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最終章 側仕えは姫君へ、嫌われ貴族はご主人様に 後編

側仕えと神国の裏側 ラウル視点

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 私はラウル。
 神国の神官で、隣国である王国との交渉を担当している。

 そしてもう一つの役割もあった。

 神国では神の御言葉をたまわれる者が神使となり、国を治めていた。
 一般には神使の神格を強めるために血筋によって選ばれることになっているがそれは違う。
 選ばれるのはその時代で一番魔力を多く内包している者だ。
 だが血筋が引き継がれることによって魔力はさらに増していくのであながち嘘でも無い。
 神使様はまだ年齢も成人には満たないが、それでも他者を寄せ付けない魔法の才能を持っていた。


 私はそんなお方の護衛騎士でもあった。

 たびたび王国へ行っていた神使様だったが、最高神の容態が危険な状態になったことを感じ取り、この国で一番神聖な大聖堂の祭壇に籠もっていた。
 今日も我々は魔力を納めるために、両手を握って祈るために目をつぶる。
 こうすることによって魔力を効率良く奉納するが出来るのだ。
 神使様は今日の魔力を納め、私達の方へ振り返った。

「今日もみんなごくろうであった。もう仕事へ戻ってよい」

 いつも通りこれで終わる予定だった。
 しかし元老院長の教王は挙手をして発言する。
 嫌な予感がする。

「神使よ、いつまで民へ真実をお隠しになるのですか? 最高神の寿命はもう数年保つかどうか、我々は選択をせねばならないときがやってきたのです」

 大きな白いあごひげを垂らしているこの男は、もうすでに十年以上も教王として君臨して、民達からも一定以上の支持を集めていた。
 噂では邪教と手を結んでいる噂もあったが、その事実がまだ掴め切れていない。
 神使は教王へ答える。

「まだ次の神が決まっていないタイミングでは民へ余計な混乱を招く。せっかく王国の剣聖が三大災厄を滅して、民達が希望へと進み出しているのに、それを邪魔する必要は無い」

 神がいなければ土地の収穫量はがくんっと落ちてしまう。
 だからといって悪神を招いてしまっては、それこそ取り返しがつかない。
 いくつもの国がそうして滅んだのだ。
 神にとって我々は食事を運ぶただの使用人なのだから。

「先延ばしにするのはよろしいですが、獣人国では新たな神が誕生して急速に成長しております。今のままでは我々は彼の者達によって滅ぼされてしまいます」
「分かっておる。私も過去の伝承を遡って何度か神との接触を試みておる途中じゃ」

 しかしそれは上手くいかない。
 神国と王国はどちらも広大な土地を有する大国だ。それをどちらとも潤せる神がいないのだ。
 唯一適合するのは、今のところは邪竜フォルネウスのみ。

「神使よ、竜神フォルネウスとの交渉はされたのですか?」
「するわけなかろう。あれは悪神じゃ。交渉なんぞしても意味が無い。いくら最高神スプンタマンユの”子供”とはいえ、あれは負の力を受け継ぎすぎている」

 この場に居る高位な神官以外には広めていない真実がある。
 これまで邪竜と呼ばれていたフォルネウスは最高神の子供であったことだ。
 神としての器は申し分ないが、最高神の悪の部分から生まれてしまい、我々神官はその退治に失敗したのだ。
 姿をしばらく隠した後、次に現れた時には人では手が出せない存在に昇格していたのだ。

「そうですか。しかし決断はお早めにお願いします。そうしなければ困るのは、民達なのですから。では今日の式典の準備のため失礼いたします」

 教王は配下を連れて祭壇から出て行った。神使は私以外の者達に退出を命じて、その場にへたり込んだ。私は慌てて駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

 神使の体を支える。荒い息と大量の汗をかいていた。連日の大量の魔力を誰よりも差し出したのは神使であった。
 その無理がたたったのだ。

「人の願望はとどまることをしらんの。今の生活から少し質素になるだけでいくらでも候補の神はおるというのに」

 神使は辛そうな顔をしながら弱音を吐く。
 神は国と供に成長する。
 そのため長い年月と供に最高神もまた今ほどの力を持つようになったのだ。
 だからこそ、その子供である邪竜フォルネウスはとてつもない力を内包していた。
 弱音神使は呟く。

「いっそのこと神がいない世界であれば、何も悩まなくていいのじゃがな」
「それは元老院の方々が反対されるでしょう。我々貴族は魔力があるからこそ、豊かな暮らしができるのですから」

 だが神使は私を強く睨んだ。

「それは私達貴族だけじゃろうが! 感情的になった……其方はそれを一番分かっておるのに……」
「いいえ。私は貴方様のしもべです。どうかいくらでも弱音をお吐きください」

 神使は感情的になった自分を恥じていた。
 疲れでいつもの余裕がないのだ。

「これで最後じゃ。さて、私達も今日の式典の準備をしよう。癪だが、あの陰険な女が国王になれば我々からしても楽になるじゃろう」

 神使は息を整えて立ち上がった。
 私は神使の後を付いていく。

 今日は、王国の新王、ドルヴィ・メギリストが誕生するのだから。

 一度私は礼服へ着替えるために自室へ戻る。
 大聖堂は大きく作られているため、たくさんの神官達が生活できるようになっていた。
 私はほとんど王国で活動するため、小さな部屋だけを借りていた。
 ドアを開けて部屋に入ると、風が私を通り過ぎていく。
 どうやら窓を閉め忘れていたらしい。

「おや、窓を開けたままに――」

 いいや違った。
 その窓の縁に一人の女性が座っていた。

「貴女は……」

 いつもと雰囲気の違う彼女は、黒い鎧を身につけているせいかもしれない。

「お久しぶりですね、ラウル様」

 にこりと笑って私を見るのは、新たな国王レイラ・メギリストだった。
 だが一番の問題は、その両隣に立つ逃亡者カサンドラに邪竜教の宣教師ピエトロがいることだ。
 私はすぐさま部屋の外に出ようと、足を蹴り出して後ろへ飛んだ。
 だが、それは無駄だった。

「一騎当千」

 私は世界から隔離された。
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