メインヒロインを懐柔しながら婚約破棄を目指します!

館花陽月

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エレインガルド魔術学院に入学したいんですが。

規格外の少女。

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「やぁ、アメリア昨日ぶり!!
今日はお暇かい?!」

「・・は?昨日の今日なので、暇っちゃ暇ですが?!・・一体どうされたんですか!?」

私の素っ頓狂な声が邸に響いた。

皇宮から自宅に帰った翌日。
私の元に、エリアスが側近のナクシャータを連れて訪ねて来た。

提案されたのは、いつも傍に置いている皇剣5士の女騎士、ナクシャータに私の魔法の才があるかを彼女に見てもらったらいいと、お気軽な誘いを受けたのだった。

初心者の私が、皇剣5士の唯一の女騎士である恐れ多い存在に魔法をみてもらえるなんて・・。
憧れのナクシャータとの訓練の提案に、お得感でウキウキだった!!

魔法書を読み、簡単な魔法の伝授の講義を受けて昼食を取った。
学んだ講義を元に実際に郊外の森で魔法の実演してみる実技の授業を行っていた。

背丈の10倍以上ある巨大な氷山と、痛々しく真っ二つに分断された広大な森の木々達が、酷い爪痕と共に眼前に広がっている。

私は、長い髪をポニーテールに結び、動きやすい簡素なワンピースに身を包んでいた。

真っ青な顔で頬をヒクヒクさせているナクシャータに笑いかけた。

「ナクシャータさん、魔法って楽しい物ですね!
自分の出したい物を、こんなに自由自在に出し入れ出来るなんて・・快感です!!
真夏にコンビニに行かなくても、氷山1つ出せば、かき氷がタダで無限に食べられますし!?
氷山の氷で、一緒にかき氷を食べましょうね!!」


「・・・うーん。可笑しいですね?」

「えっ、何処が可笑しいんですか??」

「まず、火の魔法で炎柱を出して森を一瞬で真っ二つに分断した上に。水の魔法で氷山を出してしまうなんて・・。規格外にも程があるでしょう!?
一体どうなってるんですか!??」


最初は表情一つ変えなかったナクシャータは、炎柱を出して一瞬で森を焼いたあたりから、魔導書を読みながら、頭を抱えて騒いでいた。

ゲームのナクシャータは、私の大好きなキャラだった。冷静沈着で感情を出さない女騎士ナクシャータが、水色の瞳を鋭く敵に向け、剣を打ち合う姿のスチルがめちゃくちゃカッコ良かった印象があるが・・。

そんな冷徹な女騎士が、こうやって「あーでもない。こーでもない」と、頭を抱えて悩んでいる姿に
親しみやすさを感じて妙な親近感を持ってしまった。

「・・気を取り直して。次、行きましょう。
次は風の魔法です。
えー、風の魔法は心の中でゆっくりイメージを作・・・。」


『・・ビュォオオォオオオオオオオ!!!!』


「あっ?!なんか、風っぽいのが出ちゃいました!!」

手元から一気に巨大になった風は、みるみるうちに自分たちの背丈より遥か高くに膨らんでいく。

バキバキッ・・。

破壊音を立てながら、巨大な森に急に現れた竜巻が全ての木をなぎ倒して進み出した。

私とナクシャータは目を見合わせて驚いてた。

「これって、風じゃなくて・・。
竜巻じゃないですか!?何で!?
こ、こちらに迫って来てます!!危ないですよ!?」

森に進んでいた竜巻化した風は木々を飲み込んで、何故かUターンしてこちらへと向かってくる。

「ええっ・・。どうしよう!?
ナクシャータさん、大変です!!
私、今気づいたんですが。コントロール方法が全く分かりません!!」

「な、なんと!?コントロールが出来ないのですか?!アメリア様は、危険ですからお逃げください!!」

皇剣5士唯一の女剣士であるナクシャータが迫ってくる巨大な竜巻に向きなおして帯剣していた剣の鞘を抜いた。

頭を抱えて悲鳴を上げる私の目の前で、ナクシャータが華麗に巨大な竜巻に呪文を唱えながら
剣を振り上げた。

・・バシュッ・・!!!

たったの1振りで、壁のような高さまであった竜巻が霧散した。


「・・・・・・。」

無言の沈黙が広がっていた。

竜巻が消えた瞬間に、ナクシャータは小さくため息を吐いた。

「・・大丈夫ですか?」

私は全身の力が抜けてその場にへたり込んだ。
周りをよくよく見渡すとあまりの地獄絵図に青ざめた。

「ま、誠に申し訳ありませんでした・・。
よくよく考えたら、大規模な森林伐採に、氷山の窃盗。加えて、竜巻による更なる自然破壊まで!
・・私、罪人じゃないですか!」

あたり一面の破壊行動に責任を感じた私は、真っ青になって叫んだ。

一気に落ち込んだ表情の私を見て、唖然とした表情をしたナクシャータは、急にぷっと噴出した。

「アハハハハッ・・!!何で謝るんですか!?
本当に貴方様は、面白いご令嬢ですね」

「全然、面白くないですよ!!自然にごめんなさいです。」

その言葉に、再度噴き出してお腹を抱えていた。
ナクシャータは笑いすぎて涙目になっていた。

「やめてください・・。あははははっ、もう、死ぬ!!笑いすぎて腹筋が痛いです!!」

どう見ても笑いごとじゃないんだけど。
ナクシャータの笑いのツボが分からない・・。

「ナクシャータ・・!」

その時、東の空の方角から空をかける黒い馬に乗ったシリウスが長いマントを翻して翔けて来た。
金色の長い髪を束ねた美丈夫の登場に私は、更に焦りを覚えた。

・・捕縛?!
自然破壊と窃盗がバレたのかしら!?

あっ、でもこの人。
何処かで見たことがある・・?!

「シリウス様・・!?どうしてこちらに??」

「エリアスから聞いて来たんだが。
これは・・相当派手にやったな。この惨状の全てがアメリア嬢の出した魔法の仕業なのか?」

・・シリウス
何処かで聞いた名前・・。

金髪・緑翠石の瞳を持つ背の高い整った年上の男性の登場に、ナクシャータは一瞬たじろいだ様子を
見せた。

・・確か、攻略対象の1人だ!!
この国の皇族で、魔法が使える体力派の皇子様だった・・!!シリウスは、あのクラリスの魅力に靡かなくて、攻略が大変たったもの・・。

馬から降りた、シリウスはあたり一面を見渡しながら緑色の瞳を細めていた。

「・・はい。先ほどまで背丈の10倍ほどの大きさの巨大な竜巻も生成されておりました。
危険なので、消滅させましたが・・。」

ナクシャータは、さっきまでのお腹を抱えた爆笑キャラとは打って変わった様子で、シリウスに状況の説明を始めた。

納得したように頷いたシリウスは、腰にあった長剣を取り出すと、顔前で剣を天に向かって真っ直ぐに立てた。
口元で何かを呟くと、目映い青い光が剣から放たれた。

その青い光が粒子のようになって輝きを放ち、あたり一面へと広がっていく・・。

「あ・・・。木々がもどってく!!かき氷、、いや、氷山も消えた!!」

私は、驚いて一面を見渡していた。

そんな折り、ナクシャータが私の肩をそっと叩いた。

「貴方様の魔法で破壊された物たちは、シリウス様の魔法で元通りになりますよ。
大丈夫ですから、そんなに心配しないで下さい。」

そう言って、優しく笑った。

「・・・良かった。魔法って、便利だけど怖いですね。簡単に魔法で様々な物を出せても、コントロール出来ない事が心底怖いなって感じました。」

「そうですね。普通は簡単に魔法で物を出すこと自体が難しいんですが・・。
アメリア様の魔法力は強大すぎます。それを操る術を覚えなければいけませんね・・。」

「操る術ですか・・。でも、それってどこで学べばいいんでしょうか?」

魔法書には、精神を統一して自分の魔法で作り出した物に呼び掛けて操るって書いていたけど・・。

竜巻に「消えて!!」って、何度も念じたけれど消えるどころか元気に暴走していたし・・。
魔法具とかもストーリーに出てきてたけど。

「アメリア嬢、怪我はなかったか??」

シリウスが、全ての破壊を元通りに直したのを確認して、こちらに来てくれた。

「・・はい。あの、初めまして。アメリア=エレクシードと申します。
シリウス様には、エリアス様の宴で倒れた私を介抱して下さったと聞いております。
今日
・・。私の暴走の後処理までさせてしまって、誠に申し訳ありませんでした!!」

「介抱など、あれは大げさな事ではない。倒れていた貴方を運んだだけだ。
いや、少々驚いたよ。これほどの魔法を魔道書の初見で操れてしまうなんて驚きだ・・。そう思うだろ、ナクシャータ」

慌てて頭を下げた私に、穏やかな声で告げた。

「はい。正直、規格外すぎて私も手をこまねいておりました。・・アメリア様、これほどの魔法の使い手となれば、その才を見込んでエレインガルド魔術学院の資格に達するレベルの魔法などすでにクリア出来ていると思いますが・・。
皇剣5士である私も、こちらにいるシリウス様も剣術と魔法を教わっている学び舎。
エレインガルド魔術学院への入学に、ご興味はございませんか?」

「エレインガルド魔術学院・・ですか?!私が?」

「そうだな・・。この魔力は先生方に指導を仰いだほうが良いだろう。エレメントもいくつ使いこなせるか分からないな。」


エメティアのストーリーの始まりは16歳・・。

エレインガルド魔術学院を卒業したシリウスや、そこで学びながらも皇剣5士として活躍する
ナクシャータと、コンラッド・・。

魔法よりも教養を学ぶことを選んだエリアスと、クラリスが学ぶメリクレイス貴族院が舞台だった・・。

「皇剣5士を目指すなら、登竜門であるエレインガルド魔術学院の入学は必至ですよ?」

ナクシャータは、私の目を見て問いかる。

まだ14歳だし・・。

ストーリーは私が死んだ設定で進んだ話だったから、私がエレインガルド魔術学院で魔法を学んでもストーリーの進行的に問題はないはず。

・・魔法をコントロール出来ないと、クラリス達のハピエンの手助けも出来ない!!

「そこに行きたいです!!・・・私、エレインガルド魔術学院に入学したいんですが!!」

その言葉に、ナクシャータとシリウスは顔を見合わせて静かに頷いた。

「そうか。では、エレクシード伯爵にその意向を伝えるとしよう。ナクシャータに補足説明は頼むな。」

帰りの馬車は、夕暮れの赤く染まった道をカタカタと車輪の心地良い音とともに進んでいた。
実演訓練が相当疲れた私は、ナクシャータの肩に頭を乗せたまま、全力で寄りかかりながら深い眠りの中にいた。

「・・・もうお腹いっぱいれす・・。かき氷はもう食べれません!・・。むにゃむにゃ。」

寝言に驚いて、隣に座ったナクシャータは呆れたような表情で私を見た後。

ため息交じりに笑った。

「本当に貴方は規格外過ぎです。・・・でも、久しぶりに楽しい一日でした。」

馬車はエレクシード伯爵邸を目指して、ゆっくりと二人を運んで行った。

その夜、シリウスからの伝令と、ナクシャータからの補足説明を受けて驚いた伯爵は、目を回して卒倒した。

翌朝、寝不足の伯爵からアメリアのエレインガルド魔術学院の入学許可が渋々告げられたのだった。

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