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異世界。

エストラの願い②

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私は、アルベルトの元へと走る。

エストラは、大勢を崩してグラリと態勢が傾いて地面へと落ちていく。

「・・っ・・。くっ。」

地面に這いつくばっているエストラの体からは大量の血が流れ出ていた。

「最後は・・わざとか?・・戦闘中にも関わらず・・・。お前は、ずっと迷っていたな・・。」

体を震わせながら、真っ青な顔のエストラがアルベルトをゆっくりと見上げた。

「エストラ・・。お前が仕える相手は・・誰なんだ?
お前には、何処かでずっと迷いがあった・・。
・・・お前の本当の意思は何処にあるんだ?」

アルベルトが腰を下ろして、エストラの金色の揺れる瞳を見下ろした。

血なまぐさい匂いが辺りに広がる。

私は、アルベルトの背中に手を触れて、その温もりにホッとする、

その言葉に、動揺の色を見せたエストラの悲しそうな瞳を見て驚いていた。

「・・・私は、この世界に転生してきて・・。
我が主に・・拾われました。
彼女は、8年前に最後の仕上げとして・・異世界から魂を・・呼び寄せたと・・。
1つはノア王子・・。もう片割れの俺は・・。ノア王子と共にこの世界に同時に
転生してきたと・・。
何も・・知らないノア王子の監視と、アルベルディアを強い国・・にするようにと・・。
命を・・受けて、ノア王子の護衛兵士に・・なりました・・。
俺は、この世界を・・シェンブルグやルーベリアの・・繁栄を終わらせる
役目を持ってこの世界に呼び寄せた・・。そう彼女は言っていました・・・。」

「そんな・・。どうしてそんな事を・・。
ノア王子ではなくて、何故お前だけにそんな役割を授けたのだ・・。」

クレイドルと、アルベルトは目を大きく見開いた。

「・・彼女!?貴方が仕える相手は、女性なの??」

私は、つかみ掛かるように大きな声でエストラに向かって叫んだ。

気づいたら、エストラの側でその金色の瞳と向き合う至近距離に距離を詰めていた。

エストラは、痛みに顔を歪めた。

苦しそうに私を見上げて小さく頷いた。

「この世界で・・いつも・・不安だった。月を見ると、君を・・思うん・・だ。
・・大好きだったよ。・・美月。」

未だにカタカタと震える私の体を見て、辛い表情で眉を下げたエストラが涙を浮かべた。

私の青と金の瞳を見つめて、瞳を激しく揺らした。

涙が溢れ出て来て、苦しそうにエストラは、私に手を伸ばした。

「あの日・・。きみと・・話したかっただけなんだ・・。本当は・・。
退院して留学が決まった俺は、・・もう二度と会えなくなる前に・・君の瞳とちゃんと
向き合って・想いを伝えて・・・。
だけど・・。あいつは全部、知っていた・・。踊らされたのは・・・俺のほ・・だった・・。」

「エストラ!??・・・今のは・・。どういう事???
あの日、私をあの暗がりに閉じ込めたのは・・・。
・・ただ自分の想いを告白したかったから??でも、何でそんなことしたの???」

意味が分からない・・。

痛みに耐える瞳で、悲痛な表情を浮かべたエストラは、切なそうに私を見た。

「・・・君が思っているよりも・・。あいつは・・君を・・ていた・・。
恐ろしい執着・・・持って。知っていたんだよ・・。全部・・・。あの日・・。ゴホッ。」

「何を・・言ってるの?意味がわからないよ・・。優しいお兄ちゃんだったのに・・。」

「ごめんね・・。焦って、間違ってしまった・・。だけど、きっと・・
焦って・・たのは・・俺・・け・・じゃ・・。」

目が霞んでいるのか、頭を支えきれなくなったエストラは地面へと倒れた。

「エストラ・・。君は・・・。美月、どいて。」

「え?う、うん・・。」

アルベルトは、目を瞑って一呼吸置くとしゃがみこんでエストラの頭上に手を翳した。

アルベルトは、エストラの体にトリートの光を浴びせる。

「おいっ・・。敵なのだぞ???アルベルト・・正気なのか??」

クレイドルは、離れた場所から不安気な声をかける。


「・・・正気だ。敵でもない・・。こいつは、8年間一人ぼっちで生きてきた・・・。
導く者が愚かだっただけなのだ・・。」

眉を寄せて、エストラへと光を放つアルベルトの姿を見つめた。

青い瞳は、真剣にただ前のさっきまでの敵の命を救う為に必死だった。

「アルベルト・・・。」

何処かで見たことがある・・。

この人のこの顔・・・。

何故だか私の胸には、切なさがこみ上げていた。
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