悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

ガイアノスへの怯え

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 魔法祭二日目となり、今日もマンネルハイムに勝つための作戦を全員に周知する。
 王族の領土と正面から戦うのは、魔力的、人数的に不可能だ。
 それに頼みの綱であった亜魔導具アーマーを使うパラストカーティの三人のダメージが大きく、装備できるのは下僕だけだ。
 わたしのマリアーマーは問題なく使えるが、騎士の素養がないわたしでは誰も前で戦うことを許してはくれない。
 家族からも厳重に注意されており、もし次に一人で前線で戦ったらかなり怒られるだろう。
 メルオープも完全に魔力が回復しておらず、連日の疲労で倒れているらしい。
 かなりの戦力ダウンだがこればかりは仕方がない。


「姫さま、こちらも準備は万端です。今日は姫さまと一緒に戦えることを嬉しく思います」
「これでマリアさまが無茶をするのを黙ってみなくて済みそうです」


 ラケシスとレイナの言葉にフッと体が和らぐ。
 今日はマンネルハイムの中でもかなり邪道だろう。
 勝負は長引かせてはならない。
 だが時間さえかければこちらが勝つはずだ。


「マリアさま、念のために最終確認をお願いします」
「アスカありがとう」


 アスカから今日の作戦のために計算してもらった作戦表をもらう。
 頭に叩き込んで、戦いに備えなければならない。


「マリア!」
「はい!」

 わたしの名前を呼ぶその声に脊髄反射で反応する。
 こちらに金と黒が真ん中で分かれている鎧を身に付け、堂々とした姿勢で向かってくるウィリアノスを発見した。
 後ろにはガイアノスも連れてきており、またいらぬ邪魔が入りそうな気がしてならないが、それよりもウィリアノスへの挨拶が大事だ。
 だがウィリアノスは挨拶の省略を願ったので、軽く会釈だけした。


「ゼヌニム領との戦いをみたぞ。まさかマンネルハイムが別の競技に変わるとは思わなかったが、よくも上位領地であるフォアデルへの猛攻を防いで勝ったものだ。アクィエルも同じだがやはり指揮官がいるチームは動きがいい」
「恐れ入ります。今日のためにチーム一丸となってがんばってきましたゆえ。今日は是非ともウィリアノスさまが仰ったように全力を出して勝ちにいきます」
「俺が言った? まあいい。楽しみにしているぞ。今日はどんな戦略を使ってくるのか楽しみだ」

 ウィリアノスさまは朗らかな笑顔を浮かべて、いかに今日の試合を楽しみにしていたのかがわかる。
 いつもならスヴァルトアルフと王族の戦いが盛り上がりのピークであるため、もう一戦楽しみがあるのが嬉しいのだろう。
 そこでガイアノスが大笑いし始めた。

「何ですか、その不快な笑いは? 」


 わたしの棘のある言葉に答えず、ずっと笑っている。
 なんだか不安にさせる雰囲気を持っており、いつものガイアノスとは別人に感じた。


「いや、悪いな。あまりにもおかしくてな。俺たちに勝つって言ったがお前らの貧弱魔力と人数でどうやって勝つんだ?  上策、奇策? 俺とウィリアノスがいる時点でお前らじゃ勝てねえよ」


 ガイアノスの威圧ある言葉に他の生徒たちが萎縮していくのがわかる。
 たしかに不利な要素だがここで言葉として出されると、誰だって不安を感じてしまう。
 わたしの作戦だって上手くいく保証はない。
 だがここでチームの士気を下げるわけにはいかない。
 わたしも強気に言い返そうとしたが、その前にガイアノスの手がわたしの肩を掴む。


「いいか、お前らじゃ勝てねえ。早く棄権したほうがいいぜ。じゃないとお前の可愛い顔が大変なことになる」


 わたしはその不快な手に嫌悪した。
 目をキッとガイアノスへと向ける。
 それに動じずに狂気のある目が普段のガイアノスとは思えない威圧感を出している。
 わたしは自然と目を背けてしまった。
 普段は小物だと思っている者にだ。

「お戯れはそれほどに」


 ラケシスがガイアノスの手を叩いて私の肩から離させる。
 ガイアノスが舌打ちをしたが、ラケシスは怒りの表情を隠さずにガイアノスに憎悪を向けていた。


「いつもいつも王族は姫さまにとって癌ですね」

 ラケシスが何かを言ったがわたしには聞き取れず、ガイアノスもまた聞き取れなかったようだ。
 ルキノとアスカがこの隙にわたしの前に立った。

「あっ? 聞こえねえよ! 侍従風情が俺に触るんじゃねえ!」
「いい加減にしろ、ガイアノス。済まない、マリア。こいつは少し興奮しているみたいだ。一度戻るぞ」


 ウィリアノスがガイアノスを連れて去っていく。
 わたしはホッと息を吐いて、自分の行動に驚いていた。

 ……わたしがガイアノスに怯えていた?


 あれほど小物的行動しかしなかったガイアノスが今日はあまりにも恐ろしく思えた。
 わたしは少し落ち着きたかったが今はそんな時ではない。


「姫さま、備品の確認のため一度レイナとアスカをお借りしてもいいでしょうか?」
「ええ、あまり遅くならないようにね」


 ラケシスは先ほどの怒りを完全に抑えていた。
 不備がないかの確認は大事であるため、ラケシスの願いを受け入れた。
 ラケシスたちも備品の確認が終わったのかすぐに帰ってきていた。
 時間になったので、全員で規定の位置についた。
 マリアーマーのお披露目も済んでいるので、今日はルキノの騎獣ではなく、マリアーマーに乗って空へと昇る。


「みなさん、あと一勝で優勝です。時間さえあればわたくしたちの勝ちなのですから王族であろうと臆してはなりません。この一勝が今後我々の進む指針となるでしょう! わたくしに勝利を捧げなさい!」
「おお!」


 全員が一丸となって腕をあげる。
 今日のこの一戦は絶対に負けられない。
 わたしは深呼吸をして試合開始の合図を待った。


「マンネルハイム始めええぇ!」


 決勝戦が始まった。
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