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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

恋バナの扱い注意

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「もうお姉さまは大げさです。わたくしにもお姉さまのように素晴らしい殿方でもいればいいのですが」
「あら、レティアには縁談の話はきてないのですか?」
「いいえ、レティアさまにもかなりの縁談がきていると噂が届いております。ですがすべて断っているとのことです」

 レイナは即座に否定する。
 レティアも五大貴族の末裔であるため、魔力量はかなりのもの。
 どこの貴族たちも領土を越えて縁談を申し込んでくるはずだ。


「きてますが……。あまりこの方という殿方には出逢えてませんの」
「大丈夫ですわよ、レティア。いつか貴方の相手に相応しい殿方が現れてくれますわよ」
「そうでしょうか。お姉さまを超える方が現れるとは思えません」
「レティアさまの考えはわたくしも賛同します。最近の殿方はあまりにも魅力が乏しい方ばかりですから」


 レティアの考えにラケシスが賛同するが、ラケシスの場合はわたし以外が見えていないだけだ。
 正直ラケシスは男ウケのいい顔をしているので、ちょっと笑顔を向ければ大概の男性は恋に落ちる。
 だがそれをすべて断っている。
 わたしはまず側近の恋愛事情をなんとかしないといけないのかもしれない
 レイナがため息を吐いて、同僚の話を否定する。

「ラケシスが特殊なだけです。レティアさま、素晴らしい殿方も王国院にはたくさんおりますので、直に良い縁に出会えると思います」
「レティアさま、騙されてはいけません。レイナの言う魅力的な殿方は一人だけなのですから」
「こ、こらっ、ラケシス! レティアさま、戯言ですのでお忘れください」


 レイナが慌てて取り繕う。
 ラケシスの発言にレティアは目を輝かせて、そのお相手を尋ねる。
 この中でレイナの意中の人を知らないのはレティアだけであろう。

「誰なのですか! レイナにいつの間にそのような方が出来たのですか!」
「いえ、その、お付き合いしているわけではありませんので」


 レティアの発言をもじもじしながら否定する。
 流石に可哀想なのでわたしがフォローしておく。


「レティア、あまり人の恋に突っ込みすぎるのは行儀が悪いですわよ」
「うーー、分かりました。また今度教えてください」
「しょうがありませんわね。セルランのいないところで話しますわね」
「セルラン? ーーっあ、レイナの想い人はセルランなのですね!」
「マリアさま!!」


 ……しまった!
 うっかり口が滑ってしまった。


 ポロッと口から出てしまい、レイナが席を立ってわたしを非難する目を向けてくる。
 口元を扇子で隠して、オホホホしか言えなかった。
 レティアもレイナの想い人を知れてご満悦だ。

「セルランはかっこいいですものね。そういえばセルランに浮いた話を聞いたことありませんが、お姉さまはご存知なのですか?」
「そういえばわたくしも聞いたことありませんわね」


 幼少の頃からセルランと共に過ごしてきたが、彼が他の女の子と親しくしているところを見たことがない。
 長男ではないとはいえ、そろそろお相手を見つけないと外聞が悪くなる。
 ラケシスはお菓子に手を伸ばしてクッキーをひと齧りして、皿の上に載せる。


「ルックス、家柄、財力、才能、どれも素晴らしいセルランは競争が激しいですから、うかうかしていると他の令嬢にこのように齧られますわよ」
「表現があまり良くないですよラケシス。それにセルランならそのような品のない女性に引っかかったりしませんよ」


 ラケシスの発言を軽く流して、気持ちを整えるためかカップに入っている紅茶を口にする。
 そしてラケシスをジトーッと見ている。
 ラケシスが楽しそうに笑っているのが気になっているようだ。

「何ですかその笑いを堪えるような顔は」
「これは失礼しました。もう添い遂げられているような信頼を口にするとは思いませんでしたので」


 レイナはむせた。
 咳を何度もして、自身のハンカチで口を押さえる。
 本当にわたしの側近たちは可愛い。
 わたしまで笑いが込み上がってくる。

「もう、マリアさままで! 次はアスカの番ですわよ。一人だけ喋らないのはずるいですわよ」


 レイナは自身への話題の矛先をずらすため、楽しげに聞いていたアスカへと話題を振る。
 アスカは少しばかり天然なところがあるため、わたしも少し気になっている。
 同い年と思えないほど胸の膨らみも大きく、褐色の肌も相まって、何気に大人の魅力が一番高い。
 わたしもゆっくり話を聞きたいため、先に喉を潤すため紅茶を口にする。
 みんなもそう思ったのか、同じく紅茶を口にする。


「そうですね。わたくしはクロートと結婚したいです」


 ブフッと勢いあまって紅茶が喉から鼻腔をつく。
 なんとか淑女としての最低限は守られたが、一度自身のハンカチで口元を隠す。
 まさかわたしもレイナと同じことをするとは思ってもみなかった。
 レティア、レイナ、ラケシスもしっかりむせてくれたようだ。


「あ、アスカ、本気で言ってますの?」


 わたしが全員の心の声を代表して口にした。
 何も年の差を心配しているのではない。
 爵位の差からこの言葉が出たのだ。


「もちろんですよ。文官としての能力も高く、魔力も姫さまと変わらない才能であるならば、婿入りさせたいと思うのは普通のことではありませんか」


 アスカの意見を聞いて、納得できるところもある。
 爵位さえ除けばいいところが多い。
 ラケシスも同調する。

「そう考えると確かにクロートもありですね。あれほどの魔力を中級貴族に残しておくのは勿体無いですし、顔は眼鏡のせいでよくわかりませんが、そこまで悪くはありません。わたくしもお相手の一人として考えておきましょう」
「そうですわね。わたくしもいざとなれば家の力で無理矢理婿に取ることもできますし」
「ちょ、ちょっと! 先に目を付けましたのはわたくしですからね! レイナに本気出されたら、泣き寝入りするしかないではないですか!」


 三人の顔が次第に本気になっていく。
 この三人の中で一番家の力が大きいのはレイナだ。
 このまま側近たちの仲が悪くなるのを黙って見ているつもりはない。
 わたしは近くで傍観していたステラに目で合図を送る。
 こうなったらさらに上の家柄であるステラに止めてもらおう
 ステラもこちらの思惑に気付いたのか、同意のため頷く。

「御三方、一度冷静になってください」


 ステラの声に全員が我に返る。
 どうにか仲違いは止められそうだ。

 ……やっぱりステラが一番頼りになーー。


「わたくしの家も参戦してもよろしいでしょうか」


 ……ステラーーーーーー!


 ここで三つ巴が四つ巴へと変わったところで、わたしが止めにかかる。
 クロートと結婚する場合には本人が望んだ場合のみということになった。
 流石に一人の男のせいでここまで拗れるとは思ってもみなかったせいで疲れる。
 そしてシュトラレーセのラナとアリアがやってきたのだった。
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