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4話 ヒトと神の時間。

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「なぁ、カラスよ…」


 歓楽街のネオンや祭囃子の喧騒を目前に届いた頃、壱は立ち止まった。ヒビの入った朱色の鳥居を抜ければどんちゃん騒ぎの魑魅魍魎…百鬼夜行の様相を呈している。


「お前は願いを聞いてくれると言っていたよな?」

「聞くだけならね。それは神の仕事の一つだよ」

「だったら俺は…人間に会ってみたい…」


 壱の声はいつも通り冷静で淡々としていた。しかし、その中にある悲痛な感情にカラスは気付く。
 この世界には数え切れないほどの神が居る。全てが神だといっても良い。

 しかし、人は居ない。
 早くに両親を無くし、ノコノコと呼ばれる壱を除いてただの一人も…。

 カラスはそんな壱をずっと支え、育ててきた。わが子同然の壱の願いは叶えてあげたいと思った。
 それでもカラスが送る返答の色合いは良いものとはいえない。


「ダメだよ。いや…無理と言ったほうがいいのだよ」

「…どういう事だ?」

「神の国には神の国のルールがあるのだよ。人間は人間の世界に居なきゃいけないからね」

「だったら俺は!」


 少しだけ語気を荒らす壱に、カラスは申し訳なさそうな目を向けた。


「キミは特別なんだよ。わかるだろ、ノコノコ?」


 例外というのはどこにでも存在する、だが例外当人にしてみればそこが必ずしも生きやすい場所でない事は往々に存在しうるのである。それを知っているからこそカラスは、彼に必要以上の言葉は掛けなかった。


――掛けれなかった。


「…ああ」


 賑やかな音色に掻き消えるほどの嘆息に似た返事を置いて、壱は歓楽街を背に歩き始めた。灯りに照らされて伸びた影のあとを追うように。カラスはその背にわざと温度を上げた声を投げる。


「か、カーッ!なんだいなんだい、いつにも増して暗くって!」

「…ほっといてくれ」

「なんだって人になんか会いたいんだよ?探せば僕みたいな人型の神だってごまんと居るんだよ?暗く引きこもるより仲良くなって、楽しく歌った方が何倍もお得じゃないか!」

「あんな傲慢で自分が中心みたいな連中と仲良くなんか出来るか」

「仕方ないだろ、腐っても神は神なんだよ。ちなみに便所とかゴミ捨て場みたいな汚い腐ってそうな場所の神は、意外とキレイ好きなんだよ」


「なんだ、その豆知識は…」



 凸凹の影が並んで歩く。冷たくあしらうようでいて、小柄なカラスに歩幅を合わせる壱。それを知ってか知らずかおしゃべりなカラスは、自信に満ちた無駄なお喋りで元気付ける。



「ほら、僕らも仲良く出来ているんだよ。だったら別の神とも縁を広げるのは悪い事ではないだろ?」

「人と神は同じ時間を生きていないだろ?」


 壱の呟きにカラスはハッと隣を見上げた。見慣れたその横顔は自分と違って多くを語らない。


 人には寿命があり、有限の時間を生きて、そしていつかは必ず死を迎える。
 しかし、神は違う。神は生きてはいない そこに在るだけなのだ。悠久の時の中に在る存在こそが神なのだ。


 自分より小さかったはずの壱をカラスは見上げていた。
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