悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
139 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

賽は投げられた

しおりを挟む
 わたしの息が一瞬止まった。
 あのお茶会に賛同したのだから、今回も賛同してくれるだろうと甘く見ていた。
 彼女はわたしから視線を外して、また紅茶に手を運んだ。
 周りの落胆がわたしにも伝わる。
 ここでわたしも落胆したら、誰もが完全に諦めてしまう。
 どうにか気持ちを立て直して、アクィエルに理由を聞いた。

「どうして断るのですか? そこまでジョセフィーヌを嫌うのですか?」

 動揺が声によって伝わらないように気をつける。
 最後の可能性を閉じてしまわないように。
 アクィエルは紅茶を味わい、テーブルに置いた。

「本当に経済のためだけにわたくしの領土と交流を持ちたいですの?」

 今度はこちらが言葉の真意を探る。
 一体彼女はわたしにどう答えてもらいたいのか。

「もちろん、それ以外にも。ゼヌニムはもっと素晴らしいものがーー」
「わたくしたちはこの前、ユリナナさんの悩みを聞きましたね」

 わたしの発言を遮って話し始めた。

「彼女は叶わぬ恋をしている。貴女は彼女に約束したはずです、恋を実らせると。涙を流す彼女に愛情を持って、今を変えると、そう約束しましたね」
「ええ、確かにしました」
「ならなぜ経済のお話しかしませんの? どうしてめんどくさい考えしかしない重鎮たちを相手にするような説得をしますの?  人の気持ちの垣根を取り去ろうと貴女はしてますのに、どうしてわたくしに理論詰めで先の決まったゲームのように淡々と事を進めようとしますの? あまりわたくしを馬鹿にしないでください。貴女がそんな生半可な気持ちで改革をしようとするのなら絶対に失敗するのがわたくしにだってわかります」

 アクィエルの拒絶の言葉がわたしを襲った。
 アクィエルの普段とは違う雰囲気に言葉を返せない。
 わたしは彼女を甘く見ていたのだ。
 これまで連勝続きだったので、驕り高ぶっていたのだ。

「ええ、貴女の言う通りよ。それでもわたくしはやらないといけない」

 なんとか絞り出したのがその言葉だけだった。
 アクィエルは何かを企んだような顔をしていた。

  「でも、わたくしが協力すればそれでもどうにかなるかもしれませんわね」
「それは協力してくーー」
「マリアさんが条件をのんでくれましたらね」

 言葉を被せながら、わたしに交換条件を突きつけてきた。
 予想外の展開に誰もが目を離せなくなっているだろう。
 わたしも動揺をなるべく見せないようにするのが限界だ。
 この要求はのまないと先へと進まない。


「どんな条件ですか?」

 わたしの目とアクィエルの目がぶつかった。
 お互いの責任と意地がぶつかり、熱量を増していく。

「跪きなさい、マリア・ジョセフィーヌさん」


 その声は大して大きくないのに誰の耳にも聞こえたのだろう。
 遠い席にいるはずのメルオープとカオディの抗議の声が聞こえた。
 そして拍手喝采するゼヌニム領の生徒たち。
 激昂するわたしの側近とそれを賞賛するアクィエルの側近たち。


「鎮まりない!」


 わたしの声が大聖堂全体に広がった。
 少しずつ全体が静まり返り、わたしの感情が暴走しないように細心の注意を払って、今の言葉の意味を聞き返した。

「アクィエルさん、わたくしに今なんと仰いました?」
「あら、聞こえなかったかしら。跪くように言ったのよ」


 アクィエルが意地悪する子供のような顔でそう言った。
 だがこれは子供の遊びで済む問題ではない。
 わたしがここで屈する態度を取れば、完全に上下が決まってしまう。
 未来永劫、わたしはゼヌニムに自領を明け渡した愚か者として名を連ねるだろう。

「そんなこと……できるわけないでしょ。次期当主になるわたくしが他人に従う姿を見せるなんて」
「ならいいですわ。今回の話は無かったことにしますから」


 アクィエルが目を離して、立ち上がろうとした。

「ま、待ちなさい! いえ、待ってください」

 わたしの中から怒りと焦りの篭った言葉が絞り出てきた。
 アクィエルはつまらなそうな顔をしながら、もう一度席に座りなおした。

「するのか、しないのか早く決めてくださいまし」


 ここでわたしが頭を下げることは完全に間違っている。
 一つの領土を取り戻すためにそこまでするべきなのか、とわたしの中の何かが囁く。
 しかし、もしここで頭を下げなければわたしは多夫としてこの身を永遠に捧げないといけない。
 どちらに進んでも地獄が待っている。

 ……せっかく死ぬ運命から逃れるためにここまで頑張ったのに、これじゃ死んだのと一緒じゃない。


 頭の中で一生懸命この場を打開する策を考えるが全くまとまらない。
 まさかアクィエルにここまで弄ばれるなんて思っていなかった、自分の驕りが招いた結果だ。
 だがヨハネの思い通りにだけはしてはいけない。
 わたしの天敵であるヨハネにわたしの領土を好きにさせてはいけない。
 フッと息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...