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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
閑話ステラの恋愛話11
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ゆっくりとお互いの身の上話をしていると、滞在時間が迫ってきていた。
食事も終えたので、お礼を言って屋敷から出た。
「本日は楽しい時間をありがとうございます」
わたくしがお礼を言うと、スフレさまははにかんだ笑顔で提案をした。
「こちらこそ楽しい時間をありがとうございます。またお話しをしたいので次もお会いしたい」
「わたくしもです。護衛騎士の任務を調整しますので、またお手紙でお返事しますね」
「返事を心待ちにしておきます。文官であるわたしが騎士であるステラさまに言うのはおかしいですが、気を付けてお帰りください」
わたくしとセーラは馬車に乗った。
すかさずセーラがわたくしに聞いてきた。
「セーラさま、スフレさまはどうでした?」
「どうもこうも、貴女も見ていたではないですか。見た印象通りよ」
わたくしが素っ気なく答えると、セーラがちがーう!、と手をブンブンと振り回した。
「そういうことを聞いているわけではないのはわかって言っているでしょう!」
「はぁー、冗談よ。素敵な人だったわ。まだ一度しか会っていないですが、誠実な方だと分かりました」
その言葉を聞いて、セーラは両手を頬に当てて目を潤ませていた。
「これでステラさまも結婚されるのですね」
「気が早いわよ。まだ一回しかお会いしてないじゃない」
「だってスフレさまも満更じゃない様子でしたよ」
たしかに好意は伝わった。
わたくしを初めて見た時の感動を事細かく言われ、そのような目で見られていたとはと恥ずかしくなったくらいだ。
「そうね、このまま結婚も悪くはないのかしらね」
「何か心配ごとがあるのですか?」
「別に心配はないわ、ただね……」
「マリアさまのことですか?」
言い当てられて胸がドキッとした。
頭の中に姫さまが浮かんできた。
お転婆だった姫さまが、ウィリアノスさまと婚姻が決まってから淑女の在り方を学んで上品さを身に付け、大人しくなったと思ったらまたもや活発に動き回る。
だが最近はそれを危ういことのようにも思えていた。
「ええ、姫さまのお側を離れてもいいのかしら。わたくしが結婚してしまうと頼れるのがセルランだけになってしまいます。聡明な彼でも流石に一人ではあまりにも大変だと思います」
姫さまの動きは誰も予測ができない。
今でも振り回されているのに、このままわたくしが居なくなればそれだけ負担が増すだろう。
「でもそれだと一生ステラさまは結婚をしないということですか?」
「そういうつもりはないです、これはわたくしが勝手に思っていることですから。……せめてクロートがシルヴィの側近ではなく姫さまの側近だったら何も心配は要らないのでしょうが」
最後の言葉は願望であるが、おそらく叶わないだろう。
あれほど優秀ならシルヴィが現役の時は手放さないはずだ。
クロートは赴任して間もないのに姫さまの扱いを心得ている。
誰よりも姫さまの行動を読んで次の一手をすぐに出すのは、最初は仲違いしていたセルランも認めざるえない有能さだ。
セーラが何やら考え込んでおり、あまり心配を掛けるのも、この子に悪いという感情はある。
「結婚するかどうか、まだ一回お会いしただけではわからないわ。何度か交流の機会はありますし、あとでわたくしの予定を出しておいてちょうだい」
「分かりました! 」
セーラの元気な声を聞きながら、外の街並みを見るのだった。
次の日になり、わたくしとセルランは姫さまに相談があると呼ばれたのだった。
部屋に入るとリムミントもおり、何故だか彼女の顔は蒼白になっていた。
「だ、大丈夫ですか?」
リムミントがあまりにも死にそうな顔をしていたので、元凶であろう姫さまを見た。
「姫さま、またリムミントに困らせることを言いましたね」
わたくしが少し恐い口調で姫さまを問い詰めると、誤解であると手を振って答えた。
「ではどうしてこんな顔になっているのですか?」
「実はこの前のお茶会でシュティレンツの伝承の手掛かりがあったので、実際に赴こうと思いましたの」
シュティレンツの領主候補生であるエリーゼがそのような話をしていたことをリムミントから聞いている。
そうすると今思い付く障害はただ一つ。
「そうするとサラスさまをどうやって説得するのですか?」
リムミントがフラッと倒れかけたので、わたくしは即座に反応して彼女を支えた。
どうやらリムミントの手に負えないようだ。
近くの椅子にリムミントを座らせた。
「見ての通り考え中です。滞在期間が長くなるからどうやってサラスを説得しようか考えてますの」
「そうすると我々もマリアさまと一緒にサラスさまを説得する方法を考えるために呼ばれたということですか?」
セルランが少し困った顔をしていた。
流石の彼でもサラスさまには分が悪い様子だ。
しかし姫さまは首を横に振った。
「いいえ、サラスの件はわたくしとリムミントで話し合いをしてどうにかします。二人にはサラスを説得した後のことを聞きたかったの」
「もちろんお供します」
セルランは即座に答えた。
わたくしも少し出遅れたが同じ言葉を出した。
「ありがとう。今回はシュティレンツで伝承を確かめた後にわたくしの家にも寄ろうと思っていますの。だから長期間の任務になるので二人の予定を聞いておこうと思いましたの」
わたくしはそこでドキッとした。
もしシュティレンツへ向かうのなら、それまでに情報の洗い出しをしておかないといけない。
姫さまの危険を少しでも減らさないと、取り返しのつかないことが起きるかもしれないからだ。
そうなると、しばらくは図書館を行ったり来たりで時間の大半を取られるのでスフレさまとの次回の約束は果たせそうにない。
「セルランは大丈夫ですか?」
「ええ、わたくしは姫さまのお側を離れるつもりはありません」
セルランは一寸の迷いもなく答えた。
次はわたくしに質問を投げかけられた。
「ステラはどうですか?」
「わたくしもお供します」
わたくしは護衛騎士なのだから、姫さまを第一に考えないといけない。
後でスフレさまにお詫びの手紙とセーラの騒ぐ姿を思い浮かべて悩みが増えていくのを感じる。
食事も終えたので、お礼を言って屋敷から出た。
「本日は楽しい時間をありがとうございます」
わたくしがお礼を言うと、スフレさまははにかんだ笑顔で提案をした。
「こちらこそ楽しい時間をありがとうございます。またお話しをしたいので次もお会いしたい」
「わたくしもです。護衛騎士の任務を調整しますので、またお手紙でお返事しますね」
「返事を心待ちにしておきます。文官であるわたしが騎士であるステラさまに言うのはおかしいですが、気を付けてお帰りください」
わたくしとセーラは馬車に乗った。
すかさずセーラがわたくしに聞いてきた。
「セーラさま、スフレさまはどうでした?」
「どうもこうも、貴女も見ていたではないですか。見た印象通りよ」
わたくしが素っ気なく答えると、セーラがちがーう!、と手をブンブンと振り回した。
「そういうことを聞いているわけではないのはわかって言っているでしょう!」
「はぁー、冗談よ。素敵な人だったわ。まだ一度しか会っていないですが、誠実な方だと分かりました」
その言葉を聞いて、セーラは両手を頬に当てて目を潤ませていた。
「これでステラさまも結婚されるのですね」
「気が早いわよ。まだ一回しかお会いしてないじゃない」
「だってスフレさまも満更じゃない様子でしたよ」
たしかに好意は伝わった。
わたくしを初めて見た時の感動を事細かく言われ、そのような目で見られていたとはと恥ずかしくなったくらいだ。
「そうね、このまま結婚も悪くはないのかしらね」
「何か心配ごとがあるのですか?」
「別に心配はないわ、ただね……」
「マリアさまのことですか?」
言い当てられて胸がドキッとした。
頭の中に姫さまが浮かんできた。
お転婆だった姫さまが、ウィリアノスさまと婚姻が決まってから淑女の在り方を学んで上品さを身に付け、大人しくなったと思ったらまたもや活発に動き回る。
だが最近はそれを危ういことのようにも思えていた。
「ええ、姫さまのお側を離れてもいいのかしら。わたくしが結婚してしまうと頼れるのがセルランだけになってしまいます。聡明な彼でも流石に一人ではあまりにも大変だと思います」
姫さまの動きは誰も予測ができない。
今でも振り回されているのに、このままわたくしが居なくなればそれだけ負担が増すだろう。
「でもそれだと一生ステラさまは結婚をしないということですか?」
「そういうつもりはないです、これはわたくしが勝手に思っていることですから。……せめてクロートがシルヴィの側近ではなく姫さまの側近だったら何も心配は要らないのでしょうが」
最後の言葉は願望であるが、おそらく叶わないだろう。
あれほど優秀ならシルヴィが現役の時は手放さないはずだ。
クロートは赴任して間もないのに姫さまの扱いを心得ている。
誰よりも姫さまの行動を読んで次の一手をすぐに出すのは、最初は仲違いしていたセルランも認めざるえない有能さだ。
セーラが何やら考え込んでおり、あまり心配を掛けるのも、この子に悪いという感情はある。
「結婚するかどうか、まだ一回お会いしただけではわからないわ。何度か交流の機会はありますし、あとでわたくしの予定を出しておいてちょうだい」
「分かりました! 」
セーラの元気な声を聞きながら、外の街並みを見るのだった。
次の日になり、わたくしとセルランは姫さまに相談があると呼ばれたのだった。
部屋に入るとリムミントもおり、何故だか彼女の顔は蒼白になっていた。
「だ、大丈夫ですか?」
リムミントがあまりにも死にそうな顔をしていたので、元凶であろう姫さまを見た。
「姫さま、またリムミントに困らせることを言いましたね」
わたくしが少し恐い口調で姫さまを問い詰めると、誤解であると手を振って答えた。
「ではどうしてこんな顔になっているのですか?」
「実はこの前のお茶会でシュティレンツの伝承の手掛かりがあったので、実際に赴こうと思いましたの」
シュティレンツの領主候補生であるエリーゼがそのような話をしていたことをリムミントから聞いている。
そうすると今思い付く障害はただ一つ。
「そうするとサラスさまをどうやって説得するのですか?」
リムミントがフラッと倒れかけたので、わたくしは即座に反応して彼女を支えた。
どうやらリムミントの手に負えないようだ。
近くの椅子にリムミントを座らせた。
「見ての通り考え中です。滞在期間が長くなるからどうやってサラスを説得しようか考えてますの」
「そうすると我々もマリアさまと一緒にサラスさまを説得する方法を考えるために呼ばれたということですか?」
セルランが少し困った顔をしていた。
流石の彼でもサラスさまには分が悪い様子だ。
しかし姫さまは首を横に振った。
「いいえ、サラスの件はわたくしとリムミントで話し合いをしてどうにかします。二人にはサラスを説得した後のことを聞きたかったの」
「もちろんお供します」
セルランは即座に答えた。
わたくしも少し出遅れたが同じ言葉を出した。
「ありがとう。今回はシュティレンツで伝承を確かめた後にわたくしの家にも寄ろうと思っていますの。だから長期間の任務になるので二人の予定を聞いておこうと思いましたの」
わたくしはそこでドキッとした。
もしシュティレンツへ向かうのなら、それまでに情報の洗い出しをしておかないといけない。
姫さまの危険を少しでも減らさないと、取り返しのつかないことが起きるかもしれないからだ。
そうなると、しばらくは図書館を行ったり来たりで時間の大半を取られるのでスフレさまとの次回の約束は果たせそうにない。
「セルランは大丈夫ですか?」
「ええ、わたくしは姫さまのお側を離れるつもりはありません」
セルランは一寸の迷いもなく答えた。
次はわたくしに質問を投げかけられた。
「ステラはどうですか?」
「わたくしもお供します」
わたくしは護衛騎士なのだから、姫さまを第一に考えないといけない。
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