上 下
93 / 259
第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

自身を犠牲にしてでも

しおりを挟む
 大会議室を退出してわたしは再度廊下を歩いて自室へと向かう。
 これからやることがかなりある。
 時間がないことに焦りもある。

 ……まずは犯罪組織の場所を探してーー。

「ーーさま、……マリアさま!」


 セルランがわたしの前に立っていた。
 考え事に夢中になっており、セルランの呼び掛けを無視してしまったようだ。


「どうかしましたか、セルラン?」
「どうかしましたか、ではありません。先ほどの言葉は撤回してください! でなければマリアさまは複数の男と関係を結ばなければならないのですよ!」


 セルランの悲痛な顔に最悪な想定をしているのだろう。
 わたしだって子供を産む道具みたいな生き方は嫌だ。
 しかし現状ではそれ以外にわたしが差し出せるものがない。


「大丈夫です。この件を解決すればそのようなことは起きません。それにもし失敗しても魔力的にはどの領土も助かるはずです」


 わたしはどうにか平静を装い笑ってみせた。
 しかしセルランは納得したわけではないが、何かを噛み殺したような顔でわたしの進路を邪魔したことを詫びた。


「マリアさま、わたくしのミスのせいで御身に多大なご迷惑をお掛けしたことをお許しください」

 リムミントが責任を感じて、会議前の落ち込んだ姿に戻っていた。
 わたしは急いでフォローする。

「リムミントのせいではありませんよ! もともとはわたくしが適当な命令をしたことが原因なのですから」
「ですが、わたくしがもっと事の重大さに気付いて騎士団を派遣していればこのようなことにはなりませんでした。わたくしの責任だけで終わらず、マリアさまのお体を条件に捧げないといけないなんて」
「リムミント、ご容赦ください」
「……え」


 アスカがリムミントに許しを一方的に乞うとパーーッン!と音が響き渡った。
 全員がその場で固まってアスカが平手でリムミントの顔を叩いたことに気付くのに遅れた。

「あ、アスカ!?」


 これまで見たことないほどアスカが顔を怒りに支配されていた。


「いい加減にしてください。貴方がそのような弱腰でどうするんですか! わたくしたちが汚名を返上しないとマリアさまは本当に罰を受けないといけないのですよ! マリアさま、わたくしたちにお任せください。必ず成功させてマリアさまの御身にこれ以上負荷はかけません」
「……ええ、ありがとうアスカ。でもリムミント、もし無理なら……」


 わたしはリムミントを気遣おうとしたその時、リムミントは自身の頬を両手で思いっきり叩いた。


「マリアさま、失礼しました。ありがとう、アスカ。目が覚めました、わたくしの持てる力を持ってこの件は解決してみせます」


 さきほどと違い覚悟の決まった顔をしている。
 どうにか吹っ切れたようなので、これなら任せてもいいだろう。
 わたしはそんなやりとりを終えて一度自室に戻って、今いる側近たちに情報の共有を行なった。
 クロートも共有している間に部屋へと来ている。
 全員に話が行き渡ると顔を青くする者がほとんどだった。

「ひ、姫さまの……女神のお身体を条件にしてきたなんて」
「ラケシス!?」

 ラケシスがまるで貧血のように倒れてしまい、慌ててステラが支えた。
 さすがに今は医務室に運んでいる時間もないのでわたしのベッドで横になってもらう。
 下僕もラケシスの次に顔色が悪くなっており、俯いて何かを考えている。


「まさか姫さまが婚姻前にそのような条件を出されるなんて、王族からもどのようなことを言われるかわかりませんよ」


 サラスがやれやれと言わんばかりに困っている。
 わたしもそこで血の気が引く。
 もしかしてウィリアノスさまから軽い女だと思われるのではないか。
 黙って聞いていたレイナはわたしを気遣い背中を何度もさすってくれ、わたしを気遣ってクロートに確認をしてくれた。

「クロート、今回の件については本当に大丈夫なのですか? 」
「ええ、わたしが全面サポートしますので、万が一も失敗はありません。お前もしっかりしなさい。今ここで考え過ぎてもよいことはありません。自分ができることを一つ一つ行いなさい」

 クロートは下僕を励まして、暗い表情になっていた下僕はハッとなりわたしを見た。
 まだ最悪の想像をしているみたいだが、少しは前を見てくれたようだ。
 クロートのこの自信は本当に頼りになる。
 まるで失敗などと考えていないという態度はこちらを安心させるには十分だ。


「ですが、今回の姫さまの行動は素晴らしいものでした」
「えっ、わたくし?」


 無我夢中で受け答えをしただけなのでよくわからなかったが、クロートが珍しく褒めてくれるので何だか嬉しいものだ。


「あれぞ王者の姿です。途中までこちらを見くびっていた重役たちが全員黙って話を聞かれ、最後には姫さまを次の主人と認めておりました。王国院にいる間に成長されたことに驚いているでしょう」
「王者……」


 ベッドで眠っているラケシスが一部の単語に反応して寝言を呟いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...