上 下
22 / 26
第二章

第三話②※

しおりを挟む
「クルト……はやく触れたい」

 耳に流れ込む声はクルトの熱を煽る。特に性器は火がついたようだ。どう振る舞えばディートリヒを騙せるのか。体の反応を隠さずさらけ出してやればいい。クルトは自分の乱れた姿を恥じらい、淫らさを引き出したディートリヒに怒りを向ければいいのだ。怒りで身を震わせ、しかし快楽に呑まれるクルトが漏らす言葉は、真実に聞こえるだろう。
 ディートリヒの手はクルトのズボンが押し上げられている場所を遠慮がちに撫でている。

(お前を見下ろして笑ってやるよ)
「う、んん……体、熱い……俺、俺も、っはぁ」

 ディートリヒは呼吸を荒げてズボンの前たてのボタンを引きちぎった。綿の下着に触れた指が一瞬止まる。

「今日はいつもと違う形なのだな。これも清楚で……魅了される」
「はぁ、あっ、娼館で……あんなガキの履くもん、ん、うっ、馬鹿にされるっての」

 いつもの下着は前面は最低限しか隠れていないし、そのほかは紐だ。情けないのであまり人目にさらしたくない。今はももの半ばまで覆う白い綿製の下着を履いている。
 ディートリヒがクルトの胸を覆う左手を左右に滑らせた。両方の乳首が潰され、クルトは息を呑んだ。

「っく、ああ……」
 
 腰をくねらせ喘ぐクルトの下着の中にディートリヒの手が入り込む。指先は淡い茂みをくるくると撫で、竿の付け根を軽く叩いた。それだけの刺激でクルトの皮膚はすべて粟立ち、感覚は鋭く尖っていく。包皮が受ける快感も強まって、根元近くをさすられるだけでめまいがした。

「ぅあ、ふ、うぅン……半端に、触んな、っん」
「クルト。もう気持ちがいいのか? これだけで……なんともはや」
「言うな、やっ、やだ、やめろ……は、あぁ、くぅ、う……」

 クルトの体は快感に溺れることを恐れたのか、ディートリヒから離れたがる。距離を取るとより乳頭が潰されて気持ちよさが増した。焦った爪先は床を蹴ろうと試みて、床材の表面を撫でるだけで終わる。ディートリヒの指先はクルトをからかっていた。乳輪をこすり、張り詰めて伸びた包皮をつまもうとしている。
 クルトはもっとディートリヒに体を預けて、煽ってやりたい。なのに体を制御できない。

「ん、ふあっ、なんで、できない、っい、あ、ああ……」
「クルト、すまないが休憩は取れそうにない。騎士として前言を翻すのは不名誉なことだが」

 ディートリヒは胸から腰に手を移した。クルトの薄い腸腰筋を握りしめ、深く腰掛ける。クルトの背中はディートリヒの胸と密着し、足は床につかなくなった。ディートリヒの胸板は力がこもっているのか硬く引き締まっている。腰に回された腕もそうだ。

「仕方あるまい。クルト……君のせいでもあるのだから」

 クルトの陰茎はディートリヒの指と手のひらの中にたやすく収まった。ディートリヒの握る力は弱い。しかし、隙間もなくクルトの屹立に寄り添っている。クルトの竿はディートリヒ手の中にあり、顔を見せるのは色づく先端だけだ。
 敏感な表面をぴたりと覆われて、クルトはディートリヒの手指にタコやマメがないことに気づいた。武器の扱いを心得ているためか、力の流し方が巧みなためだろうか。厚みがあって柔らかい。その手がクルトの下着の中でゆったりと動いた。

「ン、ふ、っあ……う、す、好き……ぅうう、あ、……っは」
「クルト。どのように“好き”なんだ?」

 動きは単調だが、ディートリヒの手の内側は複雑に膨らみ、窪んでいる。柔らかい隆起はクルトの下腹部に切なさをもたらした。向きは違うが、ディートリヒを妬むと込み上げるものに似ている。

「ぅあ、ああぁ~~……切ない、感じ……っくぅ……好き、好きだ……お前の」
「ディートリヒ、だ。ほらクルト……」
「ん、好きだ……ディートリヒ、あっ、ああ……」

 ディートリヒは喉の奥で笑い、左手をクルトの腰から腹へ、腹から胸へと這わせていく。クルトの肌と肉は軽い接触にも強い快感を示した。乳頭をほじられて快感は急激に高まった。胸から全身に甘い痺れが広がっていく。

「ん、ん……っはあ、あ……うあっ!」
「クルト。上も下も触れられると……なにを“好き”になる?」

 興奮を押し込まれて勃起する性器に、甘い痺れも加わったのだ。吐精したい。痺れを味わいたい。精液が尿道を駆ける快さに身を任せたい。この甘さに浸っていたい。鈴口から快楽を噴射したい。ディートリヒがもたらす熱に呑まれたい。クルトが切り替わる快楽に翻弄されていると、ディートリヒの手が止まった。

「君はいい子だ。だろう? さあ、答えてくれ」
「はっ、は~~っ、はあ、はぁ……ふ、うう……」
「教えてほしいんだ。ほら、クルト」

 ディートリヒは手の圧をゆるめてクルトを焦らす。

「クルト、クルト……かわいいクルト」

 クルトはディートリヒの手が作った肉筒に腰を打ちつけた。胸への刺激がやんで、射精欲が沸騰している。ディートリヒは問いを繰り返すかわりにクルトの耳介を食んだ。軟骨は整った歯並びにとらえられ、熱い舌先にねぶられる。クルトの快感は絶頂の始まりに到達した。陰嚢は迫り上がり、クルトの腹部はのたうった。ここまで来ればディートリヒに邪魔されずに達せる。粘液が尿道を通る。快感に備えると、ディートリヒが乳首と乳輪を扱きあげた。

「ぅあっ! あ、あ……くうっ、は……ん、あ、ああぁ……っ!」

 クルトはディートリヒへ倒れ込んだ。精液をあふれさせる局地的な快楽のほかに、全身を甘い痺れで包まれる快楽があった。

「ディートリヒ……好き、これ……大好き。気持ち、いぃ……」
「君がいい体験をできて私も嬉しいよ。クルト、風呂の用意ができている……終えたら娼館に送り届けよう」

 クルトの冷めやらぬ頭と体は、ディートリヒのその言葉を“罠”と断じた。ディートリヒはクルトを誘い込もうとしている。

(性的にじゃねえけど……コイツは俺に、俺が感じてる顔や声に興奮できる。している)

 クルトは顔を俯けてディートリヒに気取られないようにニタリと笑った。

「もっぺん……」

 ディートリヒの胸に後頭部をつける。笑みをなんとか消して告げた。

「好き……気持ちいい、から。もういっぺん……ディートリヒ、好きだ」

 ディートリヒの瞳は蜂蜜の色に変わる。頬やまぶたは上気して白亜の壁に薔薇を散らしたようだ。ディートリヒはかかとを持ち上げ、ももの位置をゆっくり高くする。クルトの頭とディートリヒの顔が近くなった。クルトが顔を横に向けるとディートリヒは唇を繋げたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】祝福をもたらす聖獣と彼の愛する宝もの

BL
「おまえは私の宝だから」 そう言って前世、まだ幼い少年にお守りの指輪をくれた男がいた。 少年は家庭に恵まれず学校にも馴染めず、男の言葉が唯一の拠り所に。 でもその数年後、少年は母の新しい恋人に殺されてしまう。「宝もの」を守れなかったことを後悔しながら。 前世を思い出したヨアンは魔法名門侯爵家の子でありながら魔法が使えず、「紋なし」と呼ばれ誰からも疎まれていた。 名門家だからこそ劣等感が強かった以前と違い、前世を思い出したヨアンは開き直って周りを黙らせることに。勘当されるなら願ったり。そう思っていたのに告げられた進路は「聖獣の世話役」。 名誉に聞こえて実は入れ替わりの激しい危険な役目、実質の死刑宣告だった。 逃げるつもりだったヨアンは、聖獣の正体が前世で「宝」と言ってくれた男だと知る。 「本日からお世話役を…」 「祝福を拒絶した者が?」 男はヨアンを覚えていない。当然だ、前世とは姿が違うし自分は彼の宝を守れなかった。 失望するのはお門違い。今世こそは彼の役に立とう。 ☆神の子である聖獣×聖獣の祝福が受け取れない騎士 ☆R18はタイトルに※をつけます

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...