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難関不落!?筆頭公爵に同意書への署名を頂きます!!

辺境伯は浮気者の婚約者を許さない!エメルディナの宴の夜<棚ぼたで作戦α>②

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自由にすると言ってくれたカイルの決意に、私は初めて凍っていた心の奥底が揺れるような感覚があった。

「今は自分の考えている疑問から、諦めて逃げるのではなく、この法と向き合ってみたいと思っています。いつか、この国のみんなが真に自由だと思える日が来ればいいと思います!!
シオン皇子は、国の民に本当の自由をあげれる王になって下さい・・。
自由は人の数だけあるのかもしれません。ですが、目指す方向が同じであると心強いなって思います」

シオンは黙って私を見つめていた。

夜風が、冷たく私達に容赦なく吹き付けてくる。

辺りは楽し気に響く笑い声と、軽快な音楽が鳴り響いていた。

漆黒の髪は宵闇に溶けこみ、サラサラと風に揺られていた。
私は帽子を強く吹き付ける風に攫われないように、帽子の鍔部分を押さえていた。

その手を急にシオンに上から大きな手で掴まれると、驚いた私は咄嗟に帽子に置いた手を放した。

咄嗟の事に、眉間に皺を寄せた私はシオンの手を振り払った。

「・・急に何をするんですか!?」

暗闇の中で銀色に輝く長い髪がふわりと強い風に吹かれて踊るように舞った。

少し先の原っぱに帽子が吹き飛んで落ちていた。


帽子を抱え込むと、私の瞳を強い眼差しで見つめるシオンから瞳を反らした。

細い手首には、さっき掴まれた大きな手の感触が残っていた。

「いや・・、すまない・・!!
本当の自由、人が定めた法の正しさか・・。考えたこともなかったから・・」

不思議そうに、シオンは私を掴んだ方の手をじっと見て首を傾げていた。

私が何か失言をして怒らせてしまったのかと急に不安になった。不敬罪で連座が他国の王族にも当たるかもしれないと考え出して焦りだした。

シオンの傍に控えた護衛が警戒した表情で私を見ていた。

「え!?あ、あの?私が、何か気に障ることをしたのならすみませんが・・」

一定の距離で向かい合った私はアレキサンドライトの瞳でシオンを見上げた。

護衛を右手で制したシオンは少し落ち伝い様子で私を見た。

「いや、違うんだ・・。急に貴女の手を掴んで悪かった。自由も人の数だけある・・。面白いご令嬢だ。エメリア嬢が見ている世界をもっと知りたいな」

いつも防衛線を張っているシオンが、子どものように目を細めて笑った。

その無防備な笑顔に驚いた・・。

耳に届く音楽をバックに、まるで私達は違う世界にいるように感じた。

その時だった。

賑やかな祭りの最中だと言うのに、後ろから慌ただしい沢山の人の足音と馬車の蹄の音がこちらへ近づいてきた。

広場の端に就けられた、青い馬車は王家の家紋であるライオンと鷲と王冠の紋が入っていた。

「・・・エメリアっ、シオン大変だっ!!今すぐ、オルディアス公爵家の屋敷に向かうぞ!!」

明らかに焦った様子のカイルの声に驚いて振り向いた私の前に、馬車の窓から乗り出したカイルとエリオスが見えた。

近づいてくる馬車の中には、真っ青な顔で座っているクロエとアルフレッドが見えた。

馬車に急いで乗り込むと、エイルアンが白馬に跨り品矢かな動きで馬車の横を走るのが見えた。

クロエは、エイルアンを見つめると苦しそうに涙を流した。

私はクロエの隣に座って彼女の手を握った。

「クロエ・・。どうしたの?
顔色が真っ青よ?一体、何があったの?」

「どうしよう・・。昨夜からお父様が変な人たちを屋敷に滞在させていて・・。
今日なんて、出がけには妖艶でスキャンダラスな未亡人として名高いクレア=シードル様が勝手に私のお部屋に入ってきたの・・。」

「今までだってお父様が余所で好き放題やってきた事を知っていたお母様は胸を痛めてふさぎ込んでばかりいたのに!!私、信じられなくて・・」

「ま、またなの!?信じられない・・!!
以前のメリンダ夫人を一緒に撃退したのが3年前よね・・。全く、懲りないわね・・。だから浮気男は頭が鶏並みだってのよ!!」

私は泣いているクロエの背中を抱き留めて支えていた。

3年前は、寡婦のメリンダ夫人・・。
1年前は、王宮の宮使いだったロメリア=アンダード

今までもクロエの父、オルディアス公爵は浮気を繰り返して火傷で済まないようなトラブルを回避してきた。


メリンダ夫人は、公爵を脅して引いてもらったし。
ロメリアはお金・・コホン。・・すぐに身を引いてくれた。

「・・実は、ノアが謹慎を命じて閉じ込めておいた独・・いや、反省室から昨夜逃走を図ったと連絡があった。調べてる内に判明したのだが・・。
オルディアス公爵家の屋敷に向かったようだとエイルアンが部下から聞いた。
屋敷には、貴族達の馬車が多数停留していたと聞いた。様子が可笑しいと報告があったので、我々は急いで騎士団を同行して向かうことにした。
クロエとアルフレッドを途中で見かけたのでクロエに事情を確認する為に一緒に連れて来た」

「なるほど・・。あの変態ノアが?
あの人は何時もトラブルメーカーね。あれが婚約者だなんて不名誉なんですけど!!
一秒でも早く婚約破棄をしてしまいたいわ。その内、不味い事に巻き込まれそう・・」

この時の予感は、最悪の形で的中する事になる。

想像だにしなかった出来事が・・この時には動き出していた。

「ねぇ、クロエ、屋敷にクレア=シードル以外の人間で知っている人はいなかった??」

「え、ええ。それがクレア様繋がりで、意外な人間関係性に驚いたのだけど・・。
私が屋敷を出る時にね、到着した馬車なら降りたのは・・」

不安そうな表情でクロエが告げた人物の名前に一同が驚いていた。

私は一瞬黙って考え込んだ・・。

「よしっ、・・カイル様!!
途中にあるリリアのお屋敷に寄っていただいてもいいですか!?」

その言葉に驚いた様子のカイルにコソッと耳打ちをした後、目を合わせて同時に相槌を交わした。

カイルは、すぐにエリオスに何かを指示していた。

リリアの屋敷に着くと急いで馬車から降り、すぐに用事を済ませると再び馬車に飛び乗った。

オルディアス公爵家の屋敷へと夜道を馬車が猛スピードで走り出した。

屋敷に向かう途中で、反対側から猛スピードで走っていく黒い馬車とすれ違った。

「あ・・・。」

窓の外を見ていた私は、その一瞬の映像を脳に刻んだ。

黒いベールに隠された女性と、もう1人・・・。

暗闇で明瞭に見えなかったが男女2名の姿を確認した。

馬車がオルディアス公爵家の屋敷に付くとクロエが邸の扉を開けた。

公爵家のお屋敷なので、かなり大きな作りになっていた。

屋敷の中は静まり返った様子だった。

エントランスホールには、物音ひとつ聞こえず
執事や侍女が誰一人出てこない・・。

「何これ、静かすぎない?」

「侍女達をお父様がきっと左翼の母がいる別宅に下がらせたのよ。リア、多分こっちよ!!」

クロエと一緒に、いつも公爵が人が来た時に案内する貴賓室に向かった。

バンッ・・!!!

二階の奥にある二間続きの貴賓室の前に着くと
大きな両開きの扉を力一杯開け放った。

赤い絨毯が引かれた貴賓室には、ドアが開け放たれた事にも気づかずに、数名の男女が淫らにはだけた服を纏ったまま一心不乱に抱き合う姿が見えた。

絨毯の上には、無造作に酒瓶のような物が何本も転がっていた。

私はゴクリと喉を鳴らした。

「部屋の中には、オルディアス公爵が見当たらないわね・・。」

部屋を見渡しながら、酒池肉林を体現したようなその光景に私は絶句し、クロエは部屋の外で震えながら涙を浮かべていた。

騎士団が階段を駆け上がって来る音が聞こえた。

貴賓室に辿り着いたカイルとシオン、エリオス、アルフレッドは驚いた様子で現場のドアの前に立っていた。

貴賓室にあるクローゼットの中から、ガムテープで口を塞がれ、縄で縛り上げられたオルディアス公爵
が倒れているのをエイルアンの部下が発見した。

「お父様・・!?一体何があったのですか??」

ベリッと剥がされたガムテープの後が無残なアルディアス公爵が、苦しそうに息を吐き出した。

「・・す、すまんクロエ!!騙されたようだ・・。
昨夜、飲み屋で出会ったクレア=シードルに強い酒を飲まされて思考が自分の物ではなくなって・・。
その後の記憶が定かではないのだよ」

「お父様、本当ですか!?もう・・。また昔の欲望に走ったお父様に戻ってしまったかと・・。
その姿は良くないけど、・・良かったですわ!!」

私は、誰もいない続き間のドアを開けて進んだ。

中央に置かれた丸テーブルの上には赤い液体が入った3つのワイングラスが置かれていた。

風が入り込み部屋のカーテンがゆらゆら揺れていた

大きな窓際のバルコニーの外のベンチで何か動いている影に気づいて、そちらへ歩いていくと重なり合う男女の姿を捉えた。

月夜に淡い金色の髪が輝いていた。
波打つように揺れる長い金色の髪の女性と、紅い髪の男性が重なっていた。

「そこ・・。気持ちいいよ!!もう少し足を開いて・・角度を変えていいかい??」

「駄目ぇっ!!!・・・まだ駄目っ!抜いちゃ・・もっとぉっ!」

「早く欲しかったの?アデル・・。
何回も求めるつもりだから大丈夫だよ・・。・・・いいかい??」


聞き覚えがある声の主に、心当たりがありまくりの私は苦く笑っていた。



「・・・え。また?またなの??」

私の華奢な肩にカイルがポンと手を置いた

「そのようだな・・。
二人とも、ベンチが好きなのだな」

「何ですか・・。その感想!?」

カイルの言葉に私は思い切り噴き出しそうになった。

行為に夢中なノアとアデルは、私達に全く気づいていない・・。

私はため息を吐いた後、ゆっくり振り返って
後方にいた人物に声をかけた。

「はぁ。困った方達ね・・。
こんな醜態を他の方々に見せたら我が家は連座ですわよ?・・ねぇ、お父様?」

私の言葉に信じられない物でも見るように、顎が震えている様子だった。

この国の法を司る、法曹相の地位でもある父は真面目で堅い人柄で有名だった。

そんなお父様にこの光景はかなりパンチがあるだろうな・・。

「・・嘘だろ??アデレイドが・・。
そんなまさか・・!?リアの婚約者であるノア君と??」

真っ青になった父、ディヴィット=グラディアスがその場に立ち尽くしていた。

カイルは、エリオスに目配せをすると、他の人物には見られないように続きになった貴賓室を隔てる扉を閉めた。

「おいっ、何やってるんだ!!第一騎士団所属、ノア=ライトゴールド」

鬼の第二騎士団隊長のエイルアンが、ハリのある声で窓辺の2人に届くような声で叫んだ。

ハッと、自分を呼ぶエイルアンの声に気づいたノアが慌ててこちらを振り向いた。

アデレイドも、服を掻き抱いて隠すようにノアの後ろに立った。

乱れた髪で私とお父様、カイルの姿を確認すると大きく青い瞳を見開いた。

「・・カイル様にお父様!?それにエメリアまで・・。何故、ここに??」

唇を噛んだアデレイドは、眉間に皺を寄せたまま涙目になっていた。

「何故とは、こちらの方が聞きたい・・。結婚前の男女が何をしてるんだ?
アデレイドの婚約者はカイル様で、・・ノア君の婚約者はエメリアではなかったのか!?
・・どうなってるんだ。二人とも恥を知れ!!」

呆れたように掃き捨てた父は怒り心頭の様子だった

私は昼からリリアのお宅に招かれていたお父様を拾ってオルディアス公爵邸に来たのだった。

その時、部屋の扉がノックされた。
エリオスがドアを開けて様子を確認すると後ろにいた人物に中へと入室を促した。

王宮騎士団の総帥であり、侯爵の地位を持つアーロンソ=イグノスと、軍務相を勤める侯爵であるリドリー=クラウが颯爽と現れた。

エイルアンと、アルフレッドの父親でもある二人はカイルと視線を会わせると無言で頷いた。

アルフレッドは、急に現れた父に驚きを隠せない様子だった。

「カイル様、エメリア様。こちらに・・。の書類の準備が出来ましたよ?」

書類を手にしていたエリオスは穏やかな表情で数枚の紙束を手にしていた。
外出先に万事に備えて同意書を持ち歩いているのだろうか・・。

敏腕と称されるカイルの右腕のあまりの用意周到さに驚いていた。

アデレイドは後ろを向いて服を着ながらポロポロと大粒の涙を零していた。
ノアも、流石に何も言えずに上半身裸で下を向いていた。

お前は、何か着ろよと思う・・。

「カイル殿下、皆様、大変申し訳ありません。
私の注意不徳の監督責任です。
このような不敬罪に当たる裏切り行為を娘に犯させてしまいまして・・。」

父の青い瞳は、苦しそうに揺れていた。
私の存在に漸く気づいたノアが瞳を揺らして叫んだ。

「エメリア・・。違うよ??これには訳があるんだ!!」

はっきり浮気現場を二回も見たんだけど・・。

前回の件と、ご令嬢達からの断罪の件とで心象は最悪の性犯罪者なんだけど?

どんな訳があってどう違うと言うのかしら!?

「何も違わない!!
どう見ても黒なんですけど・・!?
いいから、早く服を着てよ!!見苦しいわ」

この状況でどんな言い訳をするのか逆にゆっくり論破しながら聞いてみたかったけれど、私の前に大きな影が出来て視界が遮られた。

ノアが私に向かって声を上げるとカイルが進み出て
私の間に立ってノアを睨みつけた。

後ろに立った私の手を、大きな右手でそっと掴んだ。

私はカイルと視線を合わせると私に大丈夫だと伝えるようにその手は力を込めて握られた。



「揃ったな。さぁ・・。話し合いの時間だ」

カイルの蒼翠の美しい瞳が怜悧に細められた。


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