悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
106 / 259
第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

ヨハネからの情報

しおりを挟む
 その日の会食も終えて、一度部屋へと戻った。
 側近たちはわたしのことを心配していることだろうから、早く部屋に戻ろうとする。
 しかし、セルランから話があると止められた。
 全員が部屋から出るのを待ってから二人っきりで話をした。


「どうかしましたか?」
「姉上がとんだ無礼を働きました。そしてそれを止めなかったわたしに何か罰をお与えください」


 セルランは跪いてわたしに罰を願った。
 あの場では完全にヨハネに主導権を握られたので、誰もが動けなくなっていたのだ。
 たしかに護衛騎士としては失格かもしれないが、今回は特に何か罰するつもりはない。

「セルラン、もし少しでも責任を感じるのなら、それを忘れないようにしなさい。いずれヨハネと全面的に戦う可能性があります。その時には貴方が彼女の首を刎ねるかもしれませんのよ」


 ビクッとセルランの体が震えた。
 彼もまたヨハネに縛られる者だ。
 実の姉に勝てるビジョンがないのだろう。
 これもわたしとヨハネの能力の差が生み出す呪いだ。
 わたしはセルランの頭を抱き寄せた。
 いきなりのことでセルランは慌てたがわたしをどう離させるかわからないようで、ただ声を上擦らせるだけだった。

「ま、マリアさま」
「もう、動いてはダメです!」


 わたしはめっ!と怒ると言われるままに大人しくした。
 自分も同じように心を折られかけたので気持ちはわかる。
 だからわたしが主人として彼の気持ちを癒してあげないといけない。

「セルラン、貴方は高貴なる騎士の中の騎士です。たとえ神の敵が来ても、貴方の盾を破ることも剣を防ぐこともできないでしょう。そして貴方の主人はまだ頼りないかもしれませんが必ずヨハネからこの領土を守ってみせます。わたくしを信じてください」
「主人の行うことを信じない騎士などおりません。ですがどうか気をつけて下さい。わたしの姉は人間ではない。神と等しい知恵を持っている。ですが貴女さまならいつかそれに届くことと信じております」


 どうにかセルランも落ち着いてくれた。
 お互いにあの女には辛い古傷がある。
 それでもずっと負けているわけにはいかない。
 セルランから離れると彼の頬は耳まで赤くなっていた。

「ち、違うのです! これは!」
「ふふ、もうこの年だと恥ずかしいですね。じゃあ戻りましょうか。ラケシスが騒いでいるかもしれません」


 わたしとセルランは一緒にわたしの部屋まで戻った。
 すぐに側近全員を招集した。
 みんながわたしを心配していたようで入室して体の不調やなんやを聞かれた。
 全員が揃ったところで情報の共有を行なった。
 全員が顔を真っ青にしている中ラケシスだけは手をつぼみのようにして頬を覆う。

「ああ、見てみたかったです。ヨハネさまに果敢にも挑む姫さまのお姿」
「ヨハネさまと真っ向から対決ですか。これはわたくしたちも覚悟を決めないといけませんね」

 ラケシスとは真逆の反応をみせるレイナにラケシスは文句を言う。

「何をそんな悲観的になっていますの。いい機会ではないですか。これで邪魔な勢力が一掃されます」


 ラケシスはまだヨハネのことを人伝にしか聞いてないので他の者と反応が違う。
 しかしこれくらい大きなことを言ってくれる者が一人いるだけでも変わるものだ。

「ラケシスの言う通りです。明日が本当の山場です。明日は側近全員の出席を命じます。わたくしだけではまだヨハネには勝てません。ですが全員の知恵が集まれば、たとえヨハネといえども太刀打ち出来るはずです」
「かしこまりました。わたくしは一度失敗した身。ここで汚名返上させていただきます」
「右に同じく」

 リムミントは一瞬の迷いなく戦うことを承諾した。
 彼女も今回の一件で成長したのだろう。
 体の震えはなんとかギリギリ止めているようだ。
 アスカもここで挽回することを決めていたようでわたしと共に立ち向かってくれるようだ。
 レイナがわたしに笑顔を向けていることに気が付いた。

「どうかしました?」
「いえ、やっとわたくしに戻ったなと思いまして」

 そういえば犯罪組織に紛れるため、わたしと言うようになっていた。
 上品なわたくしの方がいいと、ジョセフィーヌ領の女性には徹底させたのだ。

「心配をおかけしましたね。でも今日から側近たちにも頑張ってもらいます。わたくしだけではやはりどうにも出来ないことが多いようです」
「お任せください、わたくしもラケシスも準備はしてきたつもりです」
「ええ、なんなりとお申し付けください」


 レイナとラケシスも気合十分で了承してくれた。
 わたしは残る下僕に問いかけようとすると、セルランの声が響いた。

「マリアさま、あねう……、ヨハネ・フォアデルへが入室を希望しております」


 全員に緊張が走った。
 今日喧嘩を売ったばかりにも関わらず、よく来られるものだ。
 わたしは深呼吸して全員を見渡した。
 全員が頷いて了承してくれたので、わたしはセルランに命令した。

「追い返しなさい!」
「「マリアさま!」」

 怖いものは怖いので追い返そう。
 しかし全員から総ツッコミが入った。
 わたしは仕方なく、ヨハネを部屋へと招き入れた。
 またもや泣き真似をしている。

「シクシク、ひどい。せっかく可愛い従姉妹の顔を見に来たのに追い返そうとするなんて」
「貴女と会いたくないからです。道に迷ったのなら衛兵を呼びますのですぐに帰って下さい」
「もう本当に大丈夫のようね。よかった、虚勢とかだったらどうしようと思ってたの。まあわたしを騙せる人間がいるのかは疑問ですけど。あの一瞬で何かしら秘策を思い付いたのは気付いているの。だから貴女と話がしたかったの」


 ヨハネは真面目な顔でわたしにそう言った。
 ここで舌戦はあまりしたくないが、今なら予行練習になるだろう。

「それでどんな話がありますの?」
「ねえ、次の王さまが誰になるか知っているかしら?」


 いきなり王族の話へと飛んで意図が掴めない。
 まだ王さまは若くて健康なのだから、王位継承権一位はウィリアノスさまのお兄さまだが、王さまが替わるのは先の話だ。


「どうやら何も知らないようね。どうやらガイノアスがもうじき王さまになるかもしれないらしいわよ」


 わたしはまさかの人物に頭が追いつかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...