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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

マンネルハイムの決着

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 ガイアノスとトライードを切り結んだ。

「あぁあん?  てめえ、くたばった護衛騎士じゃねえのか? いまさらしゃしゃり出てくな!」

 あと少しでわたしに攻撃を出来たところで邪魔をされたので怒りに燃えるがそれはヴェルダンディも同じようだ。
 普段は生意気な顔しか見なかったのに、これまで見たことがない怒りに満ちた顔でガイアノスとせめぎあっている。


「マリアさま、ここは俺が抑えますので逃げてください」
「いえ、その男の狙いはわたくしであるならばわたくしも戦います」


 わたしの言葉にヴェルダンディが驚きの顔をこちらに見せるが、よそ見をしている暇がないほどのガイアノスの猛攻を受けて目の前の敵に集中した。
 まだ起き上がったばかりで病み上がりのヴェルダンディではあまり長くは保たない。
 だがマリアーマーさえあれば一緒には戦えるはずだ。
 わたしは急いでマリアーマーに乗って操縦した。
 魔力を肘掛けに供給すると、空を浮遊して全速力でガイアノスへとぶつかりにいく。
 前方に両腕を突き出した攻撃にガイアノスもトライードで防御した。
 だがいかに魔力が多かろうが速度の乗った突撃に体が受け止めれない。

「っち!」


 ガイアノスは吹き飛んでいくがすぐに黄黒竜が追いついてガイアノスを背に乗せた。
 わたしに攻撃されたのが気にくわないようでかなりお怒りのようだ。
 ヴェルダンディはわたしのマリアーマーを見て目を輝かせている。


「それがシュティレンツが作っていた鎧ですか。流石はマリアさまだ」
「わたくしよりも貴方こそ大丈夫? まだ病み上がりでしょ?」
「へへっ、まあ根性でどうにかしますよ」


 ヴェルダンディは強気な顔でそうは言っているが顔には大量の汗と荒い呼吸が目立つ。
 体が横に揺れて疲労が隠しきれていない。
 身体強化で誤魔化しているが流石にそう長くはないだろう。
 ガイアノスもこちらを気遣うこともなく再度攻撃を仕掛けてきた。
 わたしとヴェルダンディは横に飛んで逃げる。
 トライードが空振りに終わると次は私目掛けて追撃をしてくる。
 わたしはまた吹き飛ばされないようにマリアーマーの右腕でパンチした。


「女のわかりやすいパンチが当たるわけねえだろう!」


 簡単に半身で避けられてしまい、トライードで斬りつけられる寸前で左腕でガードできた。
 すぐに全身で体当たりしたがこれも避けられてしまった。
 わたしの攻撃は完全に見極められているため、このままではいつか攻撃が当たってしまう。
 わたしが自分の身を守っている間にヴェルダンディもわたしを守るために前に立った。


「マリアさま、俺が側にいる時以外は攻撃は危険です」
「ごめんなさい、一人の時は逃げることに集中します。では行きましょう」


 わたしのかけ声と一緒にヴェルダンディと攻めた。
 騎士として訓練しているヴェルダンディの技巧はガイアノスを上回る。
 一撃一撃が強大でもヴェルダンディには受け流す技巧もあり、わたしもタイミングを見て攻撃するので満足な姿勢で攻撃なんてしない。


「くそっ、雑魚のくせにあんまり粋がるんじゃねええええ! 


 ガイアノスはわたしたちを振り切って上空へと逃れる。
 逃げてくれれば楽だったが、それよりも厄介なことをしてきた。

「光の神デアハウザー 、闇の神アンラマンユ、二対は最高神なり。世界を作り給いて、我らに大地を与えた者なり。裁定を与えよう。我は神なり。全てを導こう。己が運命を進むために」


 ガイアノスの詠唱を聞いてヴェルダンディは血相を変えてマリアーマーから自身の水竜にわたしを乗せて全速力で逃げる。
 わたしもこの詠唱は覚えがあった。
 デビルキングの時に出した魔法の詠唱と似ているため、王族の魔法であろうことがわかりかなりの威力が予測された。
 ガイアノスの魔法が完成して、雷のような光がガイアノスを中心に発動して、八方へと飛んでいった。
 その方向にいる者は敵味方変わらず雷の餌食となり倒れていく。


「マリアさま、掴まってください!」


 ヴェルダンディは何度も襲いかかってくる雷を華麗に避けていく。
 だがガイアノスの攻撃は終わらない。

「なるほど、こうすればいいわけか。やっと力の使い方がわかったぜ」

 無差別だった魔法を一点に集め始めた。
 雷がまるで凝縮されるように丸い円となり、ガイアノスの前で解き放たれるのを待っていた。
 もしあの魔法が一点に集中されれば、観客席もタダでは済まないだろう


「もうやめなさい! 試合どころじゃなくなるでしょ!」


 わたしの抗議が聞こえないのか、気持ち悪いほどの笑いを浮かべてその魔法を解き放った。
 大きな塊となった光がこちらに一直線に向かってくる。
 避けられるレベルを大きく超えており、ヴェルダンディはまたわたしを守るため抱きしめて身代わりになろうとした。
 だがその光は途中で霧散して消えていった。


「よく守りました、ヴェルダンディ」


 わたしとヴェルダンディを守ったのはクロートだった。
 どうやったかは見ていなかったので分からなかったがクロートが相殺したようだ。
 またヴェルダンディを危険に晒さないで済んでホッと胸を撫で下ろした。


「おい、試合中に乱入してんじゃねえ! その騎士の野郎は生徒であるからまだいいが、てめえは部外者だろ! 失格だ!」

 乱入者であるクロートにガイアノスは喚き散らす。
 せっかくここまで頑張ってきたが、先ほどの攻撃はわたし自身危なかった。
 命あってのことなので、クロート一人を責められない。
 だがクロートは余裕と侮辱した笑みを浮かべて、審判をしていた先生を指差した。
 わたしもそちらに目を向けると、水色の旗を上げていた。


「勝者、ジョセフィーヌ領!」


 歓声が上がりわたしは戸惑いがあったが、周りをみてすぐに理解した。
 わたしたちの領土がすでに五十個の人形に魔力を込め終わっていたのだ。
 ガイアノスがこちらに戦力を分断してくれたおかげで勝利できたようだ。
 だがそれでもガイアノスは納得できていないようで、こちらをら忌々しげに睨んできた。


「それ以上マリアさまに敵意を向けるのならわたしが相手になろう」


 今にも飛びかかってきそうだが、すでにこちらを守るためにセルランとステラが水竜に乗って駆けつけてくれた。
 恐るべき魔力を持っていようがセルランには関係ない。
 それ以外の技能で倒す術をいくらでも持っているのであろうセルランにわたしは隠れた。
 ガイアノスも力量差ははっきり感じているようで、舌打ちをしてこちらから去ろうとした。


「姫さまへの明らかな敵愾心は、王族といえども何かしらの釈明をしていただきますのでそのつもりでいてください。これはシルヴィ・ジョセフィーヌの言葉です」


 クロートはお父様から許可を貰っているようで宣言した。
 ガイアノスの殺意は誰の目からも明らかなので何かしらの罰が下されるだろう。
 わたしはクロートに後のことは任せて、ヴェルダンディに一度降ろすようにお願いした。
 地面に足を付けて、水竜を消したヴェルダンディの顔を両手で捕まえるとヴェルダンディはギョッとした。
 だがそれよりもしっかりと確認しないといけない。


「本当にヴェルダンディですよね!」

 わたしがじっくり顔を見ると少しばかり熱くなっている。
 長い間眠っていた騎士が本当に帰ってきたのかを確かめないといけない。
 だがその負けん気の強い顔はいつも通りであり、ヴェルダンディそのものだ。
 熱があるのかと手で熱を計ろうとしたがヴェルダンディはわたしの肩を持って遠ざけようとしてくる。


「マリアさま、近いです! しっかり俺ですって! 」


 いつものヴェルダンディであるとわかり、心の底から嬉しくなった。
 わたしは涙が溢れるのを抑えようとするが止まらない。



「よがっだ。ほんどうに……」


 わたしが涙を人前で涙を流し始めたので側近たち全員が慌てる。
 急いでほかの者に見えないように小さな円陣を組んでわたしを隠した。
 ステラがわたしの背中をさすって気持ちを落ち着かせようとしてくる。


「マリアさま、また今日からお守りします。もう二度と貴方さまのお側からは離れませんのでご安心してください。次は雷ごときに負けません」

 ヴェルダンディはいつものように自信満々に自身の胸を叩いた。
 本当にヴェルダンディは帰ってきたのだ。
 わたしは空いていた何かが埋まったようなそんな気がした。
 ヴェルダンディにはこれまでの苦労を聞いてもらい、いかに大変だったのかを知ってもらおう。
 そして鐘一つ分の時間が経って、魔法祭の閉会式となった。
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