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第一章

第二話③※

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「本当にいい体験だよ。クルトが腹の奥で味わえるものだ。ああ、クルトは扇情的だからーー知っていたりするのか?」

 ディートリヒの言葉が噛み砕けない。

「腹の奥……? 食いもんは……いらねぇ。センジョウーー洗う? どこを?」

 考えていることが口に出てしまった。ディートリヒは歩みを止めて、まじまじとクルトを見つめてくる。そうして、白い歯をのぞかせて平民みたいに笑った。ディートリヒは正気ではない。そう判断したクルトはあがいた。ディートリヒはくすくすと笑いながら強く抱きしめてくる。ディートリヒの分厚い胸板はやはり柔らかく、悪くなかった。上手に淹れた紅茶の香りと爽やかな花の匂いもする。ますます悪くない。クルトは困惑のさなかにいた。

「腹のほうはもう少し経てばわかるさ。扇情的は……今は頭が回らないのか? 本当にクルトは私の性欲をたぎらせるな」
「性欲……」

 クルトの頭には霞がかかっていた。雲の上にいるようで心地がいい。ディートリヒの胸は柔らかいだけではない。内に堅牢さを秘めている。頬を擦り付けるだけでわかる。ディートリヒが触れ、ディートリヒに触れているところは気持ちがよくて素晴らしい。疑問は遠ざかった。良い匂いをもっと嗅ぎたくて、クルトはがむしゃらに体を揺すった。急に、電流のような刺激がクルトの胸から全身に伝わった。

「あっ!」

 クルトは少し目が覚めた。じんとした痺れが残っていて、それがやけに甘い。目で探ると電流の生まれた箇所にディートリヒの指があった。これに体が引っかかったのだ。もっと味わいたい。少し動けばすぐにまた来る。そのはずだ。

「あ、うぅ、くっ……は、ぁ……ん、ぅあっ!」

 情けない声が出る。クルトもそう思うのだから、ディートリヒはなおさらだろう。クルトの醜態がよほど面白いようで、ディートリヒは無言で見つめてくる。ディートリヒの目の色がわからない。だがらそんなもの今はどうでもいい。揺するうちにクルトの体は勝手に震えて、動かさなくてもよくなった。ディートリヒの指がもたらすものはなんだ。絶え間のないこれはなんなのか。今のクルトには思いつかない。

「ふっ、あ、あ……は、んくっ……は、あぅ、うんっ……は、あ、あぁ……」

 ディートリヒの手がいきなりクルトの胸をつかんだ。じんとする場所ではない。ようやく止まったが、クルトの呼吸はとても荒い。体、特に腰と下腹部がじんじんと痺れて辛かった。痛くはないが、もどかしい。頂上を前にして引きずりおろされた。クルトはそんな心持ちだ。

「いけない子だなぁ……クルトは。男は胸で、乳首でそう感じたりしない。だろう?」

 乳首。クルトの頭にその単語が大量に浮かんだ。数拍遅れて、クルトはようやく事態を悟った。クルトはディートリヒが嫌いだ。そう思わせている。そんな男の胸を顔で堪能し、香りを吸い込んで、指に乳首をこすりつけてーークルトはまごうことなく悦んでいた。下品な自覚はあるが、これでは変態だ。ほかの騎士には知られたくない。ディートリヒはなにをしたいのだ。こんな状態のクルトを宴の間に戻って披露でもするのか。ゾッとしない。
 
「ち、違う! 気持ちよくねえ……なってない!」

 そしてクルトは扇情的と言われたことを思い出した。馬鹿にされている。

「誰が、扇情的だ……チビの醜男だからって馬鹿にして、あうっ! う、くぅ……ふあ、うぅッ!」

 ディートリヒの2本の指が交互に乳首を撫でてくる。強弱をつけて、じらしたり、速めたり、とにかくもてあそばれた。シャツの上からつまめるほどクルトの乳首は硬く大きく膨らんだ。ディートリヒの指が生む快感を尖ったそこは素直に拾って頭に送ってくる。ディートリヒの企んでいることがまったくわからない。ディートリヒの真意がつかめない。クルトは喘ぎ声しか出せなくなった。そうなると、ディートリヒはまた廊下を進みだした。
 
「ンん! く、くぅ、ううぁッ! は、んぁ、や、やめろ……」
「ふふっ、先ほどは自分から擦り付けてきたじゃあないか!」
「やめろ、よせ……あ、はァ……ん、くぅっ、あ、あ、や、やめ……うあっ!」

 潰すように乳首を撫でられて、クルトの頭は白く染まった。

「よせ、あっ、はぁ……ン、く、ぅうッ」
「クルトの可憐な胸の飾りがこんなに勃ち上がって……私も気持ちがいいよ。布越しだというのに、見てるだけで達しそうだ」
「あう、は、んっ……俺は、気持ち、よく……ねぇ……は、あっ」
「気持ちよくないのか。かわいそうに……かわいいクルト。半刻ほど愛でればそれも変わるはずだ」
「なにが、目的……だ」

 ディートリヒは春の日差しのような柔らかい笑みを浮かべる。クルトの体は熱くなる一方だが、心は氷につけられたように冷えていく。

「ほら、もう私の部屋だ。愉快な一夜にしようじゃあないか。クルト……」

 爽やかで朗らかなその声がとても恐ろしい。クルトはじっとりとした汗を、背中や脇の下に感じた。
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