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アルトハルト神聖国編 プロローグ。

プロローグ。⑤

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「ちょっと・・・。貴方、先ほどから。レオノール様に失礼ではないの!?」


カッと怒りに燃えた金色の瞳の王女様が声を震わせて乱入してきた。


歩くたびに震える大きな胸についつい視線が向いてしまう。


「アイーネ殿、部外者の君は黙っててくれ。そうか、アレクシア・・。」


納得するように勝手に頷いてるレオに、嫌な予感がした。


「君を不安にさせてしまっているんだな。
毎日、愛を注いでいるつもりだが・・。まだまだ、俺の愛が足りていないというのか?」


「・・・はぁ?」

待て待て・・!!

「シア、愛してる。(耳に蛸)」「今日も美しい。誰よりも美しい!(勘違い)」

「君は枯れない薔薇のようだ!(人間だ)」「君の為なら何度でも死ねる。(実質的に不可能)」


毎日愛を囁かれ、深夜は抱きつぶされて意識失ったまま
眠っている自分の状況を思い出し、サーッと顔が青ざめた。


「ばっ・・。馬鹿じゃないの?もう、溢れてるわよ!!
満腹でお腹が張り裂けそうなレベルだってば!」

キッと睨むようにレオを見上げた私は、ドアの方をチラッと確認しながら

「・・レオの馬鹿力!!つ、ついでに浮気未遂っ!!」

先ほどの、馬乗りにされたレオの姿が一瞬頭を過った私は、何だか腹立たしくなった。

私はガブッとレオの手首に噛みついた。

「あっ・・。おい、浮気未遂って何だ!?俺は絶対に浮気なんかしないぞ!?」

痛みを堪えたレオが、怯んだ隙に私はドアまで小走りで走った。

ドアから逃げ出そうとしている私の前で、エメラルドの瞳が揺れた。


バシッ・・!!


空気を切り裂くような音が部屋に響いた。

「そうだよ・・。シアはさっきの光景を見て、不安だったに違いないよ!」

執務机をユヴェールが力任せに叩いた。



「クロードと婚約破棄があったんだから・・。
ずっと浮気に耐えてきてたシアを、不安にさせちゃ駄目だろ!
何故、運動神経の良い君が、ハイヒールなんかに転ばされて押し倒されるんだよ!!」


「いや、そこは・・・。すまん。何度も言うなよ。」

恥ずかしそうなレオの姿に、少しだけ吹き出しそうになってしまった。

「傷ついてきたシアを幸せにしたいと思っているのは、君だけじゃないんだ。」


部屋がシーンと静まって、みんな呆気にとられた表情でユヴェールを見た。

思いつめたような表情のユヴェールと目が合って私は驚いた。

「・・・えーと、そうなの?」

私は、首を傾げながらユヴェールを見た。


「ほう、そうだろうな・・。浮気にずっと耐え忍んでたもんな。
それで?その幸せにしたい男の中にお前が加わると言う、宣戦布告と取っていいのか?」


執務室に一瞬、ブリザードが吹いた。


「そうだよ。レオもまた、クロードのようにシアを傷つけるようなら・・・。
もう、俺は遠慮はしない。後悔したくないんだ!」


「そうか、やっと言ったな・・。
この国に急に留学を決めたお前の行動を見てれば解るよ。」

レオが、ユヴェールに目線を投げて口角を上げた。

「え・・?どゆこと?」


後学の為に来たんじゃなかったっけ?

全然、意味が解らないんだけど!!

「はぁぁぁ・・・。どうなってんの?」

ユヴェールの急な参戦に両手でしゃがみ込んだまま頭を抱えた。


「ごめん、シア。君を困らせるかもしれないけど。
これが、俺の本当の気持ちだから。」

「いや・・。えっと。じゃあ、今のレオの言ったことが合ってるの?」

「うん。俺もシアが好きだ。カイルにも、レオにも負けたくないんだ。
クロードとの結婚式の時には整理がついていた筈なのに、諦められなかったんだ・・・。」


私を真っすぐに見つめる洗濯王子は、すっきりしたように爽やかに笑った。

あっ、太陽の下の白いYシャツのような漂白剤の匂い・・。


「ユヴェール・・。」

・・・おおっと。

洗濯王子の笑顔の爽やかさに
心が洗われている場合じゃないわ。


見渡すと、思いがけない完璧な失恋に苦しそうに唇を噛んだアイーネと、
顔を赤らめながらも私を見つめるユヴェール。

噛みつかれた手を押さえながらも、私を蒼い瞳で見つめるレオが見て取れた。


何だろう、この四角関係。

もう・・。

ただただ面倒なんですけど!!


「もう、せっかく婚約破棄したのにーーーっ!!」

私の盛大な叫び声に、レオは薄く笑った。

「何度も言うが。シアは、今は俺の婚約者だろ?
いいか?今度は絶対に、婚約破棄なんかさせない。」

強い意志を秘めた蒼い瞳が、優しく笑った。

その言葉に、エメラルドの瞳を揺らしたユヴェールと、眉根を寄せて唇を噛み締めるアイーネ。

「シアを幸せにするのは、アルトハルト神聖国天子である俺だ。」

挑戦的にユヴェールを一瞥し、私の方へと向き直ったレオの瞳は美しく輝いていた。

「それはどうかな?そんなの、女神レオノーラにだって結末は最後まで解らないはずだよ。
負けないよ、レオ。」

スッキリした表情のユヴェールからは、悪戯を含んだように挑戦的な笑みが零れた。


こんな混乱した状況なのに。


何故だか、私の胸はこの厄介な状況でも心臓が大きく高鳴ったのだった。

胸を押さえたまま、不敵な笑みを浮かべたレオを見つめた。



ぎゅうっと服の胸元を握りしめた。


まだアルトハルトに到着してひと月にも満たない、ある午後の一幕。

何があっても手放さないと決めている彼のその瞳の蒼さに、私の心臓はさらに早くなった。
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