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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

そんなに怒らないでくださいまし

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 寮に戻り、わたしはすぐさまベッドの上で頑張った自分を褒めながら睡魔に任せて至高の時間を堪能するつもりだったが、そうは側近が許さない。
 わたしがいなくなったことでかなりの騒ぎになったらしく、全員がクロートが担ぐわたしを見てホッと息を吐き、胸を撫で下ろした。
 そして自室の椅子に腰掛け、クロートはわたしの後ろに立ち、妹のレティアも隣の椅子に座る。
 わたしの護衛騎士が四人、侍従見習いが三人、文官見習いが三人、総勢十人の側近たちが部屋に入ってきた。


「ではマリアさま、何故わたくしたちに何も言わずに部屋を出たのかお聞かせいただけますか?」

 まず口火を切ったのはこの中では最年長であるステラだった。
 普段は淑女の手本として、笑顔を絶やさないようにしているステラが完全に無表情で淡々と聞いてくる。
 初めて見るその顔にわたしは背筋が勝手に真っ直ぐになった


「魔法を使えることに興奮して、訓練場で少しでも練習しようと思ったからです」

 わたしは嘘の口実を言う。
 クロートと相談して手紙のことは言わないほうがいいとの結論に達したからだ。
 わたしの死を望む者の存在を示唆して、さらにすべての場所で騒ぎが起こっているので、この手紙の真意がわかるまでは不用意に第三者に知らせるわけにはいかない。
 ステラはため息を吐く。
 目頭を押さえて、頭を抱える。

「はぁー、今回の三領地の諍いを止めたのは姫さまの功労です。姫さま以外では誰も止めることができなかったでしょう。しかし、ビルネンクルベの寮に行くのは何事ですか! 例え自国という大きな枠組みの中とはいえ、あちらはアクィエルさまが治める領土です。護衛騎士もなしに行くにはあまりにも危険だと、幼少の時のようにサラスさまにお頼みして厳しく教え直してもらいましょうか!」
「ひいぃ、ごめんなさい! もうしませんからサラスにだけは言わないで!」

 わたしはステラの剣幕とサラスの名前を聞いたことで、震えて許しを請うた。
 サラスは筆頭侍従であり、今はお母様の侍従をしているが、わたしの指導役も担っており、子供の時は何度も叱られたせいで全く逆らえない。
 歳をとっているせいでわたしが何を言おうが言いくるめられるからだ。
 ステラはわたしの反省を見て、若干だが怒気が治まっていた。

「それだけ恐がるならそういった行動を取らなければよろしいのです。姫さまはかけがえのないお方だからこそ申しているのです。もしクロートがその場に間に合わなければどうなっていたか」

 一同頷いて、今回の件に関して同調する。
 もしわたしが誘拐でもされて生きて帰ることができなければ、全員が減給では済まない。
 特に護衛騎士たちは、一生騎士として働くことはできなくなるので、人生そのものが危ぶまれる。
 セルランが次にクロートを睨んだ。

「クロート、貴様も姫さまを見つけたのならどうしてわたしに報告しなかった。ビルネンクルベの小物どもの件は褒めてやる。だが、実験場に行く必要はなかったであろう。騎士でもない文官では万が一があったらどうする」
「大変申し訳ございません。実験場で少しだけ指導をしようとしたために姫さまを危険に晒してしまいました」


 セルランの指摘にクロートは素直に謝罪をする。
 わたしのせいでこうなってしまったとはいえ、簡単に謝ることもできない。
 騎士には騎士の領分があるのでわたしから言うのは差し出口だ。
 だが、もう一人の男の護衛騎士見習いであるヴェルダンディはクロートを擁護する。

「いやいや、クロートは良くやっただろう? 毒をばら撒いた何者かを撃退して、上位の領地であるシュトラレーセの学生を救ったんだ。それにマリアさまを止めるのはきたばかりのクロートには難しいだろう」
「何を言っている。毒に関して少しは知識があるようだが、少しでも危険があるのなら、学生を見捨ててでも姫さまを第一に考えるべきだ。もしわたしがお側にいたのならすぐにでも寮に連れ帰る」
「お二方、マリアさまの御前です。今回の件はマリアさまの脱走に気付かなかったわたくしたちも同罪です。最近は淑女としての振る舞いが身に付いていたために、わたくしたちも気を抜いていたのでしょう。今一度、護衛騎士の初心を思い出すとしても、それは護衛騎士内で精進することであります。では次は文官たちに話を譲りましょう」


 もう一人の女性騎士であるルキノが場をまとめてくれたため、男二人も冷静になり謝罪をする。
 護衛騎士は全員壁際へと移り、次に文官見習いの三人がわたしの前に立った。
 中央にリムミント、一歩下がって、右にアスカ、左に下僕が立つ。


「下僕、体は大丈夫でした? 」
「はい、マリアさま。まさか窓からマリアさまが降りているとは思いませんでしたが、この体でマリアさまの危機を救えたのであればこれに勝る喜びはありません」
「あなたの忠誠には助けられました。光の神のご加護があなたにありますように」


 わたしは危機を救ってくれた下僕を労う。
 下僕は嬉しそうに頬を赤らめて、一礼をする。
 リムミントが代表して話し始める。


「それでは姫さま。今回聞く限り、ご冗談では済まないほど様々なことが起こったようですが、わたくしの聞いている内容と相違がないかご確認お願いします」


 リムミントも先ほどのステラとは違い笑顔であった。
 だが何故だろう。
 温かみのないためかドス黒いオーラを感じる。
 わたしは恐怖心から目を背けた先でレイナと目があった。
 レイナも似た笑顔を作ってくれる。
 しょうがないので先を促す。

 三領地の仲裁、ビルネンクルベに襲われたがパラストカーティの問題行動と相殺、魔法の実験場での毒殺未遂が挙げられた。
 わたしが大きく頷くと、クロートが咳払いをする。
 わたしはクロートの方を見ると、何か足りませんか、と言っているように見える。
 わたしはうーんと首を傾げて一生懸命考えたが何も出てこない。
 何かあったかしら。

「パラストカーティの下級貴族へ側近の証たるバッジを与えた件、シュトラレーセの領主候補生であるアリア・シュトラレーセさまから攻撃を受け、魔法を放った件がございます。命の危険があったのにもうお忘れですか?」


 ああっ、と手をポンと叩くと、これまた側近一同が揃って顔を青くする。
 その表情は地獄の後にまた地獄を見たような顔だ。
 ステラはたまらず声を張り上げる

「姫さま! まだ魔法の制御を覚えていないのに魔法を使われるとは何事ですか! 一歩間違えれば、建物どころか姫さまも死んでしまうのですよ! 」
「ひいい、ごめんなさい! で、でも襲われたのだからこうするしかないではないですか」


 またもやカミナリが落ちたことで頭を押さえ、目から涙が落ちながらも必死に弁明した。
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