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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

責任を取る

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 驚いているサラスを見る間もなく、わたしは走って洞窟の前まで行く。
 後ろから声が聴こえるが、今は急いで夢の場所へ向かわなければならない。


 洞窟の右手側にある壁へと息を切らしながらもたどり着いた。

「キシャア!」


 息を整えていて気付かず、真上からデビルが口を開けて迫って来ていたのであった。
 わたしはただ口を開けてその口が迫ってくるのを見ているしかなかったが、すぐに遠くから水の魔法が飛んできて、デビルを吹き飛ばして壁と水圧に挟まれて絶命した。


「お怪我はありませんか!」


 クロートが間一髪助けてくれたおかげ全く怪我はない。
 一瞬の放心の間に側近全員が追いついていた。


「姫さま、お一人で行かれて何をしているのですか! もう少し御身体を大事にしてください!」
「ご、ごめんなさい……」


 ステラから叱責され、周りの側近たちも胸を撫で下ろす姿が見えた。
 心配をかけている自覚はあるが、逃げる前にこの壁について調べないと。
 わたしはすぐに壁へと手を触れた。


「姫さま、一体何を?」


 サラスが疑問の声を上げているが構わず壁を調べる。
 間違いなくここに祭壇があったのだ。
 わたしは神のお導きを信じて、壁の至るところを触っていく。
 すると一箇所だけ、わたしの魔力が吸われるところがあった。


「ここ!」


 魔力を供給していくと壁に魔法陣が浮かび上がってくる。
 どうやらこれも過去の錬金術が使われているようで隠されていたようだ。
 魔力が十分に行き渡るとその壁は上へと勝手に上がっていった。
 壁の先には夢にあった祭壇があった。


「なんですか、ここは? なぜ姫さまがここをご存知なのです」

 サラスは目の前の光景に驚いている。
 もちろん側近全員がまさかこのような場所があるなんて知らず、口をポカーンと開けている。


「どうやら眷属が姫さまをここへ導いたようなのです。姫さま、クリスタライザーは何を伝えたのですか?」


 クロートの言葉に返答するよりも早く、祭壇にある鏡へと向かった。
 クリスタライザーはわたしにこの鏡を触れと言っていた気がする。
 走ってきて乱れた息を整えるよりも早くその鏡を触った。


「待ってくれ! それに触れてはいけない!」

 後ろからホーキンス先生の声が聞こえて来た。
 かなり良い嗅覚を持っているようで、伝承と関係のありそうな場所に誘われたようだ。
 だが一歩遅く、その瞬間頭が割れるほどの痛みに襲われた。

「キャああああああああああ」


 頭の中にいろいろな情報が入ってくる。
 昨日の映像と今日の映像が同時に見えるがあまりの痛みに考えられない。
 誰かが背中を触っている気がするが、それどころではない。
 あまりの痛みに立っていられず、足から崩れ落ちた。
 やっと情報が入りきったのか、痛みが少しずつ引いてく。


「ハアハアーー」
「ーーさま、ーーじーーしてくだーー」


 息も上がっており、少しずつ周りの音が聞こえてくる。


「姫さま!」


 どうやらクロートがわたしの体を支えてくれたようで、彼が座ってわたしを受け止めてくれている。
 レイナとラケシスが回復の魔法を唱えてくれているようで、頭のじんじんとした痛み
 がどんどん和らいでいく。
 だが少しずつ流れ込んだ情報がわたしの中で形となっていく。

「もう……大丈夫です。それよりも、セルランが! セルランッ!」
「マリアさま、無理してはいけません! ものすごい悲鳴を上げることが起きたのですから、医者に一度見てもらわないと!」


 レイナの言葉は無視して。わたしは震える体を叱咤してクロートの服を掴みながら自力で立つ。
 今ここで休んでいる時間はない。
 クロートもわたしの必死さに何かを感じたのか止めようとはしない。

「あの狐、よくも、よくもわたしを謀りましたわね」
「一体何があったのです? 」


 わたしはあの鏡で昨日の謎の部屋で起きたことと今日の洞窟で起きたことを知った。
 そしてセルランが今傷ついていることを。

「マリアさまはおそらく近しい者の過去と現在、そして未来を見たはずだ。あれは伝承によれば時の鏡。凄まじい痛みは頭がその情報量に耐えきれずに出るものだ」


 わたしはホーキンスの言ったことに頷いた。


「あのネツキはこの洞窟の地図を昨日の部屋で見つけています。そしてこの洞窟にある隠れた落とし穴にセルランたちを騙して落としたのです!」

 どうやら先に様子を見に行った兵士にネツキの息がかかっていたらしく、偶然見つけた地図をネツキに渡したようだ。
 それであの会食ではこちらを扇動して今日の調査で優位に動くつもりだったのだ。
 セルランは洞窟の行き止まりで罠にかかって最下層まで落ちている。
 最下層には二足歩行をする牛のような人間の何倍も大きい魔物がおり、セルランは苦戦を強いられている。
 これは現在の話だが、さらに未来の話では傷ついた魔物と瀕死のセルランを漁夫の利
 を待っていたネツキが仕留めようとする。
 そこでわたしが見た光景は終わった。


「うそっ……セルランが……」
「まだ大丈夫、しっかり自分を持ちなさい」

 レイナもセルランが死んでしまう光景を想像して顔を青くしている。
 ラケシスが同僚を気遣いレイナの背中をさすっている。
 わたしもここで止まっているわけにはいかない。
 すぐにでも洞窟へ向かおうとするがサラスが立ちはだかる。

「洞窟への立ち入りはなりません!」
「退いてサラス! このままだとセルランも死んでしまう!」


 急いでいる時に邪魔をされたため、今の怒りをサラスにぶつけてしまう。
 だがサラスは毅然とわたしの要求を跳ね除ける。


「もし仮に姫さまの話が本当だとして、セルランでも苦戦するような魔物の巣に姫さまを送ることはできません。確かに有能な騎士ですが、姫さまの御命と比べられません」
「なら見殺しにしろって言うのですか!」
「それが上に立つ者が負う業です! 敵の謀略があったとはいえ姫さまが命令し、セルランが従った。もし命令を遂行できなかった場合には責任は姫さまに返るのです」


 サラスの言葉にまるで冷や水を掛けられた気分になった。
 全身が重く、冷たくなっていき、自分がもしあの挑発に乗らなければこのような事態にはなっていなかった。

「わたしは……そんなつもりで……、セルラン……」

 地面が近くなるような感覚があり、どうやらストレスから平衡感覚が若干おかしくなっている。
 少しふらつきながらも何とか自制して立っている。


「逆に僕は好機だと思います」


 下僕が声を上げたことで全員が下僕を見た。
 わたしは下僕に縋る思いで次の言葉を待った。


「今ならまだセルランも無事で、ネツキたちもマリアさまがこのことを知っていると思わないはずです。証人であるセルランが無事で地図を持っている証拠さえあればネツキについてはいくらでも罰が下せます」
「ええ、そうよね! 行きましょう!」


 わたしはすぐにでも行こうとしたがやはり立ちはだかるはサラスとクロートだった。
 どうあっても危険な洞窟へと行かせないようだ。

「それでも行かせられません」
「わたしも同感です。今回の相手は命の危険があります。わたしが代わりに向かいますのでどうか姫さまはここで待機してください」

 クロートが一人行けばどうにかなるのかもしれないが、またわたしは命令だけでここに残るしかなくなる。
 それでは前と変わらないではないか。

「そこを退きなさいサラス。わたくしはもうネツキに腹が据えかねているのよ。クロート、あなたは前に私に言いましたわね? 自分で招いた問題は自分で解決するべきだと」


 そこでクロートは苦い顔をした。
 どうやってわたしを説得しようか考えているが、強情なわたしを止める手がないようで諦めた。

「かしこまりました。ステラ、姫さまを貴方の水竜に乗せてください」
「クロート!? 何を言ってますの! このままでは姫さまに危険が及ぶかもしれませんのよ!」
「姫さまの御意志です。それにセルランが苦戦するほどの相手なら姫さまの魔力も必要になります」


 サラスはクロートに再度わたしを止めさせようとしたが、もうすでにクロートもわたしの同伴を決めている。
 ステラもようやくわたしを送り出す決意をしてくれたようだ。

「老体では邪魔になりそうですね。ステラ、貴方が必ず守りなさい」
「はッ! 」


 レイナとラケシスは別件で動いてもらうことになっている。
 向かうのは、わたしとステラ、クロートと下僕の四人だ。
 全員が鎧を身につけて準備は完璧だ。

「では行きますわよ!」

 絶対にセルランを殺させはしない。
 わたしは自身に篭り始めた熱をどうにか抑えるのだった。
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