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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!
アクィエルの二番煎じ
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わたしは一度気持ちを落ち着かせてウィリアノスさまに笑顔を向けた。
「お久しぶりです、ウィリアノスさま」
どうやらウィリアノスさまは少しばかり考えことをしていたせいか、わたしの声が聞こえていない様子で、従者が肩を叩いてようやくわたしに気付いた。
「ああ、マリアか。悪い、考え事をしていた」
「いえ、ウィリアノスさまなら悩み事が多いと思いますのでお気になさらず」
「大したことじゃない。それより久々なせいか、少し痩せたか? ずっと王国院を離れて家に戻っていたらしいが、何か実家であったのか?」
ウィリアノスさまは本当に何も知らない様子で聞いてきた。
王族なら話を共有していると思っていたがそうではないようだ。
「姫さま、どうやら騒動について知らないようです。ここは濁してください」
サラスは小声でわたしに話しかけた。
わたしもそれは同意するので、笑顔をウィリアノスさまに向けた。
「いえ、何もありません。お気遣い痛み入ります」
わたしは一度席に座った。
「お姉さま!」
「レティア!」
レティアもやってきて、わたしに気付いて嬉しそうにわたしの隣に座った。
「わたくしがいない間は、五大貴族としてみんなを引っ張りましたか?」
「はい。でもやっぱりお姉さまがいないと大変なことが多かったです。それよりもお姉さまの方こそ大丈夫でしたか? あちらではかなり大変な目にあったと聞いておりました。シスターズから何度も無事かどうか聞かれてわたくしもどんどん不安が募ってしまって……」
……そういえばシスターズなんてありましたわね。
一瞬で現実に戻される言葉だ。
別にわたしを慕ってくれる子たちばかりなので嫌ではないが、もう少しフラットな関係でありたいとは思う。
レティアが少しばかり泣きそうな顔になってしまったので、頭を撫でて落ち着かせる。
「心配をおかけしましたね。でももう気にしないでください。わたくしが何とかしました。ヨハネの好きなようにはさせません」
「流石はお姉さまです! またお茶会をしましょうね。シスターズの方たちも楽しみにしていると思いますので」
「ええ、そうね。騎士祭が終わったら招待状を送りますね」
レティアは「約束ですよ?」と微笑んでくれるので、可愛い妹のためにもすぐにでもセッティングしようと心に決めた。
明日からの楽しい王国院生活を夢見ていると、聞きたくもない声が聞こえてきた。
「おーほほほ、マリアさん帰ってきたようですね!」
わたしを不快にさせる天才のアクィエルがやってきた。
その後ろにはフルプレートを身に付けた三人の生徒がいた。
……亜魔導アーマー!?
デザインは多少違うがシュティレンツに作らせた亜魔導アーマーだ。
どうやら魔法祭の出店で構造を調べたようだ。
だが、まさかこの短期間で作るとはアクィエルの行動力を舐めていたようだ。
「気付いたようですね。前回の魔法祭ではこの鎧によって戦況を変えられましたが、今回はわたくしたちも用意したのです。どうです、驚きましたか!」
アクィエルは嬉しそうに胸を張っていた。
どうやらわたしの驚く顔を見たいようで、反応を待っているようだ。
「ええ、驚いております。まさかもう真似してくるなんて。でもアクィエルさん、いつも思っていたけど二番煎じしかできませんのね」
アクィエルはガーンとショックを受けたようで、口を半開きで身動き一つしない。
そこでアクィエルの護衛騎士である、レイモンドはどうしたものかとアクィエルの顔を覗くと慌て始めた。
「立ったまま気絶している!? なんて器用な。流石はマリアさま、たった一言でアクィエルさまに一番効く言葉をぶつけるなんて」
レイモンドはアクィエルをお姫様抱っこして、急いで医務室まで連れて行った。
このまま騎士祭は欠席してくれないだろうか。
「お姉さま、あまりアクィエルさまをいじめてはだめですよ」
「あれはわたくしが悪いのかしら?」
しばらくすると、アリアとラナが挨拶のためやってきた。
「お久しぶりです、マリアさま。かなり長い間伝承を蘇らせるため頑張られたせいで、体調を崩されたと聞いております。アリアもずっとソワソワしていましたの」
「お姉さま、言わないでください!」
……あらあら可愛いことね。
アリアが照れている姿にほんわかする。
レティアといい、アリアといい、先日までのわたしの荒んだ心を癒してくれる。
やっぱり王国院が一番だとこれほど思うことはない。
「おい、まどっ子!」
突然ウィリアノスさまの声が飛んできた。
わたしは誰のことか思ったら、アリアが返事した。
「は、はい」
「今日の出店は間に合ったんだろうな」
「もちろんです。マリアさまの研究所を借りている以上、出店しないなんてことはしません」
「ならいい」
それだけ言ってウィリアノスさまはこちらへの視線を外した。
いつの間にウィリアノスさまはアリアと話す仲になっていたのか。
ラナが頭を下げた。
「マリアさまの口添えのおかげで、アリアの研究も滞りなくできたようです。ウィリアノスさまには御礼を告げましたが、マリアさまにもそれ以上の感謝を捧げます」
「 い、いえ。アリアの研究が止まらなくてよかったです、おほほほ」
一体何の話をしているのだ?
わたしは特にウィリアノスさまにアリアの話をした覚えはない。
しかし、もしかしたらわたしのために協力してくれたのかもしれない。
あとでウィリアノスさまにお礼を言っておかないと。
でもまどっ子って、ウィリアノスさまがあだ名で言うなんて、ご友人くらいなのに珍しいこともあるものだ。
ウィリアノスさまはアリアに対して小動物的可愛さを感じているのかもしれない。
「そういえば近いうちにお茶会を開こうと思いますので、お二人も参加してくださいますか?」
わたしがそう言うと真っ先にアリアが返事した。
「お茶会ですか! ぜひ参加したいです!」
ラナはそんなアリアを微笑ましく見ており、同じく参加を承諾した。
「マリアさまからのお誘いなら是非とも参加させていただきます」
わたしはどんなお茶会にしようかと考えていると思ってもみなかった方から声が飛んできた。
「おい、マリア。俺も参加したいが構わないか!」
ウィリアノスさまがまさかのお茶会への参加を希望してきた。
わたしは心が躍るほど嬉しくなり二つ返事で了承した。
「もちろんです! ウィリアノスさまが楽しめるように趣向を凝らしておきますね」
「ああ、任せる」
ウィリアノスさまが来るなんて思ってもみなかったが、ずっとお話をしたいと思っていたのだ。
でもどうしてウィリアノスさまは急にお茶会に参加したくなったのだろうか。
わたしにはよくその理由が分からなかった。
「お久しぶりです、ウィリアノスさま」
どうやらウィリアノスさまは少しばかり考えことをしていたせいか、わたしの声が聞こえていない様子で、従者が肩を叩いてようやくわたしに気付いた。
「ああ、マリアか。悪い、考え事をしていた」
「いえ、ウィリアノスさまなら悩み事が多いと思いますのでお気になさらず」
「大したことじゃない。それより久々なせいか、少し痩せたか? ずっと王国院を離れて家に戻っていたらしいが、何か実家であったのか?」
ウィリアノスさまは本当に何も知らない様子で聞いてきた。
王族なら話を共有していると思っていたがそうではないようだ。
「姫さま、どうやら騒動について知らないようです。ここは濁してください」
サラスは小声でわたしに話しかけた。
わたしもそれは同意するので、笑顔をウィリアノスさまに向けた。
「いえ、何もありません。お気遣い痛み入ります」
わたしは一度席に座った。
「お姉さま!」
「レティア!」
レティアもやってきて、わたしに気付いて嬉しそうにわたしの隣に座った。
「わたくしがいない間は、五大貴族としてみんなを引っ張りましたか?」
「はい。でもやっぱりお姉さまがいないと大変なことが多かったです。それよりもお姉さまの方こそ大丈夫でしたか? あちらではかなり大変な目にあったと聞いておりました。シスターズから何度も無事かどうか聞かれてわたくしもどんどん不安が募ってしまって……」
……そういえばシスターズなんてありましたわね。
一瞬で現実に戻される言葉だ。
別にわたしを慕ってくれる子たちばかりなので嫌ではないが、もう少しフラットな関係でありたいとは思う。
レティアが少しばかり泣きそうな顔になってしまったので、頭を撫でて落ち着かせる。
「心配をおかけしましたね。でももう気にしないでください。わたくしが何とかしました。ヨハネの好きなようにはさせません」
「流石はお姉さまです! またお茶会をしましょうね。シスターズの方たちも楽しみにしていると思いますので」
「ええ、そうね。騎士祭が終わったら招待状を送りますね」
レティアは「約束ですよ?」と微笑んでくれるので、可愛い妹のためにもすぐにでもセッティングしようと心に決めた。
明日からの楽しい王国院生活を夢見ていると、聞きたくもない声が聞こえてきた。
「おーほほほ、マリアさん帰ってきたようですね!」
わたしを不快にさせる天才のアクィエルがやってきた。
その後ろにはフルプレートを身に付けた三人の生徒がいた。
……亜魔導アーマー!?
デザインは多少違うがシュティレンツに作らせた亜魔導アーマーだ。
どうやら魔法祭の出店で構造を調べたようだ。
だが、まさかこの短期間で作るとはアクィエルの行動力を舐めていたようだ。
「気付いたようですね。前回の魔法祭ではこの鎧によって戦況を変えられましたが、今回はわたくしたちも用意したのです。どうです、驚きましたか!」
アクィエルは嬉しそうに胸を張っていた。
どうやらわたしの驚く顔を見たいようで、反応を待っているようだ。
「ええ、驚いております。まさかもう真似してくるなんて。でもアクィエルさん、いつも思っていたけど二番煎じしかできませんのね」
アクィエルはガーンとショックを受けたようで、口を半開きで身動き一つしない。
そこでアクィエルの護衛騎士である、レイモンドはどうしたものかとアクィエルの顔を覗くと慌て始めた。
「立ったまま気絶している!? なんて器用な。流石はマリアさま、たった一言でアクィエルさまに一番効く言葉をぶつけるなんて」
レイモンドはアクィエルをお姫様抱っこして、急いで医務室まで連れて行った。
このまま騎士祭は欠席してくれないだろうか。
「お姉さま、あまりアクィエルさまをいじめてはだめですよ」
「あれはわたくしが悪いのかしら?」
しばらくすると、アリアとラナが挨拶のためやってきた。
「お久しぶりです、マリアさま。かなり長い間伝承を蘇らせるため頑張られたせいで、体調を崩されたと聞いております。アリアもずっとソワソワしていましたの」
「お姉さま、言わないでください!」
……あらあら可愛いことね。
アリアが照れている姿にほんわかする。
レティアといい、アリアといい、先日までのわたしの荒んだ心を癒してくれる。
やっぱり王国院が一番だとこれほど思うことはない。
「おい、まどっ子!」
突然ウィリアノスさまの声が飛んできた。
わたしは誰のことか思ったら、アリアが返事した。
「は、はい」
「今日の出店は間に合ったんだろうな」
「もちろんです。マリアさまの研究所を借りている以上、出店しないなんてことはしません」
「ならいい」
それだけ言ってウィリアノスさまはこちらへの視線を外した。
いつの間にウィリアノスさまはアリアと話す仲になっていたのか。
ラナが頭を下げた。
「マリアさまの口添えのおかげで、アリアの研究も滞りなくできたようです。ウィリアノスさまには御礼を告げましたが、マリアさまにもそれ以上の感謝を捧げます」
「 い、いえ。アリアの研究が止まらなくてよかったです、おほほほ」
一体何の話をしているのだ?
わたしは特にウィリアノスさまにアリアの話をした覚えはない。
しかし、もしかしたらわたしのために協力してくれたのかもしれない。
あとでウィリアノスさまにお礼を言っておかないと。
でもまどっ子って、ウィリアノスさまがあだ名で言うなんて、ご友人くらいなのに珍しいこともあるものだ。
ウィリアノスさまはアリアに対して小動物的可愛さを感じているのかもしれない。
「そういえば近いうちにお茶会を開こうと思いますので、お二人も参加してくださいますか?」
わたしがそう言うと真っ先にアリアが返事した。
「お茶会ですか! ぜひ参加したいです!」
ラナはそんなアリアを微笑ましく見ており、同じく参加を承諾した。
「マリアさまからのお誘いなら是非とも参加させていただきます」
わたしはどんなお茶会にしようかと考えていると思ってもみなかった方から声が飛んできた。
「おい、マリア。俺も参加したいが構わないか!」
ウィリアノスさまがまさかのお茶会への参加を希望してきた。
わたしは心が躍るほど嬉しくなり二つ返事で了承した。
「もちろんです! ウィリアノスさまが楽しめるように趣向を凝らしておきますね」
「ああ、任せる」
ウィリアノスさまが来るなんて思ってもみなかったが、ずっとお話をしたいと思っていたのだ。
でもどうしてウィリアノスさまは急にお茶会に参加したくなったのだろうか。
わたしにはよくその理由が分からなかった。
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