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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

閑話ステラの恋愛話1

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 時系列は「魔法は奥が深いですわね」の後と第一章の最後「悪夢が止まらない」の後の話です。

 わたくしの名前はステラと申します。
 マリア・ジョセフィーヌさまを守護する護衛騎士であります。
 略称として姫さまとお呼びしております。
 姫さまが王国院に入学されたタイミングで、成人した女性護衛騎士として任に就きました。
 もちろん護衛騎士の話は前から来ておりまして、学生の頃は学業だけに集中しており、姫さまの護衛として何も恥じることのないはずです。
 わたくしは学生の頃は女性の中ではトップの成績だったと自負しており。
 それでも男性といえどもわたくしより成績がいいのはごく少数でした。
 しかし年下でわたくしより騎士の成績が良かったのはセルラン一人だけでした。
 そんなセルランは姫さまの従兄妹であるため仲が良く、たとえ天才の名を欲しいままにしているセルランであっても、年下に負けるのはわたくしの心の中で燻るものがありました。
 わたくしはしばらくお休みを頂いて、実家の屋敷へ一度戻った。
 戻るとすぐに父と話をするため、部屋へ向かった。

「ただいま、緊急の話と伺いマリア・ジョセフィーヌさまの護衛から離れて帰ってきましたステラ・エーデルガルトでございます。入室してもよろしいでしょうか」
「入れ」

 わたくしは部屋に入ると、父と母が座っていた。
 テーブルの向かい側に座った。

「よくぞもどったステラよ。元気であったか?」
「ええ、お父さまにお母さまも変わりなく安心しました」

 母は軽く笑みだけ浮かべて、わたしに一枚の写真と紙を渡してきた。
 それを受け取ると、一人の男性の姿が載っていた。
 そしてその下には領土名が載っていた。

「スヴァルトアルフ領からの縁談ですか」
「左様。……ステラよ。お前はもう年頃の娘だ。マリア姫の護衛は確かに大事だが、そろそろ結婚を考えないといかん」

 ほとんどの女性貴族は二十までに婚約者がいなければ、行き遅れてしまうものだ。
 わたくしは今年で十八となるので、特に上級貴族の中でも上の地位にいるので、その後の人生についても考えないといけない。
 だが姫さまには成人を超えた女性騎士がいないため、今日までその話を延ばしてきたのだ。

「この方はどういった方なんですか?」
「シルヴィ・スヴァルトアルフに仕える文官として今後に期待できる青年とのことだ。歳も二十四であり、彼もそろそろ結婚をしようと考える余裕ができたのに加えて、ステラの姿を見て一目惚れしたそうだ」

 どうやらわたくしを見る機会があった時にすぐさまお父さまにお話をもってきたようだ。

「そうですね。魔力もわたくしとほとんど変わりませんし、姫さまはスヴァルトアルフ領と連携を強めております。今回は両領土の結び付きを強めるいい機会かもしれませんね。一度文通から始めさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「おお、いいとも。では早速返事の方を出してみよう」

 一度この話はここで終わった。
 それから魔法祭が始まり、姫さま関連で忙しなく働き、魔法祭が終わってようやく少し時間ができた時に、前の縁談の話がまたきました。
 わたくしは非番の日に侍従から手紙を頂いた。
 内容は相手も承諾してくれて、文通の紙が入ってあった。
 長い神への修飾語を除くと以下のように書かれていた。

 ステラ・エーデルガルト殿

 若葉の緑が目にしみる季節にどうお過ごしだろうか。
 スヴァルトアルフではこの季節になると花を咲かせ始め美しい木々が立ち上る。
 まるでわたしの気持ちを表しているようで、貴女への想いを如実に示してくれるのだ。
 わたしが貴女を目にしたのはずっと前でした。
 冬に行われる魔物討伐の遠征でスヴァルトアルフとジョセフィーヌが合同で行い、文官は魔物の素材や周辺の変化、貴重植物の採取で共にしましたことを覚えていますでしょうか。
 わたしもその時お供しており、魔物の一部が前線を抜けてきて、ピンチに陥った時がありました。
 戦いの術を知らないわたしではただ死を待つだけだったのに、戦場を駆ける一人の戦乙女がそこにはおりました。
 これまで見てきたどの女性騎士とも違って見え、光り輝く剣を持って、精錬された動きで貴女は瞬時に敵を一掃してしまった。
 まるで光の神を守護する騎士のお話のようであった。
 だがわたしも守られるだけでなく、貴女へ加護を送れる光の神でありたい。
 まだ貴女への想いは伝えきれていないが、最初の手紙に貴女の返事があれば、この想いの続きを伝えたいと思います。

  スフレ・ハールバランより。
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