悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

人を見る目

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 檻から一人の男性が引きずられるように出された。
 ぐったりとしており、顔は目を開いた状態でわたしを見ていた。
 いや、死んでいるのだからたまたま目があっただけだ。
 それなのにこの目はわたしに何かを言っている気がする。

「本当に奴隷は貧弱で困るな。飯だけ食って死ぬなんて本当にグズですよ」


 支配人は吐き捨てるように言う。
 だがわたしはこの男こそ吐き捨てたい。
 こんなの人間のすることなのか。
 ジョセフィーヌ領でなんでこんなことをする輩がいるのか。


「ジョセフィーヌ領でも奴隷はいるのでしたかしら?」
「あぁ? そりゃいますよ。まあ、この領土が一番多いでしょうがね。なにぶん援助者がこの領土だと多くなりますから」


 わたしはこの男の言葉にカッと頭に血が上った。
 わたしの愛する領土を悪くする輩たちを今すぐにでも神への貢ぎ物にしてしまいたい。
 そこで後ろからわたしにぶつかってくる男がいた。

「いたぃっ! だれ!」

 わたしは後ろを振り向くと後ろで転げている男がいた。
 何か見覚えるのある体型であり、ゆっくり男はその顔をあげた。


 ……下僕!?


 髪色は黒になっており、身に付けている装備品もここの商人たちと変わらない。
 完全に擬態しているようだ。
 わたしは声をあげそうになるのを必死に抑えて、手を貸してあげる。


「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます」
「おいお前、誰にぶつかったのかわかっているのか? その方はボス・クラリスだぞ! 早くどっかへ行け!」

 支配人はわたしを怒らせたくないのか下僕を下がらせようとした。
 しかし、ここで彼がぶつかったのはわたしと接触するためのはず。
 わたしは彼を守ることにした。


「いいえ、いいのです。君、名前は?」
「わわわぁ、ぼ、ぼくの名前はハラルドです。ボス・クラリスだと知らずに申し訳ございません」


 ものすごくなれた雰囲気に少しばかりホッとした。
 予想以上に、敵地にいることによって精神的に疲労していたようだ。


「ではハラルド、罰としてここの奴隷を案内しなさい」
「ええ!? 本気ですか? そいつはまだ入ったばかりの新人ですよ!」
「だからです。新しい人ならどういった観点を持つのかを知りたいからです。慣れた人の案内は、わかりやすく効率が良いですが、見えない景色だってあるのですよ」
「なるほど、さすがはボス・クラリス。俺たちとは考えの土台が違うってことか。おい、小僧! くれぐれも粗相のないようにしろ!」

 支配人は何故だか納得してくれたので、わたしは下僕と二人で回ることになった。


「マリアさまが無事で本当によかったです」
「心配を掛けましたわね。でもどうしてここにいるの?」
「クロートから通信が来まして、おそらくここに来るだろうと予想を立てました。そしてここはマリアさまにとってかなり精神的にきつくなるところだろうと」


 完全に見透かされていた。
 しかしわたしもこの現状を見て見ぬ振りはできない。
 大事な領民がこのような扱いを受けているなどと知らなかった。
 この店でない人間が檻に入っている人間を物色している。
 中には女性を裸にして楽しんでいるゲスな輩もいた。


「なぜこんなことをするのですか。一体彼らは何をしたのですか?」

 わたしは気持ちが落ち込みながら、ふとそんな言葉が出た。
 その言葉に下僕が答えた。
 その答えはわたしにとって聞きたくもない現実だった。

「あれは魔力不足でその土地に住めなくなった人たちがほとんどですよ。生きる土地
 がないから売られるしかない。誰も守ってくれないのなら奪われるしかないのです」
「魔力不足なら別の土地に移ればいいではないですか!」
「住み慣れた土地を離れて暮らすのは大変なのです。どこの村も自分たちの生活だけで精一杯で受け入れることはできない。食べ物がないから食いつなぐこともできない。そうなると一筋の希望を求めて奴隷を選ぶのですよ」
「自分たちから望んでなったというの!?」


 信じられない話にわたしはこの光景を現実とは思えなかった。
 このような辱めを受けてなぜ生きていけるのか。
 これが貴族と平民の価値基準の差と簡単に結論付けることはできる。
 ただ、あまりにも可哀想ではないか。


「これが魔力不足なのです。貴族たちが魔力が足りないことを切実に考えているように、平民たちもまた魔力不足によって生きることすら困難になっております」


 さらに進むと聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おお、ホーク。今日も上物を連れてきたな」
「へへ、そうだろ」


 どうやらホークはここに荷物を下ろしていたようで、わたしは下僕に紹介しようした。

「下僕、あっちに行きましょう」
「いいですが、何かありましたか?」
「わたしがこの人に化けている間、色々世話してくれた子なの。こんなおかしな場所にいても、ヴェルダンディのように純粋な子でね。もし仮にこの組織を潰した後でも彼だけは真っ当な道に戻って欲しいの」
「それは……。そうですね。一度あちらへ行ってみましょうか」

 下僕は少しばかり発言を躊躇った。
 どこかおかしさがあったが、わたしはホークの声がする方へ向かった。
 檻があるのでちょうど見えなかったが、曲がったところでホークと商人が仲良く話していた。
 そのホークは袋に包んだ女性五人を敷物にして座っていた。
 わたしはその光景に目を疑った。
 彼がそのようなことをする人だと全く思わなかったからだ。

「にしても最近はあまりそういった女は連れてこなかったのに、どういった心の変化で?」
「最近はうちのボスが大変だろ? そうすると色々溜まるわけですよ。だから夜に動いて優しい言葉を掛けたらこんなものです。本当にこの領土の人間たちはちょろくて助かりますよ」


 ホークと商人は何が楽しいのか愉快げに笑っていた。
 何か面白い話をしただろうか?
 わたしは誰と比べて似ていると言ったのか。
 気分が悪くなり、体がふらつくと下僕がすかさず支えてくれた。

「一度休まれますか?」
「いいえ、まだ彼に聞かないといけない」

 こんな彼をまだ信じたい自分がいた。
 だがわかっている。
 これ以上何を聞いたところでわたしの聞きたい答えが返ってくるわけがない。

「ホーク」


 わたしが声を掛けるとホークは先ほどと変わらない無邪気な顔でわたしを見てきた。
 だがそれは無邪気な顔なのだろうか。
 もやもやした気持ちのままホークのもとへ歩いた。


「ボス! ……あれ、支配人はどっかへ行ったんですか?」
「ええ、彼が代わりにわたしを案内してくれていますの」
「ふーん、そうですね。じゃあ、おじさん後はこの子たちを頼むよ」

 商人と商談を終えてホークは書類にサインを行った。
 人身売買が成立したのだ。
 今ここで助けるのは簡単だが、そんなことをすればわたしの正体にいらぬ疑いをかけてしまう。


「ホーク、彼女たちはあなたが捕まえたの?」
「すごいでしょ、かなりの上玉だからかなり値が付きますよ。俺は心も体も満たせて満足です。おい少年、あとは俺が受け持つからいいぞ」


 ホークはわたしの手を握ろうと手を伸ばしてきた。
 わたしは半ば呆けていたため、その反応に遅れた。
 パシッとホークの手が弾かれた。
 下僕がいつのまにかわたしの前に立って、その手を払いのけたのだ。


「あぁ? なんのつもりだ、ガキ?」
「いえ、手が汚れているように見えましたので」

 下僕がわたしのことを慮っての行動だとすぐにわかった。
 しかし今は隠密行動中である。
 そんなことをすれば下僕の正体が割れてしまう。

「ホーク、今日の下見は終わりました。帰りましょう」
「っち、運が良かったなガキ」

 下僕の顔をチラッと見てわたしはその場を後にした。
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