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異世界。

アルベルディアの毒。

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デルメの町をぐるりと囲み標高の高い山脈が連なる。

数日前に爆発があった場所・・。

先に町の様子を確認しに行った私は、驚くべき惨状を目にした。

町長の屋敷があった場所から、半径数百メートルの家々は跡形もなく灰になっていた。

デルメの町は壊滅状態だった。

「酷い・・。何でこんなこと出来るの?
毒で知り合いを沢山失った悲しみの中・・・。
ここで生き残って、ひっそりと暮らしていた人々がどんな気持ちでここで生活していたか。」

エストラの言葉を思い出して、胸にチクリと痛みを覚えた。

ノアは、自分が作った爆弾を使われて重傷を負うことになった。

「イムディーナが言っていた。ノア王子がすぐに王へとデルメの救援を頼んだらしい・・。
しかし、残酷なことをするな。
生き残った町の人々は近くの洞窟に避難している。我々も、採掘場へと向かい、事の真相を確かめよう。」 

「そうね。イムディーナ達も待っているわ。
行こう、アルベルト!!」

馬(ペガサス)へと、私を持ち上げたアルベルトは反転して採掘場へと手綱を向けて駆け出す。

 
山の麓にある、採掘場の入り口には大きなシートで覆われていた。

イムディーナや、ノア、クレイドルとアレクシス、エレクトラ、
ルードリフが既にその場所で私たちを待っていた。

「美月、アルベルト殿下・・!!良かった・・。
無事で何よりです!!心配したんですよ?」

地面へと降りたった私の前にノアが、私たちの元へと一目散に走って来る。

私は、ノアの姿を上から下まで確認するように見るとホッと安堵の表情を浮かべた。

「ノア王子!!貴方も、よくご無事で・・。重症を負ったと聞いて驚きました。」

「イムディーナ様に、助けてもらいました・・。
エレクトラ様の医魔術にもお世話になりました。・・・ただ、感謝の言葉しかありません。」

ガーネットの瞳を細めて、笑うノア王子を見て安心した。

エストラの裏切りに心を痛めていた王子は、イムディーナやシェンブルグの人間との交流を
通じて、少しだけ精神こころも回復したようだった。

「アルベルト殿下の怪我も・・。背中に矢が刺さった酷いものだったと聞きました。
大丈夫なんですか?」

「もう、大丈夫ですよ。美月の医魔術で一夜にして傷が塞がったんです・・・。
彼女の吸収力には目を見張るものがありました。たった数週間で使用出来るようになるなんて。
僕も、彼女がいなかったら生きていなかったでしょう。」

アルベルトは、隣に並ぶ私の肩にそっと手を触れて優しい瞳で見下ろした。
青い瞳は、甘く私の瞳を見つめた。



褒められた・・!!

なんか、人前で褒められて甘い視線を送られるの恥ずかしいんだけど!!

「・・・イイエ。アタリマエノコトヲシタダケデス。」

凄まじく棒読みのセリフを返した私に、アルベルトは吹き出しそうになって横を向く。

「可愛いな・・。照れるなよ、挙動不審すぎるよ?」

「て、て・・。照れてないし!!アルベルトにバケモノ並みの体力があって助かりました!!
日ごろの鬼トレーニングの成果が出て、本当に良かったです!!」

ボンと、顔が真っ赤に染まった私は、何かを話し合っている様子の
イムディーナとエレクトラの元へと脱走した。

「・・・逃げましたね。彼女は、照れ屋で恥かしがりやだからな。
それにしても、コンプレックスだったあの瞳を人前で晒したなんて驚きです。
彼女の瞳は、何度見ても魅了されてしまいますね・・。」

ノア王子は、クスっと思い出し笑いを浮かべた。
アルベルトは、馬(ペガサス)を空へと返して、ノアと向き合った。

「邪魔はしないと・・。あの日僕は、貴方に言いました。
だけど、その言葉を裏切ってしまった・・。
ノア王子、すみませんでした。
僕は、彼女が好きです。・・・貴方に負けないくらいに。」

アルベルトは、スッキリとした表情でノアに微笑んだ。

サラッと金色の髪が風に揺れて、漆黒の騎士服を身にまとった王子は
熱の籠った蒼い瞳を向けた。
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