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シーグラルド公国編

クレアルス神話。

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上の部屋では、ランドルと、アリストラドが深刻な話をしている最中。

階下の食堂には、セレーナと、第3師団団員達と、ジェイデン、グロームスコーピオンの2人が
席に着いてメモを広げていた。

メイデルが分厚い本の数々と、論文の束をバサッと机に置いて、自前の眼鏡を右手で上げる動作を見せる。

賢そうに映るメイデルの講義に、私はワクワクしていた。

「まずは、アヴァの悲劇の解説をするね。」

メイデルは、得意気に前に進み出て説明を始める。

「アヴァは、古代神殿都市「エストラルド」の姫であり、神巫女だった。
神と通じ、世界を創造する力を持つ奇跡の魔力と、美しい美貌を併せ持ち2人の神官を従え、エストラルドの大神殿「ミリスタリア」に君臨していた。
神具の善悪を司る長い鍵矛「アロンダイク」、時空を司る珠「テイルダン」その神力と呼ばれる魔法力と祈りの力で世界を納め、また創造もしていたんだ。

ある時、エストラルドに地上から人がやって来たのだった。

魔術使いのその男に、アヴァは興味を持ち「エストラルド」を案内した。

その際、神具についても話してしまったそうだ。

男とアヴァは互いに想い合う中になっていったそうだが、ある日神具が消え去る事件が発生した。

2人の神官は慌てて探し回り、神具を握りしめ何かを願っていた男を捉えた。

アヴァの目の前に現れた男は、彼女を殺そうとした。
裏切られたアヴァは、テイルダンを取り戻し混乱した心で神へと祈りを捧げてしまう。

絶望した彼女は、神へと「世界の平和」ではなく、「世界の消滅」を祈願し世界の均衡は崩れて天変地異が起きた・・とされているんだ。」

ふむふむ、とメモを書いているが、皆は当たり前のようにうんうん、頷いているだけだった。

少し、周りとの温度差を感じて驚いていた。

私だけ、神話の知識から欠損してる事にショック・・。

この講義を受ける意味は共通理解だから、気になる事は教えてもらおう!

「先生ー、質問です!!
あの、地上からやってきた男・・の下りが気になるんですが。
エストラルドは、まさか・・飛んでいたんですか?」

「そう、正解!!
古代神殿都市「エストラルド」は昔は、空に浮かぶ都市だったと表記された箇所が新たに見つかった。
計算すると丁度、シーグラルド公国の真上辺りを浮かんでいたとされているんだ。」

ここでは、少し驚いている人が数名見えた。

・・・良かった!!

開いて良かった、学びの場!

「カルドリアに原本がある筈の「クレアルス神話」は、我が3国の成り立ちと国がどのようにして生まれ、そこに3人の神が降り立ち世界を作ったとされる各王国の歴史の正当化を謳った書なのだ。
歴史は、後の者が好きなように正当化を行う物だと・・私はそう思う!
この「クレアルス神話」のアヴァの悲劇は、その最たる物だろうね。」

「・・メイデル殿下、大国の王子がそれ言っちゃマズイっしょ!!」

私の突っ込みに、顔を真っ青にしたまま突っ立っていたメイデルは、とても研究熱心で正直な方だと思った。

しかし、歴史は常に勝者の歴史。

アヴァの悲劇に隠された、アナグラムを紐解く必要がある。

「3人の神・・それは現王家の先祖と言う事ですよね。
どうしてその3人が神となったのでしょう・・。
アヴァは神力があった。その3人には何があったのですか?」

「1人は・・そのアヴァの血を受け継いだ子孫だ。
君もよく知っているだろう。アレキサンドライトの瞳を持って生まれてくる姫・・。このシーグランド公国の祖だ。
あと2人はね、神話には書かれていない部分ではあるが。
僕の研究では、神具を持つ者が神として君臨していたと考えられる。

正統な神の血筋は、きっとここ、シーグランド公国に在ると考えている。

しかし、何故・・神具がその2人の神に渡り正当化の歴史が始まったのかはまだ分からないんだ。
自分のルーツでもあるから、知りたいんだ!!」

「そうなのですか、メイデル殿下はそのように考えられて研究をされていたのですね。
それは、辛い思いも、自分の存在についても揺らぐような研究ですよね。
立派に研究を続けられて、素晴らしいと思います。」

ジェイデンは、感動したような表情でメイデルを見つめていた。

「知りたくなる物ですよ・・。
その上で考えたいのです、自分の存在意味を。
だから、私は過去を、そしてアヴァの本当の運命を知る為に、エストラルドに行きたいのです。」

メイデルは、少し悲しそうに・・だけど、決意を持って言った。

ジェイデンも私も深く頷く。

神話を文字通り解釈するのではなく、そこから何かのメッセージを紐解く鍵を見つける為に・・。

「メイデル殿下、古代神殿都市「エストラルド」は何処にあるのですか?」

「実は、この国にあるんだ。
ただし、このマグダリアとの国境の町セオルとは対称の場所。

シーグラルドと、カルドリアとの国境の湖水地帯「アントラーダ」にあるんだ。」

「アントラーダ・・・。そこへはどうやって行けば良いのですか?」

「馬車で2日で着くよ。近いもんだ!!
しかし、すぐそばに、カルドリアには魔術師団がいる。
アリストラドも、攻撃を受けたばかりの彼の回復を待って行きたいだろうけど・・。」


「私はもう大丈夫だ。」

後ろから、低い落ち着いた声が聞こえた。

皆が一斉に振り替えると、階段を下りてくるランドルと、アリストラドが微笑みながら近づいて来たのだった。


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