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異世界探査計画に参加することになっちゃいました

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 ハンターの3つの能力を説明された大きな競技場、そのトラックの脇に陽佑は転送された。
 討伐戦の後、陽佑は制度初の最低評価Eをもらってしまった。
 D以下のマイナス評価を付けられてしまったものは、補習を受けなければ次の討伐戦に参加できない規則になっている。
 陽佑は討伐戦の後すぐに補習を受けることを選択、そして会場となるこの仮想空間に転移してきたのだ。
 トラックの脇にはすでに何人かのハンターが転送されており、皆一様に暗い雰囲気を出していた。
 そんな彼らの前に一人のオジサンが立っていた。
 短髪ジャージ姿だが目が釣り目気味で口を真一文字に引き締めており、手には竹刀を一本持っている厳しそうなオジサンだ。
 そんなおじさんから低い声で言葉が響く。

「全員集まったな」

 その言葉を合図にトラック脇にいるハンター全員の視線がオジサンに集まる。
 オジサンは気にせず、トラックの端から端まで届くような声量で全員に指示を出した。

「全員整列!!」

 陽佑はそのあまりにも大きな声にビックリしてしまい反応が遅れる。
 だが他のハンター達は慣れているのか、その言葉と同時にサッと列を作った。
 陽佑も慌てて列に並ぼうと動き出すが、オジサンがそれよりも早く竹刀を地面に叩きつけ、バシン! と大きな音をとどろかせる。

「遅いぃ! さっさと並べ!」
「ひい!!」

 陽佑はその迫力に半泣きになりながら、必死に足を動かし列に並んだ。
 オジサンは全員が列に並んだのを確認した後に、よく通るはっきりとした声で自己紹介し始める。

「初めての奴もいるから自己紹介をしておく。私は土方十三(ヒジカタジュウゾウ)、今回補習の担当になったものだ」

 そこでいったん言葉を区切り全員を見回す土方さん。

「本補習の目的はハンター達が無茶な突出やリジェクトの多用など、危険な戦い方をするのを防ぐことだ。確かにハンターは肉体的にはダメージを受けないが、精神的なダメージやストレスは現実と変わらずに受ける。無茶な突出やリジェクト時に受ける怪我やプレッシャーは、ストレスとなってハンターの精神を確実に蝕む。ゆえにこれを防ぐために本補習を行っている」

 そこで土方さんが分かったなと、聞いてきたので陽佑ははいと緊張しながらはっきりと答える。
 だが他のハンター達はイエッサーと出だしをそろえて答えた。
 陽佑がしまったと思ったときにはもう遅く、土方さんは竹刀を地面に打ち付ける。

「返事の後にサーをつけろ! サーを!!」
「イエッサー!」
「返事が小さい!」
「イエッサー!!!!!!」
「よしまずはトラック10週からだ。ついてこい!」
「イエッサー!!!!!!」
(もうやだ! 早く終わって。早く終わって。早く……)

 陽佑はあまりに激しいテンションについていけず、何も考えられなくなる。
 ただひたすら時が過ぎるのを願いながらトラックを周回しはじめた。



 陽佑は何もできずぐったりと突っ伏していた。
 ここはロビー内にある仮想空間の一つで、この空間内ではハンター達が無料で土地を借りられる。
 そして自分の好きなようにショップを経営できるため、雑多な雰囲気が空間内にはあった。
 ショップで売られているものはハンター自らが作った仮想の食べ物だったりデザインした武器、衣服だったりとさまざまだった。
 その中の一つ落ち着いた雰囲気の喫茶店、そこに置いてあるテーブルの一つに陽佑は体をだらしなくあずけていた
 この喫茶店は勇海と癒陽が二人で経営していると、二人から別れ際に教えてもらえたのだ。
 陽佑は補習で消耗しきった精神を癒すためにこの喫茶店に来ていた。
 そんな陽佑に可愛いウェイトレス姿の癒陽が紅茶を出し労ってくれる。

「はい、補習お疲れ様。これ最初の一杯は無料だから飲んでいいよ」
「ありがとう、癒陽さん」
「苗字じゃなくて名前でいいよ」
「わかった。それじゃあ春奈と呼ぶね。かわりに僕のことも名前で呼んでいいから」
「わかったそれじゃあ陽佑君ね。これからもよろしく」

 そう言って明るく微笑んでくれる春奈に見とれる。

(春奈は優しくていいお嫁さんになるよ、なんてねー)

 ウェイトレスのスカートのヒラヒラした部分と、その合間から見える白い布に包まれた足に見とれながら、そう言葉に出そうとする。
 だが不意に背筋が寒くなるのを感じた。
 見るとウィエイター姿の勇海が、笑顔で殺気を放ちながら春奈の隣に立っている。

「あんまり人の足をジロジロ見るのはよくないと思うぞ」
「イエッサー。すみませんでした」

 陽佑が命の危険を感じ脊髄反射で返答する。
 すると春奈が勇海を優しく語りかけるように窘めた。

「もう、直家君ちょっと色目で見たぐらいで嫉妬しちゃだめだよ」
「いや別に嫉妬したわけじゃないぞ!」
「大丈夫だよ。私は直家君のことが好きなんだから。他の人のところになんていかないよ」
「春奈……」

 陽佑は二人が付き合っていることを確信した。
 そもそも二人だけでお店を出している時点で、ある程度察していたのだが。

(別にうらやましくなんてないんだからね!!)

 ジト目で二人を見ていると、勇海が先に現実に戻ってきて咳払いする。

「俺のことも直家で大丈夫だから。よろしくな陽佑」
「わかったよ直家」

 そこで直家が話を区切り、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、と真面目な雰囲気で話を切り出してきた。

「俺たちと一緒に異世界探査計画に参加しないか?」
「異世界探査計画、って何?」
「知らないの? 毎日ニュースでやっているよ」

 そこで陽佑は個室にいるため、自分が見たいもの以外をテレビでつけるわけがないことに思い至る。
 ニュースを見ていない自分が恥ずかしくなったが、素直に知らないことを伝えることにした。

「ニュースはあまり見ないから。そういうの知らないんだ」
「俺もあんまり見ないほうだけど、せめてハンター関係のものは見たほうがいいぞ」
「異世界探査計画はね、最近日本の近くに転移してきた大陸を調査する計画なの」
「転移してきた大陸!?」

 曰く、いま日本がある場所は別世界の星の上というよりも、異空間の中なのだそうだ。
 転移した直後この異空間の中には日本と、別の世界から転移してきたもう1つの島しかなかったらしい。
 しかし、最近になってさらにいくつかの大陸が転移してきたので、中学~高校生のハンター達と引率者によって、その大陸にある都市を探査しようとする計画だった。

「でも何で少年のハンター達なの?」

 その疑問に春奈が優しく答えてくれた。

「それくらいの子なら相手に警戒心を与えないだろうってことらしいよ。あとマテリアルプロジェクターを使って投影したハンターなら移動の手間が省けるし」
「それでそのハンターの募集に俺と春奈で応募したら見事に受かったんだ。だけどできるならハンターの数は3人で1チームにして欲しいって言われてて」
「それで陽佑君を誘ってみたんだけど。どうかな興味ある?」

 陽佑は二つ返事で参加を表明した。

「異世界の街に遊びに行けて、新しい友達も作っても大丈夫ってことだよね。それに強い魔獣と戦えてハンターとしての評価も上がるだろうし、絶対参加したい!」
「よかった、陽佑君ならそう言ってくれるんじゃないかなって思ったの」
「ただ、一つ条件があるんだ」

 そう直家が声のトーンを落とす。
 陽佑はその言葉に不安になり、条件を詳しく聞こうと二人に問いかける。

「条件って何かテストでもあるの?」
「いやちょっと違うんだ。何というか……」
「引率者の人がかなり厳しい人なの」
「つまり引率者の人に認められないと参加できないってこと?」

 陽佑は自分の今のランク、Eランクであることを思い出し不安にかられる。
 だがその陽佑の問いにも直家は歯切れの悪い答えを返す。

「いや、ハンターである俺と春奈が同意すれば、一応は参加しても大丈夫なんだけど」
「なんだ、なら大丈夫ってことだよね! 楽しみだな異世界」

 陽佑はまだ見ぬ世界がどんなところか想像し声を弾ませる
 そこで春奈と直家が陽佑の後ろを一瞬見て、急に焦ったような声で陽佑の言葉を止める。

「でもね陽佑君、決める前に引率者の人に話だけはしておいたほうがいいと思うの」
「そうそう、やっぱり俺たちだけで決めて、一方的に連れていきますじゃ納得しづらいと思うからさ」
「大丈夫でしょ、直家も春奈もAランクのハンターなんだから。きっと相手もすぐに納得してくれるよ」

 陽佑は自分のランクを棚上げして、二人のランクなら大丈夫だと勝手に決めつける。
 そんな陽佑に背後から冷たい声が浴びせかけられた。

「勝手に話を進めないでほしいのだけど」

 陽佑は驚き、声の主に振り替える。
 そこには背格好が大学生ぐらいの和服の女性が立っていた。
 目つきは鋭く、歴戦の武人のような雰囲気をまとった女性だ。
 その厳しそうな女性が眉に皺を寄せて、陽佑をじっと見つめていた。
 その女性はゆっくりと、陽佑とテーブルをはさんだ正面の席に座る。
 その間女性は口を広くことがなかったため、4人の間に妙な沈黙が横たわった。
 陽佑は意を決して直家たちに女性のことを聞いてみる。

「直家、この女性は?」
「さっき話した引率の人、飛龍さんだ」

 そこで先程まで沈黙していた飛龍が自己紹介をしてくれる。

「異世界探査計画で勇海直家君と癒陽春奈さんを引率する飛龍です」
「はじめまして、直家たちと一緒に異世界探査計画に参加することになった相川陽佑です」

 その話を聞いたばかりで、事情を知らない飛龍の目つきがさらに険しくなった。
 その様子を見ていた直家と春奈が、さらにアタフタし始める。
 飛龍はそんな二人に対して目つきはそのままに、質問をぶつけた。

「どういうことかしら春奈、私は何も聞かされていないのだけど?」
「今日ここで、話そうと思ってお呼びしたんですよ。陽佑君を誘ったのもついさっきですし」
「でも、彼はもう決まったことのように言っているけれど」
「それは……」
「たしかにハンター側のメンバーを決める権限は、私たちヴァルキリー側にないわ。それでももっと前の段階で、一言あってしかるべきではないかしら」

 そこで陽佑は聞きなれない単語が出てきたため疑問をていする。

「ヴァルキリーって?」
「ヴァルキリーのこと知らないの、陽佑君」

 春奈が驚いた表情で聞き返してくる。
 だがその中で飛龍だけは冷静に言葉を返した。

「直家、彼は転移後のニュースに疎いと思うから、説明してあげて」
「……はい、わかりました」

 直家はなぜそんなことを飛龍が知っているかのように振舞うのか、疑問に思いながら陽佑に説明し始める。

「ヴァルキリーは白霊軍ていう強力な魔獣に対抗するために、異世界で作られた女性達なんだ」

 その異世界では白霊軍という強力な魔獣達によって、いくつもの国が滅ぼされていたらしい。
 白霊軍は強力なうえ通常兵器が効きにくい結界を張っており、それまでの軍隊では打倒するのが難しかった。
 そこで生み出されたのがヴァルキリーという女性たちだそうだ。
 ヴァルキリーたちは戦闘艦が持つ装甲並みに耐久度がある結界を張れる。
 しかも戦闘艦並みの火力を持ち、放った砲弾などは白霊軍が持つ結界を、貫通しやすいような魔力をまとっているらしい。
 そんなヴァルキリーたちの拠点がある島、豊来島がこの異空間に日本とほぼ同時に召喚されたらしい。
 しかし、豊来島はあくまでヴァルキリーたちの拠点があるだけで、食料などは本土からの輸入に頼っていた。
 このままだとすぐに物資が尽きてしまうことから、豊来島は日本に自らすすんで編入される。
 今は島全体が高度な自治を持った1つの州として存在している。
 そして豊来島が日本に編入されたことで、ヴァルキリー達は防衛省の指揮下に置かれ、自衛隊と協力して魔獣を討伐しているのだ。

「つまり世界を救うために作られた英雄達ってことだね!!」

 陽佑はキラキラした目を飛龍に向ける。
 向けられた当の本人はそんな視線を気にせずに、頼んだ紅茶を静かに飲み続けた。
 直家はそんな陽佑を微笑みながら見つめ説明を続ける。

「ヴァルキリーの中でも飛龍の成り立ちは特別なんだ」

 飛龍の何が特別かというと、前世を持っているということだ。
 しかも飛龍の前世は大日本帝国海軍の空母飛龍であったらしい。
 飛龍の話だとミッドウェー海戦で撃沈された後に、気づいたら今の女性の体になり、ヴァルキリーたちがいた異世界に召喚されていたらしい。
 そこで飛龍がヴァルキリーとして転生したことと、その異世界の現状を教えられ、白霊軍と戦うことをお願いされたらしい。
 飛龍はそのことを了承し、白霊軍を撃退し異世界に平和をもたらした。

「そんな飛龍たちが引率してくれるんだね」

 陽佑は世界を救った英雄と一緒に、異世界の探査に向かえるという事実に心を躍らせた。
 だが飛龍がそんな陽佑に待ったをかける。

「待ちなさい。私はまだ了承した覚えはないです」

 陽佑は不満げな声を上げながら、どこがダメなのか飛龍に尋ねる。
 すると飛龍は何のためらいもなく

「経験不足だからです」

 そうバッサリと切り捨てた。
 その取り付くしまもないような物言いに陽佑は思わずひるんでしまう。
 見かねて春奈と直家が陽佑を擁護する。

「たしかに陽佑君はハンターとしての経験が不足しています。けど今回の異世界探査計画にはハンターとしての経験は問わないはずですよね」
「ハンターとしての力より現地の人と交流できる、コミュニケーション能力が重要だって話ですよね。陽佑はその点前向きで、誰とでもすぐにうちとけられていいと思うんですよ」
「そうね、だけど当該地域で起きている魔獣災害を解決し、信頼関係を構築することも任務のはずよ。だからこそハンター達から募集選抜しているのだから。ハンターとしての力量は絶対に必要ではないけれど、あるに越したことはないわ」

 二人が説得してもかたくなに拒み続ける飛龍。
 そんな二人に代わって今度は陽佑が飛龍にこんがんする

「ちゃんと足手まといにならないようにこれから特訓します。だから僕も探査計画に連れて行ってください」
「だったら勝手についてくればよいでしょう、ヴァルキリーに拒否権はないのだから。直家と春奈が承諾するのならば、私が認めなくても参加できるでしょ」
「そうだとしても、ちゃんと飛龍にも認められて参加したいんだ」

 そう言いながら陽佑が頭を下げる。
 しばらく飛龍が考えた後に、含み笑いをしながら陽佑に顔を向けた。

「わかりました、そこまで言うのなら試してあげましょう」
「試す?」
「はい。私と実戦演習で勝負して勝てたら認めてあげましょう」
「本当ですか!?」

 陽佑はこれで認めてもらえると素直に喜んだ。
 だがその挑発を直家と春奈が慌てて止める。

「ちょっと待ってくれ! 飛龍はヴァルキリーなんだぞ、それも正規空母の」
「ハンター1人で挑んで勝てるわけないわ」

 そこで陽佑は先程の説明を思い出す。
 ヴァルキリーは強力な白霊軍と戦うために生み出された存在だ。
 まだ実際に戦っている姿を見たことがないが、それでもハンター1人で戦えるような存在だとは思えなかった。
 そこに飛龍が自ら助け舟をだす。

「無論私が艦載機を使ったら勝負にならないでしょう、なので私は艦載機を使いません。艦体に直接ついている対空砲火と格闘武器のみで戦います。これなら新米ハンターさんでも勝ち目はあるでしょ?」

 そういって飛龍は挑発するような目線を陽佑に向ける。
 陽佑はその目線を受けてもひるむことはなかった。

(手加減はしてくれるようだし、なにより試されているんだ。頑張ろう!!)

 と逆にやる気を出しながら飛龍の目を見返す。

「たしかに陽佑でもその条件なら勝ち目はあるけど……」
「陽佑君本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。飛龍、演習よろしくお願いします」

 そう言って陽佑は飛龍に手を差し出した
 その手を飛龍は表面的には微笑みながら、目の奥で何かを企んでいるような顔で握りかえした。

「こちらこそ、よろしくお願いするわ」
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