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決戦、イシーラの夜!!念願の婚約破棄は〇〇を起こす!?
前代未聞の婚約披露舞踏会はパートナー不在で!!②
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「お姉さま・・??・・・どうなさったの??」
私が、恐る恐る聞くとアデレイドは顔を歪ませて恐ろしい微笑みを向けた。
ノアの様子も気になったけれど・・。
「ふふ・・。ふふふっ・・。あははははっ!!!」
姉の様子に、以前のカイルとアデレイドの婚約披露の舞踏会で私に向けられた目線と同じような冷えた視線を感じて、身震いした。
「私も、ノア様も滑稽ね・・。私はいつも、貴方の代わりに全てを失うのよ」
私は、ビクッと背筋に走った恐ろしい悪寒に身じろいだ。
「・・どうも、貴方と間違えられた事が私の運の尽きみたいよ?全部、貴方のせい・・!!
カイル様も、ノア様も・・。家族みんなの関心も!いつも、全部貴方が一人占めしてっ!!
あんたなんか・・。大嫌い!!」
「どういう意味・・?お姉様が、私と間違えられたって・・」
私の質問には答えずに、アデレイドは甲高い声で笑いながらフラフラと歩き出した。
細く折れそうな身体は儚く感じられた。
夜風が美しい月のような黄金色の髪を揺らしていた。
美しい真珠に喩えられた美貌の姉は見る影もなかった・・。
「アデレイド=グラディアス・・。立て!!」
騎士の一人が、姉の身体を起こした。
最初は捕縛していた2人の騎士の腕を振り払おうとしていたアデレイドは、両腕を抱えられら状態で
部屋の中央へと歩き出した。
チラッと中央にあった丸テーブルに視線を向けたアデレイドは、歩を止めた。
「・・喉が渇いて、水分が欲しいの。飲ませて頂戴!!」
騎士は、ため息交じりに置いてあったワイングラスの横に置いてあった水差しから水を注いだ。
騎士から姉にグラスが手渡され、渋々片手だけ騎士が放した状態になった。
アデレイドは、騎士を睨みつけながらグラスを手に取って思い切り飲み干した。
空のグラスをテーブルに戻すのかと思った矢先・・。
・・・パリ――ン・・!!!!
持っていたワイングラスを飲み口部分を、テーブルの縁に叩きつけて割った。
飛び散った硝子片はアデレイドの白い頬に数ヶ所傷を着けて、赤い血が滲んでいた。
割れたグラスの柄を持ち、尖らした先を確認すると口の端を歪めてニィっと笑った。
「・・・こ、この!!何をする!?」
「・・来ないで!!近づいたら・・。これで喉を突いて死ぬわよ!?」
驚いた騎士達を振り切って、脅し文句を吐き捨ててグラスの柄を強く握っていた。
「アデレイド・・??」
数名の騎士と話していたカイルが、眉根を寄せてアデレイドを見た。
グラスの割れた音に、部屋の端にいたエリオスとお父様は驚いて振り向く。
ほの暗い瞳に、私は大きく目を見開いたまま息を飲んだ。
数メートルしか離れていなかった私を視界に捉えたアデレイドは、全力でグラスの柄を握りしめたまま、騎士達の一瞬の隙をついて素早い速さで私目掛けて走り出した。
「邪魔なのよ!!あんたさえいなければ、いつでも私は一番だった・・。
愛されないのは全部貴方のせい・・。消えてよ、この世界から!!!」
「・・・嘘、いやああっ!!アデレイド・・。辞めて!!」
私は驚いて身をよじったが、足が自分の物ではないように重かった。
身体が鉛のように頑なに言うことを聞かない。
動きたいのに、身体が動かない・・。
あの日感じたような感覚を覚えていた。
亮ちゃんと、見知らぬ女性が抱き合っていちゃいちゃしている所を見た瞬間。
感情が凍って、何も感じなくなった。
世界に色が消えて、身体の部位1つ自分の思い通りに出来ない感覚・・。
私は、知っていたのに
何度も見て来たはずなのに・・。
アデレイドの鋭い嫉妬を湛えた瞳。
憎しみに似たその想いに私は感づいていたのに、気づかない振りをしていた。
いつだって私は、ちゃんと見えていた物に向き合わなかった事で、必ず足元を掬われてきたはずだった。
また、私は間違えた?
目を閉じる最後の瞬間・・。
ラグラバルト王国の真珠と呼ばれたアデレイドが、鬼のような形相でグラスの柄の先にとがらせた硝子の先端を向け、両手で私の目の前に突っ込んできた・・。
アレキサンドライトの瞳を瞑って、痛みを待った。
数秒の時が永遠に感じられた。
・・いつになっても衝撃と痛みを感じなかった。
私の前には、ふわっとよく知っている優しい香りが漂っていた。
この香り・・。
「カ・・カイル様!??・・何故で・・すの??」
消え入りそうな声で呟いだアデレイドの声に、
私はハッと身体の感覚を取り戻してゆっくりと顔を上げた。
目の前には、大きな壁のように長身のカイルの身体が仰け反ったまま
立っていた。
「・・血??」
ポタポタと、カイルの腕から血が流れ落ちていた。
私は目の前の光景に息を止めて、大きな目を見開いていた。
アデレイドの持ったグラスの尖頭はカイルの腹部へと刺さっていた。
カイルは、アデレイドの身体を包むように強く抱き留めていた。
「くっ・・。馬鹿な事をするな!!
お前は、エメリアを・・。大切にしていたではないか。憎さだけでは・・・なかっただろう?思い出せ・・アデレイド!!」
「・・カイル・・様。わ、わたくし・・。ど、どうして・・・」
「・・くそっ、馬鹿な真似をしやがって!!!あっちこっちで忙しいな!!」
ガタガタと震えたまま、ワイングラスの柄を持っていたアデレイドを戻ってきたエイルアンが取り押さえた。
アデレイドは、顔面蒼白のままで騎士団数名がかりでズルズルと床を引きずられていた。
カイルの両足は震え、ポタポタと血が絨毯に染みを作る。
「・・・カイル様、何で??」
エリオスとお父様が青ざめた顔でこちらに駆け寄ってきた。
腹部には刺さった傷から血が流れ出ていた。
私の悲痛な声に振り向いたカイルの顔色は白磁のように色を失っていた。
「こ・・んな、血が出てるじゃないですか・・。
この国の至宝である王太子殿下が、どうして私なんかを庇うの!?」
頭が着いていかない。
私がアデレイドに刺される筈だったのに・・。
何でカイル様が姉に刺されたの?
青白く生気を失った唇で微笑んだ。
「・・・大丈夫だ。君が無事なら・・良かった。今度は君を・・守れた・・」
美しい宝石のような青緑を照らす瞳は涙が薄く滲んだまま激しく揺れていた。
私のアレキサンドライトの瞳から気がつくと透明な涙がポロポロと零れ落ちていた。
次の瞬間、ぐらっと体の重心を崩したカイルの身体が、目の前で支えを失ったかのように
ずり落ちるようにその場に頽れた。
「カイル様っ!?」
力を失って重みが増した身体を私は咄嗟に支えた。
エリオスも慌ててグラスが刺さったままになっていた身体を、そのままの状態で床に寝かせるように受け止めた。
絨毯には赤い染みが広がっていく・・・。
涙が何時の間にか両目から止めどなく溢れ出て、胸が引き裂かれそうな痛みに、呼吸を荒くしていた。
「全然良くない!!意味がわからないんですけど・・!!馬鹿じゃない・・。何でこんな・・。こんなの嫌です!!」
私は頭は回らず、ぶんぶんと頭を振り乱したまま
カイルの身体を抱きしめながら叫んだ。
私の頬に、カイルの震える手が触れた。
「リア・・。泣くな・・・。」
その手の冷たさに息を飲んだ私は涙の洪水で目の前が見えなくなっていた。
「さっきから何でって・・。何度も聞くな。鈍いにも・・程がある。
決まっているだろ・・。僕が、エメリアを愛しているからだ・・・・」
「何ですか、それ・・。愛してるって初耳だし・・。
カイル様は、立派な王様になって人々を自由にするんですよね・・!!
私なんかの為に、国民の希望である尊い命を危険にさらすなんて・・。大馬鹿者ですっ!!」
・・違う。
こんな言葉が言いたいんじゃないのに!!
私はカイルが傷ついた事に、酷く胸が痛んで身体が引き裂かれるような耐えられない痛みを感じていた。
「私なんかはないだろ。何度でも言う・・・。エメリアが大好きだ。
この心も、この身をも君のために捧げたいと・・。君を心から愛してる・・」
――愛してる
その言葉を伝えられたのは初めてではなかったのに。
カイルからの愛してると言う言葉に、何故か突き刺さるような痛みを覚えた。
同時に、心の中を温かさで満たしていく不思議な感覚を感じていた。
「そんなの望んでない・・。
愛してるって・・。私にはまだよく解らないけど。
でも、貴方が私のために傷つくなんて耐えられないんです!!・・・苦しくて、心がめちゃくちゃ痛いんですよ!?
もう意味解んない。何なんですかこれ・・」
ポタポタとカイルの頬に、大粒の雫が落ちていた。
揺れているカイルの瞳は口角を上げて私を見上げていた。
「大した事ないよ。だから、・・泣かないでくれ。
大丈夫だから・・・」
大粒の涙をカイルが、震える指でそっと拭った。
ドクンドクン・・・。
何かで頭で叩かれたように痛い。
自分の心臓が、自分の物じゃないように大きく鼓動をしていた。
未だに思い出せていなかった、カイルとの記憶の全てがフラッシュバックのよいに蘇ってくる・・。
色鮮やかな記憶の数々と、エメリアの想い。
王宮の庭園を抜けた先にある大きな木の下で、初めて会った日。
カイルに会うために、具合が悪くても薬を飲んで会いに行っていた。
青い空を見上げながら、手を伸ばしていた。
いつか、見たこともない景色に会いに行きたいと・・。
一緒に連れて行くと約束してくれた、カイルの決意のこもった瞳を。
彼の前では、私は何でも話せた。
いつもカイルの笑顔と、優しく真っ直ぐな言葉に勇気をもらっていた。
「僕も大好き・・だよ。ううん、こんな簡単に言葉になんか出来ないくらい。僕はいつも・・リアのことばかり考えているよ。君は、大切なたった一人だけのお姫様なんだ」
「私も、ずっと一緒にカイルと生きていたい!!
貴方は私の、私だけのたった一人の・・・。」
あの日、本当に言いたくて言えなかった言葉が脳裏に蘇る。
最後の逢瀬で、抱きしめられた時の愛しさと苦しさと痛みの感覚を思い出していた。
心と身体が引き裂かれるような痛みが駆け抜けた・・。
「くっ・・!!」
汗が吹き出し、カイルの全身に痙攣が現れた。
刺さったグラスに、エイルアンが鼻を近づけていた。
「いけません!!血がこのまま流れ続けると・・。
エイルアン、手伝ってくれ・・。止血をしなければ!!」
「この香り・・。このグラスはあの液体が注がれていた物なのか!?
すぐに医者か、薬師を大至急呼ぶんだ!!」
エリオスがカイルの腹部に刺さったガラス片を引き抜いて止血をしていた。お父様も、青ざめた表情でカイルの身体を支えていた。
「・・・っつ・・。」
ガラス片をゆっくりと引き抜く作業の際にエリオスは、傷を受けた痛みを堪えて眉を引きつらせていた。
痛みを堪えたカイルの重心が一気にかかり、抱き留めていた身体の力がずるりと抜けた。
カイルは苦しそうにはぁっと息を荒く吐き出して
色味を失った唇を閉じた。
「まだか・・、早く医師を呼べっ!!
もう、誰でもいい・・。王子を助けてくれ!!!」
エリオスが苦しそうに叫んだ。
「こんなの嫌ですっ!!
カイル様っ、・・お願い、しっかりして下さい!!」
隣の部屋にいたシオンが、カイルの異変に気付いて駆けつけて走ってきた。
泣き叫んで取り乱す私の声は重く閉じられたカイルに届かない・・。
青ざめて横たわるカイルを見ると、シオンはキツく眉根を寄せ、唇を噛んで何か呟いた。
その手には、青色の光が点滅するように光り輝いていた。
次の瞬間には、窓を一閃の眩い光がその部屋いっぱいに溢れかえった。
私が、恐る恐る聞くとアデレイドは顔を歪ませて恐ろしい微笑みを向けた。
ノアの様子も気になったけれど・・。
「ふふ・・。ふふふっ・・。あははははっ!!!」
姉の様子に、以前のカイルとアデレイドの婚約披露の舞踏会で私に向けられた目線と同じような冷えた視線を感じて、身震いした。
「私も、ノア様も滑稽ね・・。私はいつも、貴方の代わりに全てを失うのよ」
私は、ビクッと背筋に走った恐ろしい悪寒に身じろいだ。
「・・どうも、貴方と間違えられた事が私の運の尽きみたいよ?全部、貴方のせい・・!!
カイル様も、ノア様も・・。家族みんなの関心も!いつも、全部貴方が一人占めしてっ!!
あんたなんか・・。大嫌い!!」
「どういう意味・・?お姉様が、私と間違えられたって・・」
私の質問には答えずに、アデレイドは甲高い声で笑いながらフラフラと歩き出した。
細く折れそうな身体は儚く感じられた。
夜風が美しい月のような黄金色の髪を揺らしていた。
美しい真珠に喩えられた美貌の姉は見る影もなかった・・。
「アデレイド=グラディアス・・。立て!!」
騎士の一人が、姉の身体を起こした。
最初は捕縛していた2人の騎士の腕を振り払おうとしていたアデレイドは、両腕を抱えられら状態で
部屋の中央へと歩き出した。
チラッと中央にあった丸テーブルに視線を向けたアデレイドは、歩を止めた。
「・・喉が渇いて、水分が欲しいの。飲ませて頂戴!!」
騎士は、ため息交じりに置いてあったワイングラスの横に置いてあった水差しから水を注いだ。
騎士から姉にグラスが手渡され、渋々片手だけ騎士が放した状態になった。
アデレイドは、騎士を睨みつけながらグラスを手に取って思い切り飲み干した。
空のグラスをテーブルに戻すのかと思った矢先・・。
・・・パリ――ン・・!!!!
持っていたワイングラスを飲み口部分を、テーブルの縁に叩きつけて割った。
飛び散った硝子片はアデレイドの白い頬に数ヶ所傷を着けて、赤い血が滲んでいた。
割れたグラスの柄を持ち、尖らした先を確認すると口の端を歪めてニィっと笑った。
「・・・こ、この!!何をする!?」
「・・来ないで!!近づいたら・・。これで喉を突いて死ぬわよ!?」
驚いた騎士達を振り切って、脅し文句を吐き捨ててグラスの柄を強く握っていた。
「アデレイド・・??」
数名の騎士と話していたカイルが、眉根を寄せてアデレイドを見た。
グラスの割れた音に、部屋の端にいたエリオスとお父様は驚いて振り向く。
ほの暗い瞳に、私は大きく目を見開いたまま息を飲んだ。
数メートルしか離れていなかった私を視界に捉えたアデレイドは、全力でグラスの柄を握りしめたまま、騎士達の一瞬の隙をついて素早い速さで私目掛けて走り出した。
「邪魔なのよ!!あんたさえいなければ、いつでも私は一番だった・・。
愛されないのは全部貴方のせい・・。消えてよ、この世界から!!!」
「・・・嘘、いやああっ!!アデレイド・・。辞めて!!」
私は驚いて身をよじったが、足が自分の物ではないように重かった。
身体が鉛のように頑なに言うことを聞かない。
動きたいのに、身体が動かない・・。
あの日感じたような感覚を覚えていた。
亮ちゃんと、見知らぬ女性が抱き合っていちゃいちゃしている所を見た瞬間。
感情が凍って、何も感じなくなった。
世界に色が消えて、身体の部位1つ自分の思い通りに出来ない感覚・・。
私は、知っていたのに
何度も見て来たはずなのに・・。
アデレイドの鋭い嫉妬を湛えた瞳。
憎しみに似たその想いに私は感づいていたのに、気づかない振りをしていた。
いつだって私は、ちゃんと見えていた物に向き合わなかった事で、必ず足元を掬われてきたはずだった。
また、私は間違えた?
目を閉じる最後の瞬間・・。
ラグラバルト王国の真珠と呼ばれたアデレイドが、鬼のような形相でグラスの柄の先にとがらせた硝子の先端を向け、両手で私の目の前に突っ込んできた・・。
アレキサンドライトの瞳を瞑って、痛みを待った。
数秒の時が永遠に感じられた。
・・いつになっても衝撃と痛みを感じなかった。
私の前には、ふわっとよく知っている優しい香りが漂っていた。
この香り・・。
「カ・・カイル様!??・・何故で・・すの??」
消え入りそうな声で呟いだアデレイドの声に、
私はハッと身体の感覚を取り戻してゆっくりと顔を上げた。
目の前には、大きな壁のように長身のカイルの身体が仰け反ったまま
立っていた。
「・・血??」
ポタポタと、カイルの腕から血が流れ落ちていた。
私は目の前の光景に息を止めて、大きな目を見開いていた。
アデレイドの持ったグラスの尖頭はカイルの腹部へと刺さっていた。
カイルは、アデレイドの身体を包むように強く抱き留めていた。
「くっ・・。馬鹿な事をするな!!
お前は、エメリアを・・。大切にしていたではないか。憎さだけでは・・・なかっただろう?思い出せ・・アデレイド!!」
「・・カイル・・様。わ、わたくし・・。ど、どうして・・・」
「・・くそっ、馬鹿な真似をしやがって!!!あっちこっちで忙しいな!!」
ガタガタと震えたまま、ワイングラスの柄を持っていたアデレイドを戻ってきたエイルアンが取り押さえた。
アデレイドは、顔面蒼白のままで騎士団数名がかりでズルズルと床を引きずられていた。
カイルの両足は震え、ポタポタと血が絨毯に染みを作る。
「・・・カイル様、何で??」
エリオスとお父様が青ざめた顔でこちらに駆け寄ってきた。
腹部には刺さった傷から血が流れ出ていた。
私の悲痛な声に振り向いたカイルの顔色は白磁のように色を失っていた。
「こ・・んな、血が出てるじゃないですか・・。
この国の至宝である王太子殿下が、どうして私なんかを庇うの!?」
頭が着いていかない。
私がアデレイドに刺される筈だったのに・・。
何でカイル様が姉に刺されたの?
青白く生気を失った唇で微笑んだ。
「・・・大丈夫だ。君が無事なら・・良かった。今度は君を・・守れた・・」
美しい宝石のような青緑を照らす瞳は涙が薄く滲んだまま激しく揺れていた。
私のアレキサンドライトの瞳から気がつくと透明な涙がポロポロと零れ落ちていた。
次の瞬間、ぐらっと体の重心を崩したカイルの身体が、目の前で支えを失ったかのように
ずり落ちるようにその場に頽れた。
「カイル様っ!?」
力を失って重みが増した身体を私は咄嗟に支えた。
エリオスも慌ててグラスが刺さったままになっていた身体を、そのままの状態で床に寝かせるように受け止めた。
絨毯には赤い染みが広がっていく・・・。
涙が何時の間にか両目から止めどなく溢れ出て、胸が引き裂かれそうな痛みに、呼吸を荒くしていた。
「全然良くない!!意味がわからないんですけど・・!!馬鹿じゃない・・。何でこんな・・。こんなの嫌です!!」
私は頭は回らず、ぶんぶんと頭を振り乱したまま
カイルの身体を抱きしめながら叫んだ。
私の頬に、カイルの震える手が触れた。
「リア・・。泣くな・・・。」
その手の冷たさに息を飲んだ私は涙の洪水で目の前が見えなくなっていた。
「さっきから何でって・・。何度も聞くな。鈍いにも・・程がある。
決まっているだろ・・。僕が、エメリアを愛しているからだ・・・・」
「何ですか、それ・・。愛してるって初耳だし・・。
カイル様は、立派な王様になって人々を自由にするんですよね・・!!
私なんかの為に、国民の希望である尊い命を危険にさらすなんて・・。大馬鹿者ですっ!!」
・・違う。
こんな言葉が言いたいんじゃないのに!!
私はカイルが傷ついた事に、酷く胸が痛んで身体が引き裂かれるような耐えられない痛みを感じていた。
「私なんかはないだろ。何度でも言う・・・。エメリアが大好きだ。
この心も、この身をも君のために捧げたいと・・。君を心から愛してる・・」
――愛してる
その言葉を伝えられたのは初めてではなかったのに。
カイルからの愛してると言う言葉に、何故か突き刺さるような痛みを覚えた。
同時に、心の中を温かさで満たしていく不思議な感覚を感じていた。
「そんなの望んでない・・。
愛してるって・・。私にはまだよく解らないけど。
でも、貴方が私のために傷つくなんて耐えられないんです!!・・・苦しくて、心がめちゃくちゃ痛いんですよ!?
もう意味解んない。何なんですかこれ・・」
ポタポタとカイルの頬に、大粒の雫が落ちていた。
揺れているカイルの瞳は口角を上げて私を見上げていた。
「大した事ないよ。だから、・・泣かないでくれ。
大丈夫だから・・・」
大粒の涙をカイルが、震える指でそっと拭った。
ドクンドクン・・・。
何かで頭で叩かれたように痛い。
自分の心臓が、自分の物じゃないように大きく鼓動をしていた。
未だに思い出せていなかった、カイルとの記憶の全てがフラッシュバックのよいに蘇ってくる・・。
色鮮やかな記憶の数々と、エメリアの想い。
王宮の庭園を抜けた先にある大きな木の下で、初めて会った日。
カイルに会うために、具合が悪くても薬を飲んで会いに行っていた。
青い空を見上げながら、手を伸ばしていた。
いつか、見たこともない景色に会いに行きたいと・・。
一緒に連れて行くと約束してくれた、カイルの決意のこもった瞳を。
彼の前では、私は何でも話せた。
いつもカイルの笑顔と、優しく真っ直ぐな言葉に勇気をもらっていた。
「僕も大好き・・だよ。ううん、こんな簡単に言葉になんか出来ないくらい。僕はいつも・・リアのことばかり考えているよ。君は、大切なたった一人だけのお姫様なんだ」
「私も、ずっと一緒にカイルと生きていたい!!
貴方は私の、私だけのたった一人の・・・。」
あの日、本当に言いたくて言えなかった言葉が脳裏に蘇る。
最後の逢瀬で、抱きしめられた時の愛しさと苦しさと痛みの感覚を思い出していた。
心と身体が引き裂かれるような痛みが駆け抜けた・・。
「くっ・・!!」
汗が吹き出し、カイルの全身に痙攣が現れた。
刺さったグラスに、エイルアンが鼻を近づけていた。
「いけません!!血がこのまま流れ続けると・・。
エイルアン、手伝ってくれ・・。止血をしなければ!!」
「この香り・・。このグラスはあの液体が注がれていた物なのか!?
すぐに医者か、薬師を大至急呼ぶんだ!!」
エリオスがカイルの腹部に刺さったガラス片を引き抜いて止血をしていた。お父様も、青ざめた表情でカイルの身体を支えていた。
「・・・っつ・・。」
ガラス片をゆっくりと引き抜く作業の際にエリオスは、傷を受けた痛みを堪えて眉を引きつらせていた。
痛みを堪えたカイルの重心が一気にかかり、抱き留めていた身体の力がずるりと抜けた。
カイルは苦しそうにはぁっと息を荒く吐き出して
色味を失った唇を閉じた。
「まだか・・、早く医師を呼べっ!!
もう、誰でもいい・・。王子を助けてくれ!!!」
エリオスが苦しそうに叫んだ。
「こんなの嫌ですっ!!
カイル様っ、・・お願い、しっかりして下さい!!」
隣の部屋にいたシオンが、カイルの異変に気付いて駆けつけて走ってきた。
泣き叫んで取り乱す私の声は重く閉じられたカイルに届かない・・。
青ざめて横たわるカイルを見ると、シオンはキツく眉根を寄せ、唇を噛んで何か呟いた。
その手には、青色の光が点滅するように光り輝いていた。
次の瞬間には、窓を一閃の眩い光がその部屋いっぱいに溢れかえった。
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みんなの感想(6件)
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前世の主人公が交通事故にあった、その後の夫の状況が知りたい(><)
前世の夫はどうしてるのかな…?
続きが楽しみです✨
>ゆうちゃんさん
何故騎士になったのか・・。
性癖と関係あるのかと後で考え込んでしまいましたよ。衝動性と欲求が強いノアは変わらないでしょうね。
これからの続きも宜しくお願いします!!
>ゆうちゃんさん
いつもお読み下さって有り難うございます😃
ノアは幼少期から片鱗を見せていた性犯罪者ですよね(笑)
全く反省が出来ないノアは鶏頭とエメリアに言われてましたね。
これからも宜しくお願いします!