」

 下僕が進言した。

「下僕がアリアを守ると言うの?」
「はい」
「それは……」

 下僕を信じていないわけではないが、騎士として鍛錬を積んできた者でさえ任せれないことを文官である下僕に任せることなど出来るはずがない。
 おそらく何かしらの策があるのだろうが、簡単に頷けるものでもない。

「……出来ません。貴方は文官です。騎士の鍛錬をしていると言っても、魔力も技量も足りないはずです。アリアの命が掛かっているのに博打のようなことはできません」

 冷たく突き放したように見えるだろる。
 これまで下僕が頑張っているのは知っているが、流石に戦闘面まで下僕に期待などしていない。
 才能があろうがなかろうが、一つのことだけでも極めるのが大変なのだ。


「マリアさま、必ず守り切ります。ぼくの魔力は上の普通まで上がりました。今なら他の騎士にも劣らない魔力があります」
「うそっ……一体どうやってそんなに魔力を……」

 下僕の魔力は上級貴族の平均と変わらない魔力量と聞いて驚きを隠せなかった。
 中級貴族が上級貴族の平均と同じ魔力量なんて前代未聞だ。

「それはクロートから内緒にするように言われています。ただ、ここに証明書もあります」

 緊急事態だが、証拠を見ずして信用などできない。
 わたしはその紙を見ると確かに嘘偽りでないことはわかった。

「分かりました。ただ魔力が上級貴族級だからと言ってもここを任せる理由にはなりません。上級貴族の中でも最上位に位置するヴェルダンディたちですら、あれほど苦戦しているのですよ」
「幻影の魔法で標的を僕に変えます。それなら実力は関係ないはずです。魔法の探知も鈍らせますので、少しくらいなら時間を稼げるはずです」
「何を言ってますの! そうなれば下僕が危ないのよ!」


 アリアを狙ってくるエンペラーを一人で相手するということだ。
 そんなこと下僕が耐えきれるはずがない。
 だが下僕は自信を持って言った。

「大丈夫ですよ。僕には水の女神の加護がありますから。それに迷っている時間もありません」


 下僕の言う通りだ。
 いつのまにかヴェルダンディは仲間の一人の騎獣に運ばれている。
 火傷が酷いなか限界まで戦ったのだろう。
 意識を失っていた。
 残るはルキノだが、流石にこれ以上善戦を期待するのは無茶だと思う。

「分かりました。ただし危なくなったらすぐに幻影を解いて逃げなさい」
「承知しました」

 下僕とアリアは魔法の準備を始めた。
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