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異世界

不本意ながら、婚約者になりました。

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目の前には、大きなシフォンケーキ、砂糖がかかったクグロフ、苺のミルフィーユ、
大好物のチョコレートタルト、
その横には、皿一杯の大き目のプディングがプルプルと振えている。
添え菓子には、ふわふわのダックワーズや色とりどりのクッキーが並んでいる。

・・・なんてこった!!
これは、魅惑の国への誘いだわ!!

ランドルの邸で出されるお菓子達は芸術品ばかりだった!

キラキラした目でテーブルの上を見渡していたら、プッと吹き出した男がいた。

「君は、本当にすぐ顔に出るよね?良かった。さっきまでの不機嫌は収まったようだね。」

「そんな単純じゃないわよ。・・もぐもぐ。
そもそも、別に3か月待って入団テストを受けたら、私に受かる魔力があるのに
わざわざ婚約する必要もないでしょうに・・。
貴方の策略に、まんまと騙されたような気がするんですけど?」

「そうだね、君の魔力なら合格するんじゃないかな?
でも、残念だったね。
三か月と言わず、すぐにでも式を挙げて邸に囲って・・二度と離さない計画だったんだけど。」

微笑んだランドルの紅い瞳が、美しいルビーのように煌いている。

「・・・詐欺師。」

大きな緑の目を、更に大きく見開いて怒りを露わにした。
ランドルはティーカップを持ちながら、くすくすと笑う。

「でも、それはフェアじゃないだろ?・・・君の魔力は確かに貴重だ。
その話は、総長のケイレブにも伝えてあってね。
「本人の意思と、魔術師団に入る覚悟があるのなら入団してもらうのはどうか?」
とは言われたんだけど。
君が、そんな話に興味があるとも思えなかったし、君以外と婚約するつもりもなかったから。
魔術師団に入団したいと聞いて、驚いたんだ・・。
君の理由次第では、私が側にいて妻として、ずーっと守ってあげても良かったのに・・。」


「結構です!!自分の身など、自分で守ります。
それで、婚約期間はどれ位の長さに設定するのですか?」

「1年もあれば君は頭角を現すだろうから。そうだね、1年後位に・・結婚しようか!?」

満面の笑みで私に笑いかけるランドルに、生まれて初めて殺意を覚えた。
話が、擦り変わってるし!

「・・・私のお話し、ちゃんと聞いておりますか?私は、仮の婚約者なんですけど!!
どうして結婚する話になるのですか?!頭、可笑しいですよー?!」

「うーん。そんなに、君が結婚したくない理由は?
この国では、16~8歳の令嬢達は出来るだけ身分の高い
男と結婚して、家庭に入るのが女の幸せなんだよ?
行き遅れて、魔術師団にずっといる気?老後は年老いた体で戦うの?」

・・おっと、老後の事は考えていなかった・・!!
さぁっと青ざめた私に、ランドルは言った。

「私なら、地位も、力も、容姿も全部揃っている、いい条件の男だと思うけど?
1年魔術師団に所属して、魔力を強めて戦えるようになったら・・。
もう、自分の身は自分で守れるのでは?一生私が君を養うけど。」

「・・結婚て、自分と相手の気持ち次第でしょう・・。
家柄とか、条件とかで選んだってずっと一緒にいる相手だから、安心感があったり、
尊敬する気持ちがないと長くは笑って暮らせないと思うわ。
そんな相手に出会えた時に・・するものだと思うの。」

私は、結婚なんて考えた事が無かった。

研究が大好きで毎日、実験をして、尊敬する教授の授業を聞く。
同じ院生の仲間と、他愛もない話をして笑う。

そんな日々が楽しくて、充実していた。
・・好きな人はいた。
想いに気づく前に、その人は海外のラボへ留学してしまったのだ。

それからは、誰も好きになっていない。

驚いたような顔で私を見るランドルを、私は不思議そうに見て笑う。
じーっと、紅茶を見つめて何かを考えている。

「そうだね。先ほど言った通り、私を倒す事が出来たら婚約は解消でいいけど。
君が解消したくない!と、思うような男になるとする。
安心感があって、君が私を尊敬できるようになれば自ずと離れたくなくなるだろう?
私が君に感じているように、だ。」

私は目の前の男の言動に驚いた。
どうして、出会って間もない私にそれほど執着するのだろう・・・。

「・・・何でそんなに、私の事を気に入ったの?
貴方の婚約を嫌がったから、意地で結婚しようと思ってるとか?」

「違うよ。分からないけど・・。魂が好きだ。」

「・・・は?!た、魂?見えるの?」

私は、素っ頓狂な声で紅茶を吹き出しそうになった。

「見えないけど、君は美しいよ。勿論見た目もだけど、内にある心が。」

そう言って、嬉しそうに笑んだ。
心からの微笑みに、流石の私もドキッとする。

先ほどの令嬢達なら失神してるわ、これ。

「きっと、また生まれ変わって出会っても魅かれてしまうのだろうな。
何処かで会ったような、君といるとそんな切ない気持ちになる・・。」

私はその言葉を聞いて、ゾクリと体が震えた・・。
あの日追いかけて来た男、私の周りで男性が次々に不幸に見舞われる事態を思い出す。

この人・・・もしや一緒に落ちたストーカーかしら?!
転生して、ランドルに宿っている?

私は、訝し気にランドルを見ていると、彼はニコリと笑う。

「さて、魔術師団にはいつから入団する?」

ティーカップをソーサに戻して、優雅な仕草で私の方へと振り返る。

「あ、明日からでも良いかしら?魔術を一日でも早く勉強したいの。」

「分かった。明日の朝、君の邸に迎えにいくね。・・さぁ、紅茶が冷めてしまうよ。
大好きなお菓子をどうぞ。全部、君の為に用意させたのだから、召し上がれ。」

震える手でケーキを食べていた。
美味しいのだろうけど、咀嚼しても味なんかよく分からなかった。

私の魂が好きで、生まれ変わっても好きになるって?

・・・怖い怖い!!

この人が、一緒に落ちたストーカーが転生した姿なんじゃないの!?
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