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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
メルンの実
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少しばかり足が重かった。
平然としていたかったが、やっぱり先ほどの言葉を聞いたせいだろう。
「貴族さま、メルンの実をどう……いかがでしょうか?」
二人の男女がローブを着て怪しくも露天商をしている。
しかしどこか高貴さを持ち合わせており、立ち振る舞いが平民とは大きく違っていた。
身長が長いため姿勢がよく見えているだけかもしれないが。
「メルンの実ですか……。ごめんなさい、今日は持ち合わせがありませんの。だからーー」
「マリアさま、自分がお金を持ってきていますので買いますよ」
お金がないから断ろうとしたが、下僕が笑顔でお金を差し出した。
ここで断るのは下僕に悪いと思い、お礼を言った。
「当たり外れのある実ですから、ぜひマリアさまがお選びください」
「ええ、ではこれをください」
わたしは直感でカゴの中にある複数のメルンの実から一つを選んだ。
すると露天商の天幕の裏からもう一人、包丁を持ってきた男性がわたしが選んだメルンの実をその場で切ってくれた。
すべての実の部分をサイコロ状にして、まずは下僕が毒味として食べた。
「流石はマリアさまですね。当たりです」
下僕が美味しそうに食べるので、なんだか食べたくなってきた。
フォークを手に取り、口に運んだ。
「美味しいわね。ヴェルダンディも食べましょう」
「おお! 久し振りに食べられるな」
ヴェルダンディも食べていた。
下僕にも勧めて、全員でメルンの実を食べた。
「なんだか昔を思い出しますね」
下僕がボソッと呟いた。
ヴェルダンディも笑っていた。
「たしかにな。あの時もこうやって抜け出して、城の中庭に植えてあったメルンの実を食べてたが美味しかったな」
「ぼくは見つかるかもしれない恐怖で心臓が縮み上がりそうでしたけどね」
二人ともよくわたしが抜け出すときのお供で連れていったものだ。
そのたびに大人たちやセルランにも怒られた。
今となってはいい思い出だ。
「ねえ、下僕。あとでお金を返しますから、まだお金はありますか?」
「ええ、もう少しくらいなら」
「そう……なら」
わたしはカゴの中から五個のメルンの実を選んだ。
おそらくすべて当たりのはずだ。
「これを持ち帰って今日の夕食に出してもらいましょう。デザートで出れば喜ぶでしょ」
「マリアさま、これは隠密行動なんだけどな。まあ、しょうがないですね。マリアさまを部屋までお連れしたら、コソッと厨房に運んでおきます」
「ありがとうヴェルダンディ。今日は二人ともわたくしのわがままに付き合ってくれてありがとう。まだまだこれからもやることが多いですから、明日からも頑張りますね」
少しばかり気持ちも落ち着いてきた。
昔話をしながら、ゆっくり寮へと戻った。
周りに誰もいないことを確認してから馬車から降りた。
そしてバレないようにコソコソと動き、ゆっくりヴェルダンディの騎獣で空まで上がる。
部屋の窓から侵入した。
「では、また夕食の時間に会いましょう」
「ええ、本当に助かりました。下僕にもお礼を言っておいてください」
ヴェルダンディは手を丸めて親指だけを上に向けて了解と答えた。
わたしはすぐさま窓を閉めて、ベッドの中にいる人形を確かめた。
「ちゃんと寝たふりをしているわね」
特に動かされた形跡もないため大丈夫そうだ。
わたしがその人形の首筋に机の上にあるナイフで傷を付けると、まるで空気が抜けるようにしぼんでいき、最後には消え去った。
「よしあとは寝るだけね」
その時コンコンと音が鳴った。
「マリアさま、起きていますか? 今日の夕食は食堂へ行けますでしょうか?」
セルランが病人だと思っているわたしに聞いてきた。
すぐに答えた。
「ええ、たくさん寝たらもう体調も良くなりましたので、夕食には顔を出せそうです」
「それは良かったです。今日はマリアさまの大好きなメルンの実が出ると料理長から連絡がありました。学生たちも喜ぶでしょう。では夕食までゆっくりしてください」
ヴェルダンディたちはもうメルンの実を運んだようだ。
わたしは少しばかり疲れたので、仮眠だけ取ることにした。
……そういえばあの未来予知の夢は次はどうなるのでしたかしら。
ふと思い出したが、急な睡魔に勝てず目を閉じるのだった。
目を覚ますと外も赤くなっており、夕方となっていた。
起きてからどうにも机が気になってしょうがない。
わたしは引き出しを開けた。
そこには、ルージュやアリアと出会うきっかけになった手紙が入っていた。
自分が未来で死ぬということを教えてくれた夢の内容も同時に思い出した。
「嫌な噂が出てくるとありましたが、たぶん犯罪組織のことですよね?」
曖昧な表現だがタイミング的にはありえそうだ。
次の内容はヤギの頭が大量に送られてくるだったかしら?
もしかしたらもう未来が変わってしまって起きないかもしれないが、自分が未来を視えるわけではないので一抹の不安がある。
わたしは前に来た手紙を見てみた。
今ならまだ間に合う。
成すべきことを行い、役目について自分を見つめなおすこと。
今日の四の鐘が鳴る前に以下の三ヶ所へ向かい、困っている人を助けよ。
一、訓練場
二、領地ビルネンクルベの寮の前
三、第二棟にある魔術の実験場
これを解決したならば次の指示を送る。
決して他の者に気取られてはならない。
いつだって死は君を持っている。
君の死は誰もが望んでいる。
一応すべて行なってかなり良い方向へ導いているのではなかろうか。
だがここから次はない。
次の指示を送ると書いてあるのに、それからは全く音沙汰なし。
わたしが手紙を机の中に隠そうとしたその時ーー。
「えっ」
手紙が突然光り出した。
書いてあった文字が消えて、新しく文字が浮かび上がってきた。
……魔道具!?
わたしがその浮かんだ文字を読んでみようとすると、ノックする音が聞こえた。
平然としていたかったが、やっぱり先ほどの言葉を聞いたせいだろう。
「貴族さま、メルンの実をどう……いかがでしょうか?」
二人の男女がローブを着て怪しくも露天商をしている。
しかしどこか高貴さを持ち合わせており、立ち振る舞いが平民とは大きく違っていた。
身長が長いため姿勢がよく見えているだけかもしれないが。
「メルンの実ですか……。ごめんなさい、今日は持ち合わせがありませんの。だからーー」
「マリアさま、自分がお金を持ってきていますので買いますよ」
お金がないから断ろうとしたが、下僕が笑顔でお金を差し出した。
ここで断るのは下僕に悪いと思い、お礼を言った。
「当たり外れのある実ですから、ぜひマリアさまがお選びください」
「ええ、ではこれをください」
わたしは直感でカゴの中にある複数のメルンの実から一つを選んだ。
すると露天商の天幕の裏からもう一人、包丁を持ってきた男性がわたしが選んだメルンの実をその場で切ってくれた。
すべての実の部分をサイコロ状にして、まずは下僕が毒味として食べた。
「流石はマリアさまですね。当たりです」
下僕が美味しそうに食べるので、なんだか食べたくなってきた。
フォークを手に取り、口に運んだ。
「美味しいわね。ヴェルダンディも食べましょう」
「おお! 久し振りに食べられるな」
ヴェルダンディも食べていた。
下僕にも勧めて、全員でメルンの実を食べた。
「なんだか昔を思い出しますね」
下僕がボソッと呟いた。
ヴェルダンディも笑っていた。
「たしかにな。あの時もこうやって抜け出して、城の中庭に植えてあったメルンの実を食べてたが美味しかったな」
「ぼくは見つかるかもしれない恐怖で心臓が縮み上がりそうでしたけどね」
二人ともよくわたしが抜け出すときのお供で連れていったものだ。
そのたびに大人たちやセルランにも怒られた。
今となってはいい思い出だ。
「ねえ、下僕。あとでお金を返しますから、まだお金はありますか?」
「ええ、もう少しくらいなら」
「そう……なら」
わたしはカゴの中から五個のメルンの実を選んだ。
おそらくすべて当たりのはずだ。
「これを持ち帰って今日の夕食に出してもらいましょう。デザートで出れば喜ぶでしょ」
「マリアさま、これは隠密行動なんだけどな。まあ、しょうがないですね。マリアさまを部屋までお連れしたら、コソッと厨房に運んでおきます」
「ありがとうヴェルダンディ。今日は二人ともわたくしのわがままに付き合ってくれてありがとう。まだまだこれからもやることが多いですから、明日からも頑張りますね」
少しばかり気持ちも落ち着いてきた。
昔話をしながら、ゆっくり寮へと戻った。
周りに誰もいないことを確認してから馬車から降りた。
そしてバレないようにコソコソと動き、ゆっくりヴェルダンディの騎獣で空まで上がる。
部屋の窓から侵入した。
「では、また夕食の時間に会いましょう」
「ええ、本当に助かりました。下僕にもお礼を言っておいてください」
ヴェルダンディは手を丸めて親指だけを上に向けて了解と答えた。
わたしはすぐさま窓を閉めて、ベッドの中にいる人形を確かめた。
「ちゃんと寝たふりをしているわね」
特に動かされた形跡もないため大丈夫そうだ。
わたしがその人形の首筋に机の上にあるナイフで傷を付けると、まるで空気が抜けるようにしぼんでいき、最後には消え去った。
「よしあとは寝るだけね」
その時コンコンと音が鳴った。
「マリアさま、起きていますか? 今日の夕食は食堂へ行けますでしょうか?」
セルランが病人だと思っているわたしに聞いてきた。
すぐに答えた。
「ええ、たくさん寝たらもう体調も良くなりましたので、夕食には顔を出せそうです」
「それは良かったです。今日はマリアさまの大好きなメルンの実が出ると料理長から連絡がありました。学生たちも喜ぶでしょう。では夕食までゆっくりしてください」
ヴェルダンディたちはもうメルンの実を運んだようだ。
わたしは少しばかり疲れたので、仮眠だけ取ることにした。
……そういえばあの未来予知の夢は次はどうなるのでしたかしら。
ふと思い出したが、急な睡魔に勝てず目を閉じるのだった。
目を覚ますと外も赤くなっており、夕方となっていた。
起きてからどうにも机が気になってしょうがない。
わたしは引き出しを開けた。
そこには、ルージュやアリアと出会うきっかけになった手紙が入っていた。
自分が未来で死ぬということを教えてくれた夢の内容も同時に思い出した。
「嫌な噂が出てくるとありましたが、たぶん犯罪組織のことですよね?」
曖昧な表現だがタイミング的にはありえそうだ。
次の内容はヤギの頭が大量に送られてくるだったかしら?
もしかしたらもう未来が変わってしまって起きないかもしれないが、自分が未来を視えるわけではないので一抹の不安がある。
わたしは前に来た手紙を見てみた。
今ならまだ間に合う。
成すべきことを行い、役目について自分を見つめなおすこと。
今日の四の鐘が鳴る前に以下の三ヶ所へ向かい、困っている人を助けよ。
一、訓練場
二、領地ビルネンクルベの寮の前
三、第二棟にある魔術の実験場
これを解決したならば次の指示を送る。
決して他の者に気取られてはならない。
いつだって死は君を持っている。
君の死は誰もが望んでいる。
一応すべて行なってかなり良い方向へ導いているのではなかろうか。
だがここから次はない。
次の指示を送ると書いてあるのに、それからは全く音沙汰なし。
わたしが手紙を机の中に隠そうとしたその時ーー。
「えっ」
手紙が突然光り出した。
書いてあった文字が消えて、新しく文字が浮かび上がってきた。
……魔道具!?
わたしがその浮かんだ文字を読んでみようとすると、ノックする音が聞こえた。
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