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青薔薇の栄光。

マルダリア王城に咲く薔薇。②

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「私が着いて行きたくて着いていったのよ??
すごーく、知りたかったの。
カイルから「見えた」映像が私には、あまりにも衝撃的だったから・・。
レオには、ちゃんと伝言しといたのにも関わらずよ?
理不尽すぎるぐらいにこってり叱られたんだけどね・・。」

ポリポリと頬を掻いた私に、呆れた表情を浮かべたレオが鼻息を荒くしていた。

「当たり前だろ??
・・心配させて喜んでるとしか思えないくらいの振り幅だったわ!!
こっちを常に揺り動かしてくれるんだよなぁ、シアは・・。
心臓がいくつあっても足りない!!
今後は、後先考えない行動を少しは控えてくれよ?・・ああ、無理だろうけどな。」

今の、お前には無理だろうなってあの諦めた感じは何よ・・??

・・確かに、好奇心が勝ることは多いのだけど!!

「それだけ、解ってるなら期待しなければいいじゃないの。
・・・でも、なんだか癪だから控えるわ!!」

天邪鬼な私を理解している様子のレオは薄く笑っていた。

「カイル・・・。お前の気持ちは分かるが、その神力は大切な者であればあるほど
使ってはいけない物だと思うんだ。もう、そんな事は解ってるんだよな?」

「・・うん!!もう、それは痛いくらいに解ったよ。
僕はこれからは、正々堂々と勝負する!!
酷く落とした僕の株や信用を回復して・・。ここから、逆転なんか出来ないからね??」


「・・・カ、カイル??まだ諦めてないのか??
あのなぁ・・。シアは俺の婚約者だって再三言ってるんだが・・。」

「それは知ってるよ??でも、今回の件でますます諦められなくなった!!
だって、やっぱり僕はシアの無鉄砲で人情深いところが好きなんだ。
第一初めて会った最初から、シアはそうだっただろ??
レオに対しても、劣等感しかなかったけど・・。負けない努力しようと思うんだ!!」


「シア・・。汚い手を使ってしまって本当にごめんね。
君には神力が利かないようだから、安心して全力でぶつかっていくよ!!
どうしても好きなんだ。シアの良いところを貶すレオなんかよりも、僕を選んで!!」

キラキラと輝いた金の目で私の両手を掴んだカイルは、焼けた肌で
灼熱砂漠に輝く太陽のようなスマイルで微笑んだ。

そう、砂漠の太陽スマイルね・・・。

「・・・いや、あの。恋愛はちょっと今は考えられないわ!!
神力効いても、使っちゃ駄目よ?」

灼熱ってか、熱量が過大でヤシの木も枯れそうな熱気に圧倒されていた。


「全く・・。クロードといい、カイルといい諦め悪いの奴ばかりじゃないか!!
シアッ、魅了は本当に使えないのか??
・・・皆、異常の域で執着を見せてるんだぞ??」


形のいい眉を上げて、呆れた様子のレオがぼやいていた。

クロードはただの女好きなだけだし!!

とっとと、ジュリーの解毒したら落ち着くと思うけどね。

「お前もな・・。」

と、私は心の底から言いたかった。


カイルの後ろで、私達を黙って見ていたエヴァンを見た。

いつも通り落ち着いている彼の言葉が気になっていた私は、思い切って
質問を繰り出した。

「組織との契約で脅されている状況って・・。一体、誰に脅されているの??
・・組織を作ったエヴァン様よりも偉い人がいるって事ですよね??」


「先ほど申した通りなんだ・・。
混沌の青薔薇エンヴィアスローゼンを創設した者の持つ神力の力で、
我々は組織に命を脅されたまま拘束されている。
私は、一刻も早く・・。その証の薔薇をこちらに取り戻したい。
頼む・・。我々の組織の問題に巻き込んでしまっている現状で申し訳ないが・・。
その作戦に、どうか協力してはくれないか??」


私はレオの瞳を見ると、小さく目線を合わせてきたレオと頷きあうと頭を下げていた
エヴァンに微笑んだ。

「勿論です!!
・・だって、それを取り戻せば、沢山の本意でなく組織に遣わされている
人たちが開放されるんですね???
エヴァン様も、カイルも・・。ミリアも救われるのね??」


エヴァンは、イヴの顔が一瞬過って目を瞑った。

自らのせいで追いつめられていく彼女を助けてあげたいと心から
願っていた。

それも、自分の為にこちらを裏切ったイヴは今どういう気持ちで何処に
いるのか・・・。

「それが出来れば・・救われる。
強い神力を持って組織にスカウトされた殆どの人間は、脅されているか
金銭目当ての者に限られるんです。
最近の、組織の命令系統に疑問を持つ者は多いはずなんだ。
自分の国で、罪もない人間たちに毒を飲ませるように指示してくるなんて。
・・・自分の手を汚していくことに、罪の意識を持つ者は多くいる。」


ズドン、ズドン!!

「ブッキュウ!!ブッキュウウウゥ。
(大丈夫よ!!あたし、エンジン全開。腹、満杯よ!!」

肉塊を平らげてやる気になっているエリザベートが、テーブルの上で張り切るように
ジャンプをしていた。

心なしかテーブルの脚が床にめり込み、板自体が傾いていっている気がする・・。

「うん・・。腹満杯って言うか、朝から摂取量(カロリー)可笑しいからね??
腹部と胸部に大きな海溝程の段差が出来ているんだけど・・。
さぁ、腹ごなしするわよ!!
マルダリア王城までは、エリザベートが私達を乗せてね??」

「ブブッブッキューー!!(段差はないわよ!まぁ、乗ってけば??)」


「レオ君、リヴァイアサンはまだ秘めた者にしておいてくれ。
器の出現が近づいていると知られれば・・。また何かを仕掛けてくるかもしれないから。」

「・・・器が目当てなのですか??あの方は。」

カイルが、表情を曇らせてレオとエヴァンを見上げた。

「間違いないだろう。レムリア様が亡くなった夜・・・。リオルグ様を亡き者にしようと
していたのはあの方自らが仕掛けた物だった。アルトハルトへの憎しみと・・。
天族や、父上への憎しみも持っている。それには、悲しい事実があったんだ・・。」


「だが、止めねばならない。これ以上、好き勝手にはさせる訳にはいかないんだ・・。
青薔薇の栄光ローゼングローリーは私の作った組織だ。
君が、天帝として世界の頂に立つ日を・・・。
正しき世界に導く光の出現を願って作った組織なんだ!!
レムリア様の願った未来への希望・・。
私の信じた、新しい未来へ希望の全てをその名に込めた組織なんだから・・。」


柔らかいミルクティ色の髪を揺らして、青い瞳が力強く細められた。

私とレオは驚いて声を失った。

そんな意味が込められていたのね・・。

だから、不思議だったの。

何故、組織の名は「青薔薇の栄光」だったのか。

だって、「栄光」って言葉に込められた意味は、希望や願いそのものだから・・。

「色々と謎が解けました。
エリアスも、エヴァン様の想いも、母の想いも・・・。
必ず、器を手にして「青薔薇の栄光」を手にしてみせる。
この世界の形を変えねばならない・・。
今までも当たり前に暮らすこの世界で、沢山の間違いがあった事に気づくことが出来た。」

その瞬間に窓の外から、強い風が吹いた。

レオは、金色の髪を靡かせて大きな瞳でみんなを見渡した。

覚悟と決意を込めたその瞳に、みんなが答えるように微笑んでいた。

「レオ、俺は・・。ユヴェールの元へ行く。レオはどうする??」


「俺も、クリスとユヴェールと合流して作戦通りに城の中にいる真の敵と対峙しなければ
ならない。カイル、エリアス・・。一緒に来るか??」

「勿論だ。・・・具問だぞ、レオ。」

頷いたカイルの横にいたエリアスが、切れ長の瞳で呆れたように吐き捨てた。


「・・・レオ。私は、エヴァン様と行くわ。
ミリアや、カイル達を拘束している契約を一刻も早く持ち出したいの!!
それがなければ、みんな自由になるのでしょう??」


「アレクシア嬢は、私と一緒に来てくれるんですね。
サラマンダーの力は想像以上でした。有難い申し出に、心から感謝するよ。」


「ルーカスと、エーテル・・。それに、エヴァン様の騎士たちもそちらへの同行をお願いします。
・・・離れがたいが、私の婚約者をお願いします。」


レオは、テーブルから立ち上がると私の元へと歩いて来た。


「私達の心配いらないわ・・。
むしろ、最強のラスボス戦に向かうレオ達の方が心・・ぱいいいぃぁぁぁぁっ!?
・・・何なの??」

ガタッと私が座っていたイスが絨毯の上に倒れた。

眉根を寄せて、唇を震わせた表情のレオは人前で思い切り私を抱きしめていた。

無言のままでぎゅうっと強く抱きしめられた私は、驚いたまま
呆然となすがままにされていた。

みんなの視線が集まっている事に気づいた私は、バシバシッとレオの腕を叩いた。

「あのー・・。ちょっと、人前なんですけど??えっと。一応言っとくけど・・。
人前じゃなきゃいいわけでもないけどね!・・いい加減、離してくれる??」

無言で抱きしめ続けるレオに、部屋の隅で入室してから気配を消していた兄が
剥がそうとして我に返った様子だった。

「・・・シア、絶対無茶はするなよ??
そいつは器が狙いだって言うんだから・・。狙いは俺なのだろう。
離れがたいが、シアの側に居ない方がいいんだろうな。・・・はぁ。物凄く不本意だが。」


それはそれは心底、不本意そうなレオがため息交じりに私を腕から離した。

向き合ったレオの蒼い瞳は不安そうな表情で見下ろしていた。

「そうね・・。レオの器が目的ならね。
私達は、安全な方策で必ず組織の薔薇をあの城から引き離してみせるわ!!
レオ、今後・・。どんな事があっても・・・。最期まで、私を信じて。」

私は水色の大きな瞳に強い意志を宿したままレオを見上げた。

「・・・シア??今のは、どういう・・。」

ピクッと耳を動かして不安気に見下ろしているレオに、私は明るい精一杯の笑顔で笑った。

パンっと両手を叩くと、ナプキンを机の上に置いた。

「さぁ、朝食は終わり!!支度をするわね??一緒に来て、エーテル!!」


「あっ・・。はい!!畏まりました。」


ハキハキとした私の声に、驚いた様子のエーテルが頭を下げてこちらへと急いだ。


決意に満ちたその背中を、瞳を揺らして見送るレオと訝し気な視線を向けたエリアスが
部屋の壁に凭れたまま見送っていた。

エヴァンは、何かを察した様子でアルノルドを呼ぶと一緒に部屋を出て行った。

イスから立ち上がった私は、支度をする為にその部屋を出ると
マルダリア王城へと向かう前に、ある場所へ向かった。

懐かしいその場所で咲き誇る約束の花は、変わらず美しく咲き誇っていた。


「レムリア様・・。どうか、私達を守って下さい。私は、必ず運命に勝ちます!!」

そう呟くと、その青い花は美しく輝いた気がした。

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