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23話 食べても太らない体質なので…。
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場を仕切りなおす為か湯を沸かし、壱はお茶を淹れなおしそれぞれの前に並べた。「ついでに」といって隣りに並べられた物にミカの興味が注がれた。
「おや、このお団子は?どちらの高名なお店の代表作ですか。実に色っぽい顔をしてますね」
「ん?…ああ、俺が作ったんだよ。料理するのが趣味みたいなもんだからね」
「…ふっ、嫁に欲しいぜ」
「お前なんかに壱は嫁がせないよ…」
「とっ…嫁ぐとかやめろよっ!?」
トマトみたいに赤く染まった顔を覆い隠す壱の横で、さっそくミカは団子へと手を伸ばす。
甘じょっぱい醤油タレが塗られたみたらし団子だ。ちらちら揺れる電球の明かりに照らされた光に反射して、キラキラ輝くタレを零さぬよう一気に口の中へ運ぶ。
見た目に反して甘みは抑えてあり、しつこさのない糖分が身体中に染み込んでいくのをミカは感じた。同時にいくばくかの緊張と疲労が知らぬ間にたまっていたらしく、糖分を求める身体に従って次の団子へと手を急がせた。
「そんなに慌てて食べるなよ。下品な女だね…呆れちゃうよ」
「ははっ、そんな美味しそうに食べてくれると作った側としては嬉しいけどね」
「あの…よろしければお代わりとお土産とレシピと材料と料理人として壱さんを頂けませんか?」
「よろしくないんだよ!お前のその傲慢さはどこから来るんだよ!」
「…残念です。ではせめてそこにあるカラスさんの分をくださいませ。一生のお願いですので…」
「最も信用出来ないセリフなんだよ…」
ミカの意地汚い手を払ってカラスも団子へとかぶりついた。これ見よがしにもったいぶって楽しむ様はミカと同じレベルの下品な行動であった。
―――子供のケンカのような小休止を挟みひと段落着いた頃、やっとといった感じでミカが口を開いた。
「そういえば壱さんなんか質問してきませんでしたっけ?」
「口の周りにタレをべっとり付けたおバカさんは記憶力もないようだね」
「…微笑ましいと思うよ。質問は三本足の社から出た後どうしたのって事だよ。その後に神の国へやってきたんだろ?」
「失礼しました」といいペロッとタレを舐め取ったミカはキリッとした表情で腕組みをして壱の方へと身体を向けた。フワリと揺れる黒い髪が妖艶さを醸し出す残念な美人だ。
「出た後…というか私は社から出てません。落ちました」
「…落ちた?」
「ええ…、まるで床が抜けたような感覚で…」
「なんだお前見た目に反してデブなのかい?いやだねぇ、運動不足の現代っ子は~」
肩をすくめて嘲笑うカラスにミカは「むぅ」と頬を膨らませる。絵に描いたようなあざとさを横目でチラチラ見つつ、耐性のない壱は妙に高鳴る心臓の音に不安を覚えていた。
「カラスさん、これはあくまで比喩です。例えなのです。決して私の体重がどうという訳ではなく、床が抜けて下に落ちるような感覚がしたということなのですよ」
「そうだよ、カラス。ミカさんが重いわけないだろ?見た目でわかるよ」
「えっ!?さり気なくセクハラですか壱さん?私の身体をじっくりねっとり鑑賞会だなんていつの間に開催されたのですか?びっくりだ!」
「助け舟出したのにまさか濡れ衣着させられるなんてっ!」
「まぁ、冗談はさておき。私が床に落ちた感覚のあと気が付いたら、壱さんたちと出会った林の中に居たのですよ」
「…本当にかい?」
カラスは顎に手を当て訝しげな表情をミカに向ける。疑いではなく、納得するための確認といった問いかけにミカは無言で肯く。カラスの放つ雰囲気に当てられ、室内は緊張の糸が張り詰める。
さすがのミカも空気を悟ってか、無駄口は叩かず間を埋めるようにぬるくなったお茶を飲み込む。
―――しばらく押し黙って思案していたカラスがおもむろに口を開いた。
「ねぇ、もしかしてだけどお前って…」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!!
カラスの言葉をかき消す大音量が室内に響いた。
何者かが扉を叩いている音だ。
古く薄い木製の扉は今にも壊れそうになりながらも繰り返される衝撃に耐えている。
壱、ミカ、カラスそれぞれがそれぞれの様子を確認し、誰ともなく扉へと視線を移した。そんな数瞬の間を空けて扉の向こうから低くくぐもった声が届いた。
「ノコノコォ、ノコノコは居るかぁ?」
壱はもう一度二人の顔を確認すると、警戒しつつも腰を上げ扉から少し離れた場所に立った。
「な…何者だ?」
「あぁ、居たかぁ。話が聞きてぇんだぁ」
「話し?…なんの話だ?」
「んあぁ、神の国の掟についてだなぁ」
「掟だと?」
「あぁ、この国に人間が迷い込んだかもってぇ話だぁ」
壱は喉の奥が熱くなる感覚を覚え振り向いた。ほぼ同時にカラスも振り返った。
串に残っていた団子に噛み付くミカと目が合った。
「…なんですか?」
「おや、このお団子は?どちらの高名なお店の代表作ですか。実に色っぽい顔をしてますね」
「ん?…ああ、俺が作ったんだよ。料理するのが趣味みたいなもんだからね」
「…ふっ、嫁に欲しいぜ」
「お前なんかに壱は嫁がせないよ…」
「とっ…嫁ぐとかやめろよっ!?」
トマトみたいに赤く染まった顔を覆い隠す壱の横で、さっそくミカは団子へと手を伸ばす。
甘じょっぱい醤油タレが塗られたみたらし団子だ。ちらちら揺れる電球の明かりに照らされた光に反射して、キラキラ輝くタレを零さぬよう一気に口の中へ運ぶ。
見た目に反して甘みは抑えてあり、しつこさのない糖分が身体中に染み込んでいくのをミカは感じた。同時にいくばくかの緊張と疲労が知らぬ間にたまっていたらしく、糖分を求める身体に従って次の団子へと手を急がせた。
「そんなに慌てて食べるなよ。下品な女だね…呆れちゃうよ」
「ははっ、そんな美味しそうに食べてくれると作った側としては嬉しいけどね」
「あの…よろしければお代わりとお土産とレシピと材料と料理人として壱さんを頂けませんか?」
「よろしくないんだよ!お前のその傲慢さはどこから来るんだよ!」
「…残念です。ではせめてそこにあるカラスさんの分をくださいませ。一生のお願いですので…」
「最も信用出来ないセリフなんだよ…」
ミカの意地汚い手を払ってカラスも団子へとかぶりついた。これ見よがしにもったいぶって楽しむ様はミカと同じレベルの下品な行動であった。
―――子供のケンカのような小休止を挟みひと段落着いた頃、やっとといった感じでミカが口を開いた。
「そういえば壱さんなんか質問してきませんでしたっけ?」
「口の周りにタレをべっとり付けたおバカさんは記憶力もないようだね」
「…微笑ましいと思うよ。質問は三本足の社から出た後どうしたのって事だよ。その後に神の国へやってきたんだろ?」
「失礼しました」といいペロッとタレを舐め取ったミカはキリッとした表情で腕組みをして壱の方へと身体を向けた。フワリと揺れる黒い髪が妖艶さを醸し出す残念な美人だ。
「出た後…というか私は社から出てません。落ちました」
「…落ちた?」
「ええ…、まるで床が抜けたような感覚で…」
「なんだお前見た目に反してデブなのかい?いやだねぇ、運動不足の現代っ子は~」
肩をすくめて嘲笑うカラスにミカは「むぅ」と頬を膨らませる。絵に描いたようなあざとさを横目でチラチラ見つつ、耐性のない壱は妙に高鳴る心臓の音に不安を覚えていた。
「カラスさん、これはあくまで比喩です。例えなのです。決して私の体重がどうという訳ではなく、床が抜けて下に落ちるような感覚がしたということなのですよ」
「そうだよ、カラス。ミカさんが重いわけないだろ?見た目でわかるよ」
「えっ!?さり気なくセクハラですか壱さん?私の身体をじっくりねっとり鑑賞会だなんていつの間に開催されたのですか?びっくりだ!」
「助け舟出したのにまさか濡れ衣着させられるなんてっ!」
「まぁ、冗談はさておき。私が床に落ちた感覚のあと気が付いたら、壱さんたちと出会った林の中に居たのですよ」
「…本当にかい?」
カラスは顎に手を当て訝しげな表情をミカに向ける。疑いではなく、納得するための確認といった問いかけにミカは無言で肯く。カラスの放つ雰囲気に当てられ、室内は緊張の糸が張り詰める。
さすがのミカも空気を悟ってか、無駄口は叩かず間を埋めるようにぬるくなったお茶を飲み込む。
―――しばらく押し黙って思案していたカラスがおもむろに口を開いた。
「ねぇ、もしかしてだけどお前って…」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!!
カラスの言葉をかき消す大音量が室内に響いた。
何者かが扉を叩いている音だ。
古く薄い木製の扉は今にも壊れそうになりながらも繰り返される衝撃に耐えている。
壱、ミカ、カラスそれぞれがそれぞれの様子を確認し、誰ともなく扉へと視線を移した。そんな数瞬の間を空けて扉の向こうから低くくぐもった声が届いた。
「ノコノコォ、ノコノコは居るかぁ?」
壱はもう一度二人の顔を確認すると、警戒しつつも腰を上げ扉から少し離れた場所に立った。
「な…何者だ?」
「あぁ、居たかぁ。話が聞きてぇんだぁ」
「話し?…なんの話だ?」
「んあぁ、神の国の掟についてだなぁ」
「掟だと?」
「あぁ、この国に人間が迷い込んだかもってぇ話だぁ」
壱は喉の奥が熱くなる感覚を覚え振り向いた。ほぼ同時にカラスも振り返った。
串に残っていた団子に噛み付くミカと目が合った。
「…なんですか?」
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