157 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
出立
しおりを挟む
早朝になったので、わたしも鎧を着て中庭へ向かった。
もうすでに遠征に参加する騎士たちが列を作って待っていた。
全員がフルプレートなのでかなり重々しいが、それだけ頼り甲斐があるということだ。
しかし中にはあまり強気でいられない者もいるようだ。
「グレイルさまが苦戦するような相手に俺たちでいけるのか?」
「それにセルランさまは別の場所にいるから頼りにできないそうだ」
口々に不安を声に出していた。
グレイルが離脱するような事態は誰もが信じらないことだろう。
このままでは不安が伝染してしまう。
「何を言っているんだ!」
メルオープが大きな声で、不安を口にしている生徒に一喝した。
「セルランさまが一番大変な場所を受け持ってくれるのなら、それこそいいではないか。我々は自分の領土を守れてかつ少し弱い魔物を倒せばいいだけなんだ。あちらにも戦ってくれている騎士が多くいる。恐れるな」
「は、はい」
メルオープの言葉が効いたのかなんと不安を口にする声がなくなった。
さすが領主候補生、手綱の握り方はわかっているようだ。
そしてメルオープがわたしのところまできた。
「マリアさま、先ほどアビに連絡をしたところ、着いてからの宿泊地は全員分用意してくれるそうです」
「そう、それは良かった」
休む場所がないと、流石に一日で戦いに行くのは大変すぎる。
わたしはホッと胸を撫で下ろした。
「マリアさま、そろそろ時間です。騎士たちに一人二本ずつ最上級の回復薬を与えました。全員準備完了です」
レイナが報告をくれた。
わたしは頷いて、気持ちを整える。
「お姉さま、無理はしないでくださいませ」
レティアが不安な顔を覗かせていた。
昨日、次期当主の継承権が移るかもしれないと報告したら顔を青くして倒れかけた。
それは当主になることよりも、わたしを心配してのことだった
「そんな顔をしないでください。わたくしは大丈夫です。魔物に恐れをいだくほどジョセフィーヌの女は弱くないのですよ」
レティアの頬に手をやってこちらを見させる。
笑顔を向けて、彼女の不安を少しでも無くす。
「ええ、お姉さまならどうにかしてくれますものね」
「そうよ、わたくしも少しは成長したのですから」
レティアと笑いあって健闘を祈ってもらった。
わたしは出立前に全員の士気を上げるために、自分のマリアーマーに乗って空へと上った。
まだ騎獣を作る練習はしてないのでマリアーマーを使う。
「わたくしの騎士たちよ。知っての通り、大事な領土に大量の魔物が発生した。強力な魔物が出現しているので恐い気持ちもあるでしょう。ですが恐れることはありません。騎士としての訓練を今日までしっかり積んできたことをわたくしは知っています。他領が助けに来ないからと悲観しないでください。マンネルハイムで優勝したのは貴方達です。この学校の中でみんなより強い騎士はいません」
全員が真剣に耳を傾けている。
わたしはトライードに魔力を注ぎ込んで、空まで届くほどの大剣を作り出した。
「戦士達よ、心を沸き立たせろ! 血流を流せ! 水の神オーツェガットは万物の母である水を支配した。ならば我々も己の血を操り力へと変えろ! 」
全員がトライードに刃を出現させて、空へと掲げた。
「故郷を脅かす敵を討ち滅ぼせ! このマリア・ジョセフィーヌに勝利を届けなさい! 」
「我らが姫に勝利を!」
トライードの刃を天へと放出した。
他の者も全員が魔力を空へと送り、無事水の神に届いたことだろう。
そして謎の一体感を感じながら、微細な光が包み込んだ。
どこか暖かい光の力を感じながら、力が漲るような気がしてきた。
全員が騎獣を出して、前にわたしたちがしたように二人一組で飛んで行った。
さて一つ困ったことがあった。
「このマリアーマーをどうやって持っていこうかしら」
わたしのマリアーマーだけは他の鎧とは違い、鎧に乗っているようなものだ。
そのため、重さも他より数倍重い。
「それでしたら、わたしどもが持っていきます」
カオディが魔力の高い文官たちで騎獣を連結させて持っていくと言った。
これでマリアーマーも問題なく持っていける。
わたしはホッと息を吐いて、ステラの騎獣に乗ろうとした。
「お待ちください」
声を掛けられて振り向くとシュトラレーセの領主候補生であるラナとアリアがやってきた。
何故かアリアは黒色の鎧を身に付けていた。
「ラナ? それにアリアのその格好は?」
「スヴァルトアルフが今回の戦いに参加できないことをお詫びに来ました」
かなり責任感がある女性であるのはわかるが、援軍として行くかどうかの采配は管理するスヴァルトアルフにある。
シュトラレーセの独断でできないのに責めてもしょうがない。
「貴女は悪くはありませんよ。悪いのは全てガイアノスですから」
ヨハネの情報が正しければ、奇妙な圧力を掛けていると言っていた。
だがラナは首を振った。
「いいえ、これはシュトラレーセも関係がありますので。理由は言えないですが、どうか一つだけお詫びとしてアリアをお連れください。この子なら魔力や知識でサポートができます」
「わたしをどうかお連れください」
一体どういうことなのか。
どうしてアリアが参加するのか、わたしにはよくわからなかった。
「大変申し訳ないのですが、危険な敵がいる中、大事な妹であるアリアを連れていくつもりはありません」
「今はこの王国院にいる方が危ないのです。マリアさまの庇護下で無くなることの方が」
アリアは誰かに狙われているのか?
理由を知りたいがラナはこれ以上喋る気はないようだ。
わたしが聞いても答えられないということは、スヴァルトアルフから厳命されているのかもしれない。
「分かりました。アリアはわたくしのサポートとして付いてきなさい。騎獣はもう出せますか?」
「はい! パラストカーティまでなら一人で魔力も持たせることも出来るはずです」
アリアの魔力はかなり高い。
それも領主候補生でも群を抜いて。
一度魔力測定結果を聞いてみたいと考えたが、ステラから前に行った者たちと距離が離れすぎると急かされる。
「では行きますよ!」
わたしたちはパラストカーティへ向けて出発した。
もうすでに遠征に参加する騎士たちが列を作って待っていた。
全員がフルプレートなのでかなり重々しいが、それだけ頼り甲斐があるということだ。
しかし中にはあまり強気でいられない者もいるようだ。
「グレイルさまが苦戦するような相手に俺たちでいけるのか?」
「それにセルランさまは別の場所にいるから頼りにできないそうだ」
口々に不安を声に出していた。
グレイルが離脱するような事態は誰もが信じらないことだろう。
このままでは不安が伝染してしまう。
「何を言っているんだ!」
メルオープが大きな声で、不安を口にしている生徒に一喝した。
「セルランさまが一番大変な場所を受け持ってくれるのなら、それこそいいではないか。我々は自分の領土を守れてかつ少し弱い魔物を倒せばいいだけなんだ。あちらにも戦ってくれている騎士が多くいる。恐れるな」
「は、はい」
メルオープの言葉が効いたのかなんと不安を口にする声がなくなった。
さすが領主候補生、手綱の握り方はわかっているようだ。
そしてメルオープがわたしのところまできた。
「マリアさま、先ほどアビに連絡をしたところ、着いてからの宿泊地は全員分用意してくれるそうです」
「そう、それは良かった」
休む場所がないと、流石に一日で戦いに行くのは大変すぎる。
わたしはホッと胸を撫で下ろした。
「マリアさま、そろそろ時間です。騎士たちに一人二本ずつ最上級の回復薬を与えました。全員準備完了です」
レイナが報告をくれた。
わたしは頷いて、気持ちを整える。
「お姉さま、無理はしないでくださいませ」
レティアが不安な顔を覗かせていた。
昨日、次期当主の継承権が移るかもしれないと報告したら顔を青くして倒れかけた。
それは当主になることよりも、わたしを心配してのことだった
「そんな顔をしないでください。わたくしは大丈夫です。魔物に恐れをいだくほどジョセフィーヌの女は弱くないのですよ」
レティアの頬に手をやってこちらを見させる。
笑顔を向けて、彼女の不安を少しでも無くす。
「ええ、お姉さまならどうにかしてくれますものね」
「そうよ、わたくしも少しは成長したのですから」
レティアと笑いあって健闘を祈ってもらった。
わたしは出立前に全員の士気を上げるために、自分のマリアーマーに乗って空へと上った。
まだ騎獣を作る練習はしてないのでマリアーマーを使う。
「わたくしの騎士たちよ。知っての通り、大事な領土に大量の魔物が発生した。強力な魔物が出現しているので恐い気持ちもあるでしょう。ですが恐れることはありません。騎士としての訓練を今日までしっかり積んできたことをわたくしは知っています。他領が助けに来ないからと悲観しないでください。マンネルハイムで優勝したのは貴方達です。この学校の中でみんなより強い騎士はいません」
全員が真剣に耳を傾けている。
わたしはトライードに魔力を注ぎ込んで、空まで届くほどの大剣を作り出した。
「戦士達よ、心を沸き立たせろ! 血流を流せ! 水の神オーツェガットは万物の母である水を支配した。ならば我々も己の血を操り力へと変えろ! 」
全員がトライードに刃を出現させて、空へと掲げた。
「故郷を脅かす敵を討ち滅ぼせ! このマリア・ジョセフィーヌに勝利を届けなさい! 」
「我らが姫に勝利を!」
トライードの刃を天へと放出した。
他の者も全員が魔力を空へと送り、無事水の神に届いたことだろう。
そして謎の一体感を感じながら、微細な光が包み込んだ。
どこか暖かい光の力を感じながら、力が漲るような気がしてきた。
全員が騎獣を出して、前にわたしたちがしたように二人一組で飛んで行った。
さて一つ困ったことがあった。
「このマリアーマーをどうやって持っていこうかしら」
わたしのマリアーマーだけは他の鎧とは違い、鎧に乗っているようなものだ。
そのため、重さも他より数倍重い。
「それでしたら、わたしどもが持っていきます」
カオディが魔力の高い文官たちで騎獣を連結させて持っていくと言った。
これでマリアーマーも問題なく持っていける。
わたしはホッと息を吐いて、ステラの騎獣に乗ろうとした。
「お待ちください」
声を掛けられて振り向くとシュトラレーセの領主候補生であるラナとアリアがやってきた。
何故かアリアは黒色の鎧を身に付けていた。
「ラナ? それにアリアのその格好は?」
「スヴァルトアルフが今回の戦いに参加できないことをお詫びに来ました」
かなり責任感がある女性であるのはわかるが、援軍として行くかどうかの采配は管理するスヴァルトアルフにある。
シュトラレーセの独断でできないのに責めてもしょうがない。
「貴女は悪くはありませんよ。悪いのは全てガイアノスですから」
ヨハネの情報が正しければ、奇妙な圧力を掛けていると言っていた。
だがラナは首を振った。
「いいえ、これはシュトラレーセも関係がありますので。理由は言えないですが、どうか一つだけお詫びとしてアリアをお連れください。この子なら魔力や知識でサポートができます」
「わたしをどうかお連れください」
一体どういうことなのか。
どうしてアリアが参加するのか、わたしにはよくわからなかった。
「大変申し訳ないのですが、危険な敵がいる中、大事な妹であるアリアを連れていくつもりはありません」
「今はこの王国院にいる方が危ないのです。マリアさまの庇護下で無くなることの方が」
アリアは誰かに狙われているのか?
理由を知りたいがラナはこれ以上喋る気はないようだ。
わたしが聞いても答えられないということは、スヴァルトアルフから厳命されているのかもしれない。
「分かりました。アリアはわたくしのサポートとして付いてきなさい。騎獣はもう出せますか?」
「はい! パラストカーティまでなら一人で魔力も持たせることも出来るはずです」
アリアの魔力はかなり高い。
それも領主候補生でも群を抜いて。
一度魔力測定結果を聞いてみたいと考えたが、ステラから前に行った者たちと距離が離れすぎると急かされる。
「では行きますよ!」
わたしたちはパラストカーティへ向けて出発した。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる