42 / 259
第一章 魔法祭で負けてたまるものですか
亜魔導アーマー
しおりを挟む
しばらくマンネルハイムの練習が授業の代わりに行われる。
わたしはしばらく見ていなかったため、わたしがいなかった数日でどのように変わったかを貴賓席で見ることになった。
またもやお暇なアクィエルが小馬鹿にしたような顔で声をかけてきた。
「久々にお顔を見れましたわね。大事な騎士を亡くしてしまったため療養でもしてらしたの?」
「ヴェルダンディはまだ生きてますわよ。情報の一つも満足に文官からもらえないのですね。怪我ももう治りましたのであとは復活を待つのみです。でもアクィエルさんと会えない日々は本当に疲れが取れることに気付きましたの」
「あらっ、それならばずっとお休みでもよかったのに。そうすればあんな滑稽なマンネルハイムも見る必要がなかったのに」
アクィエルが言った言葉が気になり、マンネルハイムの方を観戦した。
今回はシュティレンツの領主候補生であるカオディも参加していた。
メルオープはまだ帰りついてないので仕方ないが、やはりゴーステフラートからは領主候補生たちは誰も出場しない。
今回の相手は火の神を信仰するリーベルビラン領との戦いだ。
前に戦ったスヴァルトアルフ領よりは領土自体の発展度も優秀さも下なので、特に策がなくてもどうにかなるだろう。
そうわたしは甘く見ていた。
……惨敗。
わたしが使った魔法を使った奇策は相手も使い始めている。
そのせいで終始翻弄されて、立て直せないまま終わった。
隣でアクィエルが笑う声が聞こえてくるのを聞き流しながら今後の方針を考える。
そこでウィリアノスさまからお声がかかった。
「指揮官の不在でここまで落ちるとは思わなかった。少しは楽しめるかと思って戦ったときはガックリきたぞ」
「ウィリアノスさまも参加されたのですか!」
「そなたが出ているのだから婚約者である俺が後ろで見ているわけにはいくまい。それにあんな戦いを見せられて黙って観戦など満足できるわけがないだろ」
「本番までにはまた楽しませられるように頑張ります」
婚約者という言葉に心が撃ち抜かれた気がした。
ウィリアノスさまは魔法祭は他の学生に見せ場を作るためにわざと参加していなかったが、わたしの戦う姿に触発されたようだ。
わたしは少し嬉しくなりながらも今後のことを考えていた。
午後からは自由な時間も多いので、わたしは一度シュティレンツの研究所へと向かう。
「リムミント、最近の進捗はどうですか? シュトラレーセと上手く連携は取れておりますでしょうか?」
「シュティレンツは豊富な魔力や過去の研究のおかげでかなり効率はよくなっております。我々も度々シュトラレーセの研究所に赴き、意見を交換しておりますので良好だと思います。今年はジョセフィーヌ領からも質の高い研究結果を発表できるので是非お楽しみにしてください」
「流石ですわね。リムミントの頑張りがなければ上手くいかないこともあったでしょう。今後もうまく仲を取りもってください」
わたしはリムミントを労い、だいぶご満悦になった。
シュトラレーセのおかげこちらの領土も発展するいい機会をもらったのだ。
わたしがウキウキしながらシュティレンツの研究所へ入ろうとすると、中から大きな音が聞こえてきた。
壊れる音や大きな声も聞こえてくる。
とりあえずまずはステラがドアを開けてみる。
するとシュティレンツの者たちがまるで屍のように倒れている。
……また毒!?
わたしは前に見た襲撃を思い出して身構えた。
だがそれは杞憂だったようだ。
「ラナさま、それ以上はご勘弁ください! 我々はもう体力がーー」
「なにを甘えたことを言っているのですか。もうすぐ魔法祭が始まるというのに完成品がほとんどできていないではありませんか! 魔力量を言い訳にするのなら限界まで使ってからおっしゃってください」
カオディが情けない声を上げているがラナはスパッと切り捨てる。
ラナもまたシュトラレーセの領主候補生でありながらも、研究者としての一面も持っている。
そこにアリアも居てあたふたしている。
「みなさん、楽しそうですわね」
わたしが声を掛けるとやっとわたしの入室に気付いて全員が跪く。
わたしは楽にするように言い、周りを見渡す。
数人の生徒が変わったフルアーマーを着て倒れていた。
「マリアさまから言ってください! このままでは我々は死んでしまいます」
「死んでしまうとは少し大袈裟ではないですか? マリアさまたちの苦労もわかります。この者たちは少しぬるま湯に浸かりすぎです」
ラナの話を聞いてみると、シュティレンツは確かに錬金術の知識が多かった。
魔道具と併用するとかなり強力な道具も作れるので、シュトラレーセもかなり勉強になったようだ。
しかし、出来るものは多いが、魔力を供給できる人員が足りなくなっていた。
そこで強硬策として、シュティレンツの生徒を限界まで使うことになったのだ。
「なるほど、そういうことなのですね。それならば水の女神からも人員を出しましょう。多少は人も足りるでしょう」
「ありがとうございます。マリアさまの配慮には心が救われます」
「いえ、せっかくあなたたち上位領地が協力してくださるのですからこれぐらいは協力させてください」
まずは人員をこちらに割かなければならないので、リムミントにお願いしておく。
わたしは奇妙な鎧が気になって仕方がない。
「それであの鎧はなんですの?」
「あれは亜魔導アーマーです。もともとの魔導アーマーでは過剰すぎる能力を上手く活用できないかと思いまして、いっそのこと鎧にしてみようと思ってこのようになりました」
この亜魔導アーマーは上限があるものの下級貴族でも身体強化をかけた上級貴族程度の実力は発揮できるらしい。
さすがはシュティレンツだ。
これであまり役にたつとは言えなかった下級貴族もマンネルハイムで活躍させられる。
アスカも目をキラキラさせていた。
「そんな素晴らしいものとは……マリアさまも着てみたいですよね」
「ええ、そうね。これでわたくしも前線に出られますね……冗談ですわよ?」
わたしの言葉に側近たちの視線が突き刺さるので今の話は曖昧に濁しておくのだった。
わたしはしばらく見ていなかったため、わたしがいなかった数日でどのように変わったかを貴賓席で見ることになった。
またもやお暇なアクィエルが小馬鹿にしたような顔で声をかけてきた。
「久々にお顔を見れましたわね。大事な騎士を亡くしてしまったため療養でもしてらしたの?」
「ヴェルダンディはまだ生きてますわよ。情報の一つも満足に文官からもらえないのですね。怪我ももう治りましたのであとは復活を待つのみです。でもアクィエルさんと会えない日々は本当に疲れが取れることに気付きましたの」
「あらっ、それならばずっとお休みでもよかったのに。そうすればあんな滑稽なマンネルハイムも見る必要がなかったのに」
アクィエルが言った言葉が気になり、マンネルハイムの方を観戦した。
今回はシュティレンツの領主候補生であるカオディも参加していた。
メルオープはまだ帰りついてないので仕方ないが、やはりゴーステフラートからは領主候補生たちは誰も出場しない。
今回の相手は火の神を信仰するリーベルビラン領との戦いだ。
前に戦ったスヴァルトアルフ領よりは領土自体の発展度も優秀さも下なので、特に策がなくてもどうにかなるだろう。
そうわたしは甘く見ていた。
……惨敗。
わたしが使った魔法を使った奇策は相手も使い始めている。
そのせいで終始翻弄されて、立て直せないまま終わった。
隣でアクィエルが笑う声が聞こえてくるのを聞き流しながら今後の方針を考える。
そこでウィリアノスさまからお声がかかった。
「指揮官の不在でここまで落ちるとは思わなかった。少しは楽しめるかと思って戦ったときはガックリきたぞ」
「ウィリアノスさまも参加されたのですか!」
「そなたが出ているのだから婚約者である俺が後ろで見ているわけにはいくまい。それにあんな戦いを見せられて黙って観戦など満足できるわけがないだろ」
「本番までにはまた楽しませられるように頑張ります」
婚約者という言葉に心が撃ち抜かれた気がした。
ウィリアノスさまは魔法祭は他の学生に見せ場を作るためにわざと参加していなかったが、わたしの戦う姿に触発されたようだ。
わたしは少し嬉しくなりながらも今後のことを考えていた。
午後からは自由な時間も多いので、わたしは一度シュティレンツの研究所へと向かう。
「リムミント、最近の進捗はどうですか? シュトラレーセと上手く連携は取れておりますでしょうか?」
「シュティレンツは豊富な魔力や過去の研究のおかげでかなり効率はよくなっております。我々も度々シュトラレーセの研究所に赴き、意見を交換しておりますので良好だと思います。今年はジョセフィーヌ領からも質の高い研究結果を発表できるので是非お楽しみにしてください」
「流石ですわね。リムミントの頑張りがなければ上手くいかないこともあったでしょう。今後もうまく仲を取りもってください」
わたしはリムミントを労い、だいぶご満悦になった。
シュトラレーセのおかげこちらの領土も発展するいい機会をもらったのだ。
わたしがウキウキしながらシュティレンツの研究所へ入ろうとすると、中から大きな音が聞こえてきた。
壊れる音や大きな声も聞こえてくる。
とりあえずまずはステラがドアを開けてみる。
するとシュティレンツの者たちがまるで屍のように倒れている。
……また毒!?
わたしは前に見た襲撃を思い出して身構えた。
だがそれは杞憂だったようだ。
「ラナさま、それ以上はご勘弁ください! 我々はもう体力がーー」
「なにを甘えたことを言っているのですか。もうすぐ魔法祭が始まるというのに完成品がほとんどできていないではありませんか! 魔力量を言い訳にするのなら限界まで使ってからおっしゃってください」
カオディが情けない声を上げているがラナはスパッと切り捨てる。
ラナもまたシュトラレーセの領主候補生でありながらも、研究者としての一面も持っている。
そこにアリアも居てあたふたしている。
「みなさん、楽しそうですわね」
わたしが声を掛けるとやっとわたしの入室に気付いて全員が跪く。
わたしは楽にするように言い、周りを見渡す。
数人の生徒が変わったフルアーマーを着て倒れていた。
「マリアさまから言ってください! このままでは我々は死んでしまいます」
「死んでしまうとは少し大袈裟ではないですか? マリアさまたちの苦労もわかります。この者たちは少しぬるま湯に浸かりすぎです」
ラナの話を聞いてみると、シュティレンツは確かに錬金術の知識が多かった。
魔道具と併用するとかなり強力な道具も作れるので、シュトラレーセもかなり勉強になったようだ。
しかし、出来るものは多いが、魔力を供給できる人員が足りなくなっていた。
そこで強硬策として、シュティレンツの生徒を限界まで使うことになったのだ。
「なるほど、そういうことなのですね。それならば水の女神からも人員を出しましょう。多少は人も足りるでしょう」
「ありがとうございます。マリアさまの配慮には心が救われます」
「いえ、せっかくあなたたち上位領地が協力してくださるのですからこれぐらいは協力させてください」
まずは人員をこちらに割かなければならないので、リムミントにお願いしておく。
わたしは奇妙な鎧が気になって仕方がない。
「それであの鎧はなんですの?」
「あれは亜魔導アーマーです。もともとの魔導アーマーでは過剰すぎる能力を上手く活用できないかと思いまして、いっそのこと鎧にしてみようと思ってこのようになりました」
この亜魔導アーマーは上限があるものの下級貴族でも身体強化をかけた上級貴族程度の実力は発揮できるらしい。
さすがはシュティレンツだ。
これであまり役にたつとは言えなかった下級貴族もマンネルハイムで活躍させられる。
アスカも目をキラキラさせていた。
「そんな素晴らしいものとは……マリアさまも着てみたいですよね」
「ええ、そうね。これでわたくしも前線に出られますね……冗談ですわよ?」
わたしの言葉に側近たちの視線が突き刺さるので今の話は曖昧に濁しておくのだった。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる