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青薔薇の栄光。

マルダリア王城に咲く薔薇。⑥

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カイルが焦ったように、クリスの肩を掴むと尋常ではなく動揺した様子で問いただした。

「えっ・・。うん。アンブリッジ王妃が神獣がこの部屋に入ってくるのに気が付いたみたいで・・。
この部屋に入って来たんだって言ってたけど・・??」


「麒麟が・・。
ユヴェールの母君である伯母上が、ユヴェールの神獣だと
知っていたと言うのか??
便りか何かで知らせてはいたのだろうが・・。可笑しいだろ。
神獣の気配に気づけるなんて相当な神力の持ち主か、使い手であるはずだ・・。」

レオの言葉に、クリスが首を傾げていた。

「えっ、待ってよ!?
嘘だ・・。ちょっと僕の頭が追い付かないんだけど??
レオ、それって・・。どういう事??」

「少なくとも、麒麟には、その気配を消して向かわせているはずだろ??
みすみす他の者に見られるように姿を消さずに堂々と出入りをしている訳がないんだ。
しかも、ここはアルトハルトではない。・・・マルダリア王国だぞ??」

ハッとした様子のクリスは、バッとユヴェールが出て行ったドアを振りむいた。

「嘘だろ??・・僕としたことが、何ですぐに気が付かなかったんだろう!?
変だと思ったんだ・・。
銀狼が唸っていたし、妙な違和感しかなかったからっ!!
ユヴェールさん、掴まったちゃったの??
ああ、どうしよう・・。どうしたらいい??」

青ざめた表情のクリスは頭を抱えてその場に崩れた。

「神力も、神獣も浸透していないマルダリア王国で・・。
神獣を見て、それを神獣麒麟なのだと、即座に解る方なんだよ。
それに、このタイミングであの方がその姿を現すなんて偶然だとは思えないよ。
ユヴェールは、まだアンブリッジ様の本当の正体を知らないのに・・・。」

クリスは、驚いた様子でカイルを見上げるとレオも不審感を露わにしていた。

レオはカイルの金色の瞳を真っすぐに見た。

「薄々気づいてはいたが・・。尋ねて良いか??
カイル・・。お前やエヴァン様の上で組織を操っている者の正体は
マルダリア王国の王妃であるアンブリッジ・・・。で間違いないのだな?」

その言葉に、カイルは大きく息を吸って吐くとレオの蒼い瞳を正面から見据えて
頷いた。

「・・・そうだよ。ユヴェールの母上でもあるアンブリッジ王妃。
いや、混沌の青薔薇エンヴィアスローゼンの始祖であるカラルナ様だ。」


「ああっ・・。僕は馬鹿だっ、屑だっ!!
何が魅了無双だよっ。・・酔っ払ってっいる場合じゃなかったのに!!
あまりにも無双が気持ちよくてさ、自分にも酔い気味だったもんな・・。
ああっ、全体的に酔っぱらい過ぎたよ・・。
酒と自分には、飲んでも飲まれるなって・・・。うちの家訓なのにぃぃいいぃ!!」

その言葉に、気絶しそうな程のショックを受けて床をのたうち回るクリスを
無視してカイルは続けた。

「レオ、ユヴェールは全くカラルナ様の事も・・。
組織の上層部に兄上がいたことも知らないんだよ。
僕達が裏切ったこの状況で、ユヴェールをカラルナ様が連れ去ったのだとすると・・。
何か意図が働いているんだと思う・・!!」


「ああっ!!何も知らない幼気なユヴェールさんが・・。
この僕のせいだ!!うっかり妖艶美女に騙されてしまうなんて・・!!
大役を任されて、調子に乗ってしまった挙句・・。
こんな結果になってしまって・・。もう、死んでお詫びシマァァス!!」

泣き叫ぶクリスは、剣を手に取ると上空に掲げた。

「・・・クリス、お前マジで煩い。
悔いているならば、少し頭を冷やしてそこで反省しとけばいいから。」

レオが、ため息交じりにその手を払うとカイルに向き直った。


「カイルやエヴァン様のほうが伯母上をよく理解しているだろうな・・。
となると・・。伯母上の狙いは・・。俺たちではないのか・・??」

その言葉にハッと気づいたカイルは、眉根を寄せてレオを見上げた。

「待て!!・・シアや、エヴァン様の方は無事なのか!?」

「確かに・・・。ここには、組織の兵すら配備されていないんだけど??
そんなのあり得ないよ!!」

一瞬、ピンと張り詰めた空気が部屋に漂っていた。

「どうやら、無事では済まないようだ。
最初から、真の目的はあちらにあったようだな・・。」

ガバッと、レオは蒼い瞳を大きく見開いて不安気にベランダに佇んでいる
エリアスの方へと振り返った。

エリアスの言葉と、顎をクィっと左に合図を送ったその先には見たことのある
神獣ファーレルの姿があった。


「あれ、ファーレルじゃないか!?
てことは、イヴか??イヴがあそこにいるのか??」

西の棟の窓から、一人の少女が神獣に飛び乗るとふわりと身体を揺らして
何かを背に乗せたまま動き出した。

レオは、ベランダへと走り寄りファーレルを見上げていた。

金色の髪の少女2人をその背に乗せたファーレルは一瞬でその場から飛び立つと
城内の端にある塔へと軽々と飛んで行った。

「アレクシアっ・・!?
そんな・・!?
ミリアと一緒に、ファーレルの背に乗ってるのはアレクシアだ・・!!」


「じゃあ、ミリアが・・。シアさんを捕らえて連れ去ったって事??
あっちの薔薇を回収する作戦は失敗したって事なの??」

驚いたクリスも、レオの隣のベランダから身を乗り出して叫んでいた。

「・・・消えた。あの塔の中に吸い込まれるように・・消えたね。」

「くそっ・・!!読み違えたか!?」

カイルの呟きに、レオは悔しそうに右手をベランダの手すりに叩きつけると
苦しそうに空を見上げた。

「まさか・・。俺達が囮に使われるなんてな。
それに、相手はこちらの作戦も誰が何処に向かうのかも全てを知っていたって事だな・・・。」

「で、でもっ、どうやって???
僕達は、神獣を使って情報を伝達していたんだよ??みんなでずっと一緒に行動して
いたんだから、裏切り者なんている筈がないのに・・。」

クリスは、混乱した様子でレオを見上げた。

裏切り者・・・。

その呼び方で人を裁けないことは、レオは薄々感じていた。

それぞれの想いと、それぞれの運命の結びつきがある。

「裏切りなんかじゃないんだ・・。
ただ、こちらの作戦を相手方が知り得たと言う事実があったと言うことだな。
最初から、アレクシアを攫う事を第一に考えた作戦をあちら側が考えていたと言う事だ。
俺達は、それに気づかなかった・・。ただ、それだけだ。」

「えっ・・??レオ、それってレオじゃなくて、シアが狙われていたって
話なの??何で、シアが狙われるんだろう・・。」

カイルが、不思議そうにクリスと顔を見合わせていた。

「・・・レオ、今回の作戦は読み間違えただけだろ?
アレクシア嬢が連れ去られたのなら、また取り返せばいい。落ち着けよ??」


「そうだな・・。だが、ユヴェールを何故連れ去ったのかを考えるとな・・。
少しだけ、ゾッとする。昔から苦手だったからな・・。伯母上あのかたは・・。」

幼い頃に、数回会ったことがある優しく明るい母の姉とされるアンブリッジは
見た目は母と同じように美貌に恵まれた王妃だった。

何度か目を見合わせた時、忌々しそうな視線を向けられた事があったレオは
母の姉だと聞いても何故だか親近感を覚えることは無かった。


レオは、以前から感じていた違和感に納得した様子で
遠くに見えた西側の棟を見上げた。

ミリアが飛び降りた窓から、こちらを見下ろしていたエヴァンと目が合った。

ミルクティ色の髪がさらっと揺れていた。

身を乗り出してこちらの窓を見つめていた。

同じ蒼い瞳が交差をすると、レオは静かにエヴァンに瞳で合図を送った。

エヴァンも深く頷くと、マントを翻してエーテルに声をかけると窓枠から
姿を消した。

エヴァンと、エーテルは連れ去られたアレクシアを追って、北の棟を目指して走り出した。

「・・・伯母上が何を企んでいるのかを、エヴァン様は気づいているようだな。
シアを取り戻しに行く・・・。ファーレルが消えたあの塔を目指すぞ。」

レオは身を乗り出して、ファーレルを目で追うと遠くに小さく見える
北側の灰色の棟へと鋭い視線を浮かべた。

「来い、シリウス・・!!」

エリアスの落ち着いた低い声に呼ばれて現れたシリウスは、緊張感を感じ取って
不安気な表情を浮かべたレオを見下ろした。

「グルル・・。グルル・・。」

再び現れたシリウスは、瞳を大きく揺らして落ち着かない様子のレオの頬をペロリと舐めた。

「シリウスも心配してるぞ。落ち着いたか??レオ・・・。」

エリアスは、切れ長の瞳でレオの頭にポンと手を置いた。

ふっと口角を上げたレオは、シリウスを見上げた。


森でアレクシアと別れる前に、水色の瞳と目が合ってドキッと胸が高鳴った。

大好きな大きな水色の瞳に引き付けられた俺は、シアの腰を掴んで抱きしめた。

「シア、どうか無事でいてくれ・・。シアに何かあったら俺は今度こそ廃人になる。」

レオは少し赤くなったアレクシアの頬に口づけを落とした。

「何の宣言よ?
当たり前でしょう!??絶対無事にアルトハルトに帰るわ。
やっと、念願のファーマシストになったのに、調薬が全然出来てないんだから!!
帰ったら、ひたすら調薬作業よ・・。ラボに籠るからね!!」

「シアこそ、何を言ってるんだ?穴熊じゃないんだし、不健康そのものだぞ。
どうしてもラボに籠るって言うなら・・。
その前に、一緒に数日間は寝室に籠ってくれたら
シアの私服の調薬タイムの邪魔はしないんだがな・・??」

不敵に笑うレオに、アレクシアは耳を抓ると微笑んだ。

「そうねぇ・・。
絶対に、調薬の邪魔をしないって誓うなら・・、それでもいいわよ???」


小悪魔のような笑みに、震えながら全身の疼きを懸命に堪えたレオは
右手で顔を覆った。

「反則だろ・・。どうするんだよ、また堪えが利かなくなったら・・。
アルトハルトまで持つのか・・。」

少しだけ、恥ずかしそうに微笑んで離れたアレクシアの背中を、
耳まで真っ赤に色を変えたレオが呆気に取られて縫い付けられたように固まっていた。


数歩先で、急にレオを振り返ったアレクシアは大きな声で叫んだ。


「約束よ、レオ・・・。一緒にアルトハルトに帰ろうね??」

振り向いたシアの弾けるような笑顔を思い出したレオは、上手くできなくなった
呼吸を整えた。

シアのぼやき声と愛らしい笑顔を思い出すと、少しだけレオの心の騒めきが落ち着いた。


息を大きく吐いたレオは、北の棟を見上げた。

「・・俺は大丈夫だ。
浅はかな自分を責めている時間はない!!
嫌な予感しかしないが・・。全ての決着を着けにここまで乗り込んで来たんだ。
シアを取り戻して、アルトハルトに帰らねばな。
ファーマシストになれたのに、大好きな薬の調合が出来てないじゃないって・・。
またシアに怒鳴られてしまうからな。」


その言葉に、クリスとカイルは頷いた。

エリアスが最後にひらりと長い脚で跨って乗り込むとシリウスに命じた。

シリウスは、バサッと大きな翼を広げると
4人を乗せて颯爽と大空へと飛び立った。


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