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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!
セルランのライバル
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一人ずつ労いたいがこれ以上はわたしの体に障るとのことで、全員を解散させようとしたそのとき、一人の騎士が黒い鎧を身に纏い土竜に乗ってやってきた。
「マリアさま、今一度お待ちください」
わたしは何事かと思いその顔を見ると馴染みのある顔だった。
「エルト! 」
土竜に乗って来た人物はもう王国院を卒業してからはスヴァルトアルフで名声を欲しいままにしている騎士だった。
「お久しぶりです、マリアさま。それにセルラン」
「久しぶりだな。婚約者の顔を見に来たか」
セルランが茶化すと、エルトはわたしの後ろに顔を向けた。
男前な顔の先にはディアーナがいた。
ディアーナは全員の視線が向けられたので恥ずかしげに小さく手を振ってみせた。
満足した顔で再度セルランを見た。
「それもあるな」
「鬱陶しいから見せつけるな。それで今日はどうしたんだ?」
「ジョセフィーヌ領の騎士たちのマンネルハイムがあまりにも素晴らしくてな。それで一戦できないかとお願いにきたのだ」
どうやらこちらがあまりにも圧勝したため、体力が余っているなら勝負をしたいと戦士の血が疼いたらしい。
学生たちもまだまだ魔力が余っているみたいなので、快く返事を返してくれた。
「へへん、本物のマンネルハイムを何年もやっている先輩がたと戦えるのは願ったり叶ったりですよ」
「ぜひ胸を借りたいです」
ヴェルダンディとルキノもすでに騎士として経験を積んでいる先達たちと戦えるのは楽しみのようだ。
エルトはセルランに手を差し出した。
「久々に一緒にどうだ? 後輩たちに本物の技量というものを見せてやるのが先輩の役目だろ?」
セルランは虚を突かれ、フッと笑ってみせた。
「ふん、それもいいな。鎧があって慢心してもらっても困る。マリアさま、勤務中でございますが、少しの間この遊びに参加する許可をいただけますでしょうか」
「ええ、二人の息の合った戦いをまた観られるのなら喜んで許可を出します」
「ありがとうございます。ヴェルダンディ、ルキノ、わたしは二人を狙う。私が居ない間にどれほど腕を上げたか見せてもらおう」
セルランの顔つきが変わった。
一瞬でヴェルダンディとルキノは表情を引き締めて、冷や汗をかきながらも不敵に答えた。
「望むところだ。いずれ越えなきゃいけない壁だからな」
「ええ、ずっと一太刀も入れられなかったので、今日こそは勝たせてもらいます」
エルトは了承を得たことに満足して、王国院側に許可を取る前にディアーナの元へ行く。
ディアーナの手を取って、手の甲に軽くキスをした。
「わたしの女神よ。今日もお美しい」
「もう……。怪我しないでくださいませ」
エルトとディアーナは見つめ合い、まるで物語の騎士と姫だ。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまった。
わたしもあれくらい想われる恋愛をしたいものだ。
うっとりと二人を見ているとステラがわたしに話しかけて来た。
「あれほど情熱的に想われるのは淑女の本懐ですね」
「ええ、わたしもあんな風にされてみたいです」
わたしがそう言うと一瞬空気が変わった気がした。
後ろを振り返ってみると、セルランとヴェルダンディが喧嘩しており、さらに別のところでは下僕がラケシスの手刀で気絶させられていた。
「ちょっと、下僕!?」
軽く流してしまうところだったが、なぜ下僕が気絶しているのか。
ラケシスは笑って誤魔化していた。
「姫さま、ご心配なく、ちょっと疲れたみたいですので」
……いや、貴女が殴ったからでしょ!
まあ、特に命に別状がなければいいが。
一体全員どうしたのだろうか。
「ではマリアさま、すぐに試合を始める予定ですので、本物のマンネルハイムをごゆりとご堪能ください」
エルトはすぐさま試合の申請をした。
マンネルハイムが早くに終わったので、一戦くらいなら時間があるようだ。
相手はスヴァルトアルフでマンネルハイムのために鍛えられた上級騎士三十人とセルラン。
対するこちらは魔力量がバラバラの学生百人。
数の上では完全にこちらが上だが、相手の方が長年実戦で鍛えてきた現役の騎士たち。
一体どちらが勝つのかわたしにはわからない。
「最近大怪我をしたと聞いたが、鈍ったんじゃないか?」
エルトはセルランを茶化すがそれを笑って返した。
「逆だ。あの方の側にいると危険が勝手に迫ってくる。それに対抗できるよう、学生の頃とは比べ物にならないほど訓練をしてきた。どちらかというと、お前がわたしのスピードについてこれなくなってないかが一番の心配だ」
セルランが返した言葉にエルトは口笛を吹いた。
「ひゅー、かっこいいね。でも俺も少しでも追い付けるように魔物狩りは頑張ったんだ。それに今日はディアーナにも観てもらえる」
エルトはわたしの隣にいるディアーナをちらりと見た。
その時に試合を開始を告げる先生たちが位置についたので、二人の顔つきは戦士のものへと変わった。
「マンネルハイム開始!」
セルランの水竜は開始の合図と共に誰よりも早く駆け出した。
「マリアさま、今一度お待ちください」
わたしは何事かと思いその顔を見ると馴染みのある顔だった。
「エルト! 」
土竜に乗って来た人物はもう王国院を卒業してからはスヴァルトアルフで名声を欲しいままにしている騎士だった。
「お久しぶりです、マリアさま。それにセルラン」
「久しぶりだな。婚約者の顔を見に来たか」
セルランが茶化すと、エルトはわたしの後ろに顔を向けた。
男前な顔の先にはディアーナがいた。
ディアーナは全員の視線が向けられたので恥ずかしげに小さく手を振ってみせた。
満足した顔で再度セルランを見た。
「それもあるな」
「鬱陶しいから見せつけるな。それで今日はどうしたんだ?」
「ジョセフィーヌ領の騎士たちのマンネルハイムがあまりにも素晴らしくてな。それで一戦できないかとお願いにきたのだ」
どうやらこちらがあまりにも圧勝したため、体力が余っているなら勝負をしたいと戦士の血が疼いたらしい。
学生たちもまだまだ魔力が余っているみたいなので、快く返事を返してくれた。
「へへん、本物のマンネルハイムを何年もやっている先輩がたと戦えるのは願ったり叶ったりですよ」
「ぜひ胸を借りたいです」
ヴェルダンディとルキノもすでに騎士として経験を積んでいる先達たちと戦えるのは楽しみのようだ。
エルトはセルランに手を差し出した。
「久々に一緒にどうだ? 後輩たちに本物の技量というものを見せてやるのが先輩の役目だろ?」
セルランは虚を突かれ、フッと笑ってみせた。
「ふん、それもいいな。鎧があって慢心してもらっても困る。マリアさま、勤務中でございますが、少しの間この遊びに参加する許可をいただけますでしょうか」
「ええ、二人の息の合った戦いをまた観られるのなら喜んで許可を出します」
「ありがとうございます。ヴェルダンディ、ルキノ、わたしは二人を狙う。私が居ない間にどれほど腕を上げたか見せてもらおう」
セルランの顔つきが変わった。
一瞬でヴェルダンディとルキノは表情を引き締めて、冷や汗をかきながらも不敵に答えた。
「望むところだ。いずれ越えなきゃいけない壁だからな」
「ええ、ずっと一太刀も入れられなかったので、今日こそは勝たせてもらいます」
エルトは了承を得たことに満足して、王国院側に許可を取る前にディアーナの元へ行く。
ディアーナの手を取って、手の甲に軽くキスをした。
「わたしの女神よ。今日もお美しい」
「もう……。怪我しないでくださいませ」
エルトとディアーナは見つめ合い、まるで物語の騎士と姫だ。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまった。
わたしもあれくらい想われる恋愛をしたいものだ。
うっとりと二人を見ているとステラがわたしに話しかけて来た。
「あれほど情熱的に想われるのは淑女の本懐ですね」
「ええ、わたしもあんな風にされてみたいです」
わたしがそう言うと一瞬空気が変わった気がした。
後ろを振り返ってみると、セルランとヴェルダンディが喧嘩しており、さらに別のところでは下僕がラケシスの手刀で気絶させられていた。
「ちょっと、下僕!?」
軽く流してしまうところだったが、なぜ下僕が気絶しているのか。
ラケシスは笑って誤魔化していた。
「姫さま、ご心配なく、ちょっと疲れたみたいですので」
……いや、貴女が殴ったからでしょ!
まあ、特に命に別状がなければいいが。
一体全員どうしたのだろうか。
「ではマリアさま、すぐに試合を始める予定ですので、本物のマンネルハイムをごゆりとご堪能ください」
エルトはすぐさま試合の申請をした。
マンネルハイムが早くに終わったので、一戦くらいなら時間があるようだ。
相手はスヴァルトアルフでマンネルハイムのために鍛えられた上級騎士三十人とセルラン。
対するこちらは魔力量がバラバラの学生百人。
数の上では完全にこちらが上だが、相手の方が長年実戦で鍛えてきた現役の騎士たち。
一体どちらが勝つのかわたしにはわからない。
「最近大怪我をしたと聞いたが、鈍ったんじゃないか?」
エルトはセルランを茶化すがそれを笑って返した。
「逆だ。あの方の側にいると危険が勝手に迫ってくる。それに対抗できるよう、学生の頃とは比べ物にならないほど訓練をしてきた。どちらかというと、お前がわたしのスピードについてこれなくなってないかが一番の心配だ」
セルランが返した言葉にエルトは口笛を吹いた。
「ひゅー、かっこいいね。でも俺も少しでも追い付けるように魔物狩りは頑張ったんだ。それに今日はディアーナにも観てもらえる」
エルトはわたしの隣にいるディアーナをちらりと見た。
その時に試合を開始を告げる先生たちが位置についたので、二人の顔つきは戦士のものへと変わった。
「マンネルハイム開始!」
セルランの水竜は開始の合図と共に誰よりも早く駆け出した。
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