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プロローグ

心を閉ざした少女。

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私の名前は、美月みずき

美月=初音=ベルナンド。
そう、私はイギリス人の父と、日本人の母を持つ二分の一ハーフ

10歳まで、イギリスの田舎で育ち、その後父と母の仕事の都合で東京へとやって来た。

両親は、大学の医学部で教授をしながら父は臨床研究を、母は大学病院で、現場での指導を重視した
医者の育成を目指して日々忙しく働いていた。

私の4つ上の兄も、今年医学部を卒業して現場で臨床医として大学病院に勤務している。

甘え上手な2つ下の弟は、受験生として、必死で参考書を読み漁る日々を送っている。

現在、医学部か、理学部かで進路を迷っている様子だった。

当の私はと言うと、現在20歳で、東京にある、女子医大の2年に在籍しながら、イギリス時代から習っていた、フェンシングのサークルに入って日夜練習を重ねていた。

全国でも3本の指には入る程の腕前だった。

勉強とサークルの両立は難しく、ただでさえ頭が痛くなる医学の講義と、末恐ろしい進級テスト前の
緊張感が溢れる日々に、ストレスはマックスまで溜まっていた。

そんな私のコンプレックスはこの容姿・・・。

カラーコンタクトで、本来の瞳の色を隠し、目立たぬように生活を送っていた。
ただでさえ顔だちがハーフと言うだけで、派手に見えるのに・・・。

この瞳の不思議な色は、自分でも不気味だったのだ。
昔はそれでも、この瞳を綺麗だと言ってくれた人もいた。

優しく、イケメンな兄と弟と、万年ラブラブ夫婦を見て育った私だったのだが
2つだけ、大きな欠点があった。

1つは、大の男性不信・・・。

家族以外の男性に触れられるだけで、全身に真っ赤な蕁麻疹(じんましん)が出る始末!!

以前、電車で痴漢に会った際には、股間に蹴りを入れて、入れたまま気絶してしまった
過去もある。

兄と父はハーフの良い部分を受け継ぎ王子様みたい!!

しかも、性格も良いでしょ・・。

頭も良いと来る!!

私の理想は遥かに高くなるだけ・・・。

そんな彼らに叶う人間なんて会ったこともなかった、

そしてもう1つ。

多感な時期に日本に転向してきた私は激しい、「いじめ」にあったのだった。

そのトラウマから、心も、目の色も閉ざしてしまったのだった。

揶揄われてばかりいた男子生徒のいない、中高一貫の女子校を受験し、女子医大入学までの間で
私はのびのびとした学校生活を送れるようになった。

人前では、明るくムードメーカーだと言われるようになった。
父や母の明るく、直向きな性格が遺伝していると私も思う。

だけど、その裏にある自分の影にも気づいていた。

何処か諦めて、冷めてしまっている自分の存在を認識していたのだ。

本音なんて誰にも言わない。
自分の中途半端な外人ルックスが嫌・・。

誰かを信じて、その人が去ってしまえば余計1人ぼっちの孤独が身に染みた。

それならば、大切なものは作らなければいい。

家族以外に大切なものなんて、何もいらない・・・。

誰かを信じることも、誰かに必要とされることも私には必要ない。

だから、何も感じないように振る舞う。

良い未来を考えたら、悪い未来を想像して、最小限に傷つかないようにすればいい。

誰も好きにならなければ、傷つくことも、・・失うこともない。

そんな私が、自分の生まれる前の両親の選択と、同じ二者択一の選択を私が選ぶ日が来るなんて。

想像すらもして来なかった・・。

心を閉ざして、機械のように凍った心を、再び動かしてしまう人の出現に戸惑う日が来ることを。
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