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異世界↓現世

果たされた約束。

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ガタンゴトン・・・。

響き渡る音と、窓の外に広がる現世の景色。

揺れる体をそっと起こした私は周りを見回して驚いていた。

「あれ・・・。ここは?」

見覚えの有る車内に、中吊り広告。

車内アナウンスは、空港到着時間を知らせる声だった。

私は、バッグの中を急いで確認してあの日、落とした筈の携帯電話を見つける。

日付を確認すると、私が研究室のベランダから落ちた半年前の日付。

目黒悠と会うために約束をした日付だった。

文字盤が示していた時刻は、約束した時間の30分前だった。

私は、一気に不安になり、先輩からの手紙を取り出した。

あの日、私たちは会えなかった・・。

そして、目黒先輩は海外のラボへと旅立ってしまう・・・そんな未来がまた繰り返されるのではないかと胸が苦しくなる。

そんな時だった。

携帯電話がチカチカ光出し、着信を知らせた。

「えっ・・これ、目黒先輩・!!?」

私は、あの日に起こらなかった彼からの連絡に驚いた。

私は、急いでデッキへと走り通話ボタンを押した。

「もしもし・・・。」

「「   ・・神田!?今・・どこ!? 」」

焦った声で、目黒悠は私の場所を聞いた。

「今、約束した空港の第2ビルへ向かってました。」

「「やっぱり、あの日に戻ったんだ。
僕は、気づいたら研究棟の屋上に立っていた。
君の元にすぐに行くから、待ってて!!」」

そう言うと、プツリと電話は切れた。

私は、不安になって次の停車駅で東京駅に引き返す
電車に急いで乗り込む。

会えない過去が胸を過って、身震いをした。

何度も泣いた過去をなぞるのだけは嫌だった・・。

東京駅に着いた私は電車から飛び出すように走り出す。

中央線のホームにダッシュで辿り着いて、電車を待ちながら向かえ側のホームを見た。

到着した電車から、目黒悠が飛び出して走り出した。

「えっ、目黒先輩!?」

私は彼の姿を見つけると、思いきり階段をかけ降りて人混みの中に、目黒悠の姿を捉えた。

忘れたくても、忘れられないふわふわの髪を靡かせて走る彼に大きな声で叫んだ。

「目黒先輩!!・・目黒せ・・。目黒悠っ!!」

ハッと気づいた目黒悠は、驚いた顔で振り返った。

私を捉えた彼の瞳が大きく揺れる。

「先輩・・。今度は、会えましたね。」

私は、涙が出そうな声で雑踏の中で呟く。


「神田!!」

童顔の大きな瞳を嬉しそうに細めて、私の方へと駆けてくる。

嬉しくていつの間にか流していた涙で、視界が歪んだまま見上げた。

「先輩・・、私、目黒先輩が好きみたいです。」

「好きみたいって、まるで他人事じゃない?
僕は初めから、君を初めて見た時からずっと好きだったよ。」

クスリと笑った先輩は、私の頭を優しく撫でて抱き締める。

私は、抱き締めた先輩の嬉しそうな笑みを見てくすぐったい、恥ずかしいような気持ちになった。

目黒悠は、目の前の愛しい存在を抱き締めたくて仕方なかったが、なんとか留まっていた気持ちのダムはもはや決壊していたのだった。

ふと、目黒悠の瞳が陰り私を少し離した。

「怖い質問をひとつ聞いても良い?」

私を見下ろす瞳に強い緊張が走っていた。

「なんですか?」

「あのさ、僕と、ランドル=クラリシッド。
君はどちらが好き?」

どこかで聞いたような質問に笑ながら、先輩を見上げる。

「どちらも先輩でしょう。どちらも好きですよ。
もう、そんな事考えてたんですか?
じゃあ、セレーナと私では、どちらが好きです
?」

髪をくしゃりとかいた目黒悠は、少し恥ずかしそうに笑った。

「そんなのどちらも好きだ。
そうか・・。いつの時代に生まれても、君を見つけたら僕は好きになるんだね。
今何となく理解した・・。」

そんな言葉に私は胸が熱くなる。

「2度と離れたくないんだけど・・。
もう一度聞かせて、君はどう思う?」

「・・私も同じ気持ちです。
でも、先輩には研究を続けて欲しいです。
貴方の邪魔にはなりたくないの・・。」

私は、離れることへの不安に胸が押し潰されそうだった。

私は彼の研究を尊敬して応援していた。

絶対に、足を引っ張ることも、引き留める事はしたくなかった。

「神田、来年一緒に行かないか。
半年後の学会でニューヨークのラボが新たな研究を発表する。
君も、僕も興味がありそうなものだった。
ニューヨークのラボを一緒に受けないか?
クロニクルで見た、研究者たちの研究に刺激を受けて・・やりたい研究が少し変わったんだ。
君の先端エネルギーの研究ラボはニューヨークが強い。
今度はやりたいこともやるし、君とも一緒に行きたいんだ。」

「先輩?それ、本気ですか・・?
だって、今回の留学って権威あるラボへ進めるのに・・。」

「ニューヨークでだって、結果を出すさ。
どこでやるかも大事だけど、どこでだって研究はやれるし、僕は必ず結果を出す。
なんてったって、魔術師団の副総長だったんだよ?」

イタズラっぽく笑う笑顔に、私は嬉しくてまた泣きそうになった。

「じゃあ、私も頑張ります。
なんてったって、私は世界の全てを創り、統べる神巫女ですから!!」

目黒先輩は、嬉しそうに笑った。

私たちは笑顔で見つめあい、どちらともなく目を瞑った。

東京駅の雑踏の中で、私たちは深い口づけを重ねた。

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