上 下
9 / 32

9話 中間管理カラスさん

しおりを挟む
 主の気持ちを熱心に感じ取って元気に高鳴る鼓動を収めるためか、壱はブルーシートから離れて木に寄りかかって遠くの盆明かりを眺めている。
 哀愁漂う彼の背中に気付いたミカは心配そうにカラスに視線を流した。


「壱さんはどうかされたのでしょうか?もしご気分が優れないようなら、すぐにでも私が介抱をしてあげたいのですが…、大丈夫ですよ、こう見えて私はボーイスカウトという存在を見聞きしたことがありますし…」

「にわか知識の生兵法ってレベルでもないど素人じゃないカーッ!」


 何故か妙にやる気に満ちて、壱の元へ行きそうなミカの手を引いて押さえ込むカラス。そんなカラスの姿をまじまじと見つめたミカが小首を傾げた。


「あの…カラスさんつかぬ事をお聞きしますが?」

「無駄無意味に言葉をろうさないなら答えてあげるよ…」

「はてさて…、無駄無意味とはどういう点を指しているのでしょう?私は全ての言葉に敬意と責任を込めて、自分のなかで吟味に吟味を重ねた上で言の葉に乗せて世界へ届けてみたいと常日頃考えているのですよ。ええ…あくまで目標として」

「そういうとこだよっ!質問があるならさっさとしてくれ!」


 荒れるカラスの語気を意に返さず、ミカはゆっくりとした口調で応じる。


「カラスさんの背中からまるで羽のようなものが生えて見えるのですが、それはコスプレですか?飾りですか?ちぎってもいいですか?」

「ちぎんなっ!これは正真正銘ボクの背から生えてる立派な羽なんだよ」

「…羽が、生えてる?まさかこんな立派な羽が生えてるなんて…カラスさんは何者なのですか?ちなみに本当にちぎっちゃダメですか?」

「お前のその加虐精神はなんなんだよっ!?…ボクはこう見えて神の一人さ。本来ならキミみたいな子とは出会うことも話すこともないんだよ」

「…神?本当に神様なのですか?」


 カラスの一言にさすがのミカも戸惑いを見せる。やっと優位に立てたのだと、カラスの表情も得意気に色合いを変えて、それっぽく振舞う。


「そう、神だよ。少しは敬意を持って接してほしいね」

「で…では、あの…お願いをしてもいいでしょう神様?」

「しょう神様って言うな…。一応、聞くだけは聞いてあげるよ」

「この出会いに乾杯しましょう。このブレンド水で」

「こんなクソ不味水を捧げんなっ!」


 カラスは叫び、そのまま大きく息を吐いた。


「カーッ、もう疲れたよ」

「なるほど、神ともなると日々のお仕事の疲れがあるのですね?しかし…神様の仕事ってなんでしょう?人を殺すとか?ギリシャ神話なんかでは悪魔よりよっぽど神のほうが人を殺してるようですし…。なんてクソなんだ神って、許せませんよね?」

「お前の相手に疲れたんだよ…」


 カラスの声から生気が薄れ、とぼとぼと壱の元へと進んだ。


「もうボクはあいつが何者でもいい…一旦、帰ろうよ」


 カラスの言葉に壱はギョっと目を見開く。


「か…カラスよ、それは困るぞ。俺としてはせっかく出会えた人間ともっと交流を深めたい…」

「だったらキミが勝手にやってくれよ…ボクにはもう手が付けれらない」

「いや…そうしたいのはやまやまだが、彼女を前にするとどうも言葉が出ないというか…妙に心臓の辺りに痛みが走るのだ…原因不明の病気だろうか?」


(あ、こいつ…童貞こじらせてる上に、長年積み重ねたコミュ障っぷりが覚醒してる…)


 暗い林の中、デカイ図体を木陰に隠してもじもじする様は異様を通り越して恐怖である。カラスは頭を乱暴に掻き毟って呆れるが、壱はそれどころではない。


「頼む、もう少し彼女と交流して人となりを探ってくれないか…その上でさり気なく俺の存在をアピールして、違和感なくとと…友達になれるように場を仕立てて欲しい」

「お前も面倒くせぇなっ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...