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第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

またまたやってしまいました

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 昨日のパーティーで気絶したわたしは今日も安静にするためベッドの上で惰眠を貪る……なんてことはもちろん誰も許しはしない。
 レイナが一目見ただけで大丈夫と判断したからだ。
 そしてリムミントから昨日の件について追求が来ている。


「さて、姫さま。なぜシスターズを行うことを事前に伝えて下さらなかったのですか?」


 ……知らないわよ! そんな昔の制度まで熟知しているわけないじゃない!


 そう心に思っていても口に出せない。
 貴族社会とは一度口から出た言葉はもう取り返せないのだ。
 わたしはどうにか何かしら言い訳を考える。

「マリアさま、何も考えてなかったのならそう言ってください」


 レイナはすぐにわたしの機微に反応して、そう提案した。
 完全に読まれている。
 わたしは項垂れて謝罪した。


「ごめんなさい。あまりにも可愛くて呼ばせたかっただけです」


 リムミントは手を額に当てて、少し頭が痛そうな素振りをする。

「まあ、あの制度自体ほとんど行なっている者も少ないですから仕方ないのかもしれませんが。問題は噂の広がりが尋常ではないことです。あのカゴの中をご覧ください」


 リムミントが指差す方を見ると小さなカゴに大量の手紙が届いている。
 それと装飾品類の献上品も多い。
 わたしは一体何なのか尋ねると予想外の言葉が返ってきた。


「姫さまへ妹申請です」


 ……何そのパワーワード?


 もちろん言葉自体はわかるが、なぜそこまでして妹になりたがるのか。

「もちろん親からそう指示があった者もいるでしょうが、大半は純粋に憧れから申請したのでしょう。一応こちらで精査しましたのであの中でしたら選んでもらってもいいです。よくお茶会へ招かれる友人のカナリアさまからもきてますよ」


 わたしはうへっと、リムミントを見上げた。
 想像できるだろうか、友人から妹になりたいと言われることを。
 どうにかすべて断りたいが、献上品まである以上断るのも一苦労だ。


「シスターズたちにわたしはどんなことをしないといけないかしら」
「そうですね。まずはやはり縁談の架け橋ではないでしょうか? 過去に問題が起きましたが、マリアさまの場合はそういった後ろ黒いことをする必要もないので安全だと認知されていますからね。あとは、お茶会で必ず呼ぶとか妹の危機を助けるとかでしょうか」


 まあそれくらいならわたしでも問題なく務まりそうだ。
 でもせっかくこっちを支持しているのだから応えたいとは思う。
 再度わたしが名前を確認して妹にしてもいいかを決める。
 リストを振り分けてリムミントにお願いした。
 一応友人のカナリアも許可したがこれは倫理的に許されるのだろうか。
 せっかくの休日というのもあり、レティアからお茶会に呼ばれているので向かうことになった。
 廊下を歩いているとカオディとホーキンスがなにやらリムミントと下僕に話していた。


「どうかしましたか?」
「姫さま、実は二人から予算の申請がありまして、ホーキンス先生は問題ないのですがカオディさまの予算だけ難航しまして、新しい魔道具と亜魔道アーマーの量産化を考えているようなんですが今のままでは全く予算が足りません」


 予算はリムミントが管理してくれている。
 おそらく魔法祭で優勝したので、次の騎士祭のためと言えば問題なく予算がさらに増えるだろう。
 もしなんならわたしの個人的に使えるお金を出してもいい。


「お金ならわたしがお父さまに申請しておきます。あとは別でお金もありますのでそこからも出しますのでご安心ください」
「マリアさま、本当にありがとうございます! これで我々もさらに研究が進みます」


 カオディがこちらに頭をさげて感謝を言う。
 騎士祭では魔法祭のような反則ギリギリなことはできない。
 力と力がぶつかるため、戦力強化はしておかなければならない。
 そうすると下級貴族の底上げができる亜魔道アーマーが不可欠となる。
 わたしはそこで閃いてしまった。


「カオディ、命令です。これから騎士祭までに亜魔道アーマーを百着用意しなさい!」
「……! かしこまりました。騎士祭まで時間もないのですぐに取り掛かります」

 カオディはすぐに了承して走って研究所へ戻っていく。
 どうにかカオディに頑張ってもらわないといけないと考えているとリムミントがアワアワと口を震わせている。

「ちょっと、姫さま!  百着なんて何を言っているのですか! たとえ予算を増やしたとして足りる保証もないのですよ!」


 どうやら勝手に命令したことに怒っているようだ。
 だがわたしだって考えている。
 みんなには黙っていたが、これでも金貨を何枚も貯めているのだ。


「大丈夫ですよリムミント。わたしの個人資産も使えば何とかなりますよ」
「マリアさま、個人の資産でどうにかできる金額ではありませんよ。僕はマリアさまが貯金をしているのは知っていますが、その百倍は掛かると思ってください」


 下僕の言葉に、えっ、と声が漏れわたしは固まってしまった。
 リムミントと下僕は頭を抱えている。
 どうやら早まってしまったようだ。

「どうやら姫さまはお金の大小があまり分かっていないようだ。無理もない、基本的にはお金の概念すら気にする必要のない身分なんだから、文官がしっかり情報共有をしないからこうなる。ただ主人の言うことを聞いているだけが側近の役目ではない、主人と一緒に悩むことで成長するものだ」

 ホーキンスがまるで先生のようなことを言ってくる。
 リムミントが責任を感じているが、またわたしがやらかしてしまったせいである。
 無かったことにできないだろうか。

「そ、それなら今すぐ話を無かったことにしましょう!」

 わたしは、それなら大丈夫だよね?って言うと、一応は了承してくれた。
 急いでシュティレンツの研究所へ向かう。
 カオディは忙しなくかつ生き生きと働いているので少しばかり良心が痛むがビシッと言わなければならない。

「カオディ、すみません。先ほどの件ですが」
「マリアさま、任せてください! もう人数分の素材を発注しましたので問題なく作れそうです。アスカさまもマリアさまから許可を貰ったと聞いてすぐに協力してくれたので迅速に行動に移せました」

 カオディのさわやかな笑顔の先にアスカが机で一生懸命何やら書き込んでいる。
 一瞬で書き終えて次から次へと転送の魔道具で送られていっている。
 これはもう取り返しがつかない。
 わたしは悟りを開いたかのようにただアスカの満足げに汗を拭う姿を見るしかなかった。
 こういう時は賢い文官に助言を乞うべきだ。
 判断を仰ごうとリムミントを見るとふらっと倒れてステラに支えられている。


「り、リムミント!」

 完全に意識を失っている。
 予想以上にストレスが掛かってしまったみたいだ。
 心配そうにカオディがこちらに突っ込んできたので一度部屋を逃げるように退室した。
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