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廻りだした運命。

山科邸⑤

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咲と寛貴は蔵の使用用途に、驚き慌てて振り返る。

「閉じこめられるって・・?何それ?」

「幼い頃から・・悪い事をするとお兄様と私は、あの蔵に鍵を掛けられて
反省するまで閉じ込められていたんです。夜は、寒くて怖くて・・。
小さな頃はよく「出して!」と、泣きながら扉を叩いていました。」

「すごい話だな。今だったら虐待通告で、ニュースの一幕だな。」

「昔の旧家は、独自のルールや、躾が厳しい家が多かったのかもしれないですね。
私も昔はそれが普通だと思ってましたから。」

「お金持ちは、お金持ちで大変なんだろうね。よく歪まないでこんないい子になったわね!」

眉を下げて笑う美桜に、咲が抱き着いて頭を撫でていた。

「入口は、あの鉄の大きな扉なのか?」

訝し気に蔵へと歩み寄って行く慧の側に着いて行く。

「ええ、あそこよ。重い扉だから気をつけて。」

江戸時代後期に作られた土蔵で、一軒家程の大きさと高さがあった。

天井はとても高く設計されている為、季節を問わず通気性が良い造りになっている。

「山科聖人の手紙に書かれていた、空腹を・・の下りの箱って何だか覚えてる?
さっき守田先輩がチラッと何かエピソードって言っていた。
君と聖人の共通のエピソードがある場所はもしかしたら・・ここじゃないのか?」

慧が真面目な表情で私を振り返り、問う。

私は大きな瞳を見開いて慧を見つめて、ゴクリと喉を鳴らした。

「そうね・・。私とお兄様はお互い自分の部屋があったし、ダイニングは食事の時ぐらいしか足を運ばなかったわ。後はピアノを演奏する部屋か、この蔵ぐらいね。
小さな子供の頃は、私とお兄様の遊び場でもあったの。」

懐かしい思い出が蘇る。

家から出る事があまり許されなかった私達は、庭園や、この蔵の中で2人で隠れん坊をしたり、鬼ごっこをしたりしていた。

それは、仲の良い兄妹だった。

「この場所に、君たちしか知らない・・箱はないか?」

「箱?そんなの・・心当たりはないんですけど。」

咲と寛貴も、2人のやり取りを緊張の面持ちで見つめていた。

「美桜、思い出すんだ!君と山科聖人が共通に知っている「箱」があるはずなんだ。」

「・・・あ!ちょっと待って。箱って表現が可笑しいけれど。もしかして、倉の中にあるあれなら・・!!」

私は思い出した。

唯一の2人の秘密が交わされた場所がこの蔵。

そしてその秘密の約束を果たす為に、私達がこの蔵を探し回って見つけた隠し場所・・。

「私とお兄様がよくここに食事抜きで閉じ込められた時の為に、
時々内緒で固形食やお菓子を隠しておいて飢えを凌いでいたの。
その隠し場所は、アンティークの大きな螺鈿の細工の施されたドレッサーの下にあるわ。
ドレッサーの下には、大きな長方形の箱のような両開きの戸棚があるの。
そこに確か・・鍵穴もあったわ!!」

一人ごちる私の顔を見ながら、慧の表情は確信へと変わっていく。

私は、手紙の意味に気付いて蔵へと駆け出す。

兄と私しか知らない場所・・。

ギギギギィィ・・・・。

年季の入った扉を押して、入口を開ける。

埃がキラキラと光り輝く土蔵の中へと足を進める。
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