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第一章
第三話③※
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「それに、ちょっとばかし面がいいからって……童貞に決まってる醜男を馬鹿にしやがって! ふざけてんじゃねえぞ!」
血管を感情が激しく流れていく。わずかだがクルトは体を動かせるようになった。ディートリヒの手首をつかまえて睨みつける。クルトの目にディートリヒのきょとんとした顔が映った。ますます憎らしい。
「このッ! 大体お前も童貞のくせして、同類を下に見れる立場か! クソがっ! 選り好みして捨ててねえってか?!」
クルトの顔にディートリヒの手が伸びてくる。抵抗もむなしく、両頬はあっさりとつつまれた。ディートリヒのほうけた顔は好戦的な表情へ変わる。クルトは鼻にシワを寄せた。クルトがうなる姿は猫のようでもある。
「なるほど。暴きがいも拓きがいも存分にあるというわけか……まったくもって愉快だ! それとクルト。やはり君はとても愛らしいな。私が君から離されたのは長い長い式典や公務の間だけ」
ディートリヒの顔つきは、今度は王国民の敬意を集めてやまない貴いものへ変化した。慈愛に照らされてクルトはひるんだ。ディートリヒの汚点を見つけて喜び、そして裏切られたように感じる。ディートリヒの美しさを見せられて妬み、ほんの少しの憧れも抱く。クルトに得られないものをディートリヒは持ちすぎていた。強烈な一撃を喰らった気分だ。
「それらを、ただの交友の場だとでも? 貴族の子は……清いままであることがかなわない。かわいいクルト。君とは違う」
「……はぁ?」
「巧者の自負はそれなりにある。そういうことだよ、クルト。ほら、力みを捨てて……」
顔が、ディートリヒの唇がゆっくりと落ちてくる。クルトの口のあたりを目がけて。避けたいのにそれができない。力はたいしてこめられていないのに、クルトはディートリヒの手から逃げられなくなった。ディートリヒの表も裏もあっという間に変わってしまうから、クルトは噛み砕けないでいた。
焦って目をぎゅっとつむると、唇は鼻の頭に落ちてきた。音を立てて離れ、すかさず頬と顎に落ちる。あっさりと唇が離れて、手も去っていった。
「噛まれるのがわかっていて、口づけを試したりはしないよ」
クルトはこわごわと目を開ける。ディートリヒは意地の悪い笑みを浮かべていた。また見たことのない顔をする。式典で親密な貴族の子とやらはどうなのだろう。美しい顔から繰り出されたそれは、舞台の上の悪役のようだ。だがここはベッドの上である。乳首は触られたし、首すじにも痕を残されている。前菜のあとはメインディッシュだ。そして――。クルトはデザートを想像して盛大に顔をしかめる。そう、ディートリヒに怒りを向けている場合ではなかった。
「裂ける……無理……」
ディートリヒはフッと笑った。笑いやがった。また怒りが噴き出してくる。クルトの体はワナワナと震えた。やはりディートリヒは騎士の鑑ではない。それを演じているだけの腹黒い男だ。美しい鞘と使いやすそうな柄のレイピアを抜いたら、とんだなまくらだった。ディートリヒを睨みつけると、薄紅色の唇から舌先を妖しくのぞかせて、それでクルトの右の乳首はくすぐられる。
「……っあ、やめろ、は、あ……ぅうッ」
クルトの肌は他人の粘膜と接したことがない。ちろちろとした軽い動きにも敏感に反応してしまう。ディートリヒはまた少し舌を出してきた。舌の表で舐めあげて、舌の裏で舐めながら降りていく。
舌表面のざらつきと裏面のぬるつきを、クルトは交互に味わうはめになった。舌そのものもねっとりと蠢いていて気持ちがいい。清廉な騎士がこんな手管を持つわけがない。クルトは娼館のそばで幼い頃を過ごした。耳だけは達者だから、そう断ずる。
「うあっ、や、やめ……う、くぅ、あっ、い、いやだ……よせ、とまれ……ンっ」
性器に血が満ちていく。このままだと内側から弾けそうだ。クルトは快感のせいでバカなことを考えてしまった。クルトの息は速くなり、声も徐々に大きくなる。熱が骨盤の内部でどんどん集まっていくせいで腰がひどく重かった。ディートリヒへの相反する思い入れも重みで潰される。ぐちゃぐちゃで元の姿がわからなくなった。
「ぐ、ううっ……は、あぅ、っはぁ、ううゥうぅ~~ッ!」
血管を感情が激しく流れていく。わずかだがクルトは体を動かせるようになった。ディートリヒの手首をつかまえて睨みつける。クルトの目にディートリヒのきょとんとした顔が映った。ますます憎らしい。
「このッ! 大体お前も童貞のくせして、同類を下に見れる立場か! クソがっ! 選り好みして捨ててねえってか?!」
クルトの顔にディートリヒの手が伸びてくる。抵抗もむなしく、両頬はあっさりとつつまれた。ディートリヒのほうけた顔は好戦的な表情へ変わる。クルトは鼻にシワを寄せた。クルトがうなる姿は猫のようでもある。
「なるほど。暴きがいも拓きがいも存分にあるというわけか……まったくもって愉快だ! それとクルト。やはり君はとても愛らしいな。私が君から離されたのは長い長い式典や公務の間だけ」
ディートリヒの顔つきは、今度は王国民の敬意を集めてやまない貴いものへ変化した。慈愛に照らされてクルトはひるんだ。ディートリヒの汚点を見つけて喜び、そして裏切られたように感じる。ディートリヒの美しさを見せられて妬み、ほんの少しの憧れも抱く。クルトに得られないものをディートリヒは持ちすぎていた。強烈な一撃を喰らった気分だ。
「それらを、ただの交友の場だとでも? 貴族の子は……清いままであることがかなわない。かわいいクルト。君とは違う」
「……はぁ?」
「巧者の自負はそれなりにある。そういうことだよ、クルト。ほら、力みを捨てて……」
顔が、ディートリヒの唇がゆっくりと落ちてくる。クルトの口のあたりを目がけて。避けたいのにそれができない。力はたいしてこめられていないのに、クルトはディートリヒの手から逃げられなくなった。ディートリヒの表も裏もあっという間に変わってしまうから、クルトは噛み砕けないでいた。
焦って目をぎゅっとつむると、唇は鼻の頭に落ちてきた。音を立てて離れ、すかさず頬と顎に落ちる。あっさりと唇が離れて、手も去っていった。
「噛まれるのがわかっていて、口づけを試したりはしないよ」
クルトはこわごわと目を開ける。ディートリヒは意地の悪い笑みを浮かべていた。また見たことのない顔をする。式典で親密な貴族の子とやらはどうなのだろう。美しい顔から繰り出されたそれは、舞台の上の悪役のようだ。だがここはベッドの上である。乳首は触られたし、首すじにも痕を残されている。前菜のあとはメインディッシュだ。そして――。クルトはデザートを想像して盛大に顔をしかめる。そう、ディートリヒに怒りを向けている場合ではなかった。
「裂ける……無理……」
ディートリヒはフッと笑った。笑いやがった。また怒りが噴き出してくる。クルトの体はワナワナと震えた。やはりディートリヒは騎士の鑑ではない。それを演じているだけの腹黒い男だ。美しい鞘と使いやすそうな柄のレイピアを抜いたら、とんだなまくらだった。ディートリヒを睨みつけると、薄紅色の唇から舌先を妖しくのぞかせて、それでクルトの右の乳首はくすぐられる。
「……っあ、やめろ、は、あ……ぅうッ」
クルトの肌は他人の粘膜と接したことがない。ちろちろとした軽い動きにも敏感に反応してしまう。ディートリヒはまた少し舌を出してきた。舌の表で舐めあげて、舌の裏で舐めながら降りていく。
舌表面のざらつきと裏面のぬるつきを、クルトは交互に味わうはめになった。舌そのものもねっとりと蠢いていて気持ちがいい。清廉な騎士がこんな手管を持つわけがない。クルトは娼館のそばで幼い頃を過ごした。耳だけは達者だから、そう断ずる。
「うあっ、や、やめ……う、くぅ、あっ、い、いやだ……よせ、とまれ……ンっ」
性器に血が満ちていく。このままだと内側から弾けそうだ。クルトは快感のせいでバカなことを考えてしまった。クルトの息は速くなり、声も徐々に大きくなる。熱が骨盤の内部でどんどん集まっていくせいで腰がひどく重かった。ディートリヒへの相反する思い入れも重みで潰される。ぐちゃぐちゃで元の姿がわからなくなった。
「ぐ、ううっ……は、あぅ、っはぁ、ううゥうぅ~~ッ!」
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