【R18】快楽の虜になった資産家

相楽 快

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ランチの流儀

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 昼になった。
 チョコは午前中の契約なので、シャワーを浴びて帰っていった。
 午後から大学の講義があるらしい。

 昼飯は、一日の食事で最も豪華にすると決めている。
 理由は二つ。
 一つ目は健康面。寝る前に食べすぎると、消化が睡眠を妨げたり、消費できなかったカロリーが脂肪になってしまうから。
 二つ目はコスト。同じ肉なのに、なぜかディナーだと倍以上の価格になってしまう。
 ランチは最高だ。

 私が勤め人だったころは、昼休みが一時間しかなく、食事はせわしないものだった。
 一時間といっても、会社のフロアから一階に降りるだけで五分もかかり、店まで歩くので、実質30分程度しか食事の時間はない。
 従って、ランチを優雅に味わって食べるなど土台無理な話なのだ。

 ところが今は、安定した株の配当金があり、働く必要がないので、ゆっくりとランチができる。

 今日は駅近くのイタリアンにきた。
 ランチコース1500円、珈琲をつけても2000円とリーズナブルだ。
 前菜、スープ、メイン、デザートを好きなものが選べる形式だ。

「今日の魚はなんですか?」
「今日は、サーモンのクリームソテーです」
「いいですね。それでお願いします。」

 13時を過ぎると、店内は非常にゆったりとした時間が流れる。

「すいません、ビルエバンスをかけてもらえますか」
「承知しました」

 ここは、レコードが大量にあり、店が空くと好きな曲をかけさせてくれる。
 レコードに針が落ちると、店の雰囲気がガラリと変わる。
 ピアノジャズが、食事のリズムを穏やかにしてくれる。
「こちらはサービスです」
 目の前にはデミカップに注がれた、香りの強い液体が波打っている。
「あの、これは」
給仕に話しかけようとしたら、奥からシェフがやってきた。
「お客さん、よく来てくれるし、毎度美味そうに食べてくれるから、サービス。それ飲むと消化もいいし、肝臓も休まるよ。牛黄とウコンが入ってる。味も調整したから飲みやすいよ」

はぁ、と言い、グイッと飲む。
不味くはないが、美味しくはない。喉が熱くなる。
すぐに水を飲むと、シェフがグラスに新しい水を注いでくれる。

「お節介だったら悪かったけど、長く来て欲しいからね。僕昔、漢方やってて、ちょっと詳しいんだ。顔色良くないし、白目も黄色味が強い。肝臓が良くないと思って」
「ええ、その通りです。昔から肝臓が良くなくて」
「そしたら、牛黄はいいよ。ドラッグストアにも売ってるし、習慣にしてごらん。お酒もほどほどにね」
「ええ、お酒はあまり飲まないのですが。NASHと言うようですが、肝臓が疲れてるようなのです」

シェフは自分の肝臓あたりを撫でながら
「肝臓は沈黙の臓器、頑張り屋さんだからな。あったかくして労わってやんなよ。また来てね」

居心地の良い店だった。二時間も長居してしまった。
常連になりたい。

仕事を辞めて一ヶ月。
組織のしがらみを抜けた開放感も落ち着いてきて、最近は孤独を感じることが増えた。
こういう、人と話せる場は大切にしたい。そう思い、店を振り返る。

chinoise

中国の薬、か。そう呟いて、お腹をさすり道を歩く。

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