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エレインガルド魔術学院に入学したいんですが。
創剣魔法学特別科って何!?
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麗らかな木漏れ日の11月。
小春日和の今日・・。
私は、エレインガルド魔術学院に学期の途中にも関わらず途中編入することになった。
お父様が学院への入学許可を承諾してから3カ月・・・。
非常に慌ただしく、スリリング(?)な日々が過ぎた。
黒色の制服をぐるっと回って確認した。ふわっと動きを見せる制服のスカートの襞がアコーディオン状に仕上がっている。
制服は高校生ぶりなので恥ずかしい。
「お姉さま・・!!学院の制服がとってもお似合いですわ。なんて、凛々しくていらっしゃるの!!」
視線を感じて、部屋の入口へと視線を向けた。
「・・クラリス。お父様、お母様も・・お見送りに来て下さったんですね」
ピンク色の髪をアップスタイルにして、若草色のシンプルなドレスを着た母は、私の姿を上から下までを感慨深げに見つめていた。
「似合うわ、黒はアメリアの白金の髪色に引き立つのね。私もその制服だったの。懐かしいわね・・。」
「えっ!?お母さまも魔術学院の出身者ですか??初耳です!!」
私は驚いて母を見上げた。
お母様の菫色の瞳は嬉しそうに細められた。
今日もお母様は女神のような美貌を保っている。
「お母さまったら・・。その美貌で、魔力もあったなんて最強じゃない!!
何故、お父親を選んだのかしら・・・。もっと嫁ぎ先を選べたんじゃない!?」
「自分の父親に対して失礼だろう?!
私だって、若い頃はそりゃあ様々な令嬢から言い寄られてなぁ・・」
母は笑顔を崩さずに微笑んでいる。
否定はしない所を見ると、お母さまも私の意見に頷く所はあるのね?
クラリスが私の制服と自分の制服を見比べては何度も首をかしげていた。
「私とお姉さまの制服の色が違うんですが・・。編入する学年は1等学年ですよね」
「そう言えばそうね・・。クラリスは濃い青に白い刺繍ラインが入っているのね・・。
私の制服は、漆黒に金色の刺繍が入っていて別物のようね」
私がエレインガルド魔術学院に入学が決まった途端・・。
クラリスが自分も私と同じエレインガルド魔術学院に入学したいと騒ぎ出したのだった。
私も一応受けた魔力の検定試験を、ギリギリの成績でクリア出来たクラリスは同じタイミングで入学することになった。
「これは不味い!!・・原作と違う!!」
自室で叫んだ私の声が白い壁にぶつかって木霊した。
非常に慌てた私は、この三か月間・・。
それはそれは、クラリスに必死で説得を続けて来たのだった!!
コインの中央に糸を結び振り子を作った私は、うたた寝中のクラリスを見つけては、眠気眼のクラリスの眼前で、銀色のコインを左右に振り子のように揺らしていた。
「・・・クラリス。
・・貴方は、エレインガルド魔術学院に入学しない。メリクレイス貴族院に入学したくなる。」
「・・私は・・。メリクレイス・・貴族院に・・・入学したい・・。」
桜色のふっくらした唇がむにゃむにゃと呟く。
気を良くしてニヤッと笑った私は
「そうよ、その調子・・!!
貴方は、メリクレイス貴族院に入学して、ハピエンを掴みとるのよ!!コンラッド様や、エリアス様あたりとのラブロ・・・・。」
「ねぇ、アメリア?何の遊びをしているのかな??」
もう少しの所だったが、訪ねてきたコンラッドが爽やかな笑顔で私のすぐ真横で微笑んでいた。
「ぎゃあぁっ・・!!サイコ・・。ゴホッ。コンラッド様!?・・おはようございます!?」
今の聞かれた!?
どうでもいいけど距離が近いな・・。
今日も爽やかイケメンのコンラッドに、私は頭を撫でられていた。
我慢・・。我慢よ。
「ふふっ。アメリアったら可愛い。お昼過ぎだよ?
寄り道して、君の大好きなマカロンの美味しいケーキを持ってきたんだ。君と二人で一緒にお茶を飲みたくて。」
マカロン好きじゃないんだけどな・・。(前アメリアも)
イメージ先行しすぎて、フワフワのお菓子好きな可愛い婚約者のイメージなんだろうな。
「そ、そうですね・・。ご一緒させて頂きます」
ソファに寝そべったままのクラリスの方を恨みがましく見つめながら、コンラッドに引きずられるように庭に用意されたティーテーブルまで連行された。
その後も、何度も催眠療法を試みたが・・。
父上か母上かメイドに見つかる始末・・。
その他、ややこしい様々な訪問者が訪ねて来た。
学院入学した時に困らないようにと、魔法や、剣術を教えてくれるナクシャータの訪問だけは
前日から楽しみだった。
彼女が到着した際には、喜びが高ぶり過ぎて抱き着いて出迎えていた。
夜は銀色の犬・・。
犬と言う言葉に不機嫌になり、右前足で頭を叩かれ続けていたが、ある日重大な事に気づいた。
本を読みながら、貴方、まさか狼とかかしら・・。本に乗ってる聖獣の銀狼だったりする?!
そう聞いてみたら、いつもの前足でバシッ!の否定がなかった・・。
銀狼なので「銀太」と名付けた。
銀太は毎晩訪ねてくる。
銀太はどうも言葉が解る賢い狼のようで、一緒にお菓子を食べてながら愚痴やお喋りを聞いてもらった。
賢そうな緑翠の瞳を私に向けて、黙って傍にいてくれた。
そんな訳で、エレインガルド魔術学院入学までの日々はあっという間に過ぎ去ったのだった。
ジェイダール皇国の魔都「エレインガルド」
皇宮のすぐ近くにある高台の大きな石垣の上に、「エレインガルド魔術学院」が聳え立っていた。
馬車で校門の前に着いた私は、ゆっくりとタラップを降りて高く聳える門扉を見上げた。
鷹と鷲が門のせん塔部分に金で形作られていた。
静けさの中に降り立った私はぶるっと身震いをした。
「お・・。お姉様。」
ゴクリと、喉を鳴らすと後ろから降り立ったクラリスが不安そうに私の腕に手をまわした。
クラリスが傍にいてくれて少し安心したな。
一人でこの門扉に立ったら、不安だったかもしれない。
「・・・ちょっと、そこどいてくれる??」
後ろから、男子生徒の声が聞こえて振り向いた。
くすんだ金色の前髪の伸ばした生徒が立っていた。
私と同じ黒い制服を着たシリウスと同じくらいの背丈の男性が、鞄を肩にかけてだるそうに私達の横を通り過ぎて行く。
門扉の中心にある鷲顔が浮き出た錠部分の前に立ったその学生は、そこに手を翳した。
「創特科・ラルフィード=グランディス登院。・・開け」
ガシャン・・。
大きな門扉が左右に割れて押し開かれた。
100メートルぐらい先に学院の入口が見えていた。
すらっとした背丈のその男子生徒は、一瞬横顔をこちらに向けた。
「編入学の生徒だろ?・・・行くぞ。遅刻になってしまうぞ」
鼻先まである前髪で表情は見えない。
言葉もとてもぶっきらぼうな声がけだった・・。
だけど、なんだかその声に安心感を覚えていた。
茫然とクラリスと目を見合わせていると、先ほどの男子生徒は校舎の方へと歩いて行ってしまっていた。
「初日から遅刻は不味いわね・・。クラリス、急ぐわよ」
「待ってください、お姉さまぁ・・!!」
ほとんどの生徒が当院を終えた様子で、玄関先は静まり返っていた。
靴箱の横にある円柱の柱にスカート姿で長い脚を交差させて時計を見ていた生徒が私達を見つけて、こちらに歩いて来た。
「遅いですよ。授業の始業まであと10分程度しかありません」
赤銅色の髪を視界に捉えて安心した私は、速足で走ってナクシャータに抱き着いた。
驚いた表情のナクシャータに、私は一言だけ言い放った。
「ナクシャータ様っ!!
・・学院に入る門の開け方が分からなかったです!!」
「なっ・・失念しておりました!失礼いたしました・・。ご説明しておりませんでしたね。さぞ、心細い思いをしたでしょう??」
「それが、私と同じ黒い制服を着た、前髪長めね背の高い男子生徒に門を開けてもらったんで、大丈夫です」
その言葉に、ナクシャータは驚いた表情を浮かべた。
「・・ラルフ様が??そうですか・・。彼には後でお礼を言っておかなければなりませんね」
「お姉さま、学院は大きくて広そうですわよ・・。教室に急いだほうが良いのでは?」
クラリスの言葉にナクシャータが頷いた。
学院は、左右対称の比翼型の建築様式になっている。創設200年以上の城と変わらない荘厳な作りになっていた。
魔力の強い皇族・貴族の子どもだけでなく、平民でも魔力が高い者で入学基準に達した者のみが入学出来る。
「遅いよー!!朝から待ちくたびれたよ・・。30分も早起きして登院したのに!!」
「申し訳ありません。校門の開け方をお二人にお伝えすることを失念しておりました。
お困りだったようです。しかし、・・ラルフ様がちょうど通りかかったようでお助けいただいたようです」
見覚えのある今日も栗色の艶髪サラサラ皇子エリアスが黒色の制服を身に着けていた。
「・・は?ラルフが助けてくれたの!?人助けが出来る人間だったんだね。偉いじゃないか。成長したなぁ・・。」
「ラルフ様に失礼ですよ・・。授業が始まりますし、教室に急がないと・・」
・・ちょっと待って!?
何でエリアス皇子まで、エレインガルド魔術学院にいるの!?
クラリスに続いて・・。エリアスまで!?
「な・・。どうしてエリアス皇子が学院にいるんですか!?制服まで身に着けて・・。
潜入捜査とか??・・い、一種のコスプレですか!?」
私は目を大きくして叫んだ。
「えー・・??言ってなかったっけ??
僕もアメリアと一緒にエレインガルド魔術学院に入学することにしたんだ。・・面白そうだし?」
悪びれもなく笑顔で私を見下ろすエリアスに殺意を覚えた・・。クラリスだけでなく、エリアスまで魔術学院に入ったら、メリクレイス貴族院でのラブロマンスは何処へ行くのよ!?
「そんな理由で、エメティアのストーリーを変えないで!!改編が甚だしすぎて、もはや別物になるでしょう!?」
頭を抱えた私は大きな声で叫び声をあげた。
ナクシャータとクラリスは、私のあまりのパニック模様に驚いていた。
「あはははっ、朝から面白いなぁ。そんなに驚いてくれたの?編入を決めて良かったよ」
「良くないです!!エリアス様は、メリクレイス貴族院で学ばれる予定だったのでは??クラリスも、魔法なんて興味ないでしょう!?お二人ともここじゃないんだって・・」
ブツブツ呟いていた私の後ろから、いきなり首に長い腕が巻き付けられた。
「アメリア見ーつけた!!」
「・・ぐはっ・・!!」
腕が強く締まって首の苦しさに驚いた私の脳裏に「絞殺」の二文字が浮かんだ。
爽やかさを醸し出す、檸檬の香水。
まさか・・。コンラッドも同時期に入学しているの・・!?
「遅いよ・・。ずっと教室で君を待っていたのに・・。ラルフとシリウスは無言でつまらないから探しに来ちゃったよ」
捜しに来ちゃった。・・じゃない!!
首が締まって、息できなくて死ぬかと思った。
「あのさぁ、アメリアに抱き着くのは辞めてよ・・。嫌がってるよ?」
「・・・うるさいなぁ。なんでエリアスまで入学して来るんだよ。しかも、同じ創特科って・・。
エリアスは剣術が不得意なくせに!」
言い争いが始まったの二人を呆れた表情で見ていたナクシャータが、思い出したようにクラリスに声をかけた。
「クラリス様・・。貴方は、魔法科なので棟が別になります。そちらの廊下を右に進めば魔法科になりますので・・」
「ええっ!??私だけ、違う科なんですか??双子なのに・・。お姉様と一緒がいいです!!」
青い瞳は不安そうに見開かれて困った様子でナクシャータに懇願している。
なるほど・・。
科が違うから、制服の色が違うのね。
「申し訳ありませんがー魔力や、訓練も魔法科と創剣魔法学特別科では別物なのです。
双子と言いましても、アメリア様とクラリス様の魔力差はかなりありますので・・。ご理解下さい」
クラリスは、泣きながら魔法科棟へと走り去っていった。
「こちらが創剣魔法学特別科。通称・創特科です」
左翼にある銅色の扉の前でナクシャータが手をかざしてロックを解除すると、創剣魔法学特別科への扉が開かれた。
教室には、ナクシャータ、シリウス、エリアス、私の兄であるフィリックスと、先程の門で会った男子生徒がいた。
一瞬、彼と目が合ったような気がして、ぺこりと頭を下げると静かに頷いてくれた。
みんな凄そう。
だけど、きっと大丈夫。
私はここで何とかやって行くしかないんだから!!
小春日和の今日・・。
私は、エレインガルド魔術学院に学期の途中にも関わらず途中編入することになった。
お父様が学院への入学許可を承諾してから3カ月・・・。
非常に慌ただしく、スリリング(?)な日々が過ぎた。
黒色の制服をぐるっと回って確認した。ふわっと動きを見せる制服のスカートの襞がアコーディオン状に仕上がっている。
制服は高校生ぶりなので恥ずかしい。
「お姉さま・・!!学院の制服がとってもお似合いですわ。なんて、凛々しくていらっしゃるの!!」
視線を感じて、部屋の入口へと視線を向けた。
「・・クラリス。お父様、お母様も・・お見送りに来て下さったんですね」
ピンク色の髪をアップスタイルにして、若草色のシンプルなドレスを着た母は、私の姿を上から下までを感慨深げに見つめていた。
「似合うわ、黒はアメリアの白金の髪色に引き立つのね。私もその制服だったの。懐かしいわね・・。」
「えっ!?お母さまも魔術学院の出身者ですか??初耳です!!」
私は驚いて母を見上げた。
お母様の菫色の瞳は嬉しそうに細められた。
今日もお母様は女神のような美貌を保っている。
「お母さまったら・・。その美貌で、魔力もあったなんて最強じゃない!!
何故、お父親を選んだのかしら・・・。もっと嫁ぎ先を選べたんじゃない!?」
「自分の父親に対して失礼だろう?!
私だって、若い頃はそりゃあ様々な令嬢から言い寄られてなぁ・・」
母は笑顔を崩さずに微笑んでいる。
否定はしない所を見ると、お母さまも私の意見に頷く所はあるのね?
クラリスが私の制服と自分の制服を見比べては何度も首をかしげていた。
「私とお姉さまの制服の色が違うんですが・・。編入する学年は1等学年ですよね」
「そう言えばそうね・・。クラリスは濃い青に白い刺繍ラインが入っているのね・・。
私の制服は、漆黒に金色の刺繍が入っていて別物のようね」
私がエレインガルド魔術学院に入学が決まった途端・・。
クラリスが自分も私と同じエレインガルド魔術学院に入学したいと騒ぎ出したのだった。
私も一応受けた魔力の検定試験を、ギリギリの成績でクリア出来たクラリスは同じタイミングで入学することになった。
「これは不味い!!・・原作と違う!!」
自室で叫んだ私の声が白い壁にぶつかって木霊した。
非常に慌てた私は、この三か月間・・。
それはそれは、クラリスに必死で説得を続けて来たのだった!!
コインの中央に糸を結び振り子を作った私は、うたた寝中のクラリスを見つけては、眠気眼のクラリスの眼前で、銀色のコインを左右に振り子のように揺らしていた。
「・・・クラリス。
・・貴方は、エレインガルド魔術学院に入学しない。メリクレイス貴族院に入学したくなる。」
「・・私は・・。メリクレイス・・貴族院に・・・入学したい・・。」
桜色のふっくらした唇がむにゃむにゃと呟く。
気を良くしてニヤッと笑った私は
「そうよ、その調子・・!!
貴方は、メリクレイス貴族院に入学して、ハピエンを掴みとるのよ!!コンラッド様や、エリアス様あたりとのラブロ・・・・。」
「ねぇ、アメリア?何の遊びをしているのかな??」
もう少しの所だったが、訪ねてきたコンラッドが爽やかな笑顔で私のすぐ真横で微笑んでいた。
「ぎゃあぁっ・・!!サイコ・・。ゴホッ。コンラッド様!?・・おはようございます!?」
今の聞かれた!?
どうでもいいけど距離が近いな・・。
今日も爽やかイケメンのコンラッドに、私は頭を撫でられていた。
我慢・・。我慢よ。
「ふふっ。アメリアったら可愛い。お昼過ぎだよ?
寄り道して、君の大好きなマカロンの美味しいケーキを持ってきたんだ。君と二人で一緒にお茶を飲みたくて。」
マカロン好きじゃないんだけどな・・。(前アメリアも)
イメージ先行しすぎて、フワフワのお菓子好きな可愛い婚約者のイメージなんだろうな。
「そ、そうですね・・。ご一緒させて頂きます」
ソファに寝そべったままのクラリスの方を恨みがましく見つめながら、コンラッドに引きずられるように庭に用意されたティーテーブルまで連行された。
その後も、何度も催眠療法を試みたが・・。
父上か母上かメイドに見つかる始末・・。
その他、ややこしい様々な訪問者が訪ねて来た。
学院入学した時に困らないようにと、魔法や、剣術を教えてくれるナクシャータの訪問だけは
前日から楽しみだった。
彼女が到着した際には、喜びが高ぶり過ぎて抱き着いて出迎えていた。
夜は銀色の犬・・。
犬と言う言葉に不機嫌になり、右前足で頭を叩かれ続けていたが、ある日重大な事に気づいた。
本を読みながら、貴方、まさか狼とかかしら・・。本に乗ってる聖獣の銀狼だったりする?!
そう聞いてみたら、いつもの前足でバシッ!の否定がなかった・・。
銀狼なので「銀太」と名付けた。
銀太は毎晩訪ねてくる。
銀太はどうも言葉が解る賢い狼のようで、一緒にお菓子を食べてながら愚痴やお喋りを聞いてもらった。
賢そうな緑翠の瞳を私に向けて、黙って傍にいてくれた。
そんな訳で、エレインガルド魔術学院入学までの日々はあっという間に過ぎ去ったのだった。
ジェイダール皇国の魔都「エレインガルド」
皇宮のすぐ近くにある高台の大きな石垣の上に、「エレインガルド魔術学院」が聳え立っていた。
馬車で校門の前に着いた私は、ゆっくりとタラップを降りて高く聳える門扉を見上げた。
鷹と鷲が門のせん塔部分に金で形作られていた。
静けさの中に降り立った私はぶるっと身震いをした。
「お・・。お姉様。」
ゴクリと、喉を鳴らすと後ろから降り立ったクラリスが不安そうに私の腕に手をまわした。
クラリスが傍にいてくれて少し安心したな。
一人でこの門扉に立ったら、不安だったかもしれない。
「・・・ちょっと、そこどいてくれる??」
後ろから、男子生徒の声が聞こえて振り向いた。
くすんだ金色の前髪の伸ばした生徒が立っていた。
私と同じ黒い制服を着たシリウスと同じくらいの背丈の男性が、鞄を肩にかけてだるそうに私達の横を通り過ぎて行く。
門扉の中心にある鷲顔が浮き出た錠部分の前に立ったその学生は、そこに手を翳した。
「創特科・ラルフィード=グランディス登院。・・開け」
ガシャン・・。
大きな門扉が左右に割れて押し開かれた。
100メートルぐらい先に学院の入口が見えていた。
すらっとした背丈のその男子生徒は、一瞬横顔をこちらに向けた。
「編入学の生徒だろ?・・・行くぞ。遅刻になってしまうぞ」
鼻先まである前髪で表情は見えない。
言葉もとてもぶっきらぼうな声がけだった・・。
だけど、なんだかその声に安心感を覚えていた。
茫然とクラリスと目を見合わせていると、先ほどの男子生徒は校舎の方へと歩いて行ってしまっていた。
「初日から遅刻は不味いわね・・。クラリス、急ぐわよ」
「待ってください、お姉さまぁ・・!!」
ほとんどの生徒が当院を終えた様子で、玄関先は静まり返っていた。
靴箱の横にある円柱の柱にスカート姿で長い脚を交差させて時計を見ていた生徒が私達を見つけて、こちらに歩いて来た。
「遅いですよ。授業の始業まであと10分程度しかありません」
赤銅色の髪を視界に捉えて安心した私は、速足で走ってナクシャータに抱き着いた。
驚いた表情のナクシャータに、私は一言だけ言い放った。
「ナクシャータ様っ!!
・・学院に入る門の開け方が分からなかったです!!」
「なっ・・失念しておりました!失礼いたしました・・。ご説明しておりませんでしたね。さぞ、心細い思いをしたでしょう??」
「それが、私と同じ黒い制服を着た、前髪長めね背の高い男子生徒に門を開けてもらったんで、大丈夫です」
その言葉に、ナクシャータは驚いた表情を浮かべた。
「・・ラルフ様が??そうですか・・。彼には後でお礼を言っておかなければなりませんね」
「お姉さま、学院は大きくて広そうですわよ・・。教室に急いだほうが良いのでは?」
クラリスの言葉にナクシャータが頷いた。
学院は、左右対称の比翼型の建築様式になっている。創設200年以上の城と変わらない荘厳な作りになっていた。
魔力の強い皇族・貴族の子どもだけでなく、平民でも魔力が高い者で入学基準に達した者のみが入学出来る。
「遅いよー!!朝から待ちくたびれたよ・・。30分も早起きして登院したのに!!」
「申し訳ありません。校門の開け方をお二人にお伝えすることを失念しておりました。
お困りだったようです。しかし、・・ラルフ様がちょうど通りかかったようでお助けいただいたようです」
見覚えのある今日も栗色の艶髪サラサラ皇子エリアスが黒色の制服を身に着けていた。
「・・は?ラルフが助けてくれたの!?人助けが出来る人間だったんだね。偉いじゃないか。成長したなぁ・・。」
「ラルフ様に失礼ですよ・・。授業が始まりますし、教室に急がないと・・」
・・ちょっと待って!?
何でエリアス皇子まで、エレインガルド魔術学院にいるの!?
クラリスに続いて・・。エリアスまで!?
「な・・。どうしてエリアス皇子が学院にいるんですか!?制服まで身に着けて・・。
潜入捜査とか??・・い、一種のコスプレですか!?」
私は目を大きくして叫んだ。
「えー・・??言ってなかったっけ??
僕もアメリアと一緒にエレインガルド魔術学院に入学することにしたんだ。・・面白そうだし?」
悪びれもなく笑顔で私を見下ろすエリアスに殺意を覚えた・・。クラリスだけでなく、エリアスまで魔術学院に入ったら、メリクレイス貴族院でのラブロマンスは何処へ行くのよ!?
「そんな理由で、エメティアのストーリーを変えないで!!改編が甚だしすぎて、もはや別物になるでしょう!?」
頭を抱えた私は大きな声で叫び声をあげた。
ナクシャータとクラリスは、私のあまりのパニック模様に驚いていた。
「あはははっ、朝から面白いなぁ。そんなに驚いてくれたの?編入を決めて良かったよ」
「良くないです!!エリアス様は、メリクレイス貴族院で学ばれる予定だったのでは??クラリスも、魔法なんて興味ないでしょう!?お二人ともここじゃないんだって・・」
ブツブツ呟いていた私の後ろから、いきなり首に長い腕が巻き付けられた。
「アメリア見ーつけた!!」
「・・ぐはっ・・!!」
腕が強く締まって首の苦しさに驚いた私の脳裏に「絞殺」の二文字が浮かんだ。
爽やかさを醸し出す、檸檬の香水。
まさか・・。コンラッドも同時期に入学しているの・・!?
「遅いよ・・。ずっと教室で君を待っていたのに・・。ラルフとシリウスは無言でつまらないから探しに来ちゃったよ」
捜しに来ちゃった。・・じゃない!!
首が締まって、息できなくて死ぬかと思った。
「あのさぁ、アメリアに抱き着くのは辞めてよ・・。嫌がってるよ?」
「・・・うるさいなぁ。なんでエリアスまで入学して来るんだよ。しかも、同じ創特科って・・。
エリアスは剣術が不得意なくせに!」
言い争いが始まったの二人を呆れた表情で見ていたナクシャータが、思い出したようにクラリスに声をかけた。
「クラリス様・・。貴方は、魔法科なので棟が別になります。そちらの廊下を右に進めば魔法科になりますので・・」
「ええっ!??私だけ、違う科なんですか??双子なのに・・。お姉様と一緒がいいです!!」
青い瞳は不安そうに見開かれて困った様子でナクシャータに懇願している。
なるほど・・。
科が違うから、制服の色が違うのね。
「申し訳ありませんがー魔力や、訓練も魔法科と創剣魔法学特別科では別物なのです。
双子と言いましても、アメリア様とクラリス様の魔力差はかなりありますので・・。ご理解下さい」
クラリスは、泣きながら魔法科棟へと走り去っていった。
「こちらが創剣魔法学特別科。通称・創特科です」
左翼にある銅色の扉の前でナクシャータが手をかざしてロックを解除すると、創剣魔法学特別科への扉が開かれた。
教室には、ナクシャータ、シリウス、エリアス、私の兄であるフィリックスと、先程の門で会った男子生徒がいた。
一瞬、彼と目が合ったような気がして、ぺこりと頭を下げると静かに頷いてくれた。
みんな凄そう。
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