メインヒロインを懐柔しながら婚約破棄を目指します!

館花陽月

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メインヒロインの双子の姉(死亡予定)に転生しました。

皇子の誕生日会にて塔から落下したようです。①

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夢中になって翌日のお休みもゲームをプレイし続けていた。

クリアは出来たので、その先をプレイし始める。

気が付くと深夜0時を告げる時計の音が部屋に鳴り響いていた。


窓から一瞬だけ眩い光が溢れる。揺れるカーテンの隙間から見えた光は閃光のように瞬いた。

大学病院から徒歩圏内にある1DKマンションの一室。
真っ暗な部屋で、チカチカと点滅する「BAD END」の文字に私は息を飲んだ。

最後に覚えているのは、画面に映るバッドエンドの文字が浮かんで真っ暗に染まった瞬間だった。





次に目を開いた時に、私の瞳に映し出された映像は―――。

凄まじい風を感じて驚いて目を見開く。

青い空と白い雲が眼前に現れて、凄まじいスピードで景色が通り過ぎていく。

―見たこともない高さの上空だった。

「・・え?」

上を見上げると高い塔が雲を突き抜けて聳え立っている。
尖塔は見えないぐらいの高さがあった。

めちゃくちゃ高い塔から、自分が真っ逆さまに落下している光景だった。

えーと、物凄いスピードで地面に落下中!?

「えっ、ええっ、えぇぇぇ??・・・何で!?嫌だぁ。う、嘘でしょぉっ!!??」


心なしか甲高く情けない声が耳の鼓膜を揺らした。

違和感だらけの私は目を大きく見開いた。
涙目になりながら、物凄い速さで小さく身軽な体が地面へ向かって引き寄せられるように落ちて行っている。


引力に逆らえずにバタバタ身動きも出来ずに、奇麗に手入れされた広大な庭とその先にある噴水が見えた。
手前にお城のような白亜の御殿と、はるか遠くに見える薔薇園付近では沢山の人が小さな点の大きさに集まっているように見えている。

えーと・・。

まずね、ここは何処?

一体全体どうなってるの??

ゲームはどうなった!?

ちなみに・・。何で私は今信じられない高さから、落下しちゃってるの??

「待って、待って!この高さ、余裕で死ぬんですけどぉぉお!!!」


胸に手を当てたまま何かを守るようにぎゅうっと右手を握りしめていた私は、大声で叫んだ・・・。

「・・っ。い、嫌だぁぁ!!このまま顔面から落ちて頭蓋骨が陥没した上にミンチになんてなりたくない!!
誰か助けて!!神様ぁっ!もし、いるなら・・。お願いっ、良く分からないけれど、助けてくださいっ!!」

ふわりと舞い上がるドレスに違和感を感じながら、目を瞑って祈りを込めて瞼を開ける。

次の瞬間、薔薇園のそばにいる遠くはなれた距離にいた一人の男の子と目があった気がした。

その瞬間、ビクッと体中に電気が走ったような感覚があった。



ウン。目が合った人に軽く同情する。
誰だって人が落下して死んじゃう瞬間なんか見たくないよね。

冷静に頭を働かせながらも、段々と呼吸が浅くなって薄くなる感覚と現実感。

頭が白い靄に包まれていく。

「 はは・・。やっぱり、神様はいない・・よね」

知ってる。

・・・何回も祈ったよ。

神様はいない。
そんなのとっくに知ってるのに・・

薄れ行く意識の中で私は、合うはずのない距離で目があった不思議な瞳の色を思い出していた。

胸の奥が熱くなるような・・。

綺麗なエメラルド色の鋭い眼差しが走馬灯のように再生されていた。

不思議な感覚と、足先から指の先まで駆け巡っていく熱にぶるっと体を震わせた。
スーッと消えていく視界の景色と、心なしか体がふわっと軽くなっていく・・。

薔薇園の先の賑わいの中で、不思議な既視感に震えると地面の数メートル手前で目の前が光が包まれた。
眩い光に私の意識はかき消された。


ドドォォン・・。


地鳴りが響き渡り、次の瞬間。

皇宮の庭に見たこともない巨大な光の円柱が宮殿の庭園と塔の間に立ち登った。

眩い光が空を突き抜け、光の柱からキラキラと光の粒子が立ち上っていた。



「な、なんだ今の音は?!」

「それに、なんだよ?!あれっ・・!!」


皇宮で開かれた自身の14歳の誕生日に、感謝の言葉を伝えようとしていたエリアスは緑石の瞳を大きく見開きながら、驚いた声で慌てて音のした方に振り向いた。

パーティに出席していた10代前後の子どもたちと、その保護者たちも不安そうに音のした方角へと視線を向けた。


エリアスの横で、同じ鋭い緑石の瞳持つ少年もその瞬きもできずにその光の柱を上げた。

エリアスの頭2つ分の背丈の差がある少年シリウスは眉根を寄せると帯剣していた柄に手をかけたまま轟音がとどろいた方角を眺めた。


「・・・あれは何だ!?」

「星水晶宮の横にある星浄の塔の方角だな。」


「この光は、まさか・・・。」

険しく眉根を寄せたシリウスは、ボソッと低くなってきた声で呟くと身に着けたマントを翻した。

避難をしている貴族たちの様子に、不安そうな表情を浮かべていたエリアスはブルネットの髪を揺らしてさっきまで傍にいたはずのシリウスの姿を探した。

「あ、何処いくんだよ・・シリウスっ!??」

「お前は早く皆と逃げろ。」

「ナクシャータは、エリアスと共に避難誘導を頼む。招待客を全員無事に避難させるんだ。」

「待ってよ!ちょっと、あのさ。こんな時にシリウスは何処に行くんだよ!?」

「決まってるだろ、あの光の正体を確かめてくるだけだ。・・ここにいる皆はお前の祝いに集った者たちだ。しっかり皇族としての務めを果すんだ。」

シリウスは、避難させようとする騎士達と、逃げ惑う子どもたちの間をその場から逆行するように急いで星水晶宮へと足を進めた。

「そんな事言ったって・・。僕だってあれっ、すごく気になるんだけど。ああ、もう!!行くよ、ナクシャータ!」

ナクシャータは、剣を構えたまま、赤い肩までの赤銅色の髪を揺らした。
一瞬だけシリウスの姿を振り返った。

表情を変えない吊り上がり気味の大きな瞳を伏せて唇を引き結んだ。

「ー招待客の皆さまを離宮や、温室まで避難誘導を行っております。さぁ、エリアス様もお急ぎください!!」

ナクシャーナは落ち着いた声でエリアスに返事を返すとその背中を追いかけた。



ザッ・・。

シリウスは急ぎ足で庭園の先を抜けると、大きな壁のように目の前に立ちはだかる光の柱が正面に見えてきた。

「すごい力だ・・。これが星浄の光の力。さすがに、圧倒されるな・・。」

ぶるっと震えるような柱の力ににゴクリと喉を鳴らした。
無言で見上げた瑠璃色に輝く光の柱は、未だにその輝きを失わずにまばゆい光を放っていた。

その光の柱の中に手を伸ばす少年の姿を見つけた。

「―誰だ?そこで何をしてるんだ!?」

エリアスとほぼ変わらない背丈の少年が落ち着いた表情で視線を向けた。

アッシュブロンドの長い前髪が鼻先まで伸びた髪が揺れていた
黒い正装型ですらりと伸びた肢体で、こちらを見たその瞳には冷たい色が浮かんでいた。

シリウスの姿を確認した少年は、とふっ嘲るように笑みを浮かべた。

口角を上げて気にも止めない様子で両腕をさらに光の中へと伸ばしてた。
腕に小柄な少女を抱えたまま、光の柱から引き寄せた。

その瞬間に、巨大な光の柱は消滅した。

粒子がキラキラと未だに空気中を漂っていた。

「・・・ラルフ。どうして、お前が・・。」

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