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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!
閑話ステラの恋愛話2
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魔法祭の祝勝会の日は非番であった。
スフレさまから手紙がやってきてからすぐにわたくしは机に向かって何度もペンを握った。
だがそのペンが何か文字を紡いだりはしない。
何度も頭を悩ませ、そしてああでもない、こうでもないと自問するだけだ。
「むーん、これほど凶悪な敵は会ったことがない」
わたくしが独り言を呟くと、後ろから笑い声がやってきた。
これほど大変な思いをしているのに失礼なやつだ、と後ろを振り返って不機嫌顔を作ってやった。
「人が苦労している時に笑うのはあまり上品ではないですよ」
わたくしの侍従として来ている遠縁の血族であるセーラに注意をした。
花嫁修行としてわたしの侍従をしてくれている彼女はそんなわたしの言葉を気にせずに紅茶を置いた。
「大変申し訳ございません! でもいつもは姫さまのためにしっかりしなくては!って言っているステラさまがそのように頭を悩ませていたら誰だって笑ってしまいますよ」
拳を上げて、わたしの真似をした。
わたくしのモノマネのつもりかもしれないが、全然似ていない……と思いたい。
書けないときにいくら悩んでもしょうがない。
わたくしは一度紅茶を口に運んだ。
セーラは椅子に座って慈しむようにわたしを見ていた。
「まさかどんな男性騎士よりも凛々しく聡明であるステラさまでも、想い人にはまっすぐに気持ちは伝えられないのですね。でもわかります。わたくしの未来の旦那さまであるーー」
自分の世界に入り聞いてもいない婚約者の話を馴れ初めから話し始めた。
何度も聞いているのでいい加減覚えるほどだ。
聞いていられないので、一度ここで話を止める。
「別に想い人ではありません。まだ顔すら合わせていないのですから」
まったく、勝手に興奮しないでほしい。
わたくしは美味しい紅茶をまた口に運んだ。
そこでキョトンとこちらを見ているセーラが目に入った。
「まだ会ったこともないのになんでそんなに悩んでいるのですか? これまでだって何度も縁談が来て手紙のやり取りをしたではないですか」
わたくしはそこで言葉が詰まった。
たしかに何度も縁談の話は来て、実際に顔合わせまでしたこともあった。
だがどの殿方とも上手くはいかなかった。
「ええそうですが……。ただ……ね」
「ただ、何ですか?」
わたくしは机の上にある手紙をセーラに見せた。
しばらくセーラはその手紙を見て、次第に頬が紅潮させ始めた。
「素敵……。なるほど、ステラさまはこの手紙のように相手を想った言葉を贈りたいが思い付かないのですね」
「まあ、そういうことです。わたくしはこれまで騎士としての技量を磨いてきましたが、こういったことはあまり練習していません。詩くらいなら書きますが、この方を満足させる言葉が思いつきません」
わたしははぁ、とため息を吐いた。
セーラは二つ下であるが侍従としてこういった手紙を書くことは得意だ。
だがそんな彼女でも頭を悩ませた。
「神への修飾の多さは相手をどれだけ想っているかの指標ですからね。流石にこれほど眷属の名前でステラさまを表現するなんてよほど勉強している方でないとできませんね。そういえばマリアさまの側近にこういったことが得意な中級貴族がいませんでしたか? すごく不名誉な呼ばれ方をしている男性の方です」
セーラが思い浮かべている男性に心当たりがあった。
姫さまが唯一中級貴族にも関わらず側近入りさせている下僕だ。
確かに彼ならそういったことは得意だろう。
姫さまの側近として少しでも役に立とうとする気概があるためか、本来資金力で上級貴族と教育のレベルで差が出るはずなのに、それどころから王国院内でもトップに近い成績を修めているのだ。
だがまだ自分より立場が上の者との対応を覚えている最中なので、まだ実力を出しきれていないようだ。
魔力がある家に生まれれば、姫さまの側近に誰からも後ろ指を指されなかっただろう。
「下僕ですか……、一度聞いてみましょう」
少しは光明が見えたので、今日は頭を悩ますのはこれまでにしよう。
朝になったらすぐに姫さまの護衛を代わらないといけない。
「でも本当なのですか? 中級貴族なのにマリアさまと同じ蒼の髪を持った強大な魔力を持つお兄さんを持っているって」
セーラは少し疑い気味に聞いてきた。
下僕の兄であるクロートはシルヴィの文官として優秀な男性だ。
だがわたくしも気持ちはわかる。
本来五大貴族を上回る魔力を持った貴族が生まれるなんて考えられなかったのだ。
「ええ、そうですよ。我が家に彼の血が入れば五大貴族に次ぐ名家として安泰でしたでしょうに」
「なぜステラさまは手を引いたのですか? いくらマリアさまに止められたところで、ステラさまの美貌と血筋なら喜んで婿入りをしたのではないですか?」
「それがダメだったのです」
わたくしは婚約候補に名乗りを上げようとしたが、姫さまに本人の同意なく無理矢理婿入りさせてはいけないと厳命されたのだ。
だがやはり貴族として家のことを考えないといけないわたくしはそれとなく、お相手を探していないかと探りを入れた。
すると一枚の紙を渡され、魔力量の検査結果を見せられてわたくしも驚愕した。
結論から言うとわたくしとは結婚は無理だった。
魔力に差がありすぎてわたくしでは子供を宿せない。
そうなると彼に婿に来てもらったとしても、一代限りでその魔力は消えてしまう。
姫さまに言われることなく、実らない恋だったのだ。
「ステラさまでも子供が宿せない魔力差だなんて、もうマリアさまとしか結婚できないのではないですか?」
「口を慎みなさい。マリアさまはもう王族という婚約者がいるのですから、そういった不敬な言葉を次に言ったら身内といえども処罰しますわよ」
セーラは慌てて口を塞いだ。
五大貴族はわたくしたち貴族とは別格の存在。
こういった些細なことで家がなくなることなんてある。
姫さまはお優しい方ではあるが、もし敵だと判断した場合には全く容赦などしない。
ヨハネさまほど相手を追い詰めたりして楽しんだりはしないが、命令した後はまるでもう興味がないかのように日常に戻る方だ。
「でもウィリアノスさまも少しは姫さまを想ってくださるとわたくしも安心できるのですが」
これまた不敬な言葉をセーラに聞こえないように小さく呟くのだった。
スフレさまから手紙がやってきてからすぐにわたくしは机に向かって何度もペンを握った。
だがそのペンが何か文字を紡いだりはしない。
何度も頭を悩ませ、そしてああでもない、こうでもないと自問するだけだ。
「むーん、これほど凶悪な敵は会ったことがない」
わたくしが独り言を呟くと、後ろから笑い声がやってきた。
これほど大変な思いをしているのに失礼なやつだ、と後ろを振り返って不機嫌顔を作ってやった。
「人が苦労している時に笑うのはあまり上品ではないですよ」
わたくしの侍従として来ている遠縁の血族であるセーラに注意をした。
花嫁修行としてわたしの侍従をしてくれている彼女はそんなわたしの言葉を気にせずに紅茶を置いた。
「大変申し訳ございません! でもいつもは姫さまのためにしっかりしなくては!って言っているステラさまがそのように頭を悩ませていたら誰だって笑ってしまいますよ」
拳を上げて、わたしの真似をした。
わたくしのモノマネのつもりかもしれないが、全然似ていない……と思いたい。
書けないときにいくら悩んでもしょうがない。
わたくしは一度紅茶を口に運んだ。
セーラは椅子に座って慈しむようにわたしを見ていた。
「まさかどんな男性騎士よりも凛々しく聡明であるステラさまでも、想い人にはまっすぐに気持ちは伝えられないのですね。でもわかります。わたくしの未来の旦那さまであるーー」
自分の世界に入り聞いてもいない婚約者の話を馴れ初めから話し始めた。
何度も聞いているのでいい加減覚えるほどだ。
聞いていられないので、一度ここで話を止める。
「別に想い人ではありません。まだ顔すら合わせていないのですから」
まったく、勝手に興奮しないでほしい。
わたくしは美味しい紅茶をまた口に運んだ。
そこでキョトンとこちらを見ているセーラが目に入った。
「まだ会ったこともないのになんでそんなに悩んでいるのですか? これまでだって何度も縁談が来て手紙のやり取りをしたではないですか」
わたくしはそこで言葉が詰まった。
たしかに何度も縁談の話は来て、実際に顔合わせまでしたこともあった。
だがどの殿方とも上手くはいかなかった。
「ええそうですが……。ただ……ね」
「ただ、何ですか?」
わたくしは机の上にある手紙をセーラに見せた。
しばらくセーラはその手紙を見て、次第に頬が紅潮させ始めた。
「素敵……。なるほど、ステラさまはこの手紙のように相手を想った言葉を贈りたいが思い付かないのですね」
「まあ、そういうことです。わたくしはこれまで騎士としての技量を磨いてきましたが、こういったことはあまり練習していません。詩くらいなら書きますが、この方を満足させる言葉が思いつきません」
わたしははぁ、とため息を吐いた。
セーラは二つ下であるが侍従としてこういった手紙を書くことは得意だ。
だがそんな彼女でも頭を悩ませた。
「神への修飾の多さは相手をどれだけ想っているかの指標ですからね。流石にこれほど眷属の名前でステラさまを表現するなんてよほど勉強している方でないとできませんね。そういえばマリアさまの側近にこういったことが得意な中級貴族がいませんでしたか? すごく不名誉な呼ばれ方をしている男性の方です」
セーラが思い浮かべている男性に心当たりがあった。
姫さまが唯一中級貴族にも関わらず側近入りさせている下僕だ。
確かに彼ならそういったことは得意だろう。
姫さまの側近として少しでも役に立とうとする気概があるためか、本来資金力で上級貴族と教育のレベルで差が出るはずなのに、それどころから王国院内でもトップに近い成績を修めているのだ。
だがまだ自分より立場が上の者との対応を覚えている最中なので、まだ実力を出しきれていないようだ。
魔力がある家に生まれれば、姫さまの側近に誰からも後ろ指を指されなかっただろう。
「下僕ですか……、一度聞いてみましょう」
少しは光明が見えたので、今日は頭を悩ますのはこれまでにしよう。
朝になったらすぐに姫さまの護衛を代わらないといけない。
「でも本当なのですか? 中級貴族なのにマリアさまと同じ蒼の髪を持った強大な魔力を持つお兄さんを持っているって」
セーラは少し疑い気味に聞いてきた。
下僕の兄であるクロートはシルヴィの文官として優秀な男性だ。
だがわたくしも気持ちはわかる。
本来五大貴族を上回る魔力を持った貴族が生まれるなんて考えられなかったのだ。
「ええ、そうですよ。我が家に彼の血が入れば五大貴族に次ぐ名家として安泰でしたでしょうに」
「なぜステラさまは手を引いたのですか? いくらマリアさまに止められたところで、ステラさまの美貌と血筋なら喜んで婿入りをしたのではないですか?」
「それがダメだったのです」
わたくしは婚約候補に名乗りを上げようとしたが、姫さまに本人の同意なく無理矢理婿入りさせてはいけないと厳命されたのだ。
だがやはり貴族として家のことを考えないといけないわたくしはそれとなく、お相手を探していないかと探りを入れた。
すると一枚の紙を渡され、魔力量の検査結果を見せられてわたくしも驚愕した。
結論から言うとわたくしとは結婚は無理だった。
魔力に差がありすぎてわたくしでは子供を宿せない。
そうなると彼に婿に来てもらったとしても、一代限りでその魔力は消えてしまう。
姫さまに言われることなく、実らない恋だったのだ。
「ステラさまでも子供が宿せない魔力差だなんて、もうマリアさまとしか結婚できないのではないですか?」
「口を慎みなさい。マリアさまはもう王族という婚約者がいるのですから、そういった不敬な言葉を次に言ったら身内といえども処罰しますわよ」
セーラは慌てて口を塞いだ。
五大貴族はわたくしたち貴族とは別格の存在。
こういった些細なことで家がなくなることなんてある。
姫さまはお優しい方ではあるが、もし敵だと判断した場合には全く容赦などしない。
ヨハネさまほど相手を追い詰めたりして楽しんだりはしないが、命令した後はまるでもう興味がないかのように日常に戻る方だ。
「でもウィリアノスさまも少しは姫さまを想ってくださるとわたくしも安心できるのですが」
これまた不敬な言葉をセーラに聞こえないように小さく呟くのだった。
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