悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
32 / 259
第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

眠れる騎士

しおりを挟む
 他の領土のマンネルハイムも急激な天候の変化により、中止となった。
 わたしも体を冷やすといけないため、一度入浴する。
 普段なら心地の良いお風呂だが、気持ちが急いてるためなにも感じない。
 本当は入浴など後回しにして、ヴェルダンディの見舞いに行きたいがそれは側近たちから止められている。
 わたしは長い時間、お風呂にいるような気がしてきたのでお風呂から出ようとする。

「姫さま、まだ入ったばかりですので、もう少し体を暖めてからにしてください」


 ディアーナからまだ出るのは早いと言われ、もう一度湯船に浸かる。
 やっと入浴の時間が終わり、わたしは着替えを済ませて医療室へと向かう。
 優秀なお抱え医師を呼んでいるため、診てもらっているのだ。
 部屋の前にはヴェルダンディの侍従が立っており、わたしをヴェルダンディの元へと案内する。

「ヴェルダンディ……」


 ベッドの上で包帯を巻かれて眠っている。
 わたしは体を張って守ってくれた騎士の顔を見る。
 痛々しいのに、その顔には苦痛の色はない。
 意識不明。
 回復の魔法でも全快は難しく、このままでは死んでしまう可能性もあるとのこと。


「先生、この子は目を醒ましますよね?」


 わたしは医者に問いかける。
 だが医者は目を背けた。
 わたしの言葉でこの態度は本来であれば無能者とされるだろう。
 どんな手を尽くしてでも命を繋げろと貴族の言葉として言っているにも関わらず、同意をしないということは、自分では不可能であり、たとえやると言っても出来ずに死期を延ばすだけ。
 わたしはこの医者に対して特に何も言わない。
 薄々分かっていた。
 わたしは医者をねぎらって外へ出てもらう。
 医者は少し虚を衝かれたような顔をしていたが、今は気にしている余裕がない。


「ねえ、ヴェルダンディ。あなたは子供の時はよくわたしと遊びましたわね。わたしとこっそり城を抜け出したせいで魔物に襲われて死にかけて、もう二度とわたしを危険な目に遭わせないって、わたしの護衛騎士として恥じることのない立派な騎士になったわね」

 子供の頃の記憶が蘇ってくる。
 あの頃はよく大人たちの目を掻い潜っって、城の外へも遊びに行った。
 ヴェルダンディは悪ガキであったが、わたしを危険な目に遭わせてから人が変わったように真面目な騎士へと成長していった。


「ヴェルダンディ、もう二度とわたしを守ってくださらないの? 」


 答えは返ってこない。
 わたしも分かっている。
 意識がないのだから意味がないことを。
 泣くことも出来ず、ただ涙を流さず我慢して、わたしの誇り高き護衛騎士の姿を目に焼き付ける。
 彼に背を向ける。


「行きましょう」
「……ま……り……あ…さ……」


 今ヴェルダンディの声が聞こえた。
 わたしは急いでベッドに近付いて彼の口に自分の顔を近付ける。
 たしかにわたしを呼んだ。
 だがそれ以上の言葉はなかった。
 だがその声で一つの希望が生まれた。

 わたしは早足で部屋を出て、側近たちを会議室へと召集させる。
 今はなによりも優先しろと命令して呼んだのだ。
 側近ではないが、クロートとピエールも駆けつけてくれた。
 全員が集まってから話を始める。


「詳細は知っていると思いますので省きます。ヴェルダンディの意識を取り戻すための良案をだれか出しなさい」


 そこで二つの手が上がった。
 クロートと下僕だった。
 クロートは下僕に譲って、下僕が話を始める。


「ホーキンス先生なら何かご存知のはずです」
「ホーキンス先生が?」


 魔法にはたしかに詳しいが、医術にも精通しているのだろうか?
 わたしの疑問は側近全員が思っていること。


「はい。先生はよくいろいろな土地へ出向きますのでその土地特有の薬草なんかもよく知っております」
「ホーキンス先生はあれで芸達者でもあります。何でも一通りのことはできる優秀な方ですが普段の行いがあまり良くないので、足し引きゼロですが」


 クロートも下僕と同意見のようだ。
 今はこれ以外に可能性がない。
 すぐさまホーキンス先生のいる魔術棟へと向かう。
 部屋に入ってみるといつものように散らかっていると思ったが、今日は整理されていた。
 ホーキンス先生は部屋の隅で様々な色をした試験管を面白そうに眺めていた。
 声をかけると意外そうな顔をしてこちらを見る。

「おや?マリアさま、今日はマンネルハイムの練習ではなかったですか?」
「急な悪天候で中止になりましたの。今日は部屋が綺麗ですわね」
「当然です。定期的にわたくしたちが清掃に来ておりますので」


 レイナは自信満々に答える。
 今後わたしが出入りすることを見越して、清潔に保っているようだ。
 それにホーキンス先生は苦笑いをした。
 こっぴどく言われたのだろう。

 わたしも気持ちがわかるので同情の視線を向けるが、レイナから「その目はどういう意味でしょうか?」と問われたので、曖昧に手を頬に当てる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...