悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
126 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

閑話ステラの恋愛話3

しおりを挟む
 次の日になり、朝の支度を始めた。
 とは言っても、侍従に何から何までしてもらうのでわたくしは何もしないのだが。
 鎧を身につけて、腰にトライードを差すと準備は完了だ。
 姫さまはあまり朝には強くないが、だからといってわたくしがゆっくりしていいわけではなく、姫さまがいつ目覚めてわたくしを呼んでもいいように早めに向かうのだ。

「おはようございます。ステラ・エーデルガルト、これから朝の護衛に就きます」
「ご苦労様です! ステラさまに職務を移行します! 」


 夜から朝にかけてまで見張りをしている騎士と代わった。
 少し経つとセルランが悩ましげな顔をしながらこちらにやってきた。

「どうかしました?」

 わたくしが声をかけると、同僚はやっとこちらに気付いて一度考えるのをやめていた。

「いや、昨日いきなりマリアさまが倒れたがその後が大変でな。一応リムミントたちに話をしたから、注意してもらうつもりだ」

 昨日は魔法祭優勝のお祝いに祝勝会をしたらしいが、途中で姫さまが倒れたと聞いている。
 特に命に別状もなく、急激なストレスによるものだと聞いている。
 一非番ではあったが一応顔だけは見に行ったので、無事だったことだけは知っていた。


「ストレスで倒れられた姫さまに説教は身体に良くないのではないですか?」
「そうも言ってはおれん。シスターズをまた勝手に取り決めたのだ」
「シスターズですか。勉強不足で申し訳ないですがそれはどういったものですか?」

 歳下にわたくしから聞くのは恥ずかしいが、姫さま関連で知らなかったでは済まされないことが多い。
 だがセルランは特に気にしていないようだ。

「知らないのも無理はない。わたくしも前に母上から聞いていたから知っているに過ぎない。シスターズとはーー」

 セルランからシスターズについて簡単に教えてもらい、まさか姫さまがそのような昔の制度を復活させようとしているなんて知らなかった。
 たまに姫さまはわたくしたちの想像を超えた考えや行動をするので、何か意味があってのことかもしれない。


「噂の広がりも早く、大量の妹申請がやってきた。リムミントとわたしで不眠不休で申請の手紙を振り分けたのだ。寝不足のリムミントは恐ろしいが今日ばかりはマリアさまにしっかり反省してもらわねばならん」


 姫さまは国民からは神に等しい崇拝を受けているが、とくに異性からは高嶺の花に見られ、同性からは尊敬の目を向けらている。
 そのためかお慕いしている方が多いので我々は姫さまに近付いて来る者を見極めないといけない。
 また少し経つと、レイナとラケシスが姫さまの朝の準備のためやってくる。
 それからしばらく時間が経ってから部屋から鈴の音が聞こえたので、侍従の二人はすぐさま部屋に入って姫さまの朝の準備を手伝いに行った。
 そしてほぼ同じ時にリムミントが顔を強張らせながら後ろに下僕を連れてやってきた。


「ひどく疲れてますね、あまり無理をしてはいけませんよ」


 わたくしがリムミントを労わると隈ができた目をどうにか開けながら首を振った。


「姫さまが落ち着いてくださるまではそのような時間はありません。下僕は二人に今日の予定を告げた後に、ホーキンス先生とカオディさまに今後の予算の話をしてきてください。もうだいぶ覚えてきているので問題はないと思いますが念のため、カオディさまは領主候補生ですので、失礼がないようお願いしますね」
「わ、分かりました!」

 リムミントが部屋に入る時に姫さまの悲鳴が少し聞こえた。
 わたくしはあまり怒られないよう祈っておこう。
 そこで思い出した。

「そういえば貴方にお願いあったのを思い出しました」
「僕にですか?」


 普段わたくしから頼みごとをしないので下僕は困惑していた。


「ええ、実は縁談の話がきておりまして、その方がかなり博識な方ですの。だから眷属に詳しい貴方に少しだけお手紙のお手伝いをしてほしいのです」
「なるほど、ぼくは構いませんよ」
「縁談だと? それはマリアさまはご存知なのか?」

 下僕が協力してくれると言ってくれて少しばかりホッとしていると同僚から口を挟まれた。

「いいえ。まだお話が来ただけですので、確定したわけではありません。貴方も知っての通り、何度も婚姻は破棄されているわたくしなので、仲が深まってから伝えようと思っています」


 セルランはホッと胸を撫で下ろした。


「そうか、ステラが居なくなるとマリアさまはかなり悲しまれる。念のためにわたしからシルヴィに話をしておこう。そろそろステラが居なくなることも視野に入れておかねばならないからな」

 姫さまのことを幼少の頃から見ているためか、姫さまの御心を誰よりも気遣う。
 わたくしも嫁ぐことになると姫さまをこれ以上守ってあげられない。
 居なくなるその日までに何か恩を返したい。
 セルランはきつい目を下僕へと向けた。

「前のことを許したわけではないが同僚のためだ。しっかり手伝ってやれ。ただし絶対にマンネルハイム前にウィリアノスさまを偽装した手紙と似たことは書くんじゃないぞ。マリアさまが元気になられたから許したが本来は禁固刑だ。それにもし嘘だとバレたらたとえマリアさまといえどもお前の家ごと潰しかねない」
「はい、心に深く刻み込みます」


 マンネルハイム決勝前夜でウィリアノスさまの手紙を偽装したことはわたしもすぐにわかった。
 絶対にウィリアノスさまがそのようなことはしないからだ。
 姫さまはものすごく喜ばれていたのでおそらくは気付いていないが、側近として出過ぎたことをするのは良くない。
 姫さまが部屋に戻ってすぐセルランから注意をしてもらったのだ。
 だが今回は私事なので関係はない。
 一つの懸念点がやっと減った。


 その後魔導アーマー百着分の件で一悶着あってリムミントを医務室へ運び、レティアさまとのお茶会もほとんど終わりかけたころ、レイナが普段とは別人なほど慌ててやってきた。

「サラスさまが今日こちらに参られました!」

 わたしとセルランはお互いに顔を見合わせた。
 まだまだ手紙どころではないのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

[完]出来損ない王妃が死体置き場に捨てられるなんて、あまりにも雑で乱暴です

小葉石
恋愛
 国の周囲を他国に囲まれたガーナードには、かつて聖女が降臨したという伝承が残る。それを裏付ける様に聖女の血を引くと言われている貴族には時折不思議な癒しの力を持った子供達が生まれている。  ガーナードは他国へこの子供達を嫁がせることによって聖女の国としての威厳を保ち周辺国からの侵略を許してこなかった。      各国が虎視眈々とガーナードの侵略を図ろうとする中、かつて無いほどの聖女の力を秘めた娘が侯爵家に生まれる。ガーナード王家はこの娘、フィスティアを皇太子ルワンの皇太子妃として城に迎え王妃とする。ガーナード国王家の安泰を恐れる周辺国から執拗に揺さぶりをかけられ戦果が激化。国王となったルワンの側近であり親友であるラートが戦場から重傷を負って王城へ帰還。フィスティアの聖女としての力をルワンは期待するが、フィスティアはラートを癒すことができず、ラートは死亡…親友を亡くした事と聖女の力を謀った事に激怒し、フィスティアを王妃の座から下ろして、多くの戦士たちが運ばれて来る死体置き場へと放り込む。  死体の中で絶望に喘ぐフィスティアだが、そこでこその聖女たる力をフィスティアは発揮し始める。  王の逆鱗に触れない様に、身を隠しつつ死体置き場で働くフィスティアの前に、ある日何とかつての夫であり、ガーナード国国王ルワン・ガーナードの死体が投げ込まれる事になった……………!   *グロテスクな描写はありませんので安心してください。しかし、死体と言う表現が多々あるかと思いますので苦手な方はご遠慮くださいます様によろしくお願いします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...